ヴァイツェンビールを飲めば分かる。
心地よさの本当の意味。
高原の丘を登って行く。景色はみるみる変わり、雪を残した山の稜線がきれいだ。着いたところは、標高1500mの山の上にポツンとある一軒のレストラン宿。スプマンテ生産者の「アルンダ・カンティーナ・タレント」のミヒャエルさんが、取材の後に食事に連れていってくれた。テラス席では、ハイカーや家族連れが気持ち良さそうにビールをやっている。通常イタリアならお昼でもワインだろう。でもここでは間違いなくビールだ。ミヒャエルさんも当然という顔をして、ビールを注文した。ここはイタリアであってイタリアではない。店名もメニューもドイツ語。挨拶も会話もすべてドイツ語だ。
桜も咲き始めた4月のはじめ、春の涼しい風が心地良い季節にこの地を訪れた。イタリア最北端、スイスとオーストリアの国境に接する州、トレンティーノ゠アルト・アディジェ。
「なんだろう心地よい。」
ずっとそんな印象を抱きながら、この州の取材をしていた。
元々、トレンティーノ地方とアルト・アディジェ地方は別の自治区だったため、趣きは全く違う。イタリアの色が強いトレンティーノ地方と、南チロルと呼ばれるオーストリアやスイスの面影が強いアルト・アディジェ地方。確かに県をまたげば標識や話す言葉が変わり、町の様子も違う。でも僕には人々には、共通した印象を感じた。
それは”ゆとリ“だった。
取材先で出会った人に限っても、誰もが落ち着きと、余裕があり、そこにセンスのよさがキラリと光っていた。
山々に囲まれ、厳しい冬の暮らしもある。その中で育まれた、物質的な豊かさとは違う、心にゆとりを感じる暮らし。どこか憧れを抱いている。
ビールが運ばれてくると、ミヒャエルさんは、グラスに7、8分目まで注ぎ、おもむろに瓶を両手で掴んで楽しそうにグルグルとまわし始めた。瓶内についた酵母を洗い、再びグラスへ注ぐ。するときれいな泡とともに、香り高いヴァイツェンビールが目の前に現れた。ささやかなことだけど、人生の喜びってこういうことなのかもしれない。
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