イタリア料理業界で活躍する話題の料理人の半生と、思い入れの深い一皿にまつわるストーリーをご紹介します。今回は渋谷区にあるIL MIO LUOGOの吉川朴(よしかわ・ほお)さん(32)にお話を伺いました。イタリアへの感謝を、成長の力にして
▲オーナーシェフ吉川朴さん。芸術家の両親のもとに生まれ、18歳までサッカーに没頭するも怪我のため競技を断念。大学を中退し、料理の道へシフトして全力を注いできた。調理専門学校の卒業と同時に、20歳でイタリアに渡り、ピエモンテ州のミシュラン一つ星レストラン「La Ciau del Tornavento」、ヴェネツィアの一つ星レストラン「Gran caffè ristorante Quadri」、パドヴァの三つ星レストラン「Le Calandre」で腕を磨いた。「料理がただただ楽しいんです」
そう呟いた吉川さんが作ってくれたのは、10年間過ごしたイタリアの郷土料理でもなければ、思い出の料理でもなかった。
店の開業直前の初夏のこと、豊洲市場の青果店に隣同士で並んでいた白桃とトマトを手に取った。これを合わせてソースにしたらどうなる? 料理人の好奇心が掻き立てられた。食材はできるだけシンプルに、トマトソースに白桃を加えるイメージで試作をしてみた。出来たての味はまずまず。その翌日、冷めたソースを舐めてみると、桃の香りと甘みがさらに増して感じられた。これだ。吉川さんのひらめきと、イタリアで学んだ知識や技術から生まれた、旬の食材を最もおいしく味わえる形。それが「桃とトマトのカペッリーニ」だった。
「イタリア最高峰のシェフたちのもとで学ばせてもらいました。一人ひとりと特別な時間を過ごしたので、誰か一人に絞ることはできないのですが……」と前置きしつつ、料理人として大きな刺激を与えてくれたのは、パドヴァ時代の師匠マッシミリアーノさんだと話してくれた。
「マッシミリアーノさんは世界最年少でミシュランの三ツ星をとり、その後25年もの間いまだに星を取り続けている驚異的な人です。彼とは店の営業後、朝の3時頃まで一緒に試作をすることが度々あったのですが、次の日の朝、彼は7時頃にはもう店にいるんです。絶対に僕よりも早く来ていて……。世界のトップを走り続けている人の姿勢を間近で見て、自分もまだまだ負けられないと奮い立たされましたね」
そうしてイタリア時代に体得したことを、吉川さんなりに昇華し行き着いたのが今の料理のスタイルだ。
「僕は彼らのレシピを極力真似しないようにしているんです。僕がやりたいのは、彼らに教えてもらった料理への向き合い方で、自分の料理と向き合うことなんです」
日本に生まれた自分が、日本で手に入る食材と培ってきた技術を駆使して、イタリアで知り得た食の感動を、新たに創造したい。吉川さんのイタリア料理には、そんな哲学が宿っている。
イタリアで成長したことは何かと尋ねると、「感謝が増えたことですね」と吉川さんは即答した。差別することなく自分を厨房に受け入れてくれたこと。食物を育ててくれる人や、それを届けてくれる人がいること。時として人の命に関わる食の責任を預かり、お代をいただいて料理を作り続けられること。料理人として忘れてはいけない大切なことを、たくさん学ばせてもらった。だから、イタリアで出会ったすべての人に感謝している。
「ゆくゆく仲間が増えるとしたら、イタリアで学んだ食の意識をきちんと教えたい。その上で、料理ってこんなに楽しいものなんだって、伝えたいですね」未来を語る吉川さんの目は、誠実そのものだった。
〈レシピ〉
桃とトマトのカペッリーニ白桃の芳醇な香りと甘みが口の中に広がり、後に続くトマトやバジルのさわやかさが味を引き締め、パスタの風味と見事に調和する。食材の個性が生き生きと光る、夏ならではの恵みを感じる一皿だ。
材料
4人分・カペッリーニ(マンチーニ) 160g
・桃 1個
・トマト(大)※クオーレ・ディ・ブエなど 1個
・トマト(中)※シンディースイートなど 3個
・バジルの葉 5枚程度
・ホワイトバルサミコ 大さじ2杯
・エキストラ・ヴァージン・オリーヴオイル 大さじ4杯
・自家製トウガラシオイル
※刻んだトウガラシをエキストラ・ヴァージン・オリーヴオイルに漬けて撹拌したもの 小さじ半分
・塩 適量
ソースの下ごしらえ(前日)
1)桃の種を取り除き、皮付きのまま8等分のくし切りにする。
2)トマト(大)を8等分のくし切りにする。
3)トマト(小)を半分に切る。
4)バジルの葉を大きめにちぎる。
5)鍋でエキストラ・ヴァージン・オリーヴオイルを熱したら、桃と塩をひとつまみ入れ、強火でいためる。6)バジルを加え、香りが立ったら、トマト(大・小)も入れる。
7)弱火で1時間煮込む。
8)網で濾して皮や種を取り除く。9)粗熱が取れたら、冷蔵庫で一晩冷やしておく。

作り方
1)沸かした湯に塩を入れ(分量外)、基準の時間を目安にカペッリーニをゆでる。
2)ボウルにホワイトバルサミコ、エキストラ・ヴァージン・オリーヴオイル、トウガラシオイル塩を混ぜ合わせる。
3)ゆで上がったパスタを、流水で軽く冷ました後、氷水に1分弱程度さらして、しっかりと水気を切る。4)パスタをソースのボウルの中に入れ、よく和える。
5)パスタを皿に盛り付け、仕上げにエキストラ・ヴァージン・オリーヴオイル(分量外)を回し掛けたら完成!
ポイント
よく熟した桃とトマトを使うことで香りと風味が豊かになります。食材のうまみを引き出してくれるホーロー鍋での調理がおすすめです。

IL MIO LUOGO
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-14-6 千駄ヶ谷富田ビル B1F
03-6721-1863
https://www.ilmioluogo.com/
2025年7月、北参道にオープン。店名は「私の居場所」の意味で、落ち着いた雰囲気の中、リラックスして過ごせる。季節の食材を生かした月替わりのコースをはじめ、アラカルトでは郷土料理も提供している。
文:宮丸明香 写真:遠藤素子
▼これまでの連載記事▼
◾️新時代のシェフを訪ねて1 VIA DEI PEPI岡本紘明さんhttps://italiazuki.com/?p=59200

◾️新時代のシェフを訪ねて2 ITALIAN GARAGE村田友哉さん
https://italiazuki.com/?p=60371

◾️新時代のシェフを訪ねて3 PIZZERIA Kiraku 川村修也さん
https://italiazuki.com/?p=61568

◾️新時代のシェフを訪ねて4 Antica Pizzeria L’ASINELLO 大削恭介さん
https://italiazuki.com/?p=63295

◾️新時代のシェフを訪ねて5 LE VERDURE 守本直樹さん
https://italiazuki.com/?p=64548

◾️新時代のシェフを訪ねて6 PIZZERIA E TRATTORIA SOLO NOI sul nuje 名取洸二郎さん&西山亮介さん
https://italiazuki.com/?p=65275

◾️新時代のシェフを訪ねて7 ENO si MARE 小林一貴さん
https://italiazuki.com/?p=66261

◾️新時代のシェフを訪ねて8 Pizzeria Trattoria LEON 辻佳久さん
https://italiazuki.com/?p=67161

◾️話題のイタリア料理人を訪ねて1 SEADAS FLoWER CAFFÈ 花澤豊良さん
https://italiazuki.com/?p=68365

◾️話題のイタリア料理人を訪ねて 2 punteggiatura 曽田一誠さん
https://italiazuki.com/?p=69310

◾️話題のイタリア料理人を訪ねて 3 Trattoria Gatto Nero 稲田哲也さん
https://italiazuki.com/?p=70419



























