北イタリアのパン

vol.282017/2/1
在庫なし

Il pane da la Felicità
パーネは幸せを運ぶ。

ガルダ湖畔のホテルに滞在していた。シーズンオフの観光地は静かで、時には寂しく感じるのだ。
パン屋の取材ということもあり、毎日の早朝アポイントと、時差ボケも重なり、体内時計は狂いっぱなしだった。取材が終わるのも早く、夕方早々にホテルに着いて、委ねるがままに夜8時から9時頃には眠りについてしまう状態だった。
しばらくして目が覚めると、湖から波の音が意外と大きく聞こえ、しばらくボーっと耳を傾けている。時計は深夜の1時過ぎ。日本時間(+8時間)はまさにオンタイムになる頃だ。そこからは中々寝付けずに、隣に寝ているカメラマンの萬田さんに気を使いながら、取材メモを読み返したり、本を読んだり音楽を聴いたりしながら、再び眠くなるまでの時間をベッドの中で過ごすことになる。

ある夜、イヤフォンでRCサクセション不遇時代の名盤(迷盤)『シングルマン』を聴いていた。10代初頭に初めて聞いたアルバムだったが、これを聴くと人生感や生き様、はたまた愛について考える時があるのだ。それは20代の若かりし頃の清志郎の葛藤や苦しみが、楽曲の中に聞き取れ、正直さやロック魂、切なさや優しさがひしひしと伝わってくるからだ。そして、かれこれ40年近く何度も繰り返し聴いているのに、今回はまた別の角度から心に響いてきた。夜中のイタリアで聴く清志郎の声は鮮烈だった。

取材中、パン職人はおおむねイキイキして、実に楽しそうだった。僕らもその空気感に包まれていた。
職人たちは、生きるため、育ってきた環境、自分の希望などそれぞれの事情で今パンを焼いている。体力的には決して楽な仕事ではないだろう。生活は、一般的な人とはほぼ真逆な日常になる。その彼らが楽しそうに見えるのはなぜだろう?
粉と向き合い、発酵を待ち、毎日何百個ものパンを焼く。その焼き上がりを毎日買いに来る客がいる。同じことの繰り返しの中でも気温、湿度、水分などで少しずつでも変化しているのがパンだ。そしてその結果が直ぐに手に取るように分かる。その毎日の繰り返しの中の少しの変化に喜びを感じているのかもしれない。

しかしパン職人たちのほとんどが10代からパンに関わりもう何十年もその繰り返しだ。止むなく始めた人もいる。多くはそうやってそれぞれの道に入り生きていくのだ。だから葛藤を音楽にして、言葉にして表現できた清志郎は、むしろ幸せだったはずだ、ただひとつその頃の彼には食卓を囲む家族がなかったのかもしれず、幸せを素直に受け入れられず、ロック魂を貫く礎になったのかもしれないと、(あくまでも想像)今までと違った思いを抱いたのだった。

忙しい朝の時間。
工房に舞う小麦の香り。
焼き上がりのパンの匂い。
ツヤツヤの床。
額の汗。
Tシャツ。
短パン。
帽子。
家族。
パンは幸せを運ぶ。

(本誌特集前文より)

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グラッパの革命児 ノニーノ(後編) Presented by モンテ物産

皆さま、Buon Anno!(新年おめでとう!)
新年がよりよい年になりますように!

さて、新しい年の始まりですが、先月号に引き続き、プレミアム・グラッパのノニーノ社の後編をお送りします。

ノニーノ社は原料にもこだわっている。「先ほどの“モノヴィティーニョ(単一ブドウ)”シリーズ、そして“ウエ”シリーズの原料ブドウは、丘の上の日当たりのいいブドウ畑で収穫される。「いいグラッパはいいブドウから」が我々の考え方で、例えばグラヴナーやラディコンのようないいブドウ、そしていいワインを造るワイナリーから搾りかすを購入している。そういった契約しているワイナリーで圧搾が行われて搾りかすができたら、フレッシュなアロマをたっぷり保持しているうちにすぐにこの蒸留所に運び込まれ、すぐに蒸留される。」
ふと「いいワインはいいブドウから」と熱く語っていたラ・スピネッタ社のジョルジョ・リヴェッティさんを思い出した。※2015年1月号参照

2「フレッシュさが重要なんだ。我々に原料を供給するワイナリーとは古い付き合いのところばかりだから起こらないことだが、収穫当日ではなく例えば土曜日に搾って月曜に搾りかすを納品したとしたら、私の鼻は絶対にごまかせない。試しに取ってみた供給元でそういうこともあったが、もちろん全部送り返してやったよ!それと、発酵した果汁を絞りきったものもだめだ。どういうことかというと、果皮を漬け込んで発酵していると果汁にも香りが浸透していく。だから強い圧搾を行わずソフトプレスをして、搾りかすにも発酵した果汁が残っているものを買っている。もっと果皮の水気がなくなるぐらい搾り取って、出てきた果汁を多少雑味があってもいいからテーブルワイン用に使うようなワイナリーからは原料を買わない。そういった搾りかすからは、果実味も複雑さもあるいいアロマが生まれないんだ。」

1-3「グラッパは8月~11月に収穫されたブドウでも翌年の6月まではその原料を使用して蒸留してもいい規則になっているから、真空状態で搾りかすを保存し、必要に応じて蒸留する造り手も少なくない。だがそれではどうしてもアロマが劣化し、減ってしまう。我々は原料が常に最良のアロマを保てるよう、68基もの蒸留釜をフル稼働させて、ブドウの収穫時期しか蒸留しない。これも大きなこだわりだ。それに、木樽で長期間熟成しているかのように見せるために着色料を入れる造り手も多く、規則では2%認められているのだが、我々は一切使用しない。例えばフランス産バリックと元シェリー用の木樽で8年間寝かせたリゼルヴァは、木樽によってもたらされる美しい琥珀色をしている。本当の熟成感をぜひ堪能していただきたいね!」

noninoここまで話を聞いて、やはりベニートさんの内に秘めた情熱と、彼の積み重ねてきた経験や歴史が三姉妹に影響を与えているんだな、というのがよくわかった。
表現の仕方は違っても、ノニーノ社の伝統と情熱は確実に受け継がれているのだろう。
彼らのグラッパやアクアヴィーテはただ度数が高いハードリカーではない。アルコール感の中には、こだわり抜いた原料が生み出すブドウ本来の香りが感じられるだろう。食後酒に慣れていない方も、これを機にぜひイタリアの食後酒文化に触れてみていただきたい。