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Vol.48号掲載・カラブリア州の山羊乳チーズ職人マリアさん取材裏話

みなさま、イタリア好き通信Vol.48「イタリア人の暮らし」(2022年2月発行)はご覧になられたでしょうか?

愛するイタリアに南回り航路でやって来たマッシモ編集長の旅の軌跡がぎゅぎゅっと収められた号で、写真を見ているだけでイタリア中を旅しているよう。各地のうまい物や魅力的なスポット、素敵な人たちの写真もいっぱいで私のお気に入りです。

マッシモ編集長、北部イタリア各地を取材された後、イタリア半島を南下しカラブリア州にも取材にいらっしゃいました。
その際にご紹介したのが、山羊のチーズを作っているマリアさん。彼女の経歴については、本誌記事に詳しく紹介がありますけれども、某チーズの説明のことろに「本当においしい」っていう説明がありまして。
みなさま「本当においしいとはどんな味…?」って思われませんでしたか?


こちら、熟成室内でふわっふわのカビがとても良いカンジのチーズ。このふわっふわ感から素晴らしさが伝わりますでしょうか…?

えぇ。彼女のチーズは語彙力が無くなる破壊力を持ったおいしさなんですよ…


取材で訪問時、まぁ次から次へと出て来る様々な種類の山羊チーズ。それを取材のためとはいえ、まぁおいしそうに片っ端から平らげていくマッシモ編集長。

牛乳には無いコクっていうのはもちろんなんですが、山羊乳ってこんなキャパシティーがあるの?っていう驚きの連続。そして、どのチーズもホントにおいしい。困った、このチーズもおいしいぞ。これ、説明しようが無い。ホントに!! おいしい!!!!! 語彙力が行方不明!ってなってしまうのがマリアさんのチーズなんです。いやもう、感嘆するほど旨い物を文章で説明するのって難しすぎる。

なので、山羊チーズを語らせたら我こそは!!と思う方、え。そんなにおいしいの? と疑問に思われる方、いやそんなにおいしいなら食べてみたい!という方、みなさま是非、本誌を抱えてマリアさんのチーズ工房いらしてください。ホントにビックリするほどおいしいですよ。

実は彼女のチーズ、カラブリア州内の星付きレストランシェフやスローフード認定レストランシェフなどが名指しで買いに来きます。そんなすごい職人さんなんですが、


仔山羊抱えて嬉しそうにしている様子を見ると、全くそんなカンジがしないから不思議。
彼女の山羊たち、人を恐れないんですよ。撫でてって寄って来るぐらい人が好き。それだけ大事にされているんだなーと思います。

マッシモ編集長とも片言でコミュニケーションして、いっぱいチーズを食べたり触ったりして、お2人でとても楽しそうにされていました。


こちら、取材終了間際に撮影。いい1枚だ……
そうやって作られたVol.48でございます。見てね。

ところで先日、紆余曲折があってやっと持って帰って来れた本誌をマリアさんにお渡ししてきました。


写真撮ってくれ!って言われた(笑
大好きなマリアさんがとても喜んでくれて、私も嬉しいです。

マリアさんの山羊舎では、2月中旬以降3月上旬ごろまで出産シーズンを迎えます。これから忙しくなるわー、今年もおいしいチーズ作るからねーとおっしゃっていました。

またリコッタチーズ買いに行かなきゃ。

 

カラブリア州コセンツァ県の冬の味覚・クッドゥリ

カラブリア州コセンツァ県一帯の冬の味といったらクッドゥリ。

正確にはコセンツァ市ではcuddruriaddri(クッドゥリアッドゥリ)。その他の地域では cullurielli(クルリエッリ)の方が通じますが発音難しいので練習しましょう。

ちなみにクッドゥリアッドゥリの「ド」を強く発音します。すなわち、クッゥリアッゥリ。呪文かな?

ジャガイモと小麦粉を使った生地をドーナツ状に成型して揚げるのですが、塩味バージョンだとアチューゲ(アンチョビ)が生地に入ります。

一方甘味バージョンでは、揚げた後にお砂糖にくぐらせて、日本人には懐かしの揚げドーナツの様な一品に。


街角や観光地にはクッドゥリ屋台が出て、揚げたてを購入できます。クッドゥリ小屋は朝から晩までずーっと営業していて、ストリートフードとして大変人気があるんですよ。


お店によって味も大きさも違うのがご愛敬。
ただ、ジャガイモの特産地であるシラ国立公園内で購入するクッドゥリは格別美味しいような気がします。

そもそもジャガイモが美味しいからね…

それと、


こんな光景の中でアツアツを頬張れるから、かもしれません。

最近では真夏以外は営業しているクッドゥリ小屋も増えました。
カラブリア州コセンツァ県を訪問されたら、ぜひ召し上がってみてください。

※一つ€2前後。注文時にアチューゲ入り塩味か砂糖付け、プレーンを選べます。

 

ついに開催・カラブリア州コセンツァ市のFiera di San Giuseppe

カラブリア州コセンツァ市の春のお祭り・Fiera di San Giuseppe(フィエラ ディ サン ジュゼッペ)。約1週間続くお祭りは、FedericoⅡ(フリードリヒ2世・1194年~1250年)によって整備され、古くはシルクロード交易がもたらす物品販売の市場だったと言われている由緒正しいお祭りです。

以前、こちらでもご紹介しました。
(2019年に開催された際の記事はこちら

3月中旬に開催されるこのお祭り、コセンツァ市民にとっては春告げの祭りなのですが、この2年、世界的に色々大変なアレの影響で開催が見送られていました。

それが!
カラブリア州は実はまだまだ色々大変なのですが、「本年は絶対開催するぞ!!」という行政の強い意志で(笑)、開催時期を少しずらし、先日無事に開催されました。


我が家の近くで開催なのでちょっと覗きに行ってきましたが…マスクをしていない人がいっぱいいるぅぅぅ!
(イタリア、外でのマスク着用義務は現在ありません)

最早、人がいっぱいいるという状況を見るだけで感動ですよ…
2020年はロックダウンで家に籠っていたからな…


このフィエラで食器を買おう!と心待ちにしているコセンツァ県民も多く、またブランド物のB級品をあつかうお店も多数出店しています。

このフィエラは値切り交渉上等の文化なので、熱い交渉が行われているのもあちこちで目にしました。

食器エリアの熱気が戻って来た(笑


伝統の食器関連、カーペットをはじめとする「布もの」関連のお店の他にも、食べ物関連の出典も大変多く、ストリートフード系のお店、郷土菓子屋さん、大人も子供もつい立ち止まる系のジャンクフード屋などなどが軒を連ねます。


そして発見したリンゴ飴。
あれ、こんな毒々しいカンジだった?? などと思いつつ1つ購入…

 

復活祭からフィエラと続き、カラブリア州にも少しずつ日常が戻ってきました。
日常。なんとも嬉しいものですね。

 

パンにまつわる昔話・Panificio Cuti(パニフィーチョ・クーティ)

私の住むカラブリア州コセンツァ県コセンツァ市は、古くから近郊の村々から毎朝焼き立てのパンが届く伝統があって、「古来より続くパン販売店」はあってもパン工房自体は存在しません。

コセンツァに届くパンは、それぞれの村で使われる酵母、小麦、水は地域によって違いが大きく、味も風味も大きく異なります。この為、今でもパンが作られる地域や村の名前を使って「××のパン」という呼び方をして厳密に区別し、その日の献立によって購入するパンを選ぶ習慣も残っています。


戦後しばらくたった頃まで、コセンツァ市周辺の村々の家でパン焼き窯を自宅に備えていることは、ある種の豊かさの象徴でもあったようです。
小さな村の一般的な家庭にはパン焼き窯が無いことが多く、小さな教会を中心にした1つの地区に1つの共同窯を管理している。そんな光景が普通だったと聞きます。

コセンツァ市から車で15分くらいのところにロリアーノ(Rogliano)という村があって、村のはずれにクーティ(Cuti)という地区があります。
Cuti地区には小さな小さな教会が1軒あり、数十年前までは共同のパン焼き窯が1つあり、Cuti地区のパンという物が焼かれていました。


1981年、この共同窯を使っていたある家庭が一族伝来の酵母と伝統の製法でパン屋として起業し、Panificio Cuti(パニフィーチョ・クーティ)が生まれました。

写真は2代目社長でパン職人でもあるアントニオさんと奥様のピーナさん。
ピーナさんはパンに関する本も出版されるなど、Cutiのパンの伝統を形に残し、ロリアーノのパンの知名度向上に奔走されています。

1960年代後半からイタリアは経済成長で湧き、カラブリア州内でも多数の新興中流層が生まれました。
Cutiが創業した1980年前後といえば、コセンツァ市はホワイトカラーの仕事を求める人々による大幅な人口増、近郊の村々は逆に過疎に悩み始めたころ。お惣菜が店に並ぶようになり、共同窯でパンを焼くより購入する方が好まれ始めた頃の事です。

そうやって小さな窯は少なくなり、そんな中であえて起業したCutiのパンは、街に出た人たち、すなわち、パンを焼かなくなった人たちからも「懐かしいあの味に似ている」と好評だったとか。
この為、会社は徐々に規模が大きくなり、現在(2021年9月現在)は社員を16名も抱える企業となりました。


Cutiのパンの表面には、爪楊枝の様な道具で付けられた「CUTI」の印があります。
これは、まだCuti地区の女性たちが窯を炊く日に集まって、おしゃべりしながら生地を捏ね、共同窯でパンを焼いていた頃からの伝統。

大きな共同窯で焼いたどのパンがどの家庭の物かわかるように、パンの表面に飾りを入れていた頃の名残だそうです。


酵母は少なくとも150年以上前から伝わる物。毎日数時間かけておこし、継ぐ作業をしています。

Cutiのパンを焼くには、この酵母の他に塩素の入っていないシラの湧き水、厳選された小麦と少量の塩。地元の土を使って作られたレンガで組み立てた窯と大量の薪(栗の樹)が必要です。

薪も栗の樹、と限定されているんですね。知らなかったわ…


小麦粉など素材にこだわるのはまぁ一般的だろうと思いますが、実は私、窯に使われるレンガに違いがあるなんて知りませんでした。
耐熱レンガなんてどれも同じだろうと思っていたんです。

ところが、パン職人で社長のアントニオさんによると、ロリアーノの土を使った、ぼろぼろと崩れる様に一見脆いこのレンガがパン焼きに最高に良いんだとか。「このレンガを作れる職人がいなくなると困る。Cutiのパンが焼けなくなる」とおっしゃっていたのが印象的です。

レンガは地元の職人が一つ一つ手作りしているので、大きさと高さが微妙に異なっていて、窯の内部もデコボコしています。パンの裏側にこの凹凸が出るのもCutiのパンの特徴なんだとか。

「パンを知ってる人は裏返してみる」らしいですよ。パンの裏側にも地味に職人のいい仕事の証があるんだそうです。

うん、私、毎日のように食べているのに知らなかったです。今度から裏返してみて「通」を気取ってみようかな(笑


厳選された小麦を使った「白いパン」と全粒粉のパンが主力商品。天然酵母を使いゆっくり発酵させた証と言われる、横に長い空洞があるのも特徴です。
そして、皮の部分がもの凄く美味しい。


酸味を感じるパンは日持ちするし、乾燥させて郷土料理にも使います。

コレが無いと作れないお料理の数々、コセンツァには結構あります。そして…酵母の酸味が必要なので、他の地域のパンで代用できません。我が家では、遠方に住む親せきたちからは「××を作りたいので××のパンを送ってくれ」と頼まれることもしばしばですが、リクエストのあるパンはほとんどがCutiのパン。
それだけ広く愛されているんだなぁと思います。

彼らが頑固に伝来の酵母を使い続ける限り、パンにまつわる伝統も伝承もコセンツァの郷土料理も失われない。そんな思いにさせられる、食文化の縁の下の力持ちです。

カラブリア州のワイナリーVol.5 欧州で一番標高が高い所に畑を持つワイナリー・インマコラータペダーチェ(Immacolata Pedace)

カラブリア州のワイナリーをご紹介するシリーズ・第五弾は、ヨーロッパで最も標高が高い位置にあるぶどう畑を持つワイナリー・インマコラータペダーチェです。

カラブリア州コセンツァ県のシラ国立公園内(赤印が大雑把な目安の場所です)で2007年に設立されたインマコラータペダーチェは、高原域の湖に面した海抜1300m地帯に2.5haの畑を持つ、小さな家族経営のワイナリーです。

最高生産数は1万本/年と言いたいところですが…ここ数年は気象条件が大変厳しく、1万本に少し届かないぐらいの数を生産。最近多い、晩春の降雪があると樹がダメージを受け収穫0もあり得る。そんな厳しい土地でワインを作っています。

ただでさえ少ない生産本数の上、最近は海外からの認知度も高くなり、ワイン好きの間でひそかな奪い合いが発生しているワインナリーに成長しました。この為、エクスクルーシブ(専売契約)をしたお店でしか買えないワインとなっています。

※ワイナリーでの直接購入は在庫次第で可能です


温暖な印象のある南イタリア・カラブリア州ですが、シラ国立公園内は積雪する高原地帯。ワイナリーのある海抜1300m地帯もしっかり積もります。

公園内にはスキー場が3か所もあるぐらいだしね。スキー場の様子はこちらからどうぞ(


ここでワイン作ろう!とブドウの樹を植えはじめたのが、写真のエマニュエル氏。最近パパになったばかりの、本業は新進気鋭のエンジニアです。

幼い頃に祖父と一緒に食べた「新雪のモストコット*掛け(これ、コセンツァ市でも食べる郷土食(?)です)」が忘れられず、自家製モストコットを作りたいというのがそもそもの動機。

モストコット*:収穫したブドウをぎゅっと絞ったブドウジュースを煮込んだもの。甘味料としても使われた。

 

さらにこの場所なら、ご本人が大好きなアイスワインが出来るのではないか、と考えたことがそもそもの始まりだったのですが…


・昼夜の寒暖差が15℃以上という、とんでもない気温差が春から秋にかけて連日観測される土地柄。なお夏場はおよそ20℃の寒暖差がある。

・湖に面した独特な気候帯

・醸造家をして「ここの土、フランスの某地に似すぎてる!」と言わしめた土壌

・「欧州で一番空気が綺麗な場所」に認定(2014年)された、清涼な環境

などなどの要素が重なり、繊細な香りのワインを作ることに成功、現在に至ります。


そもそも最初は、モストコットとアイスワインが目当てですからね。
始めて収穫を行った年は、こんなに小さな圧搾機(トルキエット)でブドウをぎゅぎゅーっとしていたらしい(笑

で、初めてのワインをボトリングした結果…(収穫後の処理が雑なので)少し雑味があるワインながらも香りの良さに注文が殺到。エマニュエル氏、モストコット作っている場合じゃなくなってしまいました。嬉しい悲鳴だったそうです。


自然が厳しい土地柄だけに、ブドウの樹も土地に合う品種を探しながら徐々に増やし、現在の規模になるまであっという間だったそうです。

実は、寒さが厳しすぎて所謂土着品種は向かない土地と言う事がかなり早い段階で判明しました。この為、土着品種は少なめに、逆に国際品種のシャルドネ、ピノ・ブラン、メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニョンなどがメインに作られています。

ところで当初の目標でもあったアイスワインですが、温暖化の影響かワイナリーのある地域の降雪時期が12月~年明けにずれ込むことが多く、製造を断念したそうです。
うーん。。残念。ここの畑から作られるアイスワインにも興味があった!


ラインナップも少し変わっていて、白・1種、ロゼ・2種、赤・1種となっています。そして、どのワインもアルコール度数が13度とカラブリア州産ワインにしては控えめなカンジ。(標高高い所だからね…

そして、特筆すべきは全てのワインでそれぞれのエレガントな香りを楽しめる事。さらにブドウの樹が生育する周辺の環境の香り(松の林とか、森の果実とか)がボトルの中にぎゅっと濃縮されている事です。

シラ国立公園内に滞在したことのある人なら、ここのワインを飲んだ瞬間に「あの光景」が脳裏に浮かびます。これは衝撃的。日本の皆様にもぜひ飲んでみて頂きたい。

この香りを最大限生かすため、樽での熟成には否定的なエマニュエル氏、今後はスプマンテ作りにも挑戦してみたいと話してくれました。
実は…白もロゼも素晴らしい出来栄えなので、スプマンテにも期待度120%で正座して出来上がりを待ちたいと思っている地元ソムリエ、私を含めて何人かいます(笑

今後に目が離せないワイナリーの1つです。

 

Immacolata Pedace)公式サイトは準備中

C.da Cava di Melis – Longobucco (CS)
フェイスブックやインスタに電話番号の記載があるので直接連絡、もしくはメールで訪問予約可

自然と共にある生活。カラブリア州のある養蜂家の1年と採蜜の様子

イタリアには固有種・リグスティカ種(Ape ligustica)というセイヨウミツバチがいて、古くから養蜂に使われてきました。(日本の養蜂家にも人気で「イタリアン」と呼ばれているそうです。)


実は、セイヨウミツバチは家畜。この為、世界中で品種改良も活発に行われており、数々のハイブリッド種も登場しています。
これらハイブリッド種は採蜜量に優れ、強健で環境適応能力が強い特徴があります。(目的をもって人間が作り出した種なので、ある意味当たり前なのですが。)

この為、世界中で飼育されている大多数のミツバチがこのハイブリッド種。イタリア国内においても、特に商業養蜂家はハチミツをいっぱい作ってくれるハイブリッド種を好むので、固有種であったリグスティカが消滅の危機にあります。


これではいかーん!!と、国と養蜂家の一部がイタリア固有種を保全する活動を始めていて、その活動に賛同している養蜂家を「イタリア好きVol.34 カラブリア特集号」でもご紹介いただきました。

ところで。リグスティカが大変なのは分かった。でも養蜂家って1年何してるの?って思いませんか??

今回は、リグスティカ種保全活動に取り組む養蜂家・ジュゼッペ氏(本業は先生)の1年、採蜜の様子と彼のコダワリについてお届けします(ちょっと長いです

 

養蜂家の1年


養蜂家の仕事は春から始まります。
秋の蜜を採った後、冬越しさせるための体力をつけてもらい、外気温が柔らかく緩むまでは蜂箱を開けることはありません。冬の間に蜜箱を綺麗にしたり、工房での地味な仕事は色々あるのですが…まぁ今回は割愛して。

そして待ちに待った春。


温かさに釣られて、冬越しをした働き蜂たちが一斉に出てきます。
彼らの最初の仕事が、なんと排泄。
冬の間中ずーっと我慢していた物をすっきりさせてから、野の花へ花粉を集めに行きます。

長い冬ごもり、お疲れさまでした。本年もよろしくお願いします。

 


蜂たちの活動が活発になると、養蜂家は蜂の観察とお世話の作業で忙しくなります。
女王蜂は元気か、病気はいないか、蜜を集めてきているか。そろそろ人間用にも分けてもらえるかな…などを蜂箱を1つ1つ開けて確認します。


保全活動の一環として、女王蜂も作っています。
技術があれば女王蜂も作れるんですよ…びっくりですよ…。

さらに新女王蜂の結婚飛行の時期は特に気を使い、雑種交配しないように細心の注意が払われます。ここで近親交配にならない様、血統の遠い雄蜂との交配が出来る様に準備するのも、リグスティカ種保全活動の中では大切な作業。

 


女王蜂が元気で働き蜂の勢いが良く、人間にも蜜を分けてもらえそうなご一家のお宅は増築されます。
写真の場合、青い箱が本宅で、上に乗っている紫とオレンジの箱が人間用の蜜を集めてもらっている箱。

ミツバチたちはココにハチミツを集め、貯蔵に向く水分量まで熟成させてから蓋をします。
蓋をして保存するんですね。虫なのに凄いですよね。

 


ミツバチは高度な集団生活を行う虫なので、作業中には偵察係もやってきます。偵察なので見に来ただけで刺しません。かわいい。

このようにして蜜を集めてもらったら、今度は工房内で採蜜作業です! ちなみに、蜜でいっぱいになった蜜箱はおよそ20㎏ぐらいの重さになりまして、腰に注意しながらの作業です!!

 

 

採蜜の様子


まず、ミツバチがした蓋を取り除きます。
熱源を使って溶かし落とす養蜂家もいますが、非加熱にこだわるジョゼッペ氏は手作業で行います。
(熱源を使って溶かしても、注意すればハチミツの品質に大きく影響しませんが、ジョゼッペ氏のこだわりが凄くて…)

 


その後、ごるんごるんと工房自体が動くんじゃないか、ぐらいの勢いで遠心分離機にかけられて…

 


ハチミツが出てきました♡
これは栗の蜜ですね。

 


特殊な3重のフィルターを使って不純物をろ過し、ハチミツ保存用の専用容器に入れて数週間休ませます。ろ過しないと虫の足などが入ったハチミツになってしまうので密かに重要な作業です。

さらに水分量等の各種品質検査を経て…

 


やっと瓶詰め。(これはアカシアの蜜)
瓶詰めも手作業(笑

ジュゼッペ氏は1年のうちに最低3回は採蜜するので、この作業を3回繰り返すって訳ですね…

 

ジョゼッペ氏のコダワリ

 


ここまで見て頂いたように、ハチミツという食べ物は、ミツバチたちが集めた蜜を加熱も加工もすることなく、そのまま頂く「生」な食べ物です。
ワインの様に、ぶどうジュースがアルコール発酵した飲み物よりもずっとずっと「生」です。

このため、私たちはミツバチがいる環境を、空気を、自然を頂いていることになり、良いハチミツ作りには良い環境が欠かせない、というのがお分かりいただけると思います。

ジョゼッペ氏の養蜂場は、ヨーロッパで最も空気が綺麗な場所に認定されたこともあるカラブリア州シラ国立公園の入り口。
しかも
  • ・近くに畑が無い(農薬散布被害の心配がない)
  • ・整備された車道が無い(排ガス付着の心配がない)
  • ・すぐ下を清流が流れている(空気が動き、常に清涼な環境)
など、人間にとっては不便だけれど出来上がるハチミツの安心さにはちょっと自信があるぞ、な場所なんですね。

さらにこのような環境は、ミツバチの健康の為にも良いので、リグスティカ種保全活動にはぴったりの場所なのです。

 


加えてジョゼッペ氏、ミツバチが蜜を集める時期の作業に、蜂を落ち着かせる作用のある煙も使いません。

これは、ハチミツに煙の成分が入ってしまう可能性を除く為。煙の成分が付着したら、ハチミツ作る際に取り除けないですからね…

煙を使ったとしてもハチミツに付着するのは超微量ですが、ここまで気を付けている養蜂家ってすごーく珍しいのです…

 


さらに採蜜作業も、蜜に触れない様に細心の注意を払いつつ手作業で行っています。

ここで薬剤を投入したりすると非常に楽らしいのですが、生であること、非加熱・無添加である事にこだわるジョゼッペ氏は頑なに手作業…

出来上がるのは、EUの認証を受けたBIOハチミツです。もちろん非加熱・無添加です。
(日本だと有機とか生、などの冠が付くのでしょうか?)

 


このようなこだわりは、リグスティカ種保全の目的もあるけれど、恐らく自分や家族に食べさせたいと始めた養蜂だからかな、と思います。
そりゃね。イタリア人が自分のマンマ♡に食べて欲しいと思って作ったら…最高級の注意が払われますよね。わかるわ~(笑

花を追って移動する大規模養蜂家はと違い、リグスティカ種と共に生きる為に最適な場所を選んだジョゼッペ氏は、実は私の養蜂の師匠でもありまして。

 


昔ながらのハチミツって…ミツバチたちがブンブン飛んでいた、まさにその時期の自然がぎゅっと凝縮された食べ物じゃない? その年によって微妙に味が違って当たり前じゃない?っていうコンセプトに共感し、折を見ては お邪魔虫 お手伝いに行っております。

本年のカラブリア州、4月中旬に山間部で積雪する寒さを記録し、各地養蜂家も大変なスタートとなりました。
が。本来養蜂ってそんなもんだろうと、飄々と作業する師匠の後を追っかけて、養蜂修行は今日も続く…


2021年度「イタリアの美しい村No.1」にトロペアがぁぁぁ!

イタリアの美しい村(Borghi più belli d’italia)に選出されている村の中から人気投票で選ばれる、2021年度の「美しい村」No.1 にカラブリア州トロペアが選出されました。

Webニュースで速報も出て、その記事がこちら→

https://www.lacnews24.it/cronaca/tropea-borgo-piu-bello-d-italia-vince-il-concorso-e-porta-la-calabria-in-cima-al-podio_134605/

時節柄、明るいニュースが少ない地元では早速大騒ぎでお祝いしています。めでたい。

トロペアは、カラブリア州中西部のヴィッボ・ヴァレンツィア県の海沿いの村。
カラブリア州ガイドには必ず写真が載る、州内最大規模の観光地です。
イタリア好きVol.34号はカラブリア州特集号でしたが、マッシモ編集長の紹介文、

 
「神が与えてくれたもの、土地が与えてくれたもの。それを信じて生きる喜びを知っているのだ。」

 
という言葉がぴったりの場所。


観光地ですが、そこにしっかりと暮らしている人たちがいる。そんな場所です。

訪問の機会があったら、明るい時間に裏路地散策なども楽しんでください。

 

グルメさんにはこの土地を代表する食べ物・赤玉ねぎが有名でしょうか。
トロペア周辺の海岸線沿いで作られ、この地域独自の気象帯の影響を強く受けた独特の甘みが特徴です。

この玉ねぎを他の土地で作っても絶対にこの美味しさは出ないんだなーと地元農家が自慢しまくる1品。
特に葉付き玉ねぎの美味しさは、ぜひ一度お試しいただきたいものです。

 

(そのうち)遊びに来てね、カラブリア州。
カラブリア州特集号はこちらから購入できますよ(

亡き義両親の思い出@国際女性デーの我が家の食卓

3月8日の国際女性デー。
私が住むコセンツァ市では、大通りに面した噴水を赤く染めてこの日をお祝いします。


昨日見に行ったら準備万端でした。
ナゼ赤いのかは…諸説ありますが不明です(笑

ところで我が家では、女性の友人たちとランチやアペリティーボをするのは8日前後とし、3月8日の国際女性デー当日は自宅でお祝いする習慣があります。
この日ばかりは出張を入れたりせず、みんなが急いでランチの為に帰宅します。


義父が存命の頃は、料理上手だった義父が得意の手料理を振舞い、特に豪快な肉料理が人気でした。この日の為にスケジュールを調整し、半休取ってお料理してたものね。気合の入り方が違います。
週末がちょうど「当日」の場合は、山の家でピクニック気分でお祝いしました。写真は前菜の盛り合わせ。自家製のサラミなどが山盛りで、復活祭ランチの予行演習といった趣でした。

一方、亡き義母は典型的な「イタリアのマンマ」像からものすごく遠い人で、お料理が最高に苦手でちょっとビックリな失敗の逸話も沢山ある人。
でも、作るとなったらお料理の口当たりは非常に重視する人で、その為の作業は厭わない人でもありました。


義実家では長いこと義母がお菓子係だったのですが、そんな義母に言わせるとミモザのケーキは口当たりがモスモスして苦手。モスモスって(笑

イタリアのスポンジのレシピってしっとりしていない事が多いので…だから苦手だったのでしょう。それでもミモザのケーキが無いのは寂しいので、小さく作るのが習慣でした。

そんなこんなで、我が家では国際女性デー定番のミモザのケーキは主役じゃなくて、でも何かしら黄色いお料理やお菓子を作ることが伝統の様になっています。

コセンツァ市は来週控えた聖ジョゼッペの日を盛大にお祝いすることもあり、この日の為のお菓子・ゼッポレは良く食卓に上りました。その他、旬を迎えた地場産のイチゴとたっぷりのカスタードクリームのタルト、私が嫁いで来て以降は黄色ければOKなルールを悪用した(?)ちらし寿司などなど(笑


散らし寿司は義両親が錦糸卵の繊細さに非常に感動し、また江戸風の「甘い卵焼き」に衝撃を受けてた思い出深い一品です。

レンコンも初めて食べただろうに、しゃくしゃくした歯触りを義母が気に入ってくれて、甘辛い味付けの食材もたくさん食べてくれました。そういえば、すし飯も人生・初だったかもしれない(笑


と言う事で。
本年の3月8日は、義母が大好きだった聖ジョゼッペの日用のお菓子・ゼッポレでお祝いする事に。たくさん焼いて、後はアマレーナを飾ればOKの状態でスタンバイ中です。

皆がわーっと帰宅するのを待って、我が家のお祝いの日のランチが始まります。

Buone Feste♡

 

 

カラブリア州は雪が降りました

温暖な印象のあるカラブリア州ですが、実は州内にスキー場が数か所あります。
コセンツァ市の我が家から近いスキー場については、そういえば2017年の記事にしていました(


ぐっと冷え込んだ先日、コセンツァ市内でも珍しく積雪。
海抜250mほどの内陸の街・コセンツァは、雪が降っても積もらないので…ここまで積もるのは数年ぶりです。

通常だと、雪が降ったら何かと理由を付けて有休を貰ってスキーに行くのがコセンツァ人の暮らし方でした。病欠のはずの人や雪で動けないはずの人とスキー場で出会ったり、そんなハプニングも懐かしく思い出します。


時節柄、イタリア国内では移動が厳しく制限されていますが、仕事で訪問したシラ国立公園内はこんな様子。早朝はダイヤモンドダストを見ることが出来るそうです。

シラ国立公園は最高峰1600m級の山を持つ高原域。さほど標高が高くないけれど「雪が降ればオープンする」田舎のスキー場が数軒あります。
まぁ…積雪に恵まれた本年は残念ながら全スキー場が閉鎖されていますが…


 

国立公園レンジャーの案内人はこんなに軽装ですが、私はモコモコに着込んで仕事に向かいました。

日本でも既報の通りイタリアは様々な規制がありますが、引き続きカラブリア州より毎日の様子をお伝えする予定です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

澤井 英里

唐辛子じゃないよ、ペペローニだよ

8月に入ったころから州のあちこちで収穫が始まるのがペペローニ(単数形でペペローネ)。
パプリカよりもピーマンや万願寺唐辛子に近い夏野菜で、大雑把にピーマンに近い甘口・唐辛子に近い辛口の2種類があります。


夏になると大量に採れるので、タコ糸などで茎の部分を繋ぎ乾燥させます。
もちろん手作業ですが、子供も手伝える楽しい作業。
黙々と1人で作業するのが好きな人もいますが、我が家はみんなで作業します。


品種は村ごとに異なる、と言われるほどバリエーションに富んでいて、コロンとした形の物を作る地域もあります。

呼び名も村ごとに異なります。そして実は味も微妙に異なるので「ウチのが一番おいしい」の代表的な食べ物ですね(笑

地味なところで違いを張り合うのが結構好きなんです、カラブリア(笑


緑色の頃に乾燥作業を始める地域もあれば、赤くなったものを乾燥させる地域もありますが、乾燥後は洗わずに使うので空気が綺麗な場所で作るのが一般的です。

私もコセンツァ市の家では作らず、州北部山村部の家で作るようにしています。

作り方も色々で、天日干しの地域もあれば、影干しの地域もあります。
日光が強烈すぎる州の中部以南は影干しが多い印象。

私が作る山間部の家の近くには川があって、夏でもそれなりに朝露が出るので夜間は室内に取り込み、日中は天日干しします。


カピカピに乾燥したら出来上がり。
地域にもよりますが、1か月くらいかかります。

出来上がりは納屋や屋根裏部屋に吊るして保存し、使う分だけ紐から外して利用します。

石臼で挽いて粗挽きにしたものを調味料として使ったり、ミキサーにかけて粉にしたものを冬に行う豚肉加工に使いますが・・・
私が最も好きなのは、素揚げ。
乾燥したペペローニを素揚げした後、香りが移った油で目玉焼きを作ると最高に美味。パンを添えても良いですね。

さらに、郷土料理でバカラ(塩鱈)を調理する際には、必ず乾燥ペペローニを素揚げした油を使います。
自家製のオリーブオイルと「ウチの」乾燥ペペローニから得られる風味豊かな油で揚げた塩鱈。クリスマス時期のお料理です。

とにかくコレが無いと始まらない郷土の味。
今年は州内どこも豊作で、真っ赤なペペローニがにぎやかに軒先を飾るお宅を多く見かけます。

乾燥作業が終わりそうになると、見た目もカピカピな感じになってくるペペローニ。
乾燥ペペローニ作りが終わると、カラブリア州はいよいよ本格的な秋の訪れです。(ポルチーニの季節♡)

カラブリア州のワイナリーVol.4  頑固おやじ達の風変わりなワイナリー・スピリティエッブリ(Spiriti Ebbri)

カラブリア州のワイナリーをご紹介するシリーズ・第四弾は、コセンツァ市郊外の相当風変わりなワイナリー、スピリティエッブリです。


カラブリア州北部コセンツァ県の、シラ国立公園の入り口辺りにワイン醸造所があって、ブドウの生産は醸造所近辺と州最北のポッリーノ国立公園付近で行っています。


ワインが好きな3人が集まって、自分たちの好きなワインを作り始めたのがそもそもの始まり。
開業当初から独特のポリシーを持っていて、まぁ風変わりなワイナリーだと地元ソムリエの間では有名です(笑

独自ポリシーその1:健康なブドウからならワインは作れるので、醸造家はいらない。

現地でも賛否両論ありますが、毎年それなりの味に揃えてきます。特に近年はロゼを高く評価するソムリエが増えてきていて、生産本数も少ないので毎年奪い合いの状況(笑

ちなみに、年間1万本ちょっと生産しています。


独自ポリシーその2:単一品種で作らない。

そもそも「この地域の昔ながらのワイン」を作りたいスピリティエッビ。ブドウの品種にさほど注意していなかった40年ほど前、つまり彼らが子供頃に舐めさせてもらったワインの味を目指しています。

当時、シラ国立公園の入り口付近の農家さんは、良く育つブドウの苗をとりあえず植えて自家用にワインを作っていました。
なので、彼らのワインも土着品種にこだわるものの、単一品種で作ろうとは思わないんだそうです。
そして、裏ラベルに大きく「カラブリア」の文字。

これだけ大きくカラブリアの字を入れているラベルを私は知りません。それだけ地元が好きでカラブリア産ワインと言ったら本来こういう物だった!という、彼らなりの強いアピールなんだそう。


頑固おやじ3人組のうちの1人、ピエルパオロさん。ご専門のせいでもあるけれど、非常に化学的なアプローチをされる方です。
そしてワインが好き(笑

独自ポリシーその3:地元農家に還元したい

頑固おやじ3人組は、それぞれの分野でそれなりに成功した人たちで、地元で頑張っている農家さん達のブドウを適正価格で買い付けることで、地元を応援したいという考えも持っています。
そのため、コセンツァ市から少し遠い州の北限、ポッリーノ国立公園界隈からもブドウを買い付けています。

本年はコロナ禍で大変だろうと、自社畑からのブドウもあるのに買い付け量を増やし、農家さんを支援する予定だそうです。


映画館を改装したワイナリーで、小さいながらも雰囲気があります。
近年はあちこちから評価も受けていますが、彼らは「自分の親や祖父母たちが飲んでいたであろう地ワインの味」の探求を今後も続ける予定。

流行を全く気にしない、地元愛溢れる風変わりなワイナリーです。

 

Spiriti Ebbri(

Via Roma 87053  Celico (Cs)
それぞれ別のお仕事をされているので、訪問は数週間~数日前までに要予約。