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ヴェネツィアの美味しい季節もの「マザネーテ」

 

「Chi non conosce “le masanete” potete stare certi che no è venexiano」
「”マザネーテ”を知らない奴は、ヴェネツィア人の資格なし」

と言われる食材が、この「マザネーテ(mazanete)」。上記も然り、表記にはよく「maSanete」とSが使われるが、ヴェネツィアでは、このSを濁らせて発音する。

「マザネーテ」って何?

春先や秋口に珍重される、脱皮直後のカニ「モエーケ」が、その後数週間経ち、殻が硬くなったものを指す。ヴェネツィア人には非常に愛着のある食材で、この時期、オンブラ(グラスワイン)のお供として食べる庶民の味だ。この時期、魚屋の店先には、大きなバケツが置かれている。中を覗くと、ガサゴソと生きた小さなカニ、マザネーテがたくさんいる!

魚屋の店先に売られるマザネーテ


ヴェネツィア風「マザネーテ」の食べ方

生きたままを購入し、たっぷりの湯を沸かした鍋に、生きたままのそれらを一気に投入。死んでしまったものは、生臭くなるので、必ず生きたものを使う。火が通ったら取り出し、粗熱をとる。

生き茹でするのが基本


茹で上がり!約15分ほど


まずは足を取り除き、背側の甲羅を一気にはがす。殻の内側に身が残ってしまったら、それも残さずにかきだす。腹側の比較的柔らかめの甲羅は、そのままに。

一つ一つ丁寧に掃除する


掃除を終えたら、調味開始。ニンニクとプレッツェーモロを刻み、オイルを加え、塩、コショウでととのえる。このソースは「ペステジーン=pestesin」と呼ばれる。その意味するところは、小さく(=sin)つぶした(=peste)というもの。ヴェネツィア訛りだ。

これらを全体によーく混ぜ合わせ、味をなじませるためにしばらく置く。食べる直前につくるよりも、作り置きしておくほうがオススメ。

見るだけでワインが進みそうだ


季節のヴェネツィア前菜盛り合わせ!


テーブルに着席して食事するレストランでのメニューでは決してない。立ち飲みしながら、もしくは家庭内またはオステリアのテーブルの端にて、というシチュエーションが必須。

気の使わない仲間や知人とワイワイと喋りながら手も口もソースで汚しながら、バリバリと食べるが旨い。

ヴェネツィア下町の味。

トレヴィーゾ郊外の栗祭り 「フェスタ・デイ・マローニ」

トレヴィーゾ郊外の山間、コンバーイ(Combai)

すっかり秋らしく、冬の足音が聞こえてくるこの時期は、栗の美味しい季節。
トレヴィーゾ県のコンバーイ(Combai)という、プロセッコの里に隣接した山の地域では、産地呼称であるI.G.P.を冠する栗の産地としても有名だ。

その地で毎年10月には、栗の収穫祭が開かれる。ここに辿り着くまでには、プロセッコのブドウ畑の並ぶ急勾配の道を、車でズンズンと登っていく。紅葉の始まりかけた周囲の素晴らしく美しい風景を横目に、目的地へ。石造りの家の立ち並ぶ小さな集落。標高約400mに位置する町だ。
コンバーイはプロセッコの畑を見下ろす場所に位置する街に近ずくにつれて人も車も多くなり、会場から少し離れたところに車を止めるように交通整理員に誘導されて、徒歩で街の中心へ。普段は静かなこの小さな集落は、一年に一度のこの季節となると、車が渋滞するほどの賑わいとなる。

集落の入り口には大きな垂れ幕!


街全体がお祭り会場へ

集落内は全体がお祭り会場と化している。道端には、土地の製品を売る屋台が出店している。美味しそうな地元チーズやヴェネトの太いサラミ、ソプレッサの山は非常に魅力的…。

地元の食料品店の店先。簡易の即売所となる


柔らかく太いヴェネトのサラミ、ソプレッサ


そしてメイン会場へ到着。お昼どきには、ラザニアやニョッキ、スペッツァティーノ(肉の煮込み)などが振舞われており、大混雑の雑踏のなかで食べるそれらはこれまた格別。並べられたテーブルに座ると同席のお隣さんとも親しくなったりする。

牛肉のスペッツァティーノ。付け合わせはお決まりのポレンタで


祭りの目玉、焼き栗を食す!

別会場となる仮設テントは、焼き栗の大きな実演販売と飲食コーナーとなる。
テントの脇には、大きな大きな鉄鍋が設置されており、焼き栗が準備される。このお祭りの名物シーンでもある。チェーンで動作させるほどの大きな鉄鍋は、大量の薪を燃やして栗を焼く。煙がすごいが、気温の下がるこの時期には、暖をとるのにもちょうど良く、周囲には多くの人々が集まる。実際に焼いている人たちは大汗をかきながら作業しているのだが…

大きな鉄鍋で大量の焼き栗をつくる風景は、このお祭りの名物


食券販売所の列に並び、焼きたての焼き栗を注文。食券を持ってカウンターに行くと、焼き栗の袋と交換してもらえる。
熱々の焼き栗を囲んで、手先を真っ黒にしながらとにかく栗を食べる、食べる。食べる…食べ続ける。

真っ黒に焼けた栗。中はホッコリ。旨し!


会場内はテーブルが並べられていて、栗は立ち喰い


焼き栗のお供は…トルボリーノ

そして、焼き栗に欠かせないのが、「トルボリーノ(torbolino)」だ。「トルボリーノ」とは、この時期に飲むワインの前身のようなもの。収穫して間もないぶどうの果汁は、発酵過程を経てアルコールへと変わっていくが、その発酵がまだ完全になされていないこともあり、糖が残りアルコール度数が低い。当然のごとく、澱引きしていないことから、濁っている。「トルビド(=濁った)」であることが、「トルボリーノ」と通称される所以だ。

栗の収穫時期には、ちょうどこの段階のコレが季節的にも、そしてほんのりと残る甘い微発泡のコレが焼き栗に非常に合うことから、焼き栗とトルボリーノとはきってもきれない関係なのだ。
ワインになりきっていないぶどうの果汁という意味で、この会場ではあえて”モスト”と呼んでいる。

濁り酒のトルボリーノ


会場は、地元の子供たちも焼き栗や飲み物の提供をお手伝い。焼き栗の袋詰めやカウンターでワインを注いでくれる子供たちの姿がなんとも可愛くありながら大人びていて、見ていると思わず顔がほころぶ…。

注文のバンコ(カウンター)を守るのは、地元の子供たち


山間の小さな小さな街の大イベントだから、迎える人も訪れる人も喜びを一緒に分かち合う。この季節とこの季節だからこその味覚を皆で大いに楽しむ、そんな楽しいイベントだ。

コンバーイの街の上から。集落内はスパヴェンタパッセリ(かかし)が道案内


 

リゾット・アッラ・イゾラーナ〜ヴェネト米産地の大収穫祭〜

イーゾラ・デッラ・スカーラ…ヴェネト州最大の米産地

米の品種は、「ナーノ・ヴィアノーネ・ヴェロネーゼI.G.P.」。”ナーノ(=小さい)”というように、小粒で丸い形状が特徴。この土地は、ポー川とアディジェ川に囲まれたデルタ地帯にあたり、地下よりの湧き水により清澄な水が豊富なことから、500年ほどの稲作の伝統を持つ土地として知られている。

地域内には、いくつもの米農家が点在し、土地本来の同品種のほかにも、各種米及び近年では、昨今の健康志向から人気の出ている半つき米や全粒米、米粉からできるパスタや菓子類などの他製品、さらには、米乳を使った化粧品にまで製品の範囲を広げている。

米の大収穫祭「フィエラ・デル・リーゾ」

米収穫の時期となると、その生産物をさらに盛り上げるべく、米の収穫祭「フィエラ・デル・リーゾ」が開かれる。今年の開催はなんと53回目。聞くところによると、小さな町の秋祭り的な始まりだったのが、今やイタリア国内でも最大級の収穫祭にまで成長。そしての会期はなんと1ケ月にも及ぶ。会期中には、様々なイベントが企画されており、完全に町おこしとして一役買うイベントだ。

会場内の展示即売コーナー


会期中に会場を訪れる人々の目的はもちろん、米料理を食べること。会場内には大きな仮説テントが設けられ、各生産者がスタンドを持ち、自社の米でつくるリゾットを提供している。

会場中央にある会計に行って一律6ユーロのチケットを購入。そして各人が好みの生産者のスタンドにてリゾットを受け取る仕組み。

レストラン会場。メニューは、リゾットのみ


各社により様々なリゾットが振舞われるが、どこのブースにもある定番メニューがある。それが、「リゾット・アッラ・イゾラーナ」。いわゆる「イゾラーナ風(イーゾラ・デッラ・スカーラ風)リゾット」だ。

伝統的なイゾラ風リゾット「リゾット・アッラ・イゾラーナ」とは

オリジナルレシピは、子牛と豚肉のひき肉を、バターとローズマリーで炒める。肉にしっかりと火が入ったら、肉ベースのブロードを投入。そこへ米を加えて蓋を閉めて弱火で火を入れる。米にブロードをしっかり吸わせたら、塩と挽きたての黒コショウ、シナモンをしっかりと効かせ、これまたこの地を代表するグラーナ・パダーノをたっぷり加えて仕上げる。リッチな風味のリゾットだ。

通常のリゾットのようにブロードを少しずつ足して仕上げる方法ではなく、ここでは米を予め分量の量ってあるブロードに吸わせて仕上げる方法をとる。まるで日本の米を炊くような感覚だ。この方法は、米の脱穀作業者(ピロータ)が忙しい作業中に、手間を省いて昼食の準備を行うために考案されたものとして、一般的には「リゾット・アッラ・ピロータ」と呼ばれているものだ。

この収穫祭になると、いつも訪れる私の顔なじみの生産者「リッコー(Riso Riccò)社」のブースを訪れた。ブース内には大きな鍋が設置され、たくましくて人懐っこいいつものメンバーが楽しそうにリゾットを作っている。

このメンバーでリゾットを提供。チームワーク抜群



ブースに配置された大鍋。日曜など人出の多いときにはすべての鍋が同時進行する


お祭り用の下準備として、朝のうちに肉を炒め、そこにローズマリーと香辛料を加えた肉のベースを仕上げてある。客の入りを見ながらブロードと米を大鍋に入れて、下準備した肉、さらには仕上げにグラーナ・パダーノをたっぷり加えて完成させる。

グラーナ・パダーノをたーっぷり投入



大きな鍋で仕上がり直前!



美味しそうなリゾットの仕上がり!


大鍋でつくるリゾットは仕上がりが均一になりにくいのでは、との思うのだが、できあがるリゾットは上々。それも、毎年恒例のこのメンバーの腕、そして米本来の特徴である、アミド含有量が高いことから、比較的パラパラとした仕上がりになり経時にも耐えやすい等の要因も重なり、いい具合のアルデンテを保ち、簡易キッチンで作ったとは思えない旨い仕上がりだ。

出来上がったリゾットを来場者へ提供



伝統で定番のイーゾラ風リゾット「リゾット・アッラ・イゾラーナ」


そして…「タスタサル (Tastasal)」

イゾラーナ風リゾットをつくるうえで、また有名な素材がコレ。「タスタサル」とは、いわゆるサルシッチャ(生ソーセージ)の腸詰めをしていない中身だけのもの。
コショウが効いた肉の粗ミンチでこれをリゾットのメイン素材となる。
収穫祭には、このタスタサルを売る肉屋の売店もある。

イゾラーナ風のタスタサル。子牛と豚肉のミックスがイゾラ風



タスタサルをベースにした肉製品が並ぶ肉屋のショーケース


基本のタスタサルはもちろんのこと、それを円形にしたスヴィツェラ=スイス風(ハンバーグ状)、ポルペッテ(団子状)、ポルペットーネ(ミートローフ状)など、タスタサルをベースにしたものが販売されており、それらも飛ぶように売れる。

米、そして地元伝統料理のリゾットを中心にした小さな町の熱いお祭りは、彼ら生産者とそれの関連する人々たちで大いに盛り上がる。
主催者などの話では、さらに同収穫祭の質を上げるべく、来年以降の構想もあるのだとか。そのひとつが現在提供しているプラスチック皿の廃止など。さらなる進化もまた楽しみだ。

この地方ならでは、お米のトルタも


 

アジアーゴ高原のマルガにて

アジアーゴ高原は、ヴェネト州のヴィツェンツァ県と、お隣のアルト・アディジェ州トレント県との境に位置する地域。ドロミーテ山麓の始まりで、平地からも比較的気軽に訪れることのできる自然豊かな地区にて、夏場は避暑地として多くの人がバカンスで訪れる場所。冬場はもちろんスキー目当ての客が足を運ぶ場所だ。

アジアーゴと呼ばれる地域内はアルトピアーニ・デイ・アジアーゴ(Altopiano di Asiago)と呼ばれる標高約1000m級の丘陵地をさす。同地区内、緑豊かな高原が連なる広大な地域。軽いハイキングから、リフュージョと言われる山小屋やマルガと呼ばれる牛の放牧場とチーズ製造所等があり、食事などを楽しむ場所であるため、バカンスシーズンはどこも人でいっぱいだ。

そんなマルガのうちのひとつ、今でもかなりアナログな感じでのチーズ作りがされている、カゼイフィーチョ(チーズの製造所)を訪れた。
そう、ここはヴェネトを代表するD.O.P.の認定もあるアジアーゴチーズのオリジナル産地でもある。

スパッチョと呼ばれる売り場に入ると、種類は少ないにしろ、ここで作られるチーズとサラミなどが置かれていて、なかなかいい感じ。売り場脇にある製造現場を覗かせてもらった。
今やほぼ他では皆無に等しい、薪で炊くカルダイア(乳を温める鍋)。ガスなんか使うよりもこの周辺にある木々を使って、経済的にもまたエコ的にも優れているから当然!とご主人は話す。長年の経験での火加減の調節だから、ガスよりも、実際に燃え具合を目で見ながら火力調節、温度調節ができる自然の炎のほうが、彼にとっては簡単なのだそうだ。そして、チーズの熟成室。D.O.P.の認証を得るには、もはや衛生的には検査に通らない木枠。なんともいい味わい。だから、もちろんここのチーズはD.O.P.の認証はない。熟成室の外にはここでできるリコッタを燻製する燻製機が。ちょっと傾いた感じでいるところがこれも味わいのある風景。この時も燻製作業中だ。

ここでチーズが作られるのは、牛の放牧期間である5月から9月いっぱいくらいまで。そのため、フレッシュ、及び熟成期間の短いチーズの販売はこの期間のみ。その後は熟成タイプのもののみが彼らの手元に残る。
そして、10月に入ると、気温がぐっと下がり悪天候も続くため、牛はもっと平野部に近い牛舎へと運ばれる。チーズの美味しさはその原料となる乳に由来するものだから、こんな大自然のなかでのびのびと過ごしている乳牛からとれる乳は美味しく、風味の豊かさが格段によい。見た目も黄色味が非常に強いものとなる。

この高原でつくられる特別に旨いチーズはこの期間限定の搾乳したものからのみ。なかなかとお目にかかれない希少な味わいのチーズだ。

ここで売られている美味しそうなサラミを横目で見つつ…彼らの飼育小屋の豚さん達にも別れを告げた。

短い春先のヴェネツィアのお楽しみ、モエーケを食す

「モエーケ(moeche)」とは、ヴェネツィアのラグーナで漁れる脱皮ガニのこと。グランキオ・ヴェルデ(ミドリガニ)と呼ばれているカニの脱皮したてのものを指す。

今やヴェネツィアの季節の食材として知られているが、実はヴェネツィアにおいても食の歴史としては近年のもので、戦後にブラーノの漁師によってその捕獲のノウハウを得ることで、ヴェネツィアの珍重食材として知られるようになったとか。

魚屋の店先のモエーケ


とにかく、脱皮してから数時間のうちに捕獲しなければならず、またそれに至るまでにも非常に手間のかかる大変にデリケートなものである。そして、その季節も限られていて、3-4月にあたるクアレージマ(quaresima)と10-11月にあたるフラエーマ(fraèma)がそれにあたる。ただし、それらはオスに該当するもので、メスはクレアージマの終りにあたる時期以降のみに脱皮をするので、捕獲時期がずれ、5月ごろとなる。
ちなみにその時期以降のメスは産卵するため脱皮はせず、夏以降のものは殻が固くなる。そうなるともう「モエーケ」とは呼ばず、「マゼネーテ(masenete)」と呼ばれるようになるが、それもまたヴェネツィア人の大好物の食材のひとつとなっている。

モエーケの捕獲には、ラグーナにて捕獲用の箱が仕掛けられる。その中にあらかじめ選別されたカニが網に入れて集められる。1日のうちに何度かそれらを観察し、脱皮が近いものはさらに選り分けられ、脱皮したてのものだけを捕獲し、出荷される。

捕獲場はラグーナの北部側が最も盛んな場所ではあるが、ヴェネツィアの漁港の町、キオッジャ周辺なども盛んに行われている。この辺りは、アサリやムール貝の養殖もされている場所だ。

ヴェネツィアでは、モエーケは生きた状態の超新鮮なもののみにその利用価値があるため、そのほとんどはすぐに料理店に運ばれる。もちろん市場に運ばれるものもあるが、そこで入手するものも、やはり生きたもの。足をゴソゴソとさせたのが、発泡スチロールの箱に山積みされている。値段もそれなりなので、この場合には、重量ではなく数を伝えて購入。

ヴェネツィアのリアルト市場は魚市場で有名だが、キオッジャには朝3時半と午後2時半から開かれる業者用の卸市場(業者証保持者のみ入場可)と、カナーレ(運河)沿いの赤いひさしが目印の一般向け市場との2箇所の魚市場がある。

卸市場内。写真はコウイカ専門業者


一般開放のものは、ヴェネツィアのそれに比べるとさらに庶民的な雰囲気。モエーケの漁獲場とはいえ、キオッジャの市場には、1㎏あたり約60ユーロほどの値がつけられる高価なモエーケは意外と少なかったりもする。

キオッジャの魚市場入り口


新鮮な魚介が並ぶ。”ノストラーニ”はラグーナで獲れた魚介をさす


さて、モエーケの調理法は、油で揚げる、いわゆるフリットだ。この場合、モエーケはやはり生きているものである必要がある。

なぜなら、揚げる前の数時間、卵液に漬け、カニに卵液を吸わせるため。卵液を十分に吸い込んで腹の中が卵液でいっぱいになったら、表面に粉をまぶして高温の油でカラリと揚げる。

揚げたてのアツアツをいただくべし


殻ごと揚げて周囲がカリッ、中は卵でふっくりと膨れてジュワッとし、濃厚な味わいがモエーケのフリットの美味しさ。

他にはない美味しさ。一度食すべし!の食材だ。

ヴェネト春の自生野草。ブルスカンドリ、カルレッティ、オルティーケ…

「ブルスカンドリ(bruscandoli)」は、春先ならではのヴェネトの食材のひとつ。野生のルッポロ(=ホップ)の新芽であるが、ヴェネト弁ではこう呼ばれている。春先の畑の端やら山あいなどに見つけることができる。地面からニョキニョキと生えていて、形はツクシのよう。

ホップの畑に生えた若芽。ブルスカンドリ


これを春先に摘み取らないでおくと、夏までには8mほどにも伸びる。雌花は円錐状のコーンのよう、糸が円錐にからみついたような変わった形をしており、黄色い花が咲く。薬学的には眠気覚ましの効用がある、とされる。

ホップの新芽だけあって、苦味がある。主にはリゾットやフリッタータにして料理される、この時期ならではの皿だ。

この時期のアスパラの畑の脇などにもあったりするのだが、これはホップを生産する農家のもの。

生産用に成長させる主となる茎の周囲をブルスカンドリとして収穫する


前シーズンが終わった後、伸びた茎を刈りとって冬を越すと、春先にはまた新芽を出してくる。生命力が強いので、ホップ生産用の主茎の脇から出てくる細く柔らかい新芽は、茎の下部から切って束にして地元のレストランなどに卸す。

この季節以降は前述の通り、もの凄い勢いで茎は伸びていくので、上方に向かって紐を伸ばして伸びるツルを絡ませるように生育させる。

街場の市場では、春の訪れを感じる頃になると、ブルスカンドリを始めとした野草がお目見えする。総称して、いわゆる「エルヴェッテ・セルヴァティケ(erbette selvatiche )」と呼ばれるものだ。

市場の店先に並ぶブルスカンドリ(右)とカルレッティ(左)


ブルスカンドリと一緒に並んでいるのは、これもまた非常にメジャーな春の野草の一種「カルレッティ(carletti)」。シラタマソウの若葉だ。私の住むこの地域ではこう呼ぶが、同様に、「タリアテッレ・デッラ・マドンナ(tagliatelle della madonna)」、「シオペット(sciopet)」と様々な名称で親しまれているのが面白い。

ブドウ畑にも春先はカルレッティがたくさん生える


やはりこれもリゾットに使われる場面が多いのだが、風味は新鮮な生のピゼッリを覚えるような非常に特徴のあるものだ。

ブルスカンドリとカルレッティのリゾット


他、同様にリゾットやフリッタータに利用されるものとしては、イラクサ科の植物の若葉である「オルティーケ(ortiche)」なども。

「ローゾレ(rosole)」は「パパーヴェロ(papavero)」のヴェネト弁でヒナゲシの若葉だ。少々苦味がある葉野菜のような感覚にて、大量に一気に茹でてからオイルで炒め、グリルした肉やサルチッシャなどの脇に深緑色のコントルノとしてどっさりと添えられる。

市場では山盛りに売られているローゾレ


同様に使われるのがヴェネト弁では、「ピッサカーン(pissacan)」。イタリア語だと「タラッサコ(tarassaco)」。いわゆるタンポポの若葉。
これらはよくミックスで上述のようにコントルノとして活用される。

街場のオステリアではコントルノの定番


この時期郊外へ出かけるとあちらこちらで道端に車を止めて袋を片手に野草を摘んでいる光景などは珍しくない。もしくは、特別な場所などに行かずとも、散歩の途中でも見かけることも容易なくらい。

日本の春先の野草と同様、生命力あふれる自生野草には、利尿、健胃、鎮痛作用等、様々な薬学的効能もある。
春先という季節の変わり目としては、一年のなかで最も喜びを感じる季節であることもあり、食べてそれを感じるとともに、健康にもよい、という知恵が自ずとあったのだろう。

以前に勤めていたレストランの厨房にて、同僚の南伊人出身のクオーコに野草の話をしたら、”ヴェネト人は馬みたいに草を食べる”とからかわれた。とはいえ、低コスト(購入しない限りは)でしかも健康にもよい、さらには季節感抜群なこんな素敵な食材を楽しまないテはない、と思っている。

 

 

フリウリの土着品種オリーブオイル「ビアンケーラ」

イタリア国内で生産されるオリーブの産地としては、少々意外かもしれない。イタリア最北西に位置するフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の土着品種として、ごく僅かではあるが生産される品種がある。それが「ビアンケーラ(Bianchera)」だ。

ウーディネからトリエステ方面を中心に、クロアチアのイストリア及びダルマチア地方にて生産される。
この地の冬の厳しい寒さに耐えるがゆえ、頑丈なたくましさを持つ品種でもある。太い幹にしんなりと長い枝をつけるが、その生命力の強さからか、剪定をしっかりしてあげないと、上方まで高く高く枝を伸ばしすぎてしまうこともある。

地域的には、トリエステで有名な突風ともいえる「ボーラ」の影響を受ける土地だ。このしなやかな枝を備えたオリーブの樹の並ぶオリーブ畑は、植わっている樹が全体的に風のふく方向に傾いている、という光景を目にすることもある。

イタリア北部のこの環境だからこその生産物


「ビアンケーラ」という品種の名の通り、「白い」という意味合いを含んでいるが、その理由は実の表面に白い小さな斑点が見られることから。小さめで密な実をつける、このたくましい品種は、オープンではないが内に秘める強さを持つ、この地方の住人の気質を表しているかのようでもある。

2018年はオリーブも当たり年!たくさん実をつけました


収穫は全体的に遅めであり、通常は10月中旬以降から。収穫のタイミングとしては、樹全体になる実の色の変化がひとつの目安。オリーブの実は緑からだんだんに熟して黒くなっていくが、それらが一本の樹に半々になりかける頃合いを見計らう。フレッシュ感と完熟感の、それぞれの良さを逃さないようにするためだ。

現在最も新しいオイルである2018年産のものは、実の生育期に気温が高く日照時間も多くあったために少し早めの収穫時期を迎え、品質、量ともに非常に良い年であった。

収穫作業には、一本一本の木の下に大きな大きな網のシートを敷くことからスタート。樹の両脇を2枚のシートを重なるように並べ、一粒の実も取りこぼさないように注意する。そして、電動の熊手を用い、それを上下に揺らしながら実をシート上に落としていく。一本の樹が終わると、そのシートを次の樹の下へとひっぱって移動し、作業続行。シートに落ちた実が溜まり、その重さのために、移動するのが困難なくらいになったら、その集めた実を都度大きな容器に移す。

摘みたてのビアンケーラ。愛おしい‼︎


収穫は、一粒一粒を丁寧に無駄なく摘み取るように注意する


それを収穫後すぐに搾油所に運び、搾油作業へ。収穫した実はその時点から酸化が始まるため、即日搾油はよいオイルの必須要素だ。

搾油したばかりのオイルの香りは、びっくりするほどの芳醇さ。いわゆるオリーブジュースだ。これをこのまま静置しておくと不純物が底に溜まってくる。オイル全体にもそれを残しておくと酸化の原因にもつながるため、一定期間の静置後はフィルターにかけ、その後に瓶詰め作業となる。

絞った直後のオイル。香りがすごい。この場で見ているだけでバケット1本食べられる


フィルターにかける作業中


できあがったオイルの特徴は、とにかく品種的にポリフェノール含有量が高いことから、苦味と辛味を十分に感じる決然とした味わいだ。うまくできたこのオイルの清らかできっぱりとした強い風味は、格別なものといえる。

パンに絞りたてのオイルを浸るほどかけて食べる…このうえない幸せ


使い方としては、生野菜のサラダに…というよりも、焼いた肉や魚の調味料として。温かいミネストラの仕上げに加えれば最高の調味料に。そして、シンプルなトマトソースのパスタの仕上げにスッと一筋加えることでその一皿は一段と味わい豊かに。また、全粒粉などのクセのあるパスタとこのオイルとの相性は非常によい。

シンプルなミネストラにこのオイルを一筋かけて…格別な一皿


とにかく一度お試しいただきたい希少価値のあるオイルだ。

 

フリウリの山間にて味わう最高の「Cjarsòns(キャルソンス)」

イタリアの最北西、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州を代表する料理の筆頭となる、この料理。名前もなんだかイタリア語なのかどうか…と疑問に思うようだが、この地は古くから時代を追って多くの民族の侵入があり、また、オーストリアとスロヴェニアを国境を持つ地域として、現在でも非常に独自の文化を持つ特異な州といえる。州名の「フリウリ」はウーディネ方面を、「ヴェネツィア・ジュリア」地域はトリエステ方面の総称となり、イタリア国内にはよくある話ではあるが、お互いにその文化を共有することは彼ら自身が否定するところだ。

そして、さらにこれらとは、またまた一線を画する地域が同州内「カルニア」地区。オーストリア国境に面する山間の地区。ここには、さらに独特の文化が根付いており、食文化も非常に特徴あるものだが、同時にこの地区の料理が同州ならではの郷土料理として知られる例も多い。

そのひとつが「Cjarsòns(キャルソンス)」だ。


もともとフリウリ地方には、「訛り」とはまた違う独自言語ともいえる「フリウリ語」というのが存在する。「フリウリ語-イタリア語」辞典も本屋に普通に並ぶくらいだ。
同料理名「Cjarsòns」もなかなか発音が難しいものではあるが、その料理名の由来を聞いてみると…。
よく言われるのは、詰め物をしたピッツァの「Calzone(カルツォーネ)」や、小物などを入れてしまっておく引き出しを意味する「Casetteriera(カセッテッリエラ)」など。いずれも詰め物をした料理というところからくるようだが、実はそうでもないらしい。または、カルニア地方を意味する「Cjarnion(チャルニオン/キャルニオン)」から派生する、等…。この地方の料理をよく知る長老的人物に話を聞いても、どれもこれも真相ではない、という。

そして、もちろん土地料理ならでは。各人、各家庭の伝統の味、手法があり、それぞれに受け継がれてきたものであるから、ひとつのレシピとしてこの料理が収まることはまず、ない。

私個人として、いくつかのキャルソンスを食べてきたが、信頼できる一皿を見つけた。それを作ってくれるのが、同地区、Forni Avoltri(フォルニ・アヴォルトリ)にて、ホテルとレストランを経営するマンマであり、シェフである、Tiziana Romanin(ティツィアーナ・ロマニン)さんだ。

オーナーシェフのティツィアーナさん。厨房での右腕、ジョヴァンニさんと。


1908年にこの地でオステリアを開いてから100年以上も続く家系。一人娘であったティツィアーナさんは、やはり現在の彼女のように、この店を引っ張ってきた彼女のお母さんからその全てを受け継いできた。

緑に囲まれたホテル・レストラン


大きな窓からみえる景色を見ながら食事を


この地では、野菜も肉類も、もともとは現地調達。野菜は建物横にある畑から、食用とする肉は信頼のできる知り合いの農家から、ジビエの季節には必ず土地のものをハンターから…それらの素材を大切に、自然への礼を込めて丁寧に、且つ正確に扱う技法・技術、そしてお客様へのホスピタリティ等々、ホテル及びレストラン経営を続けていくうえに大切なスピリットを全て譲り受けた、と自覚している。

最愛のお母さんとの写真。店内に飾ってある。


主要都市からはかなり離れた場所にあるが、夏や冬のバカンスシーズンはもちろん、その季節以外でも、よくもこんなところに…と思うほど、常に多くの客で店が埋まる。土地柄、たまたま寄った、という感じの客は皆無であり、ほぼ全ての来客はここを、そして彼女を知って訪れる。

周囲の景色も自然いっぱいで美しい


前置きばかりが長くなったが、肝心のこの料理とは…。

同料理はいわゆる詰め物パスタ。ただし、中身を包む生地はニョッキのようにジャガイモが入る(もちろん入らない例もある)。
中身はこれも一様ではないのだが、甘い素材を加えていわゆるアグロドルチェな仕上がりにする場合もあるし、リコッタや野草などでサラートに仕上げる場合もある。

ティツィアーナさんのものは、生地にできる限り多くのジャガイモを入れ、口当たりをふんわりと仕上げてあるのがその特徴。
中身には、リコッタ、アマレッティ、干ブドウなどが入り、そこに欠かせないのがたっぷりと感じるシナモン。
中身の材料をこれもふんわりと仕上がるように混ぜ、それをジャガイモ入りの厚みのある生地で包む。包まれたひとつひとつは茹でて皿の上へ。そこに熱いバターをさっとかけ、さらにシナモンを添える。そして、仕上がりには削りおろした燻製のリコッタチーズが必須だ。

風味と食感が様々に融合する一皿


この甘さのある料理の所以は一時代、領地下におかれていたオーストリアからの影響、そして香辛料をたっぷりと使うのは、その前時代にこの地を支配したヴェネツィアの影響を受ける。
独特の食感と甘さ、そこに塩味や燻製香が混じり合い、さらにしっかりと感じるスパイシーなシナモンの風味。なんとも不思議な風味が一体化している。
いろいろな味や食感が融合して仕上がるこの皿は、まるでこの地に息づく異文化の融合と重なるようでもある。

これも土地のポレンタ料理「Tocj in Branda(トーチ・イン・ブランダ)」


Albergo Ristorante “Al Sole” di Romanin Tiziana

Via Belluno, 14 33020 Forni Avoltri (UD)

Tel: +39.0433.72012

http://www.alsoleromanin.it

フリウリの燻製生ハム「プロシュット・ディ・サウリス I.G.P.」

サウリス産プロシュットI.G.P. (Prosciutto di Sauris I.G.P.) は、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリアの北部、峡谷ともいえるサウリス村でつくられる希少なプロシュットだ。標高1200mに位置する稀有な場所で製造されており、原産地呼称のI.G.P.認定とはいえ、その生産者はたったの2社のみ。

標高1200mの自然に囲まれた地域にてこのプロシュットが生まれる


土地的な歴史から、長くドイツの文化の影響を受け、また長く厳しい冬を越さなければならない故から生まれた、世紀を超えたこの土地ならではの生産物といえる。

さて、この土地に行き着くまでには、結構な山道をクネクネと車で登っていく必要がある。途中、岩を切り出しただけのようなトンネルをいくつか抜けると…

目の覚めるようなエメラルドグリーンの大きなサウリス湖に出る。

サウリス村の入り口、サウリス湖。水面の色が非常に特殊‼︎


これは、戦時中にドイツ軍により捕虜となったニュージーランド人たちの現場での働きによりできあがったものだとか。
どこまでも奥へ奥へと続く峡谷のような風景と、深さを感じるブルー/グリーン、そしてその歴史を考えながら水面を見ていると、まるで吸い込まれるのではないか、という錯覚に陥るようだ。

ここで1862年創業のプロシュットフィーチョ「WOLF (ヴォルフ)」を訪ねる。会社名の「WOLF」は創業家族の屋号。人口約400人ほどの小さなこの村は、そのほぼ全ての家が「Petris (ペトリス)」という苗字を持つ。そのため、お互いを区別するために屋号を用いるのが常となっている。

Wolf社外観


原料となる豚は、北イタリアを中心として飼育されたものを使用する。腿肉の形となって納品される肉には、塩、胡椒、ニンニクがすりこまれ、数日間置いたのち、塩をはずし、温度と湿度のコントロールされた保管庫にてしばらくおかれる。

その後、サウリス産プロシュット独特の工程である「アッフミカトゥーラ」に入る。いわゆる燻製だ。
燻製に使われる木はブナと決められているが、ブナの燻煙は適度に柔らかく、甘みを帯びるほど良さを持ちあわせているので、同製品に適する唯一の木材とされている。

ひんやりとした燻製室。室内にほのかな煙が充満している。


サウリスのハム類の特色をつくるブナの木の炊き場にて。同社を支えるクリスティアンさん


同社の燻製室は肉の保管・熟成庫のある階下に位置し、ここに並ぶいくつかの炊き場からあがる煙は直接燻製室へつながっている。
煙が直接つながる上階の燻製室は低温庫となっているため、燻製はいわゆる冷燻となる。燻製期間は3日間。ここでほどよい燻製臭が肉にまわり、独特の風味を生みだすこととなる。

製品として出荷可能な状態。見ているだけでどことなく燻製香がしてきそうだ


その後は熟成室へ。ここでゆっくりゆっくりと熟成が進み、14ヶ月に達した際に品質がコントロールされる。合格したものは、焼印が押され、ようやく「プロシュット・ディ・サウリスI.G.P.」として認められ、市場に出荷できる態勢となる。

I.G.P.の認定の焼印がされるのは、14ヶ月経過時に検査に合格したもののみ


このプロシュットの味わいの特徴としては、旨みや甘みがほどよく、脂が全体にうまくのっていること。ナッツのような脂と旨みが相互する非常にまろやかさが他地でのプロシュットと一線を画す。薄くスライスしていただくそれは、もちろん食する部位にもよるが、下に残るほどよい塩気は、なんとも北の山奥でつくられる力強さを感じさせる。
そして、これには、しっかりとした味わいを持つ土着品種のフリウラーノを合わせたいところだ。

スライスしたプロシュット。奥はこれも同社の看板商品、スペック。


出荷の際には同社のブランドがかけられる。


同社では、特に18ヶ月熟成に達したものを、「ノンノ・ベッピ」として、ラインナップしている。その熟成した旨みをさらに特徴としたものも同社自慢の一品だ。
そして、同様に同社の看板製品でもあるスペックも合わせて味わうべきもの。

同社売店にて。その場でスライスもしてもらえる。


Prosciuttificio Wolf Sauris
住所 Sauris di Sotto, 88-33020 Sauris (UD)
電話 Tel: +39.0433.86054
HP http://www.wolfsauris.it

 

ヴェネトのアスパラ第2弾 バドエーレ産アスパラIGP

ヴェネト州でも最も有名なバッサーノ産の白アスパラの産地から少し東にずれた地域にて、同じく春先の名産として知られているのが、トレヴィーゾ県バドエーレ地区を中心としたアスパラガス。

バッサーノは白のみだが、こちらは、白と緑との両方ともが生産され、産地呼称であるIGPに認定されている。生産地区として認定されているのは、トレヴィーゾ、パドヴァ、ヴェネツィア県下の指定地域。

この地域の特徴は、この地区は自然水の湧き出る、水のきれいな地域。ヴェネツィア共和国の影響を大きく受けた場所でもあり、当時の貴族の邸宅が、その水の流れに沿って点在する地域でもある。

毎年5月には、バドエーレの美しいヴェネツィア時代の建物がシンボルである広場にてサグラ(収穫祭)が開催され、生産者及び地元の人が集いその年の収穫の喜びを分かち合あわれる。

町の広場では、各生産者が出品する生産物の品評会会場となる


品評会の表彰式の様子


仮説レストランにて。アスパラずくしのメニューが振舞われる


さて、収穫現場へ…ここはヴェネツィア県下で唯一IGPの認定を受ける自治体であるスコルツェという町の生産者。

アスパラの収穫は朝が早い。特に白アスパラに関しては、日の光が強くなる前に行う必要がある。
収穫方法はバッサーノ産のものとほぼ同様、何列にもなった畝の黒ビニールを一列ずつ外し、土の上に穂先が出ているものをめがけて掘り起こす。

白アスパラの畑。この時期は生産地区ではこの光景があちらこちらに


通常、この畑作りをするのが冬の終わりである2月の終わりごろ。この地区はラディッキオの生産地域でもあるが、その年の出荷作業もようやく終盤を迎え始める時期がそのタイミングだ。
とはいえ、2018年の今年は、春先が低温で雨続きだったため、畑の準備がだいぶ遅れていた。収穫のスタートのタイミングも通年よりも1ヶ月ほどずれてしまったことが心配されたが、その後は気温がグンとあがり、アスパラも順調に生産・出荷が行われている。

白アスパラは盛り上げた土の中で、その温度変化を感じ、それに反応して上方に伸びる。高く盛った土の表面に出るまで日光にあたらないので、茎全体に色素が働かずに白いまま成長する。土表面に出たころには、長さが20㎝以上になっているので、そこでちょうど収穫時期。

ここでも、専用のコテを用い、茎を折らないように掘り起こす。

成長具合を確認しながら一本一本丁寧に掘り起こす


対し、緑のアスパラは、土の上にニョキニョキと伸びたものを収穫。
こちらは日光をいっぱいに浴びて、いわゆるアスパラらしい野生味あふれる香り豊かな美味しさ。

地表にニョキニョキと生えたアスパラ。これも成長具合をみながら収穫


同農家では、毎朝7時から約10人がかりでアスパラ収穫を行う。まずは白アスパラから取り掛かり、緑アスパラまで、約3時間かけて朝の重労働。

畑での作業を終え、次は作業場へ移動。

ここでは、洗浄をしながら太さを選別。ある程度に形の揃ったものを、専用の枠に整然とならべながら束をつくる。この枠にきっちりと入れると重さは1-1.5kgとなる。

専用の枠に綺麗に並べて束をつくる


長さを測って茎下部を切り取り、輪ゴムまたは紐でしばって商品として完成する。

規定の長さに切り揃えて出荷準備OK


経時劣化の早いアスパラは、常に水に放っておくとよい。できあがった束もすぐに冷たい水の入った水槽へ。

同農家で入手したアスパラでつくるリゾット。皮はブロードとして利用し、皿全体が白アスパラの香りでいっぱいとなる。

季節の定番。白
アスパラのリゾット


春ならではの極上を味わえるのも残りあと僅か。

バッサーノ産白アスパラDOP

ヴェネト州にはアスパラ生産で有名な産地がいくつかある。そのなかでも筆頭にあげられるのが、バッサーノ産のそれだ。

フォルムの美しさは品質保証にもつながるもの

産地は、ヴィチェンツァ県バッサーノ・デル・グラッパを中心とした15自治体が該当する。地区が限定されるのは、勿論のこと、産地呼称であるD.O.P. (Denominazione Origine Protetta) に認定されているから。その生産地区は、ドロミーテ山麓を背した地区。この自然環境のもと、山から吹き降ろす風、空気の流れがよく、寒暖の差が激しいこと、また、ここ一帯を縦断するブレンタ川の流れがもたらす、砂や小さな石などを基盤にした土壌が上質のアスパラ栽培には非常に適しているといわれている。



バッサーノのシンボル。アルピーニ橋。アルト・アディジェから流れるブレンタ川に架かる


自然の恵みがもたらす産物とはいえ、そこに人の手がかかることにより、その生産物がひとつのブランドとして確立する。

アスパラは畑に苗を植えることにより、その先10年は生産を続ける。商品として出荷されるのは、3年以降の苗とされ、寒く長い冬が終わるころ、土表に出ている伸びた茎を一斉に刈る。そして、苗の脇を列をつくるように苗上部に土を盛り、畝を形成する。その上に黒いビニールを被せて春を待つ。

季節が以降し、気温があがってくると、アスパラは土の中でその温度を感知し、上方に向けて伸びてくる。アスパラがスクスクと真っ直ぐに伸びるためには、硬い泥状の土よりも、軽い土壌のほうが健やかに育ちやすい、というのが、同地区の土壌に適している所以でもある。

また、黒いビニールを被せる目的は、日光を遮断するため、雨から穂先を守るため、そして保温が目的である。バッサーノのアスパラはDOPとして認証されるものは白のみ。アスパラは土表に出る際に日光をあてることにより、着色してしまうため、とにかく光を遮断することが非常に大切な要因だ。

毎年の気候にもよるが、3月に入るとアスパラの収穫が始まる。朝のできるだけ早い時間、つまりは前述のように、光にあてないことを目的とし、朝日が昇りきる頃には作業は終えていなければならないので、必然的に早朝から収穫がスタートする。

アスパラ収穫は毎早朝からスタート。一本一本を人の手により掘り起こされる


まずは、被せてある黒いビニールシートをはずし、土表にちょこっと顔を出している穂先を見つけては、その地中深くに専用の鉄製のコテを斜めから入れて掘り起こす。そして次に出てくるアスパラのために、専用の木製のヘラのようなもので土の表面を綺麗に戻す。

ひとつの列を端から順番に歩いて収穫タイミングのよいものを掘り起こし終えたら、ビニールシートを再度被せ、次の畝へ…非常に単純ではあるが、この作業が5月いっぱいくらいまで毎朝続く。

収穫したら即座に水に浸す。アスパラは劣化が早いので、常に新鮮さを保つ気遣いが必要


ちなみにバッサーノ産白アスパラDOPにて指定される収穫時期は3月18日のサン・ジュセッペから6月13日のサンタントニオの日まで。ただし、近年は気候の変化もあり,収穫はほぼ5月で終えてしまうらしい。

収穫したものは、作業場に運ばれて水で洗い、太さを合わせて束にする。通常、形態としては1㎏の束をつくるため、それ専用の束をつくる道具が存在する。

輪の中にアスパラを綺麗に並べ、それを柳の若枝で結ぶ。長さを揃えて切り、これで完成。長さや太さ、束の大きさや形、全てに対してここならではの決まりがあり、それに従って各生産農家にて出荷作業が行われる。

アスパラの形状を見ながら丁寧に束をつくる


その日に収穫したものは、作業場で束を完成したらすぐに最寄りの集積所に持ち込まれる。

ここでは、形や色、長さや重量、そして見た目をコントロール。これに合格したものは、ここで初めて、バッサーノ産白アスパラDOPとして認められ、おなじみのタグをつけられる。タグには、生産者の名前を入れてあるので、各束すべてが誰が生産したものかが判断できるようになっている。

集積所にて、品質チェック


そしてここからイタリア国内および国外へ出荷されることとなる。

DOPとして認めらる条件としては、
-とにかく美しい白色であること
-真っ直ぐに伸びていること
-長さ18-22cmであること
-直径最低11mmであること
-全体が丸く美しいカーブを帯びていること
-密がしっかりとしていること
-柔らかく、筋ばっていないこと
-新鮮でアスパラならではの香りを保っていること
-1束は約1.5kgの重量であること
-形が均等であること
-束は柳の若枝でしばってあること
-生産者は組合に登録してあり、生産基準に従った生産がなされていること
等となっている。

バッサーノ産の食べ方として有名なのは、茹でたアスパラにゆで卵を添えること。地元の有名なレストランなどでは、注文すると、まず最初に熱々の茹でたてゆで卵が殻ごと運ばれてくる。これを各自で殻をむき、皿の上でナイフとフォークを使って細かくする。そこに塩、胡椒、オイル、好みでアチェートを加えて自分でソースを準備する。

そうこうしているうちに茹でたてのアスパラがその皿の上にごそっと盛られるので、予め準備したソースをつけていただく…というのが正当派。「白アスパラのバッサーノ風」というメニューはこれにあたる。

最もクラッシックな食べ方。バッサーノ風


春の非常に短い時期に楽しむ旬の賜物。季節となると生産各地では、土地の人々がこの産物の収穫の喜びを分かち合うサグラ(収穫祭)が開催されている。