vol.38 アブルッツォ特集

ヒーロー

 〝強くて、優しい〟いつもそうありたいと思っている。映画やテレビ、漫画の中のヒーローはいつだってそうだ。でも口で言うほど簡単ではない。
 「アブルッツェーゼのキャラクターは?」と問うと、だいたいの相手は少し照れくさそうに「forte e gentile(強くて、優しい)」と返してきた。1882年にアブルッツオを巡ったイタリア人ジャーナリスト、プリモ・レヴィが感じたこととして彼の旅行エッセイに記され、タイトルとしても使われているフレーズだ。アブルッツォでは永きにわたり、自分たちを現す言葉として誇りと共に親しまれてきたようだ。
 
 取材班はキエティ県ファーラ・フィリオールム・ペトリという丘の村の知人宅で、1週間お世話になった。近くにマイエッラ山塊を望む静かなところだ。夕食のワインはいつもチェラスオーロ。箱の中のラミネートに入ったいかにも地元っぽいワインをガラス瓶に移し、冷蔵庫で冷やしておく。それを炭酸水で割って飲むのが主人エンニオさんのお気に入りだ。真似て飲む。暮らすように旅をするのがいちばん楽しい。
 毎日取材から帰ると、いつも彼が食事を用意していてくれた。旬のものから取材先の友人たちの食材を使ったものまで実に多彩な食卓となり、本当にお世話になった。そんな彼は毎朝5時半には庭に出て、自家菜園や草花の手入れ、猟犬3頭に、鶏、鶉、猫とうさぎ、動物たちの世話をしている。
 
 パオロさん(P12)は農業を始めて10年。決して楽ではなかったけれど選んだ道に間違いはなかった、と熱く静かに語り、「パッショーネだけで10年だね」と笑う。ジャンピエトロさん(P18)の急な方向転換に仰天した奥さんのラウラさんだったが、今ではしっかり家族で歩んでいる。ロベルトさん(P31)は、大きな体でいかにも力強そうな風貌ながら、「人と繋がっていることがとても大切なんだ」と語るその言葉一つひとつが繊細な心と愛を感じさせる……。
 身体的な〝強さ〟以上に、精神的なほうがよほど〝強い〟のだと、今号の取材を通して改めて感じたのだ。その〝強さ〟は誇示するものではなく、〝優しさ〟の中にある芯のようなものではないか。ここアブルッツォに限って言えば、取材先で感じた彼らの心の大きさは、アペニン山脈とマイエッラ山塊、その雄大な自然に包まれて芽生え、共存し、育まれてきたのだと。
 
 そして朝、部屋の窓からエンニオさんの姿を眺めながら、本当の〝強さ〟は大きな〝優しさ〟の中に存在する心なのだと、しみじみと思うのだ。
 
 自分の中のヒーローが目覚める日は来るのだろうか。
 アブルッツォ、もっと深入りしたい。

発行編集人 マッシモ松本
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