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ヴェネト発「スプリッツ」でアペリティーヴォ

日没時刻が日に日に遅くなり、夕暮れ時の屋外でのアペリティーヴォが何よりも楽しみな季節がやってきた。

今年はこの春先以降、日常が日常であることから少々遠ざかってしまった現状がある。こんな素敵な夕暮れの時間を、心配なく過ごす日が少しでも早く戻ってくることを願いつつ…

「アペリティーヴォ」という習慣

「アペリティーヴォ」は「夕食前の一杯のアルコール=食前酒」として既によく知られているが、実際にはその言葉自体が広義として、飲み物(アルコールが一般的だがノンアルコールでも)を片手に一時を過ごす、という行為や習慣を指していると思う。
「何時どこでアペリティーヴォしようか?」と約束の時刻や場所を決める際に、または道端で偶然会った知人とは「次はアペリティーヴォで‼︎」と、次回は必ず時間をとって会おう、という意味を含めての別れの挨拶として…この言葉にはそんなお互いの暗黙ルールも含まれているように感じる。

広場の片隅の賑わうバール。テーブルの上のグラスのほとんどがスプリッツ!


とにかくこの時期、ピアッツァ(街の広場)でのアペリティーヴォが恋しい‼︎=皆んなと集って楽しく時を過ごしたい‼︎と多くの人が思っていることだろう。

ヴェネトでアペリティーヴォといえば…

ヴェネトでのアペリティーヴォの代名詞ともいえるカクテル、それが「スプリッツ(spritz)」。逆に「スプリッツ=アペリティーヴォ」を連想させるほどの普及ぶり、とも言える。

今やヴェネトの…とは言いきれない全国展開した代物でもはあるが、やはりこの地に足を踏み入れると、オレンジ色の飲み物が街のあちこちで目に入ってくる頻度は、非常に高い。

「スプリッツ」の正しい姿。これはアペロール入り


そのグラスの中身は、アペロールというオレンジ色のリキュールと地元の発泡ワインであるプロセッコ、そしてガス入りの水。アペロールの代わりに同様にカンパリも用いられる。

カクテルとしては世界的にも公式な飲み物であり、2011年にIBA(国際バーテンダー協会; 1951年設立、本部イギリス)の公式カクテルとして認定もされている。

「スプリッツ(spritz)」の発祥は…

18世紀末のヴェネツィア。ナポレオンによりヴェネツィア共和国が崩壊した後、間もなくしてこの地はオーストリア帝国の占領下となった。

オーストリア軍人は、ヴェネツィアで地元ワインを飲んだところ、彼らにとってはその風味もアルコール度数も強すぎて馴染めず、常飲するたには水で薄める必要があった。そこで、地元ワインをセルツ(seltz)というガス入りの水で薄め、それを「スプリッツェン(spritzen)」と呼んだことから、現在の呼び名となったという。ちなみに「スプリッツェン」の意味するところは、イタリア語だと「スプルッツァーレ(spruzzare)=霧をふきかける」にあたる。

こんな風に生まれた飲み物であることから、その後はヴェネツィア周辺を始めとし、当時ヴェネツィア共和国であったトリヴェネト(ヴェネト州、トレンティーノ・アルトアディジェ州、フリウリ・ヴェネツィアジュリア州)を中心に、広く深く普及するようになった。

現在ヴェネツィア近郊で見かけるスプリッツは、色つきリキュールでつくるものがメジャーだが、フリウリ地方では、地元白ワイン(通常はフリウラーノ)をガス入りの水で割った「スプリッツ・ビアンコ」が非常にポピュラーに飲まれている。こちらのほうがオリジナルに近いものだろう。

「アペロール(aperol)」はパドヴァ出身

スプリッツを語るうえで必須ともなる、あのオレンジ色のおなじみのリキュール「アペロール」。もともと、パドヴァのフラテッリ・バルビエリ社が製造し始めたもので、1919年のパドヴァの展示会「フィエラ・ディ・カンピオーニ」に出展したことを機に世に出たものだ。
そして、それまでは透明色であった地元カクテルに色をつけることで見た目にも華やかさを出すことを提案、地元を中心に「アペロール入りスプリッツ」が広まっていった。

その後、2000年にミラノの酒業界大手C社にその権利を譲ることとなった後、広告力がさらに加わったことでイタリア全土へ広まりることとなる。
機会があれば現在の商品ラベルを、ぜひよくご覧になっていただきたい。アペロールの起源当時のデザインが素材となっていることが判る。

おなじみの「アペロール」のラベル


そして今から10年数年ほど前には、『スプリッツ・ライフ?アペロール・スピリッツ‼︎』というフレーズで同商品のテレビCMが頻繁に流されたことがある。それと期を同じくし、ミラノを中心に急激に浸透した「ハッピー・アワー」というシステム…ドリンクを一杯注文すると、いわゆる乾き物だけではない様々なおつまみがしっかり食べられる…にスプリッツを投入、その流行りを加速させた、ということはよく知られているところだ。(最近では「ハッピー・アワー」は「アペリチェーナ(アペリティーヴォ+夕食)」とさらなる発展も)

企業戦略的であることは否めないが、イタリア全土でこのオレンジ色のカクテルが普及するきっかけになった一因でもある。

アペロール? カンパリ? それとも…?!?

スプリッツを注文する際には、必ず「アペロール入り」か「カンパリ入り」のどちらかの好みを告げる必要がある。その両方を半分ずつで割るのが好み、という友人もいる。

風味としては、アペロールのほうがカンパリよりも苦味が少なく甘さが穏やか。これにさらにプロセッコが加わり、口当たりよく飲みやすい…のだが、油断するとお酒の弱い人は意外と早く酔っ払うので十分にご注意を。

そして、ヴェネツィアーニにはもうひとつのこだわりが。
ヴェネツィアでスプリッツのリキュールといったら、ヴェネツィア生まれの「セレクト(Select)」。カンパリに近い赤色で、薬草の香りや苦みがほんの少し強い。

とにかく自分の土地や好みを強く愛する各人が、自分好みを持っている。

ヴェネツィア人のお宅にて。夕食前にはお決まりの「スプリッツ・アル・セレクト」


家で楽しむ「スプリッツタイム」

さて、家でこのカクテルを楽しむことももちろん可能。レシピ(配合)も多くのものを見かけるが、手順と配合の基本的なものをここに。

①氷を入れたグラスを用意
②プロセッコ: アペロールなどのリキュール = 3 : 2 を注ぐ
③ガス入りの水を注ぐ
④オレンジの皮つきスライスをのせる
⑤(あればなお良し)竹串でグリーンオリーブを刺したものを添える

竹串に刺したグリーンオリーブはおつまみ代わり。これも定番!


厳しい外出・移動・経済活動の制限から段階的に緩和されつつあるこの数日。少し前に感じていたピーンと張り詰めていた緊張した空気からは、解放され始めてはいるものの、様々な生活の箇所にての制限が解除されるには、まだしばらくの時間を要する。

「スプリッツ・タイム」は家でも楽しめはするが、やはり夕暮れ時のピアッツァで、というのがしっくりるものだ。

本当に安心できる日常への期待と祈りをこめて!

このピアッツァは、夕方にテーブルで埋め尽くされるべき場所!


 

パドヴァ名物茹でタコ屋台 「ラ・フォルペリア (La Folperia)」

私の住むパドヴァの旧市街地には、ラジョーネ宮という1200年代に建築された、もと裁判所の建物がある。それを中心に南北をエルベ広場、フルッタ広場、そしてその西側にシニョーリ広場、という3つの大きな広場が位置し、街の最も活気のある中心地として存在する。

日没の遅くなる春先から秋の終わりまでは、この広場周辺のバールが広場にテーブルを出し、アペリティーヴォを楽しむパドヴァーニで賑わう場所。

この広場のひとつ、フルッタ広場の一角に、夕方になると毎日名物屋台が登場する。パドヴァの人ならば、知らない人のいない、夕暮れ時のパドヴァの風景の一部となっている。


この屋台の名物は、「茹でタコ」。店名も「タコ屋(フォルペリア)」という。イタリア語でタコは「ポルポ (polpo)」というが、ここヴェネトでは、訛りで「フォルポ (folpo)」と呼ばれているから、この屋台の目玉はタコ、ということは一目瞭然。

 


夕方になると、赤いひさしの屋台を載せ登場するのは店主のマッシミリアーノ(通称マックス)さん。非常に気さくで実は細かいところによーく気のつく、皆の人気者。

昨今のストリート・フードブームにあやかり、それ関連のガイド本などにも掲載されるようにもなぅた。そんなこともあり、最近ではパドヴァの人だけでなく、観光客なども多く訪れる。


注文は、カウンターの前に並んで自分の順番がくると、マックスが鍋の中からタコを取り出して大きさを見せてくれるので、適当な大きさのものをチョイス。


お互いの同意のもとにて、そのタコをブツブツと一口大に切る。軽く塩をし、特製サルサ・ヴェルデ(パセリとオイル、レモン、少しのニンニクを混ぜたもの)をさっとかけ、さらにレモンをギュッと絞る。


店の周囲のカウンターの空いているスペースを陣取り、お隣さんにもスペースを空けてあげる配慮をしながら、楊枝でつっついて立ち食い、というのがスタンダードなスタイル。

柔らかくて潮味のタコ、最高に美味いアペリティーヴォのお供となる。


飲み物は、隣のバールで調達。店の人たちも事情を承知のうえなので、グラスを持って店を移動しても全く問題なし。

座って食べたい場合には、このお隣のバールのテーブルにタコの皿を運んで、飲み物をオーダーし、落ち着いて食べてもよし。


とにもかくにも、この皿に会うのは間違いなく、冷たく冷えたプロセッコだ。

茹でタコ専門とはいえ、他にもいくつかの魚介の惣菜も用意している。バッカラ・マンテカート、エビのグリル、魚介のフリット・ミスト、他、マックスのアイデア次第で店頭に並ぶものも変わる。

そして、春先から出てくるのは、この「ボヴォレッティ (bovoletti)」。小さなカタツムリ。これは生きたままのものを茹で、タコと同様、サルサ・ヴェルデで和えたもの。楊枝でひとつひとつを中身をすくい出すようにし、手も口のまわりも汚しながら食べる。


広場のこの赤いひさし、夕暮れのパドヴァの街に欠かせない風物詩のひとつ。私の大好きな場所のひとつ。

La Folperia

https://m.facebook.com/la.folperia/?locale2=it_IT