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ヴェネツィア、サンテラズモ島の春〜カストラウーレ〜

どんなご時勢でも自然は止まることはありません。産物によっては、ほんの短い期間のみ収穫及び出荷が許されるものであり、そして、そこに年間の力を注いでいる人たちもいます。

ここは「イタリア好き」本誌vol.37でも彼らの特異な生産活動を取り上げていただいた、ヴェネツィアのサンテラズモ島。華やかなヴェネツィアの食を支える農業の島です。この島では、僅かな春先に「カストラウーレ」というカルチョフィが大切に生産されています。

春ならではの野菜というのはイタリア全土に数あると思いますが、これはここヴェネトでしか、いやヴェネツィアでしか味わえることのできない大変に希少なものです。

サンテラズモ島とは?

サンテラズモ島は、ラグーナに点在する島々のうち、ヴェネツィア本島から北東約5Kmに位置する人口約700人の小さな島です。ヴェネツィア共和国の時代より現在に至るまで「ヴェネツィアの畑」として知られている場所です。

島は南北に約6kmほどの距離の細長い形をしており、島の南側は砂地で形成されていてますが、農地としては泥池がベースとなる北側が向いています。

サンテラズモ島のカルチョフィ畑。ラグーナならではの風景


ここが本当にヴェネツィア?!…と疑うような長閑な景色が島全体に広がっており、そこでは主にヴェネツィア市民向けに一般野菜全般が栽培されています。また、最近では、”ヴェネツィア・ラグーナ産”をウリとする、大型ワイナリーの管理するぶどう畑もあったりします。
ラグーナに浮かぶ島で栽培される農産物ですから、ミネラルが豊富で旨味のある産物が収穫されると認識されています。

サンテラズモ島の春の名産「カストラウーレ (castraure)」

数多くあるカルチョフィの品種のなかで、これは紫カルチョフィ(カルチョフォ・ヴィオレット=calciofo violetto)というものですが、ヴェネツィア特有の同種に関してはその価値観の明示として「サンテラズモ産」として区別されています。

カルチョフィは多年草ですので、その株からは季節となるといくつものツボミが次々と成長してきます。そのうち、1番初めにできるもの、株の最も中心にできるツボミが「カストラウーレ」にあたります。

つまり、いくつものツボミを収穫するカルチョフィのなかでも、一株にできる最初のたった一つ目のツボミのみ、というものなのです。大きさとしては、直径3-4cm、身の高さは5cm程の、手の平のなかに軽く収まる小さなものです。

 

畑での収穫風景


採りたてのカストラウーレ。若い小さなツボミ


そして、その名前も、イタリア語のカストラート=去勢した、という言葉に由来するというのも面白いところ。その意味するところはいわゆる「早摘み、先採り」というところでしょうか。

ちなみに、株にできる2つ目からのツボミは、もちろん「カストラウーレ」とは呼ぶことはできません。それらは、「ボートイ (botoi)」という名で呼ばれ、価値が異なる故、当然ながら値段も異なります。
季節ともなるとメルカートなどでは、小さなカルチョフィを「カストラウーレ」と表示して売っているところも目にしますが、実は本物に出会うのはそれほど頻度は高くないものであることは承知しておくべきこと。
実際に、数多く出回るものではないので、その大半は本島及び離島内のレストラン及びヴェネツィア市民で消費されています。

「カストラウーレ」の美味しい食べ方

その特別感は食べて納得。若く柔らかいので、特に採りたてはアクを感じることもありません。スライスして塩をふり、美味しいオリーブオイルをかけていただく…最高の味わい方です。そのほか、さっと煮て、またはさっと粉をふりフリットにしたものに軽く塩とレモンをかけて…。ストレートにその美味しさを楽しむのがお勧めです。春の風味が口いっぱいに広がります。

採りたてをスライスし、オイルと塩、胡椒、レモンの絞り汁。グラーナを上にそっとかけたもの


旬となる5月は収穫祭の季節

毎年5月の第2日曜には、その収穫を祝うサグラ(収穫祭)が大々的に開催されます。日差しも強くなり始める5月の恒例行事として、多くのヴェネツィアの人たちがそれを楽しみにし、足を運ぶイベントです。

1日のみの開催ですが、かなりの集客がありますので、この日だけはサンテラズモ島と本島間のヴァポレットも臨時便が出るほどです。自家用ボートを保有している人たちはこの日はあちこちから集まってもきます。季節柄もあり、本当に多くの人たちが楽しみにしているイベントです。

ヴェネツィアの他の島からボートで人が集まってきます


サグラでは、即売所、簡易レストランなどが設置されます


写真上段のラベルのついたものがカストラウーレ。下段は2番ツボミのボトイ


とはいえ、2020年の今年は、このコロナウイルス感染の影響で、その開催は見送られました。昨年2019年は、雨天が続き、翌日曜さらに翌日曜…と何度も順延した後、結局開催ができなかったため、これで2年連続の中止となってしまいました。

世界中の健康と安全に心配のない日常が早く戻ることを、こんな季節の産物を通じても願わずにはいられません。

 

トレヴィーゾ郊外の栗祭り 「フェスタ・デイ・マローニ」

トレヴィーゾ郊外の山間、コンバーイ(Combai)

すっかり秋らしく、冬の足音が聞こえてくるこの時期は、栗の美味しい季節。
トレヴィーゾ県のコンバーイ(Combai)という、プロセッコの里に隣接した山の地域では、産地呼称であるI.G.P.を冠する栗の産地としても有名だ。

その地で毎年10月には、栗の収穫祭が開かれる。ここに辿り着くまでには、プロセッコのブドウ畑の並ぶ急勾配の道を、車でズンズンと登っていく。紅葉の始まりかけた周囲の素晴らしく美しい風景を横目に、目的地へ。石造りの家の立ち並ぶ小さな集落。標高約400mに位置する町だ。
コンバーイはプロセッコの畑を見下ろす場所に位置する街に近ずくにつれて人も車も多くなり、会場から少し離れたところに車を止めるように交通整理員に誘導されて、徒歩で街の中心へ。普段は静かなこの小さな集落は、一年に一度のこの季節となると、車が渋滞するほどの賑わいとなる。

集落の入り口には大きな垂れ幕!


街全体がお祭り会場へ

集落内は全体がお祭り会場と化している。道端には、土地の製品を売る屋台が出店している。美味しそうな地元チーズやヴェネトの太いサラミ、ソプレッサの山は非常に魅力的…。

地元の食料品店の店先。簡易の即売所となる


柔らかく太いヴェネトのサラミ、ソプレッサ


そしてメイン会場へ到着。お昼どきには、ラザニアやニョッキ、スペッツァティーノ(肉の煮込み)などが振舞われており、大混雑の雑踏のなかで食べるそれらはこれまた格別。並べられたテーブルに座ると同席のお隣さんとも親しくなったりする。

牛肉のスペッツァティーノ。付け合わせはお決まりのポレンタで


祭りの目玉、焼き栗を食す!

別会場となる仮設テントは、焼き栗の大きな実演販売と飲食コーナーとなる。
テントの脇には、大きな大きな鉄鍋が設置されており、焼き栗が準備される。このお祭りの名物シーンでもある。チェーンで動作させるほどの大きな鉄鍋は、大量の薪を燃やして栗を焼く。煙がすごいが、気温の下がるこの時期には、暖をとるのにもちょうど良く、周囲には多くの人々が集まる。実際に焼いている人たちは大汗をかきながら作業しているのだが…

大きな鉄鍋で大量の焼き栗をつくる風景は、このお祭りの名物


食券販売所の列に並び、焼きたての焼き栗を注文。食券を持ってカウンターに行くと、焼き栗の袋と交換してもらえる。
熱々の焼き栗を囲んで、手先を真っ黒にしながらとにかく栗を食べる、食べる。食べる…食べ続ける。

真っ黒に焼けた栗。中はホッコリ。旨し!


会場内はテーブルが並べられていて、栗は立ち喰い


焼き栗のお供は…トルボリーノ

そして、焼き栗に欠かせないのが、「トルボリーノ(torbolino)」だ。「トルボリーノ」とは、この時期に飲むワインの前身のようなもの。収穫して間もないぶどうの果汁は、発酵過程を経てアルコールへと変わっていくが、その発酵がまだ完全になされていないこともあり、糖が残りアルコール度数が低い。当然のごとく、澱引きしていないことから、濁っている。「トルビド(=濁った)」であることが、「トルボリーノ」と通称される所以だ。

栗の収穫時期には、ちょうどこの段階のコレが季節的にも、そしてほんのりと残る甘い微発泡のコレが焼き栗に非常に合うことから、焼き栗とトルボリーノとはきってもきれない関係なのだ。
ワインになりきっていないぶどうの果汁という意味で、この会場ではあえて”モスト”と呼んでいる。

濁り酒のトルボリーノ


会場は、地元の子供たちも焼き栗や飲み物の提供をお手伝い。焼き栗の袋詰めやカウンターでワインを注いでくれる子供たちの姿がなんとも可愛くありながら大人びていて、見ていると思わず顔がほころぶ…。

注文のバンコ(カウンター)を守るのは、地元の子供たち


山間の小さな小さな街の大イベントだから、迎える人も訪れる人も喜びを一緒に分かち合う。この季節とこの季節だからこその味覚を皆で大いに楽しむ、そんな楽しいイベントだ。

コンバーイの街の上から。集落内はスパヴェンタパッセリ(かかし)が道案内