vol.13 シチリア特集

vol.132013年5月発行
在庫なし

おやじの粋なはからいと
シチリア美人

キリット晴れた雲ひとつない青空。
強い風は、波を防波堤に打ち寄せ、
海からの風を小路に流していく。
冷たい空気と潮の香り。

8年ぶりに訪れた、シラクーサ・オルティージャ島。
記憶を辿って、早朝の散歩に出かけた。
蘇る記憶と匂い。

前日の夕方ここに到着した。

パスクアを翌週に控え、町は浮かれ、そわそわして、例えるなら日本の年末、忘年会シーズンのようだった。

ドゥオーモ前の広場は賑わい、小さな子供はバルーン片手に走り回り、久しぶりに再会する地元の友人たちは談笑し、ショーウインドウには卵型のチョコが飾られ、おじいさんの持つ大きな荷物はきっと孫へのプレゼントだろう。

映画『マレーナ』は、壮麗なバロック様式のドゥオーモ前の広場を歩く、モニカ・ベルッチの美しさが印象的だった。このシーンの舞台となったのは、オルティージャ島だと、8年前シラクーサを訪れた時に、フォトジャーナリストの篠さんに教えてもらった。その時は、真夏の太陽がジリジリと刺すように照りつける昼下がりで、広場は静まり返っていた。歩いているのは、ポツポツと観光客くらい。地元の人は、夏の暑い昼間には外に出ない。

オルティージャ島の市場には今回初めて行った。やはり魚屋が目立つ。
早朝の開店したてとあって、まだ人はまばらだが、その土地で暮らす人々の生活が見える市場はいつも気分があがる。
魚屋のおやじアンジェロは、まな板の上に乗せられ、解体されようとしているサメの説明をまくし立てるように始めた。

小柄だががっちりした体格に、だみ声に髭、彫の深い顔。
その振る舞いからは、市場を仕切る親分のようだ。
どうやって食べるのかと思い、一所懸命に聞いていたのに、「いや、食べない」なんだ損した。
そうかと思うと、タンバリンを持ち出し歌い始める。
タンバリンは小気味よく、おやじの渋い声と絡み合い、どこか物憂げなシチリア独特の旋律は、早朝の市場にはあまり似つかわしくなかったように思うけれど、おやじのサービス精神は嬉しかった。

アンドレアは、パニーノをつくり続ける。
彼のパニーノはひとつのアートだ。
同じ市場内のチーズのお店。店先に並んだ焼いたリコッタが、僕の心を惹きつけた。
買い物に来たお客さんに創作パニーノを振る舞う。
自家製チーズは売っているんだからたくさんある。
ひとつつくってはまたひとつ。
チーズ、ハム、トマト、オリーヴ、チポッラ、店にあるものは何でも挟む。
パニーノのアイディアがどんどん溢れていく。
パニーノをつくるアンドレアの手先はまるで、マジシャンのよう。
次に何が出てくるのかが楽しみだ。
ワインも出てきた。
こんな店、日本にもないかなーと考えながら、パニーノをほおばる。
市場だから毎日来る顔がいる。
だけどサービス品だけを食べて帰る客はいない。
アンドレアの心意気と気さくな振る舞いは、お客を惹きつけて離さない。
損して得取れ。

僕にとってシラクーサは、とても思い出深いところだ。
この『イタリア好き』を発想した起点となったところと言ってもいい。

8年前ここで偶然出会った家族とのひと時。
真夏の昼下がり、汗をタラタラ流して歩いていたところ、外の日陰で昼食をしている家族がいた。
篠さんがカメラを向けると、快く撮影に応じてくれ、撮った写真を見せると盛り上がり、ワインやフルーツをご馳走になった。
そして、篠さんがやおらカンツォーネを歌い出すと、隣に座っていたおばさんが、
「あんたはダメ」と言って、
今までの話し声とは全く別の声で、歌い出した。歌は路地に響き、僕の心は高鳴った。
“イタリア”面白いぞ!
ここから僕は、イタリアという国の懐の深さと、大らかさを感じ、その魅力にはまっていった。

今回もまた、イタリアおやじの粋な魅力に心を奪われてしまったのだけれど、
実はそれ以上に心を奪われたのは、マレーナならぬマリリーナ(本誌4ページ)だった。
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