頑固なのは自信の証し
チレンターニはまじめで誠実
ほどよいオープンさが
なにより心地よい
「こんなに山ばかりを撮っていたのか」取材から帰国して、事務所で自分の撮影した写真の整理をして、ちょっとビックリした。それほどチレントの山の景色に魅了されていたのだろう。6月のイタリアはいちばんいい季節だろう。まだヴァカンスシーズンも始まったばかり。ひどく混雑する前で、暑さもほどほどで過ごしやすい。
チレントはナポリからは車で高速を走っても2時間以上はかかる。サレルノ県でもさらに南、もうすぐ下にはバジリカータ、カラブリアがあり、山を越えればすぐプーリアだ。広く周辺一帯は国立公園として指定されている。夏のヴァカンスシーズンは、イタリアやヨーロッパ各地から観光客が訪れ賑わうが、残念ながら日本人にはあまりなじみは無い。このロケーションを考えれば仕方ない。長くはない休みに、やっとの思いでイタリア・カンパーニアまで来たのに、カプリ島や、アマルフィ海岸など有名な観光地には目もくれず、こんなアクセスの悪い田舎に行くのは、変わり者か、よほどのイタリア好きだ。
いや、でもほんとうに来てよかった。
山間の小さな村、その高台から見える景色、小さな漁港や、長く美しい海岸線は、心を和ませ、人はほどよくオープンで大らか。
取材先で会う男たちは、一様にチレンター二のことを「頑固で石頭」だと言う。そういう男たちはみな、信念を貫き、選んだ道をひたむきに歩む。チレントオリーヴ組合の会長エリオは、自分のお気に入りの絶景スポットに僕らを連れて行ってくれた。「男はひとつやふたつ悲しみを背負っているだろ。辛い時や、悲しい時にはここにきて、アッチャローリの海を眺めると、心が落ち着くのさ」。地元の農作物の良さを守り、発信し、認められることはそう簡単ではない。それには貫く強さが必要だ。グランドチッタには住みたいとは思わないと言っていた漁師ヴィットリオは、小さな漁村ピショッタを愛する、気配りのできる、やさしく強い男だ。レスラーのような風貌のアンジェロは、ナポリで警官だった時に、大怪我をして実家でアグリトゥリズモを始めてから、心のくすみやゆがみがなくなったと、イキイキとして、チレントに自信と誇りを持って生活していた。
誰もがほんとうに温かく迎えてくれたし、心地よく話ができた。そして、チレントで過ごすうちに、僕の心の中に折り重なっていった気持ちが、チレントを故郷のように懐かしく感じられるようになった。もしかしたら山ばかり撮っていたのは、そんな気持ちの表れだったのかもしれない。
黄色い花ジネーストラが咲き誇る緑豊かな山々と、少し霞む空に映える、吸い込まれそうな碧い海。来年の6月にまた彼らに会いに帰ろう。
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