産まれ育った土地に暮らす
「ボーラの力強さに、僕はエネルギーを感じるから、好きだ」ヴォドビヴェッチ(p12)のパオロさんは言った。トリエステの冬、北東から吹く暴風ボーラ。
トリエステの人は誰もがボーラの事を口にする。風速30メートル以上の冷たく、強い風は、3日間は吹き続けるその間は戸外に出る人は少ない。
でも、その暴風こそがその土地の風土をつくり、環境をつくってきた。
厳しい気候だからこそ、その土地に宿る強さもあるのだろう。
パオロさん(本誌p12)は、そんなポーラの吹き荒れる日でも作業を続けるという。
22歳で自分の畑を持ち、元々あったブドウを全て捨てた。
一から始めたワインづくりでは、いまや天才とも名人とも呼ばれるようになった。
洞窟でチーズをつくるダリオさん(本誌p14)もまた、この土地の厳しい自然を受け入れて、自然体でチーズづくりを続けている。
「ビオやなんだは特に意識しない。ただ体によくて、正しいと思うことを普通にやっているだけだよ」
冬は雪に覆われてしまう、サウリスの山で地ビールをつくるペトリス兄弟。(本誌p29)「小さな集落に暮らしていると、ここの伝統を守ることが大切だと常に感じるんだ」ここで、生まれ育った彼らは、この地の恵みを見事においしいビールに変えてしまった。評判になっても、ビジネスはゆっくりゆっくりと広げてゆきたいと言う。
今回の取材で出会った生産者たちの話しを聞いているうちに、その問題意識や、考え方にいつも以上に共感できた。聞けば僕と同世代だということだ。
僕たちは青春時代を、世界経済の変化の大きな波の中で過ごした。
そのことへの違和感をどこかに感じていたのかもしれない。
ベルリンの壁が崩壊し、経済のグローバル化が進み、ヨーロッパの通貨が統一されたのもこの時期。
日本はバブルも経験していた。
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