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伝説まであと一歩。小さな町の、小さなバールの話

「かわいい女の子は、自分のルックスもサービスに含むと思い込んでるんじゃないか、と、時々心配になる。」

街の真ん中のモダンなバールでエスプレッソを口にしたクラウディオが、小さなカップをソーサーに戻しながらいいます。結構いるのです。絵から抜け出たかのような美しさの女性バリスタ。でもにこりともしない。自分が何か悪いことでもしたかと、せっかくのカフェの旨さ半減ということが。


ところが、ところが、我が家の手狭なキッチンよりさらに小さいくらいの『Bar Odeon(バール・オデオン)』はちょっと違う。いえいえ、ここで働く女性たち3人も皆、個性的美人ぞろいですぞ!
媚は売らない。が、笑う時は思い切り笑う。お客を待たさない。そして何といっても客の欲するものを先読みする。たとえば、アレルギーに苦しんでいる私の女友達が、マクロビのお店で買ったグルテンフリーの乾パンを持ってこの店に入る。注文を取りに来た二十歳そこそのマルティナがその袋をみて、
「もしかてセリアック病?ちがう、良かった!なら、この店にもグルテンフリーのパンがありますよ。お買いになった袋は空けずに持って帰って、こちらを食べられたらどう?」

もともとこのバールは、隣にある劇場付属のバールとしてオープン。芝居のインターバルにちょっとしたドリンクを楽しむ目的で作られたため、スペースは限られ、火も持ち込めない。だからパスタすら作って出すことができないのです。

ところが、店主のアントニオがこの町はずれにある店舗を借りてバールを始めてからもう18年。ビエッラでは古参の方。実際、朝6時に開店してから夜の10時まで、客は途絶えたことがありません。
なぜ?アントニオの得意なものはシャンパンからスプマンテまでシュワシュワ発泡酒。開店当時から自分の強みでガンガン責めることにしたわけです。ピエモンテのバローロとかはほとんど置いていない。火が使えないから肉の煮込み料理とか出せないですから。その代わり、お酒に合わせて出す素材はパンもオーガニックならサラミ、チーズ、生で出す野菜まで、イタリア中から選りすぐりを集めてきた。ピエモンテ牛の生肉サラダ、カンタブリコ産のアンチョビ、ファラオナ鳥のパテなど、華やか且つ軽やかで発泡酒にはぴったりの一品料理が並ぶ。冬場は月一回、シャンパンを生ガキで楽しむことも。
夜の7時を過ぎると、ちょっと華やかな気分に浸りたい、30代から50代のアントニオ・ファンが詰めかけ楽しい夕べがあっという間に出来上がります。

翌朝は6時の開店と同時に仕事前のちょっと元気を出したい男たち、まぎれてスポーティーなおばちゃん達がカップっチーノを啜りにやってくる。
朝の遅い時間からは、パソコン持参で仕事がてらワインを啜る営業マン、そのままお昼食べながら打ち合わせする人も。とにかく居心地がいいのです。
店主アントニオはナポリ男。ピエモンテのこの町ビエッラ出身の女性と恋に落ち、この町でバールを開きました。
「でも、マンマはフリウラーナ、イタリアでも全く北の人間で、朝、出がけの身だしなみから、学校、家での整理整頓までちっかり、きっちり仕込まれた。それを店で働く店員の教育でも生かしているだけだよ。」


店員がしっかり教育されてるのはわかる。が、お客さんも、知らない間にそれを見習ってしまうのです。小さい店だから席を譲り合う。大声はださない。見知らぬ客どうしも直ぐ仲間になっちゃう。アントニオは自分のマンマを尊敬していると言い切ります。でも、ナポリ人の温かさがこの店に集うものを一つの家族に作り上げている気がします。
ここはイタリアの街角、小さなドアを押して入るとこんな世界が広がっているバールはまだまだ無数にあるのです!

Baro Odeon
Via Torino, 67
Biella 13900
Tel +39 015 0992728