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ヴェネトの冬、メルカートで季節の彩りを感じる!


イタリア北部に位置するヴェネト州は、長く寒い冬の真っ最中。寒い土地柄であるがゆえの食材が非常に豊富で、冬らしいおいしいものが満載の時期ともいえます。メルカートを一回りして、季節を感じてみましょう。

「冬の華」と別名を持つ、ラディッキオ

ラディッキオはヴェネト州の冬野菜の代表選手で、チコリの仲間。鮮やかな赤紫色と白色とのコントラストが目をひきます。州内各地で異なる品種のラディッキオが存在し、それぞれの土地の名前がついています。

そのなかでも特殊なのが、トレヴィーゾ産ラディッキオです。これには、先の尖った円すい状の形をしたプレコーチェ(早生)種と、筆のような形が特徴のタルディーヴォ(晩生)種があります。特に後者のものは、見た目にも非常に印象の強いものです。

生産工程も特殊。出荷前に一度、根を地下水の流れる流水プールに浸し、軟白工程をとります。こうすることで鮮やかな色を強調させ、口当たりのコリッとした食感(クロッカンテと表現します)が出てきます。

その他、丸いボール形のキオッジャ産、淡い緑黄色に紫色の斑点の入ったカステルフランコ産、トレヴィーゾ産よりも小さめなヴェローナ産、淡いピンク色のローザというものもあります。


珍しい品種のブロッコリー。風味豊かな冬の珍品

ブロッコリーやカーヴォロ(キャベツ)類の野菜は、イタリア各地やほかにも有名な産地があり、それぞれの土地の郷土料理とつながりが深いものです。ヴェネト州、ヴィツェンツァ県の西側にクレアッツォという小さな地域があり、この小さな地区のみで生産されるのが、「ブロッコリー・フィオラーロ」と呼ばれるブロッコリーの品種です。

「フィオラーロ」というのは、主株から子株をどんどんと数多くのばしていくこと(インフィオレシェンツェ)から。この子株は「フィーリ(子ども)」と俗称されており、それが地元の訛りで「フィオーイ」と呼ばれていることに由来します。長い茎の部分も食べることができます。ゆでてオイルとレモンをかけたり、リゾットやパスタに入れたり……など、冬ならではの滋養のあるおいしい野菜です。


バッカラ料理は冬が本番!

ヴェネト料理の代表素材ともいえるのが、バッカラ(タラの一種である大型の白身魚・メルルーサを干したもの)です。ただし、ヴェネトで主用されるのは、実はバッカラではなく、ストッカフィッソといいます。地元の人でも混同してしまうのですが、前者は3枚におろして塩漬けしたもの、後者は内臓を取り除き、寒風干しにしたものです。

これはヴェネツィア商人が航海の際に北欧から持ち帰ったもので、ヴェネト州内には古くから、非常に根強く普及しています。バッカラ・マンテカート(ゆでたバッカラにオイルを加えながらかくはんし、パテ状に仕上げるヴェネツィア料理)、バッカラ・アッラ・ヴィツェンティーナ(タマネギやアンチョビ、そしてたっぷりの牛乳、オイル、おろしたグラーナを加えて長時間煮込んだ、ヴェネトの内陸であるヴィツェンツァが発祥の料理)などが代表的な料理として知られています。

肉質がしっかりとした魚で、夏場よりもどちらかというと冬場に煮込みなどで使われる機会が多いもの。戻す際には時間もかかり(最低3日間要する)、バッカラ特有の匂いも強いので、家庭で戻すよりもすでに戻したものを購入する主婦も珍しくありません。冬期には、ほとんどの魚屋の店先で水で戻したものが売られます。


このように、冬ならではの力強い食材たちが、それぞれの特色を存分にアピールしながら店頭にならんでいます。実際にメルカートを歩いてみると、それが実感できるはずです。寒い冬のヴェネトの食材探求に、ぜひいらしてください!

(2019年2月)

【ヴェネト州】ヴェネツィア人の台所、リアルトのメルカート (Mercato di Rialto)


カナルグランデ(大運河)のほぼ中心、リアルト橋の袂に位置するのが、リアルトのメルカート。その立地からも、ヴェネツィア共和国の繁栄を支える、歴史的に重要な意味を持つ場所だ。そして、そこは彼らの台所としての機能も果たし、彼らの胃袋を支えてきた場所でもあった。現代である今日も、その事情は変わることがない。

ヴェネツィア人の食文化、そして彼らの家庭の食卓を知るには、まずは市場へ直行すべし。


商人の街、ヴェネツィアの中心地となる理由


ヴェネツィア本島でも最も古い地区として栄え、11世紀の時代からここは商業の中心地であった。売買されていたのは、当時からヴェネツィア人たちの食卓を彩る、魚や野菜、肉などの食料品群。他、この地が商船の重要な船着場でもあったことから、東方から運ばれてきた香辛料や豪奢な布や繊維、貴金属などの取引も、この地区を中心に盛んに行われていた。それらの商店街は各商品群ごとに同橋を中心に区域分けがなされていた。

市場を中心とするこの地区には現在「バーカロ」と呼ばれて久しい大衆食堂・居酒屋が点在する。その老舗店のひとつである「バンコ・ジーロ (Banco Giro)」。いわゆる銀行・金融商(バンカ)の名残りであり、ここで各国の通貨が交換・換金され、また商人たちのお金の管理をしていた場所なのだ。その店名は当時のものが現存している。


リアルトメルカートの象徴、魚市場


リアルト橋を背にし、カナル・グランデを右手に歩くとほどなくしてメルカートに辿り着く。まずは、大きな屋台が立ち並ぶ野菜や果物などを扱う八百屋の群が。さらに奥へ進むと、魚売り場のロッジャ(柱廊)が見える。

魚市場のある建物自体は比較的近年のもので、20世紀初頭に建築された。その建物は二つに分かれており、運河側のものは、もともとは業者用卸市場。もう一方が一般向けであり、建物の上部には「Mercato al Minuto (メルカート・アル・ミヌート、いわゆる”即売所”という意味)」と記されているが、現在では両者ともが一般向けの魚市場である。

また、当時の国家が販売許可とした魚のサイズを表示した看板も見られる。ヴェネツィア訛りの魚介名の表記であるが、これらが全て解れば立派なヴェネツィア通(?)といえるかもしれない。


ヴェネツィアならではの素材とは?


ラグーナで漁獲される近海ものがやはり伝統的なヴェネツィア料理のベースといえる。
イカの墨煮に使われるのは甲イカ。小さなものが柔らかくて美味しい。小型のイワシやモスカルディーニと呼ばれる小さなタコやシャコ、アサリやムールなども土地料理には不可欠なもの。

春先と秋口のごく短期間のみの名物「モエーケ」は、脱皮したてのカニ。市場では1kgあたり60ユーロ近くの高値がつくこともある。


野菜では、これも春先だけに収穫されるカストラウーレ。ヴェネツィアの畑の島、サンテラズモ島の名物で、カルチョフィの一番つぼみをさす。また、「フォンディ」と呼ばれる皿のような形に掃除され、水に浮かべて売られるカルチョフィもこの土地ならではの代物。

ヴェネツィアならではの食材をここでは間近に見ることができる。

(2018年9月)

◆リアルトのメルカート◆
https://www.veneziaunica.it/en/content/markets/


ヴェネツィアの美味しい季節もの「マザネーテ」

 

「Chi non conosce “le masanete” potete stare certi che no è venexiano」
「”マザネーテ”を知らない奴は、ヴェネツィア人の資格なし」

と言われる食材が、この「マザネーテ(mazanete)」。上記も然り、表記にはよく「maSanete」とSが使われるが、ヴェネツィアでは、このSを濁らせて発音する。

「マザネーテ」って何?

春先や秋口に珍重される、脱皮直後のカニ「モエーケ」が、その後数週間経ち、殻が硬くなったものを指す。ヴェネツィア人には非常に愛着のある食材で、この時期、オンブラ(グラスワイン)のお供として食べる庶民の味だ。この時期、魚屋の店先には、大きなバケツが置かれている。中を覗くと、ガサゴソと生きた小さなカニ、マザネーテがたくさんいる!

魚屋の店先に売られるマザネーテ


ヴェネツィア風「マザネーテ」の食べ方

生きたままを購入し、たっぷりの湯を沸かした鍋に、生きたままのそれらを一気に投入。死んでしまったものは、生臭くなるので、必ず生きたものを使う。火が通ったら取り出し、粗熱をとる。

生き茹でするのが基本


茹で上がり!約15分ほど


まずは足を取り除き、背側の甲羅を一気にはがす。殻の内側に身が残ってしまったら、それも残さずにかきだす。腹側の比較的柔らかめの甲羅は、そのままに。

一つ一つ丁寧に掃除する


掃除を終えたら、調味開始。ニンニクとプレッツェーモロを刻み、オイルを加え、塩、コショウでととのえる。このソースは「ペステジーン=pestesin」と呼ばれる。その意味するところは、小さく(=sin)つぶした(=peste)というもの。ヴェネツィア訛りだ。

これらを全体によーく混ぜ合わせ、味をなじませるためにしばらく置く。食べる直前につくるよりも、作り置きしておくほうがオススメ。

見るだけでワインが進みそうだ


季節のヴェネツィア前菜盛り合わせ!


テーブルに着席して食事するレストランでのメニューでは決してない。立ち飲みしながら、もしくは家庭内またはオステリアのテーブルの端にて、というシチュエーションが必須。

気の使わない仲間や知人とワイワイと喋りながら手も口もソースで汚しながら、バリバリと食べるが旨い。

ヴェネツィア下町の味。