タグ別アーカイブ: 土着品種

イタリア最北東、フリウリのオリーブ収穫

イタリア北限のオリーヴオイル

スロヴェニアやオーストリアとの国境となるイタリア最北東のフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州。良質のワインの産地であることは知られているが、オイルの生産地でもある、ということはあまり知られてはいない。

ここは、ウーディネ県、チヴィダーレ・デル・フリウーリにあるVenchiarezza(ヴェンキアレッツァ)というオーガニックのワイナリー。8月後半から約1ヶ月をかけてのヴェンデンミア(ブドウ収穫)を終え、その後に続くのがオリーヴの収穫だ。

ブドウ収穫はそのタイミング及び醸造の過程でかなり気を遣うものである。白品種の多いこの地区はなおのことだ。その収穫期をようやく終了して気を緩めたいところにオリーヴ収穫が始まることもあり、生産者にとっては、精神的にも肉体的にも疲労の溜まるところ。

とはいえ、ここはもう一踏ん張り!と収穫を迎えた。

この土地ならではの土着品種「ビアンケーラ(Bianchera)」

同農家では、約3ヘクタール分のオリーヴの畑に1000本弱の樹をもつ。特徴的なのは、これらのオリーヴのうちの1/3ほどを占めるビアンケーラという品種。この地の土着品種である。

オリーヴ畑は神聖な雰囲気がある


少し大きめな淡い緑色の実の表面にはよく見ると白い薄い斑点がある。これが「ビアンケーラ」という名称の由来でもあると聞いたことがある。

この品種は他品種に比べて最後の収穫となる晩成型。厳しい北東イタリアの冬に、そして海岸側からの冬季の強い風、ボーラにも耐えうる非常に強い生命力を感じさせる品種だ。

そして、その味わいも非常に個性的。それの持つ透明感とフレッシュ感はフルーツや野草のような風味、喉に残るアーティチョークのような程よい苦味の印象は、ポリファノールの高さを示している。

オリーヴの収穫スタート!

オリーヴの収穫のタイミングを決めるのは、実の状態を見極めつつ、まずはフラントーイオ(搾油所)の予約からスタートする。というのも、同地にてオリーヴを収穫する者は、そのほとんどが自家にて搾油用の機材を持ち合わせていないため、地域のフラントーイオを利用する。オリーヴ収穫後はすぐに搾油の作業に入る必要があるが、収穫のタイミングは何処もほぼ同時期。

ということでフラントーイオでは、日時及び量を調整し予約制をとる。この時期は、フラントーイオはフル稼働。各農家はそれに合わせて日々の収穫を計画する必要がある。

さあ、10月中旬の晴れた朝、収穫がスタートした。収穫の見極めは、オリーヴの樹になる実の熟成具合。ここでは、全体的に緑色のオリーブの中に40%ほど色が黒色に変わり始めた頃を見極めている。黒色までしっかり熟したものは、油の搾油率は高くなるものの、フレッシュ感が乏しく、また酸化がしやすい。ここは各作り手の判断となるが、同農家の生産者は、フレッシュ感のある風味が目指すところであるため、緑色の実の方がかなり目立つ段階で収穫する。

実の色づきを見計らって収穫のタイミングを決める


収穫作業は、まずは一本の樹の周囲に大きなネットを敷く。2枚を利用し、樹の左右を隙間のないように。

そして、取手の長い電動の熊手を持ち、枝を振動させて実を落としていく。枝先の一粒も逃さないように、丁寧に…。一本の樹が終われば、予め敷いておいたネットを次の樹へ移動し、同様の作業が続く。

一本一本、一枝一枝を丁寧に…


何本かの樹を通過すると、ネットはもう動かせなくくらいまで重くなるため、ビンズと呼ばれる農業用の大きなカセットの中へ一気に投入。この時点で男性2名でも持ちきれないくらいの重量となっている。

こうして一本一本の樹の実を収穫していく。作業は非常に単純だが、かなりの重労働だ。

ビンズの中いっぱいになったオリーヴ。とても美しい


この農家のアイドルは葉っぱの上が気持ちいい!と嬉しそう


収穫後はフラントーイオ(搾油所)

朝から始まる収穫は、同夕方にその日の収穫量に達するところでフラントーイオへ運ぶ。この日の1日の収穫の目安の割り当ては10クインターリ(1,000kg)。大抵はそれよりも無理やりでも多めに作業すルことが多く、この日も15クインターリ分ほどを持ち込んだ。

フラントーイオへ到着。これから重量を量る


重さを計り、あとの作業はフラントーイオへ任せる。オーガニックの農家のものは、扱いも特別になるため、毎回、作業前には機械の洗浄が施される。

フラントーイオ内は搾りたてのオリーヴの香りが充満。洗浄→低温圧搾を経て最終的に絞り出された果汁(オイル)はなんともいえない深い緑色の液体。色も香りも味わいも濃厚。

フラントーイオでの搾油作業


洗浄された実は、この後圧搾へ


搾りたて!


翌日、次の収穫物を運び込むときには、前日の作業したオイルを受け取ることができる。収穫した実に対して、絞り出されるオイルはその重量の10%にも満たない。かなりの重労働であるため、新しいオイルを目の前にした喜びの反面、現実も堪えるところ、でもある。

とはいえ、持ち帰ったそれをパンにたっぷりとかけていただく幸せは、労働の後の何よりのご褒美だ。

新オイルはこのステンレスの缶の中でしばらく静置し不純物を時間をかけて下に移行させ、1-2ヶ月後にフィルターにかけて瓶詰めにされる。

新鮮なオリーヴ果汁はこのまま静置


昨年の収穫はゼロだったこともあり、今年のオイルの出来上がりを楽しみに待っている。


作業はもうしばらく続く…

 

Venchiarezza

via Udine, 100 33043 Cividale del Friuli (UD)

https://www.venchiarezza.it

 

 

シチリアでリンゴ?

トラーパニ 猛暑も立ち去り、過ごしやすい日々が続くシチリアです。

さて、今の時期のシチリアの旬!と言えば……

「りんご」

え~! シチリアでリンゴ! とお思いかと思いますが、
9月中旬~下旬にかけて、超短い旬を迎えるシチリアのリンゴ。

私もシチリアに住み始めた2005年の今の季節。
田舎道で農家さんが拡声器を使って

「リンゴ~、リンゴ~、地元のリンゴだよ~」

と移動販売をしていて、シチリアでリンゴ!?とびっくりしました。

シチリアのリンゴは小ぶりでシャキシャキ。
さっぱりした甘さが心地よく。

そのほか、今の時期の超短い旬の食材を集めてみました。

トラーパニ
アッザローラと呼ばれるリンゴのような小さな果物。

イタリア各地や外国からリンゴや洋梨などが流通し始めると同時に、
段々姿が消えてしまったというこの果物。
農民市場でおっちゃんが時折売っているくらいで、
ほぼ見かける事がありません。

トラーパニ
これはちっちゃな洋梨。
旬は8月下旬~9月上旬にかけて。
一気に実が熟すため、もう急いで収穫しないと!
このちっちゃな洋梨、家の畑に木を持っている人は多いのですが、
これも農民市場で時折見かけるくらい。

夏は、メロン、スイカ、ブドウ……と旬の大物が多く。
そしてこの3つは全部甘くてジューシーで暑い夏の水分補給にピッタリ!
なので、この洋梨はほぼ市場にも並ばないのでしょうね……。

ジビッボ
これはかの有名なデザートワイン

「パッシート・ディ・パンテッレリア」

を作るためのブドウ、ジビッボ種。

日本では「アレクサンダー」という名で流通しています。

このブドウ、本名は

「モスカート・ディ・アレッサンドリア」

つまり、アレッサンドリア(エジプトの地名)で生まれたマスカット。

日本では1㎏5000円くらいで流通している高級ブドウですが、
トラーパニの農民市場では1kg2ユーロほど。

このブドウ、甘くて、芳醇な香りで本当に美味しい!

農家の方々はブドウはワイン用に育てているため、これも旬は短く。
9月上旬に出てきた!と思ったら2~3週間でいなくなり、、、。
来年まで食べる事はできないので、その間に1年分食べます(笑)

しかし、シチリアは本当に豊かな土地だな~、といつも思います。
霜が降らないトラーパニは1年中、作付け可能。
野菜も果物も1年中、何かしら「旬」があります。

あと2週間もするとオリーブオイルの季節を迎えるシチリア。

旬が目白押し!


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カラブリア州のワイナリーVol.3 「自分たちが飲みたいワイン」を作りたい。テヌータデルトラヴァーレ(Tenuta del Travale)

カラブリア州のワイナリーをご紹介するシリーズ・第三弾は、コセンツァ市郊外のコダワリが強いワイナリー・テヌータデルトラヴァーレです。

 


カラブリア州北部・コセンツァ県のコセンツァ市郊外、シラ国立公園の入り口あたりに位置し、所有する畑は2ha。
家族経営の小さなワイナリーで、地元のワイン好きの間では「とにかく素晴らしい赤を生産しコダワリも凄い」と有名です。


奥様のラファエッラ(Raffaella Ciardullo)さんにご案内いただきましょう。
ワイナリーで生産しているのは2種類のワインのみ。
どちらも赤で、年間最大1万本しか作れません。

なお、天候不順だった2018年は500本のみ生産とのこと。
え? 500本・・??

コダワリその1:ブドウの樹1本からは1㎏だけ


作っているワインは赤のみ。
ブドウも2種類しか作っていません。

・Nerello Mascalese
・Nerello Cappuccino

Nerelloはシチリア産。。と思われる方もいるかもしれませんが、実はカラブリア産。しかもカラブリア州北部のコセンツァ県が原産で、カラブリアからシチリアに渡った「黒いカラブリア」のブドウの1つと言われています。

耕作面積が小さい為、樹ごとに収穫時期を決定できるのが利点とか。
11月中旬に収穫と、霜害とにらめっこの遅めの収穫が可能なのも、この1本1本のブドウの樹へのお手入れからなんだそうです。

コダワリその2.BIOにこだわらない


基本的にはBIO以上の厳しい管理で作っていますが、気象条件次第では薬剤の限定的な使用もやぶさかではない、とラファエッラさんは断言されます。

BIOマークを得ることで発生する様々制限が、逆に製品の質を落としてしまう可能性を考慮すると、あえてBIOマークを得ないで「必要な際は薬剤を使います」と正直に言いたい、というポリシーだそうです。

畑・ブドウ・生産方法にかけた愛情をワインを通じて感じて貰えればうれしい、と。

コダワリその3.「売れるワイン」は作らない


祖父の代からワイン作りをしていたけれど、販売用に作ろうと思ったのは2007年。初めて製品を出したのは2014年と、学びの時間を長くかけたワイナリーです。

そして、彼らのモットーは「自分たちが飲みたい、エレガントなワインを作りたい」。

このため、量は少なく・質は高くのポリシーを貫いて生産しています。「売れなかったら自分たちが飲めばいいんだし。」と笑顔のラファエッラさん。

いや、売らなきゃダメでしょ。。(笑

1stラインはステンレス製タンクで4か月熟成の後、ナラの樽(仏産)と栗の樽(伊産)で計18か月熟成させます。2ndラインは、樽熟成が15か月。
ワイン好きな方はここで「栗の樽!?」と思われるかと。(私もビックリしました)

カラブリア州のこの辺り、1500m級の高原域の入り口で栗の木はいっぱいあるんです。なので、伝統的に栗を木材として多用する地域です。
この辺りが原産のNerelloは、同じくこの辺りに多い栗の樽と相性が良いだろう。。と言う事で、栗材をシチリアの樽加工職人にお願いして樽にしてもらっているんだそうです。

で、この栗の樽が良い仕事するんですよ。。


ボトリングを待つ、2ndライン(1stより樽熟成が3か月短い)をステンレスタンクから直接試飲させていただきました。

あぁ。全然まだまだな余韻を残しつつもすでにエレガントすぎる・・


他にも色々コダワリがあるのですが、長くなるので割愛(笑

ブランドロゴの中央、ブドウの実をかじる犬の図案は、ラファエッラさん一族の紋章です。

ワインを作ろうと思った時、一族の紋章にこんな図案が使われていて運命だと思った、とラファエッラさん。

テヌータデルトラヴァーレの醸造家はあのエミリアーノ・ファルシーニ(Emilliano Falsini)。
Nerelloではイタリア随一の専門家をして「ここのNerelloで自分は初めてこのブドウのポテンシャルを感じた!」と言わしめたワインを生産できる土地でワイン作りをしているのは、まさしく運命なんじゃないかな。。と思います。


試飲でうれしくなっちゃってるワタクシの図w

生産開始後、すぐに各方面から高い評価を受けています。本年のVinitalyでは某特別展示に出展予定でしたが・・秋に延期となりました。Vinitalyご参加の方は、ぜひぜひ試飲されてみてください。

コダワリが過ぎているので(笑)価格帯は高めですが、Nerello好き・エレガントな赤をお探しの方、ぜひどうぞ。

Tenuta del Travale(
Loc. Travale 13, 87050 Rovito (Cs)
Googleだと絶対迷います。
ご案内しますので、お気軽にお声がけください♪

フリウリのぶどう、土着品種 〜初夏の畑より〜

今年はぶどうの生育が良さそうだ。8月末から9月にかけての収穫までの間、雨が続いたりヒョウが降ったり…などが起きると状況は一転してしまうが、それがないことを天に願いつつ、現在のところ元気よく成長を続けている。

ぶどう畑では、勢いを増してそれぞれの樹からツルを上へ上へとのばしている。
ワッサワッサという成長音がまるで聞こえてくるのではないか、と思うほどだ。

この季節のぶどう畑はほんとにいい。生きよう!という”気”がみなぎっている感じがする。

しばらくしたら夏の剪定作業が始まる。

ここは、フリウリでオーガニックのワインをつくる生産者の畑。ぶどうと地表の草で、眩しいほど一面に鮮やかな緑色が広がる。

整然とした畑は気持ちがいい


“白ワインの聖地”とも呼ばれるこの地は、質のよいぶどうを生育するための自然環境が整っている。

背後には3000m級の山脈、そしてその向かい側にはアドリア海。1時間ほどそれぞれの方角に車を飛ばせば、山、海ともに到着する。そんな環境にあるため、山から海に向かって風が吹き下ろすポイントになっているようだ。とにかく風通しが良い。真夏でも特に夜間には怖いくらいの強風がふき、気温がグッと下がる。

南地域に比べて夏を迎える季節の変化とそれに伴う温度の上昇が緩やかなこと、そして昼夜の寒暖差が大きいことなどの要因は、自然からの恵みだ。

それにより、果実に適度な酸味を残し、深みのある甘みを与える。果実の熟成ポイントの訪れるタイミングには、酸味と甘みのバランスが非常によく保たれることとなる。
また、風通しの良さは、湿気を溜め込まないという点からもオーガニック栽培を無理なく実現するには、最高の条件でもある。

イタリア最北西という特異な土地環境は、文化および食文化にも同様に影響している。そして、ここにはこの土地ならではの希少なぶどう品種が存在する。いわゆる土着品種と言われるものだ。

そもそもイタリアは、その土着品種の数が世界中でも圧倒的に多く、ソムリエ試験を受ける者泣かせであるが、フリウリはその品種の数が特に多い。

ぶどうの樹は、品種によってもちろん顔が変わる。それもかなり大きな差が。判りやすいのは、葉の形。そして果実のつき方。

この時期は、花が終わり、実がその姿を露わにするときだ。今の畑はその違いが非常にわかりやすい。そして、それぞれの個性がすでに頭角が現れている。そのうちの一部をご紹介。

まずは「(トカーイ)フリウラーノ/ Friulano」 。

上方左右に”翼”をつけたように結実する


“トカーイ”と呼ぶことができなくなり、”フリウラーノ”と呼ばなければいけないのだが、この土地ではこの品種はやはり”トカーイ”と呼ばれる。
見てわかりやすいのは、上方両脇に耳のような形に実がついていること。この部分は「翼=アリー (alì)」と表現される。

そして「リボッラ・ジャッラ / Ribolla gialla」 。

この地域を代表する白ブドウ品種


この土地で近年非常に注目されている品種。今年は結実も早く、熟成も早めではあるが、同品種の収穫のタイミングを見計らうのは難しい。もともと酸味が極めて強い品種であるがゆえ、糖度の適当な具合を判断するには生産者の様々な考えがある。

通常、収穫は白品種から始まることが多いが、この種に限ってはメルローなどの黒ブドウ品種よりも収穫が後回しになることも珍しくはない。

これは「スキオッペッティーノ / Schioppettino」 。

大きな房で、点々と存在するように結実


このぶどう畑のあるプレポット (Prepoto) という小さな地域のオリジナル品種だ。

縦長の大きな房。実のつき方もお互いが離れてバラバラな感じだ。
同品種は、その性格がまるで”聞かん坊”のよう、とも言われる。葉も実も好き勝手にあっちこっちに向かって成長する。湿度に非常に敏感で、病気になりやすいにも関わらず、硫黄系の散布剤に非常に弱い。つまりはオーガニック栽培が実現しずらい品種でもある。

「レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソ / Refosco dal peduncolo rosso」 。

茎が赤いのでわかりやすい。品種の名前の由来でもある


“ペドゥンコロ”とは、茎の部分を指す。ここが赤い(ロッソ)から、この名前がついている。
仕上がるワインは色あいは深く、エレガントでタンニンの存在もしっかり感じるもの。この時点で、他との品格の差を見せつけているような、そんな気品がある。

そして「ピノ・グリジョ / Pinot grigio」 。

小さくキュッとつまってコンパクト


品種としては土着品種ではないが、一般的に周知の通りフリウリの同種は非常に評価が高く、また生産量も高い。

この品種は非常に密にコンパクトに実をつける。早熟な品種でもあるので、見るからに他に比べて結実がよい。当然のごとく収穫も大抵は、このピノ・グリジョからスタートする。
今年は特に、この”密さ”が顕著に感じる。

ぶどう畑にいて、ぶどう自体と同じくらいいつも目を奪われるのが、これ。ヴィティッチ (viticci) と呼ばれる部分。

この細いヒゲに大きな力が蓄えられているよう


上方に伸びる性質のぶどうは、何かに頼っていかなければ立ち上がれないので、介在を探す。そこに細い新茎、いわゆる巻きひげをぐるぐると巻きつけて立ち上っていく。
これがものすごい力の持ち主。これがあるから、力強く成長する樹を支えていける。

ぶどうの収穫が終わり、葉を落としてもなお、このヴィティッチはしつこくも巻き付いたまま。冬の剪定時にも、1シーズンを終えて枯れているかと思いきや、最後の残された力でこれをはずすのに、結構な力を入れる必要があるくらい。

静かに、必死に、そしてひたむき。

ここからいろいろなことを教えてもらっている。

フリウリの土着品種オリーブオイル「ビアンケーラ」

イタリア国内で生産されるオリーブの産地としては、少々意外かもしれない。イタリア最北西に位置するフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の土着品種として、ごく僅かではあるが生産される品種がある。それが「ビアンケーラ(Bianchera)」だ。

ウーディネからトリエステ方面を中心に、クロアチアのイストリア及びダルマチア地方にて生産される。
この地の冬の厳しい寒さに耐えるがゆえ、頑丈なたくましさを持つ品種でもある。太い幹にしんなりと長い枝をつけるが、その生命力の強さからか、剪定をしっかりしてあげないと、上方まで高く高く枝を伸ばしすぎてしまうこともある。

地域的には、トリエステで有名な突風ともいえる「ボーラ」の影響を受ける土地だ。このしなやかな枝を備えたオリーブの樹の並ぶオリーブ畑は、植わっている樹が全体的に風のふく方向に傾いている、という光景を目にすることもある。

イタリア北部のこの環境だからこその生産物


「ビアンケーラ」という品種の名の通り、「白い」という意味合いを含んでいるが、その理由は実の表面に白い小さな斑点が見られることから。小さめで密な実をつける、このたくましい品種は、オープンではないが内に秘める強さを持つ、この地方の住人の気質を表しているかのようでもある。

2018年はオリーブも当たり年!たくさん実をつけました


収穫は全体的に遅めであり、通常は10月中旬以降から。収穫のタイミングとしては、樹全体になる実の色の変化がひとつの目安。オリーブの実は緑からだんだんに熟して黒くなっていくが、それらが一本の樹に半々になりかける頃合いを見計らう。フレッシュ感と完熟感の、それぞれの良さを逃さないようにするためだ。

現在最も新しいオイルである2018年産のものは、実の生育期に気温が高く日照時間も多くあったために少し早めの収穫時期を迎え、品質、量ともに非常に良い年であった。

収穫作業には、一本一本の木の下に大きな大きな網のシートを敷くことからスタート。樹の両脇を2枚のシートを重なるように並べ、一粒の実も取りこぼさないように注意する。そして、電動の熊手を用い、それを上下に揺らしながら実をシート上に落としていく。一本の樹が終わると、そのシートを次の樹の下へとひっぱって移動し、作業続行。シートに落ちた実が溜まり、その重さのために、移動するのが困難なくらいになったら、その集めた実を都度大きな容器に移す。

摘みたてのビアンケーラ。愛おしい‼︎


収穫は、一粒一粒を丁寧に無駄なく摘み取るように注意する


それを収穫後すぐに搾油所に運び、搾油作業へ。収穫した実はその時点から酸化が始まるため、即日搾油はよいオイルの必須要素だ。

搾油したばかりのオイルの香りは、びっくりするほどの芳醇さ。いわゆるオリーブジュースだ。これをこのまま静置しておくと不純物が底に溜まってくる。オイル全体にもそれを残しておくと酸化の原因にもつながるため、一定期間の静置後はフィルターにかけ、その後に瓶詰め作業となる。

絞った直後のオイル。香りがすごい。この場で見ているだけでバケット1本食べられる


フィルターにかける作業中


できあがったオイルの特徴は、とにかく品種的にポリフェノール含有量が高いことから、苦味と辛味を十分に感じる決然とした味わいだ。うまくできたこのオイルの清らかできっぱりとした強い風味は、格別なものといえる。

パンに絞りたてのオイルを浸るほどかけて食べる…このうえない幸せ


使い方としては、生野菜のサラダに…というよりも、焼いた肉や魚の調味料として。温かいミネストラの仕上げに加えれば最高の調味料に。そして、シンプルなトマトソースのパスタの仕上げにスッと一筋加えることでその一皿は一段と味わい豊かに。また、全粒粉などのクセのあるパスタとこのオイルとの相性は非常によい。

シンプルなミネストラにこのオイルを一筋かけて…格別な一皿


とにかく一度お試しいただきたい希少価値のあるオイルだ。