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真夏の冬仕度。ヴェネトの冬野菜、ラディッキオの植苗


ヴェネト州独特の生産物の代表とも言えるラディッキオ。原産地域表示 I.G.P. に指定されている「トレヴィーゾ産(生産地域はトレヴィーゾ県、ヴェネツィア県、パドヴァ県の一部)」と称されるのものが最も有名で、その価値を高く認められている。

各種ラディッキオ の並ぶヴェネトの冬のメルカート


ラディッキオはご承知の通り、冬に旬を迎える野菜だ。長いヴェネトの冬を鮮やかに、豊かに、そして華やかに…様々な面において彩りを与える。

ヴェネト州内には、何箇所かに品種の異なるオリジナル産地があり、それぞれに形状、色などの特色、そして生産時期などを違えているのも面白い。

そのなかでも核となるのは、トレヴィーゾ産の「早生品種」という意味の「プレコーチェ種」、そして「晩生品種」という意味の「タルディーヴォ種」だ。前者のI.G.P.マークが認定されるのは、通常9月中旬以降、後者は11月中旬以降だが目安となる。

そんな晩秋~冬に旬を迎える野菜たちの準備は、この真夏が本番。

生産地の中心は、イタリア最大の平野、パダーナ平原の本当の意味での真っ平らな平野部の最北部に位置する。トレヴィーゾ県とヴェネツィア県境を含む一帯となるが、ここは同産物のストーリー的にも重要な地域で、大小の生産者も多く点在する。県境はクネクネとした境界線を保っているため、この地域を車で走ると両県を行ったり来たりすることとなる。

この周辺の農地の主軸はトウモロコシと大豆。そして、至るところにラディッキオの畑が見られる。

この日作業した畑は16ヘクタールの大きな畑。一気に広がるこのくらいの規模の畑は、北部ヴェネトでも、また、当然のごとく生産地域内でもそう多くはない。

真夏恒例の作業。真冬の寒さが信じられない


畑内では区画をいくつかに分割し、植苗の時期と種類を少しずつずらしながら、計画的な栽培が行われる。この畑では、今年はこの畑には5種類の異なる品種が植えられた。

また、この農家が所有する同地域内、他地に点在するいくつかの畑ごとにも計画的な植苗が行われている。一番早いものは6月中旬からスタートしており、最終的に全てが終了するのが8月中旬であることから、約2ヶ月間に渡る仕事だ。

作業は6人乗りの移植機に人が乗り、一つ一つの苗をトラクターの動きとともに下方へ落としていく。真っ直ぐに植苗しないと、栽培途中の手入れ及び収穫時の作業に支障を来すため、トラクターを操作する同農家の長男は、終始冗談を飛ばしながらも運転に集中。

手を休めることなく作業は進行


ただし、作業は機械任せにするわけにはいかない。機械の状態や、土おこしの準備がうまくなっていなかったり、土の状態によりうまく植えられたていない箇所が多く出るため、機械の後方には、2名以上の人がつく。足りないところを手で補助していくためだ。畑ごとに、また、一畑内でも場所により土の性質及び保水などが異なる。

機械の後を丁寧に追って補助作業


一列が終わると苗を機械に継ぎ足す


一晩に50㎜を越す激しい雨が降り続いた日が続いたのが2週間ほど前。その後は雨なし、高温な日々が続いているため、畑の土はかなり干からびている。植えたばかりの苗は水を多く必要とするため、これらには順を追って水やりを行う必要がある。畑に沿う水路からポンプで勢いよく水をくみ上げ、終日をかけて一区画を濡らしていく。

この時期の水遣りは大切な仕事


この水はこの地域の自然の天然水。この畑のおよそ30㎞先に水源を持つ自然水で、農業用水としてこの土地内を蛇行するように流れている。

この地域特有のこの風景


ラディッキオの出荷前の生産工程には浸水という大切な工程があり、これはこの地域の自然水を利用するのが必然だが、苗がしっかり根付くまでにも多くの水を必要とするので、ここでも重要な役割を果たす。とにかく土地の水をしっかりと吸収し、土地ならではの産物として成長していく、というわけだ。

現在のプレコーチェ種。植苗後、約3週間が経過。

プレコーチェ種の苗


そして、タルディーヴォ種。

タルディーヴォ種


この日に作業していたのは、ローザという最近の新種。淡いピンク色を持つ、柔らかい葉のラディッキオだ。


淡いピンク色の品種、ローザ



この農家では、実際のラディッキオの収穫・出荷は今月、8月末から徐々に始まる。変形種のヴァリエガート種(日本ではカステルフランコと呼ばれるもの)やプレコーチェ種から先行する。

その後季節が以降し天候の変化及び産物の状態から、I.G.P.認定マークが出始めると、さらに本格シーズンへ、と突入していく。

冬が楽しみだ。


この日の作業終了は19時近く



 

 

ヴェネトの冬!トレヴィーゾ産ラディッキオ タルディーヴォ種 IGP

「ラディッキオ ロッソ・ディ・トレヴィーゾ・タルディーヴォ」

出荷前の見た目にも美しいラディッキオ・タルディーヴォ種


ヴェネトの冬の食卓を語るのに、この食材無しにはあり得ない。どの独特の形状とその風味、そして食感。野菜としては美しすぎ、そして個性的すぎる。他のどんなものにも代用は不可なのではないだろうか。

ラディッキオとは、チコリの仲間の野菜である。イタリア国内でも、ヴェネト州のトレヴィーゾ県を中心に、ヴェネツィア県、パドヴァ県の認証地域で栽培される。地区ごとに、その地域性にあった品種が存在し、生産及び出荷期間も冬季限定とはいえ、微妙に異なる。

そのなかでも、特に同素材を他地域にての生産を真似されることなく、この地域ならではの生産物としての誇りとその存在を保っているのが、トレヴィーゾ産赤ラディッキオ、タルディーヴォ種(ラディッキオ ロッソ・ディ・トレヴィーゾ・タルディーヴォ=Radicchio Rosso di Treviso Tardivo)。「タルディーヴォ」とは、「晩生」という意味を持ち、それは、生産・出荷時期がラディッキオの他種に比べて時期が遅めなことからくる。

それに対して早生種である「プレコーチェ」種というのもある。こちらはタルディーヴォ種に比べると、生産方法も単純で、産地呼称であるIGPにこだわらなければ、気候さえ適合すれば、比較的、生産実現が可能とされている。

生産・出荷時期の違いは、IGP認定マークが許可されるのにも目安となるが、毎年平均してプレコーチェ種は9月末、タルディーヴォ種は11月中旬以降となる。

さて、このタルディーヴォ種、なかなかの偏屈もので、生産までの工程には非常に手間がかかる。

その特異な生産工程とは?

植苗は7月後半から8月にかけて行われる。IGP認証を取得するには、苗間の間隔にも規定があるる。夏場の太陽の力をかりて2ヶ月以上畑で生育した苗は、その後冬の訪れがくるとともに寒さから自らを守るかのごとく、外葉が内葉をやや覆うような形になる。生産者は、季節の変わり具合、気候の変化を、畑の変化を感じながら時をじっと待つ。

暑ーい夏期に生産作業は開始します


11〜12月にかけてのラディッキオの畑


寒さが厳しくなってくると、畑でも葉の色が変化してきます


ヴェネトの冬は寒い。
ラディッキオにとっては、この寒さが不可欠なのだ。葉は成長するが、成長しずぎてもいけない。寒さにじっと耐えるためには適度さが必要。そしてその寒さが深くなるにつれ、畑に並ぶラディッキオの葉は、赤く色付き始める。
11月ともなると、冷え込む朝は氷点下まで気温が下がり、畑のラディッキオには一面に真っ白な霜がおりる。キンと冷える薄暗い朝、夜明けとともにキラキラと朝焼けに光る畑は非常に美しい。そして、この霜がおりることによって、産地呼称のIGPが認証され、畑からの収穫が許される。
近年は、気候の変化が顕著であり、今シーズンのIGP認証は、11月の中旬をとうに過ぎた後半期であった。生産物の出来が遅くなることは、現実的には生産農家にとっても非常に痛手でもある。

さて、畑から収穫した株は、これで出荷準備に入るわけではない。この後は、一株ずつを小さなカセットに縦詰めにし、それらを地下水の流れる貯水池にて株の根を浸水させる。水は必ず流水でなくてはならず、この地の地下水でなければならないのも規定として定められている。

地下水の流れるプールに一定期間静置する


同地区は、地下から自然に湧き出る清澄な水が豊富な地域。イタリアを旅行した方ならば必ず一度は手にしたことがあろう、「サン・ベネデット」というイタリア国内最大級の飲料水メーカーのある場所でもあることからも、清澄な水に恵まれている地域であることがお解りいただけると思う。

この水がこのラディッキオを育てる必須要素なのだ。この自然水プールは、日光を遮断され、いわゆる株を軟白させる工程にもあたる。同工程では、収穫により切り落とされた株の根から新根が生え、そこから水を吸い上げることで、株のごく中心部に向けて水から得られるミネラル分を吸収させ独特の甘みを与え、クロッカンテな食感を生み出すのに役立つ。

さらには、暗所に静置することで、葉の持つクロロフィルが後退し、ラディキオ特有の純白な茎と、アントシアニンから発する紫がかった鮮やかな赤色を生み出す。そして、寒さなどの条件を満たすことにより葉が内側に向けてかたく、密に閉じてくる。

約2週間ほどの軟白工程を得た株は、作業場に運ばれ、外葉を大胆に除かれる。真っ黒に腐ったような大きな株は、驚くほど鮮やかで、しかも小ぶりなその美しい姿を露わにする。
とにかく一株一株を人の手によりいくつもの工程を経る必要のある、手間のかかる野菜なのだ。

出荷作業の終盤。掃除し流水で洗ってから箱詰めされる


美味しくラディッキオ料理を食べたい!

実際に手にしたら、どんな料理に合うのか…というと。それがどんな調理法にもオールマイティなのだ。

生でサラダに、縦割りにしてグリルに、衣にくぐらせ油で揚げてフリットに、肉やパンチェッタを巻いてフライパンで焼き付ける、等。サルシッチャと合わせてパスタにしたり、リゾットなどは、冬の定番メニュー。

ラディッキオ料理といえば定番!ラディッキオのリゾット。


ボルレッティ種やラモン種のインゲン豆を柔らかく煮てから漉して作るヴェネト風の「パスタ・エ・ファジョーリ」には、このラディッキオの葉先を乗せ、少し赤ビネガーをたらして食べるのが、地元風だ。

 

 

トレヴィーゾ郊外の栗祭り 「フェスタ・デイ・マローニ」

トレヴィーゾ郊外の山間、コンバーイ(Combai)

すっかり秋らしく、冬の足音が聞こえてくるこの時期は、栗の美味しい季節。
トレヴィーゾ県のコンバーイ(Combai)という、プロセッコの里に隣接した山の地域では、産地呼称であるI.G.P.を冠する栗の産地としても有名だ。

その地で毎年10月には、栗の収穫祭が開かれる。ここに辿り着くまでには、プロセッコのブドウ畑の並ぶ急勾配の道を、車でズンズンと登っていく。紅葉の始まりかけた周囲の素晴らしく美しい風景を横目に、目的地へ。石造りの家の立ち並ぶ小さな集落。標高約400mに位置する町だ。
コンバーイはプロセッコの畑を見下ろす場所に位置する街に近ずくにつれて人も車も多くなり、会場から少し離れたところに車を止めるように交通整理員に誘導されて、徒歩で街の中心へ。普段は静かなこの小さな集落は、一年に一度のこの季節となると、車が渋滞するほどの賑わいとなる。

集落の入り口には大きな垂れ幕!


街全体がお祭り会場へ

集落内は全体がお祭り会場と化している。道端には、土地の製品を売る屋台が出店している。美味しそうな地元チーズやヴェネトの太いサラミ、ソプレッサの山は非常に魅力的…。

地元の食料品店の店先。簡易の即売所となる


柔らかく太いヴェネトのサラミ、ソプレッサ


そしてメイン会場へ到着。お昼どきには、ラザニアやニョッキ、スペッツァティーノ(肉の煮込み)などが振舞われており、大混雑の雑踏のなかで食べるそれらはこれまた格別。並べられたテーブルに座ると同席のお隣さんとも親しくなったりする。

牛肉のスペッツァティーノ。付け合わせはお決まりのポレンタで


祭りの目玉、焼き栗を食す!

別会場となる仮設テントは、焼き栗の大きな実演販売と飲食コーナーとなる。
テントの脇には、大きな大きな鉄鍋が設置されており、焼き栗が準備される。このお祭りの名物シーンでもある。チェーンで動作させるほどの大きな鉄鍋は、大量の薪を燃やして栗を焼く。煙がすごいが、気温の下がるこの時期には、暖をとるのにもちょうど良く、周囲には多くの人々が集まる。実際に焼いている人たちは大汗をかきながら作業しているのだが…

大きな鉄鍋で大量の焼き栗をつくる風景は、このお祭りの名物


食券販売所の列に並び、焼きたての焼き栗を注文。食券を持ってカウンターに行くと、焼き栗の袋と交換してもらえる。
熱々の焼き栗を囲んで、手先を真っ黒にしながらとにかく栗を食べる、食べる。食べる…食べ続ける。

真っ黒に焼けた栗。中はホッコリ。旨し!


会場内はテーブルが並べられていて、栗は立ち喰い


焼き栗のお供は…トルボリーノ

そして、焼き栗に欠かせないのが、「トルボリーノ(torbolino)」だ。「トルボリーノ」とは、この時期に飲むワインの前身のようなもの。収穫して間もないぶどうの果汁は、発酵過程を経てアルコールへと変わっていくが、その発酵がまだ完全になされていないこともあり、糖が残りアルコール度数が低い。当然のごとく、澱引きしていないことから、濁っている。「トルビド(=濁った)」であることが、「トルボリーノ」と通称される所以だ。

栗の収穫時期には、ちょうどこの段階のコレが季節的にも、そしてほんのりと残る甘い微発泡のコレが焼き栗に非常に合うことから、焼き栗とトルボリーノとはきってもきれない関係なのだ。
ワインになりきっていないぶどうの果汁という意味で、この会場ではあえて”モスト”と呼んでいる。

濁り酒のトルボリーノ


会場は、地元の子供たちも焼き栗や飲み物の提供をお手伝い。焼き栗の袋詰めやカウンターでワインを注いでくれる子供たちの姿がなんとも可愛くありながら大人びていて、見ていると思わず顔がほころぶ…。

注文のバンコ(カウンター)を守るのは、地元の子供たち


山間の小さな小さな街の大イベントだから、迎える人も訪れる人も喜びを一緒に分かち合う。この季節とこの季節だからこその味覚を皆で大いに楽しむ、そんな楽しいイベントだ。

コンバーイの街の上から。集落内はスパヴェンタパッセリ(かかし)が道案内