vol.30 トラーパニの黒パン

vol.302017/8/1カートに入れる

Pane per sempre
パーネは永遠に

さて、いよいよ南イタリアのパン特集である。北イタリア、中部イタリアと巡ってきて、南イタリアは、バジリカータやプーリア、カラブリアと、パンの有名どころにスポットが当たると思われた方も多いと思うが、今回はシチリア。古代小麦と、主にトラーパニの黒パン(pane nelo)に注目してみた。お楽しみに!

シチリアの小麦とパン

先日、日本のあるイタリアレストランで、顔見知りの読者の方にお会いした。イベントや、マッシモツアーにもいらしたことがある、ベテラン読者の方だ。その方が、「マッシモ、次の号もパンなの?」と少し訝しげな顔をしておっしゃるので、僕は「そうですよ」と涼しげに。するとその方「また、パン〜」「めくっても、めくってもパン、パン、パンでさぁ〜。私、会員更新のタイミングなんだけど、どうしようかしら?」と。「それはぜひお願いしたいですが、でもご判断はお任せしますよ。なんせフリーマガジンなので」と言うと、「そうね、ちょっと考えるわ」と、その場は和やかな笑いに包まれた。

さて、パン特集である。北イタリア、中部イタリアと巡ってきて、南イタリアではバジリカータやプーリア、カラブリアなどパンの有名どころが焦点となると思われた方も多いと思うが、今回はシチリア。しかも主にトラーパニの黒パン(pane nelo)に注目してみた。
内容は本誌の特集をじっくり読んでもらいたい。なんでシチリアかというのは、単純にトラーパニに行って黒パンとクスクスを食べたかったからだと言うと、読者の皆さんに怒られそうだ。本土の南部を巡ったうえでシチリアまでを入れた特集を組むのが日程や費用面から厳しいという現実的な問題と、僕自身がいつもシチリアのパンをおいしいと感じていたこと、今までの取材でシチリアの小麦の話を何度も聞いていたことがいちばんの理由だ。
 
生活に密着したパン

果たして、これまでイタリアのパン屋へ何軒くらい行っただろうか? いちばん北はヴォルツァーノ。小麦のあまり育たないこの地域では、ライ麦や雑穀を混ぜたパンが多く、厳しい冬を乗り越える工夫がパンの形や素材に現れていた。水分をほとんど含まない平たいシュッテル・ブルットは、気温が低く発酵の難しい地方の知恵から生まれた、保存食としてのパンだ。マントヴァ辺りの皮がカリッとしていて、中がフワフワのパンは、それだけだと軽くてそっけないし、正直さほどうまくもない。でも、これをソプレッサのような粗挽きのサラミなどと合わせると抜群に威力を発揮する。中部の塩無しパンは、塩気の強いこの地域の料理に合っている。また、固くなったパンを混ぜてひとつの料理にするのもこの塩無しパンならでは。そして、搾りたてのオリーヴオイルをたっぷりかけて食べるブルスケッタは、最高の贅沢だ。

プーリアのアルタムーラやバジリカータのマテーラでは、硬質小麦のパンを、大きな窯で、5キロ以上の塊を焼くのが当たり前のようだった。一度にできるだけ多くのパンを焼くために、一つのパンの形をだるまのような形に高くして、少しでもスペースを有効活用できるように工夫もされていた。でも生活スタイルの変化と共に、大きなパンはだんだんと少なくなってきているようだ。

こうやってイタリアのパンは長い間、人々の暮らしの中に息づいてきた。特に輝くスポットを浴びるようなことも少なく、そして、食事処では席に着けば当たり前のように籠に入ったパンがポンと置かれ、料理と共に食べられている。

とりあえず、パンの旅は終わる

イタリアには日本人にも馴染みのおいしい食べ物がたくさんあって、イタリア旅行に行って、わざわざパンに注目する人は少ないだろう。「あっ、そういえばレストランの籠の中にあった」と気づいても、お腹がいっぱいになるから手をつけない人もいるのではないか。でも、僕は必ず食べる。2、3種類あったらすべて食べてみる。そうすると意外にもその店の実力が分かったりする。パンを軽く見ている店は、サービスも味も今ひとつと感じることも多い(あくまでも個人的感想)。だからと言って、重く考えなくてもよいが、多くのイタリア人は、日常の生活の中で当たり前に存在するパンを、大切に考えていることを理解していれば、自然とそれは豊かな食卓になるのだと思う。パン特集でイタリアパンに少しでも興味を抱いていただけたら、次にイタリアに行く時には少し注目してみてはどうだろうか。

本当はまだまだ入口にやっと辿り着いたくらいでしかないが、今回をひと区切りとして、パン特集は終わる(正直なところ、かなりヘビーな特集だった)。パンにはあまり興味を抱けなかった方は次の特集に期待していただきたいし、プーリアやバジリカータ、カラブリアに期待を寄せられていた方は、次に僕の気が向くまでの間、少々お待ちいただければ幸いだ。パーネは永遠だから。

かく言う冒頭の読者の方は、ありがたいことに更新していただけたようだ。今回の特集で満足してもらえるのかは分からないけれど、『イタリア好き』はこの方のような多くの読者の皆さんに支えられていると思うと、感謝の気持ちでいっぱいである。

では、シチリア、トラーパニの黒パンの旅へどうぞ。
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