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キッチン、女性たちの手から流れる魔法

90年代のフランスの料理人 オリヴィエ・ロランジェがインドを訪れた時のことです。スパイスの使い手としてその名を知られる女性料理人がいると知り、是非ともその人の料理を口にしてみたいと彼女の住む町を遠路訪れました。家を探し当て、夕飯を所望すると彼女は『ごめんなさいね。でも、料理はできません。だって、私はあなたのことを何も知らないから、、、』と断ったそうです。
後年、ロランジェはインタビューで『その時、男性は多くの場合、料理をしながら自分自身と向き合い、女性は食べる人の顔を思い描き、その人に喜んでもらうために料理するのだと悟った』と語っていました。

話変わってここはピエモンテ。鬱蒼とした森の中をちょっとうんざりするくらい果てしなく分け入ると、小さな村のレストラン『カッチャトーリ』が見つかります。
テーブルの下に疲労気味の膝を滑らせると漸く店を切り盛りする夫人フェデリーカの用意した『Pollo Alla Cacciatora(鶏肉の猟師風煮込み)』を口にできます。むっちりと柔らかく、絶妙な塩加減でオリーブ、ハーブ、鶏肉の味わいがおそってくる。フェデリーカはプロの料理人ですから、もちろん前述のインドの女性のように料理でもてなす相手を選ぶことはできません。
でも、女性ならではの優しさと思いやりを鍋に込めていることは、テーブルに次々と運ばれてくるお皿をみれば、そしてきれいに片付いた彼女のキッチンを見ればわかります。

キッチンの中央には薪ストーブがあって、彼女の心臓のごとく炎を絶やすことはありません。彼女のご主人でホール担当のマッシモさんのお母さん、そしてそのまた義理のお母さんがこのキッチンに立っていた頃からずっとこの一家の女性たちに寄り添い、鶏肉や野ウサギを煮込んできたストーブです。
某香水メーカーで調合アナリストだったフェデリーカ。マッシモとこのレストランを切り盛りすることを決意した日から、彼女の義理のお母さんのカルラから店のレシピを一つ一つ学んだのでした。もともと五感を駆使した仕事をしていたことも手伝って、あっという間に彼女はレストラン・カッチャトーリのキッチンに漂う文化と味覚を身に着け、さらに彼女ならではの彩も添えていったのでした。それが今日のレストラン『カッチャトーリ』です。鶏肉の煮込み料理などあり触れてシンプル過ぎる料理だといってしまえばそうかもしれません。でも、シンプルな料理だからこそ、女性ならではの微かな魔法を私たちでも汲み取り、その醍醐味を堪能できるのかもしれません。

暮れの大掃除に追われるこの時期、きっちり整頓されたキッチンと暖かな手料理。年越しにぴったりのテーマかとおもいお伝えしました。
では、イタリア好き通信読者の皆様も良いお年を!!

Albergo Ristorante Cacciatori
Via Moreno,30 Cartorio (AL)
+39 0144 40123
http://www.cacciatoricartosio.com/