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[マルガの暮らし] [魅せられてトレンティーノ] の冬

今年の8月号、11月号と続いたトレンティーノ特集はお楽しみいただけただろうか。

「マルガ」という1つのキーワードから始まって、気が付けば1週間ほどの取材で13か所もお世話になった。先日、私の手元に本誌が届いたので、それぞれに手渡しするためトレンティーノ巡りを決行することに。郵便で送れば一瞬で簡単なものの、また皆に会いたかったのが一つ。そして、その反応を見るのも楽しみだった。

さて、トレンティーノ取材に同行したのは去る6月のこと。初夏の陽気と山岳地帯の肌寒さが混じる季節であったが、半年も経つと雰囲気がまるで異なる。晴れの予報に喜んだのも束の間、家から1時間半ほどかけて車でトレンティーノ西側の山岳地帯に入っていくと、あるトンネルを抜けた瞬間、突如として濃霧に見舞われる。前日に降った新雪もふわふわに残っていて、見渡す限り真っ白。さすがアルプスのお膝元だと実感した。

霧に包まれた谷の村


ところが、標高600mを越えた辺りから視界が開け、青空が広がってくる。眼下に雲海を望み、日差しが妙に温かい。これもまた、山と谷から成るトレンティーノなのである。

標高600mを越えた辺りからは晴天!奥に雲海が広がっている


今回はお店やレストランが通常営業中なのを踏まえて、あえてアポなしで出発。行き当たりばったりだったが、唯一ランチだけはオステリア・フィオーレでとると決めていた。

忙しい時間帯にもかかわらず、笑顔で歓迎してくれたリタと厨房から顔を出してくれたシルヴィオの姉弟。『イタリア好き』本誌を渡すとイタリア人の誰しもが開口一番、「左から右にページをめくるのか!」と綴じ方の向きが欧米と逆なことに驚くのだが、シルヴィオの場合はちょっと違った。「僕は毎朝、新聞を後ろから読むんだ。だから、僕にピッタリだね」と嬉しそう。

Osteria Fiore の Rita & Silvio と


さらに、自分たちの載っているページを眺めた2人は、何よりも「常連さんたちがいっぱい写っている!!」と大喜びし、「皆、毎日ここに食べにくるのよ。今晩、皆に見せるのが楽しみで仕方ないわ!」とワクワクしている。周りの人への思いやりが第一の、いかにも彼ららしいコメントにほっこりさせられた。

 

50号「マルガ」特集の主役、ラウラとエンリコは、そこから車で15分ほどの距離に冬は住んでいる。本誌にも登場した、あのPEZ村だ。ランチ後「今から訪ねたい」と電話で伝えると「家にいるからいつでもどうぞ」と、マルガ取材のときと同じように快く迎えてくれた。

近年、悩ましいことにトレンティーノにはオオカミが急増し、家畜が危険な目に合っているのだが、その対策として新たに2頭の番犬がエンリコたちの仲間に加わっていた。

イタリアの家畜番犬と言えばマレンマーノ


夏の間、マルガで放牧されていた彼らの山羊はちょうど妊娠中。搾乳は行えない期間であり、チーズ造りもしばらくお休みだという。山羊チーズをいっぱい買うつもりだったのに残念だ。

妊娠中の山羊たち


季節ごとにマルガリの生活は動く。環境に応じて変化していくのだと当たり前のことを改めて思い知らされる。

おうちのリビングにお邪魔し、エンリコに『イタリア好き』50号を渡したところ、彼は熱心に1ページ1ページを読み始めた。日本語がわかるわけでもないのに、ところどころに散りばめられたアルファベットと算用数字を拾い、写真と照らし合わせて読んでいる。いかにもエンリコらしい光景だった。

途中「この“25”は何だ?」と聞かれたので、「雌25頭につき…」と私が説明し始めたらすぐに合点がいった様子で「なんて細かい情報まで書いてあるんだ!」と感激している。息子2人も興味津々で覗き込みながら、「これ僕だよ!」と自分の姿を見つけるのが楽しいみたい。ラウラもエンリコも、十数ページに渡る自分たちの特集に少し驚きつつ、大いに満足してくれた。

50号の主役 Enrico & Laura.  胸に抱かれたアリエルちゃんは7か月に!


1日で全員のもとへは回り切れず、それでも8か所に無事、『イタリア好き』を届けてきた。残りは「来週会うから渡しておくよ」という、ここに出てくる友人たちに託した。

この2冊に共通して言えるのは各々が自然を相手に生き、友達として、もしくは生産者と消費者という関係で、何かしら繋がっていること。手作業にこだわり、旬を大切にする職人たちの魅力が詰まったこのトレンティーノ特集には、立場は違えどお互いを尊敬しながら共存している感がある。大量生産はおろか、季節が過ぎれば売る商品もなくなるくらいなのだが、それが当然のごとく、自然の流れをゆがめようとしない人ばかりだ。

トレンティーノの美しさは、きっとそこにある。

 

Un ringraziamento a
Garda Trentino

知られざるヴェローナ伝統素材 町を彩る“赤大理石”

今年は観光地に人があふれ、多くのイベントも再開したイタリア。ヴェローナにおける天然石の祭典「マルモマック」も例外ではありません。

ヴェローナの展示場と言えば、VINITALYという春のイタリアワイン見本市が世界的に有名ですが、同じ会場で9月末に行われる天然石のメッセも業界では知られた存在。2年のブランクを経て今年56回目を迎えました。


煌びやかな天然石の数々は、見ているだけでも自然の神秘のようなものが感じられます。


富裕層向けの商材ならでは、各社のブースは仮設にもかかわらず高級バーのような装いです。


細かな造形が圧巻の彫刻展示も。


また、会場内には大型機械や小型の道具セクションもあり、日本から研磨関連の企業が2社出展していたのも嬉しく感じました。

POLYTECH CORPORATION(ポリテック)


TOUEI INC.(藤栄)


さて、イタリアの天然石といえばカッラーラの大理石


だけではありません。

ヴェローナでこのマルモマックが行われるのは、やはり歴史的に天然石を使ってきた町だから。山岳地帯レッシーニアではピンクや赤の石が採れ、いわば伝統産業の1つ。実は町中にその石が多用されています。

古代ローマ時代に建てられた約2000年前のアレーナも、内外ともにいわゆる「ヴェローナの赤大理石」からできたもの。

2000年もの間、太陽光にさらされて色あせた石造りのアレーナ


中世の頃、ヴェローナを支配していたスカラ家の霊廟にも使われています。


さらにドゥオモをはじめ、町の至る所に点在する教会も。

サンタナスタシア教会の床や柱にも赤い石(14-15世紀)


ヴェローナの外でも、歴史的に北イタリアの大きな教会などにはよく使われる素材でした。

メインストリートや広場の地面も、ピンクがかっていたらそれはヴェローナ特有の石。階段や床などマンションの共有部分の内装や公園や庭のベンチに使われていることも多々あります。

赤い石で造られたベランダの土台や窓枠


この赤大理石が丈夫なのは、アレーナのお墨付き。1億5000年前までこの一帯は海だったため、アンモナイトの化石を探すのも楽しいものです。


さて、ヴェローナ最大級の「赤大理石」の採石場、ファザー二・チェレステ社にお邪魔してみると、赤い山肌が。

ヴェローナの山岳地帯レッシーニアにあるFASANI CELESTE srl


標高700m地点を中心に広がっていて、形成された時代により4種類の石に分けられるらしいです。


一見、濃い茶色っぽくも見えますが、磨きをかけることでツヤツヤの光沢感がある朱色の石へと生まれ変わっていきます。しかも、切る方向や加工の施し方によって何パターンにも変化し、味わいが全く異なるのです。


高級感ある色合いは海外セレブにも人気で、撥水性に優れ、湿気に強い性質を生かしてキッチンやバスルームなどに使われることも多いそう。


しかしながら、この採石場を父と一緒に守るルカさんによると、この産業は下火なんだとか。採石場が残っているのは4か所のみです。1980年代までは流行りだったものの、この濃い色が古い印象を与え、現代の家に合わせにくいのが一因。今となっては比較的安価でどんな色にも自由に染められるセメントの方が主流となっています。

代表のLuca Fasani(ルカ・ファザー二さん)


伝統と時代の流れの間に葛藤が生じるのは、仕方ないのかもしれません。が、たとえブームが去っても、歴史と伝統という土台がしっかりしているものは決して消えない、とルカさんは信じています。

近年、ファザー二・チェレステ社が手掛けたヴェローナ大聖堂の内装


ヴェローナを散策していると至るところに見受けられる赤大理石。お越しの際はぜひ注目してみてくださいね。

 

ドロミティ歩き③ 見渡す限りのパノラマ広がる穴場、プエツ山群の頂へ

今までトレ・チーメセッラと紹介してきたドロミティ歩き。第三弾の今回はアルト・アディジェ地方、プエツ・オードレ自然公園に位置するプエツ山群から。知名度は低めですが、その分、人が少なめでゆったりと堪能できるのが嬉しいポイントです。

標高1,600mあたりの駐車場に車を置き、出発します。


最初のほうは緩やかな登りが続くため、マウンテンバイクで出かける観光客も見かけたほど。つまり、標高2,900m以上あるプエツ山頂にたどり着くには終盤、一気に登りがきつくなるということです。

序盤はピクニックやハイキングにピッタリのエリア


途中、標高2,475m地点に山小屋があり、ここで引き返す人たちも多くいます。

Puezhütte / Rifugio Puez


しかしながら、我々が目指すのは頂上の2,918m。ビール片手に休憩している人たちを横目に、先を目指します。

山小屋から山頂PUEZSPITZまでは1時間半の表示


ところで、気づきましたか?少し見えにくいですがこの道標、ところどころ3つの言語で記されているんです。といっても、英語はありません。イタリア語、アルト・アディジェ地方の公用語であるドイツ語。そしてもう1つは何でしょう??

『イタリア好き』50号をお読みになっていれば簡単かもしれませんね。

ラディン語です。

下の3つの道標はラディン語、ドイツ語、イタリア語の順で記されている


イタリア語に似ていたり、ドイツ語に似ていたり。でも、響きは柔らかくフランス語っぽいような。このラディン語は方言ではなく、れっきとした言語。地元の人たちの間では日常的に話され、少数言語保護の動きもあってドロミティ地域の至る所で表示されています。散策の折に探してみるのも醍醐味ですよ。

 

さて今回は天気にも恵まれ、ずっと見渡す限りの絶景。

※しばらくパノラマをお楽しみください※






ドロミティに慣れてくると、それぞれの岩山の形をなんとなく覚えてきて面白いもの。「向こうにセッラ山群が見える」とか「あれはサッソルンゴ山群だろう」などと、わかるようになってくるのです。

左奥に広がるセッラ山群とその右にそびえ立つサッソルンゴ山群


そして、頂上が近づき・・・さすが岩峰だけあって断崖が続きます。


下を覗いたらちょっと怖いくらい。でも、これがドロミティ登山の魅力なんですよね~


山頂に着くと!

真夏に行ったにもかかわらず、誰もおらず独り占め。


人気の高い山群ではなかなか起きないことなので、ちょっと特別感もありました。


 

なお、今回はヴェローナから日帰りしましたが、この登山口があるのはヴァル・ガルデーナという美しい谷。オルティゼイ、サンタ・クリスティーナ、セルヴァという3つの可愛らしい村があるため、計画の際はそこを拠点にして登山後の夜を過ごすのがオススメです。

 

3年ぶりの開催!ニシン祭で賑わう灰の水曜日

3月2日水曜日、3年ぶりにヴェローナ郊外のパローナ(Parona)という町でニシン祭が開かれました。ちょうど一昨年、この時期にイタリア各地では全ての行事が中止。去年も外出制限がかかっている状況でイベントどころではなく、ようやく今年になっての復活です。

先週行われたヴェローナのカーニバルで「ニシン祭」の開催をPRするパローナの民


この伝統的なニシン祭は毎年この時期、カーニバルの後の水曜日と決まっているのですが、観光客もいないような冬のド平日の朝からこのお祭りが開かれるのには重要なワケがあります。

カーニバルの山車にもニシン!


それは、パスクアの40日前(日曜を除く)に当たる「灰の水曜日」だから。

かつて、この「四旬節」と呼ばれるパスクア前の40日間は肉断ちをする慣例があったため、ヴェローナでは「肉の代わりに魚」を食べる初日として、ニシン祭が行われるようになりました。

RENGAは方言 イタリア語ではニシン=ARINGA


このパローナ、決してニシンの産地ではありませんが、ヴェローナを囲むアディジェ川の上流側という立地により、ニシンとの関係が深くなったと言われています。

この左側にパローナの町、この川を下った先にヴェローナの町がある


というのも、かつて、北の国(ドイツや北ヨーロッパ)の商人たちはアルプスから流れてくるアディジェ川を船で下りながらヴェネツィア方面を目指していました。その際、パローナが宿場町のような役割を果たしていたのです。特にヴェローナの税関がお休みで通れない日曜日には、多くの商人が足を止めたよう。商人たちは、宿場に売り物のニシンの干物や塩漬けを持ち込み、パローナの女性たちに調理してもらったり、お金がないときにはニシンで支払いをしたりもしていました。


こうしてニシンをよく扱うようになったパローナでは、「灰の水曜日」になると家族や親族とニシンを食べる習慣ができたのだそうです。


ニシンのオイル漬けやパテも特産品として人気


そんな美味しい魚の香りに釣られ、肉断ち初日にヴェローナの住民たちはパローナにやってくるようになり、カーニバルの余韻に浸るかのごとくニシン祭にまで発展した、というわけ。

ニシン祭には仮装して来る人も多い


ニシン祭ではいくつかの屋台が出て、ビーゴリやリゾットなど、いろいろなニシン料理が味わえるのですが、中でも王道と言えるメニューが「ニシンのポレンタ添え」。



貧しい家庭では、やっとの思いで買ってきたニシンの干物を食べずに家の天井から吊るしておき、焼いたポレンタにその干物の香りをこすりつけて食べていたという話もあり、なんとなく時代を感じる一皿となっています。

ニシン自体の味が濃いので、シンプルにポレンタと合わせるのが美味しい


今年は縮小版で行われたニシン祭。とはいえ、多くの地元客で賑わう光景には感慨深いものがありました。夕方にはパレードもあり、夜まで続くニシン祭ですが、ある屋台では「昼過ぎにすでにニシンが売り切れてしまった」と言うほど、想定以上の人が訪れたみたい。

コロナの感染予防に油断してはなりませんが、長い間みんな、こういう雰囲気が恋しかったんだろうとつくづく感じる一日でした。


 

なお、移動祝日パスクアに合わせてカーニバルやニシン祭も毎年日程が変わります。今年を例に整理してみるとこんな流れです。

(カーニバルについての詳細は、過去の記事もご覧ください。)

カーニバル 2月24日(木)~3月1日(火)学校などはお休み
⇒灰の水曜日 3月2日(水)(~4月14日(木)まで四旬節)
⇒聖金曜日 4月15日(金)キリストが十字架にかけられた日
⇒パスクア(復活祭) 4月17日(日)キリストの復活
⇒パスクエッタ(天使の月曜日)4月18日(月)祝日

 

雪山でサバイバル体験‼水道も電気もガスもない小屋で過ごす真冬の夜

というタイトルはちょっと大げさですが、先日初めて冬のビバッコ泊に挑戦してきました。(ビバッコとは無人の避難小屋のことです。詳しくは以前に紹介した記事もどうぞ。)

山中で寝泊まりした経験は何度もあるものの、雪山は初(※同行の夫は経験者です)。しかも、当初行く予定だったところの山道が想像以上に凍結していたため、引き返して急遽行き先を変えざるを得ないというハプニングも発生。そのため、山登り出発の時間が大幅に遅れ、雲行きが怪しくなって雪がちらつき始めるという、あまり良いスタートが切れたとは言えません。


登山口には、ビバッコまでの所要2時間との表示がありましたが、これは夏の話。簡易なアイゼン(靴底に装着する金属製の爪)の装備はあっても、凍った上に雪がかぶった状態の道ではそろりそろりと進まなければなりません。到底、目安通りに辿り着けるわけもなく、時折吹き付ける強風に少し不安になりながらの山登りとなりました。

とはいえ、ひたすら歩いて夕刻、無事にビバッコに到着。


ここはステルヴィオ国立公園の端、目指すはトレンティーノ地区の標高2100m地点です。ビバッコが整っていてほっとするも、誰も使っていない小屋の中は冷え切っていて寒い!電気もガスもない、もちろんスイッチ一つでつけられるような暖房設備もない室内は雪と風を凌げる程度。すぐに火おこしをして暖を取る必要があります。


幸いにも、乾いた薪は十分すぎるほどに備えられていたので一安心。早速ストーブの火を点け、部屋が温まるのを待つと同時に、飲料水確保のために、なんと鍋に雪を入れて沸かします。


少々草などが混ざっていても、雪は貴重で身近に集められる水分。使わない手はありません。ふわっふわの雪をいっぱい詰めても、解けるとかなり少量になるため、外と中を何往復もし、鍋いっぱいの熱湯に。


到着から1時間経って、これでようやくリラックスタイムです。外からは強風が打ち付ける音がビュンビュンと聞こえてきて、小屋のありがたみを感じます。


夕飯調理の前に、まずは軽くアペリティーヴォ。この時間を充実させるために、ワインやハム、チーズ、ポテトチップス、といろいろリュックに詰め込んでくるわけでして。道理で荷物がパンパンに重くなるはずですね。

そして、山小屋のメインディッシュはいつもと同じ。「次はそろそろ新作考えようか」と言っているくらい、決まって毎回作るのがタマネギと一緒に炒めたルガネガ(生ソーセージ)と白インゲン豆のトマトソース和え。今回は唐辛子も加えて、スパイシーな仕上がりに。


これがお腹もしっかり満たされ、素朴ながら心もあったまるお味なんですよね。50年以上前のとある映画からアイデアを得た、夫にとっては山の伝統食のような存在だそう。


夕食を終えて雪解け水で淹れたコーヒーを飲み、まったりと過ごすビバッコの夜。水道がなくても雪があれば使えるし、電気やガスがなくても火さえあれば事足ります。氷点下にも耐えられる羽毛の寝袋のおかげでゆっくり眠ることもでき、ずっとここにいたいと思えるほどに快適でした。

 

さて寝る前に、さっきまで悪天だった外の様子を見に行くと、星がキラキラ。明日はきっと晴れそうな予感です。

 

 

(実際に、翌日は晴天に恵まれました)


 

お祝いは「レチョート」で♪紀元前から続く赤の極上デザートワイン

もうすぐクリスマス、ということで町中はキラキラ。多くの人で賑わっている。


しかしながら、コロナウイルスの新たな変異株や感染者数増加を受けて、イタリアでも徐々に規制が強化されている。これからクリスマスにお正月、とホリデーが続くが、おうちで過ごす時間がまた長くなりそうな予感だ。

そうなれば、ワインをしっかり貯えておくのがイタリア流。おうちパーティに備えて、赤ワインの名産地、ヴェローナのヴァルポリチェッラに買い出しに出かけることにした。

晩秋のヴァルポリチェッラ


一面がブドウ畑となっているこの丘には、大手から小規模まで実に300以上のワイナリーがひしめき合っているが、今回お邪魔したのはヴァルポリチェッラの中でもクラシコと認定されるネグラールの小さな家族経営ワイナリー「フランキーニ

(商業用にヴァルポリチェッラと呼べる範囲が広げられたため、元祖の地域はクラシコという言葉で区別されている。)


彼らの畑は標高250m~500mの丘の上にあり、水はけの良い好条件の立地で育つブドウが自慢だ。

本誌11月号のコラムでも紹介したように、一部の畑の奥底には古代ローマ邸宅のモザイク床が眠っており、国による発掘調査が始まったばかり。

すでに掘り起こされた隣の敷地(2021年夏)


樹齢90年の木々(2021年夏)発掘調査のため、ブドウ収穫後に別の一角へと移植された


小さな頃から祖父がブドウを育てるのを見てきたオーナーのジュリアーノは、別の道に進むも、ノスタルジーを感じてブドウの栽培を再開し、最高のワイン造りに励んできた。

Giuliano Franchini


ワイナリーとしてのオープンは2008年と新しいが、先祖代々が受け継いできた生業でもあるのだ。

1460年に建てられたこの家には貴重な氷室も残っていて見応えがある。


冬の間に降った雪を保管しておくことで、夏でもひんやり、食糧貯蔵庫として最適だったという小さな地下室は、今やヴィンテージワインの保管庫となっていて上から見ると幻想的なデザインに。


ロゴはここから作られた。

 

フランキーニのワインは「全て自分たちの目の届く範囲で行いたい」というポリシーの下、年間生産本数はたったの2万5000本と少なく、スーパーなどにも流通していない。

時に十数種類もの品種のブドウを混ぜ合わせ、丁寧に造られる彼らのワインは香り豊かで味わい深く、我が家のお気に入り。

ボトルをまるごと紙で包むユニークなパッケージは、ジュリアーノの祖父が自家用ワインを造っていた時代に新聞紙でくるんでいた伝統を受け継いでいて、光や埃、湿気から守るという実用的な役割もあるらしい。

包むのもナンバリングも全て手作業


さて、このヴァルポリチェッラ。格付け最高ランクDOCG(統制保証付原産地呼称)を誇る赤ワイン「アマローネ」の産地としてご存じの方も多いだろう。度数14~16%と強めで、濃ゆいガーネット色が美しい高級ワインである。

Amarone della Valpolicella


アマローネ造りの最大の特徴は、この地域でのみ栽培される土着品種、コルヴィーナやロンディネッラなどのブドウを陰干しし、水分を落とすことでブドウの糖度を凝縮させるアパッシメント製法。この独特の過程を踏まないと、11%程度の軽いワインしかできないそうだ。


昔は吊るして干していたようだが、今では風通しの良い木箱に寝かせるのが主流で、カビが生えないよう毎日のケアが欠かせない。


また、樽熟成が3年以上と長く、ボトリング後にも最低1年は寝かせるという。アマローネとして認められるには、月日のかかるワインなのである。


今でこそヴァルポリチェッラの代名詞のような存在となったアマローネだが、実は造られ始めたのは1930年代、とその歴史は浅い。

ここで疑問が湧く。その前はどんなワインを造っていたのか。

その答えが「レチョート」(Recioto della Valpolicella DOCG)である。上品でまろやかな甘さが際立つ赤のデザートワインで、このヴァルポリチェッラでは、古代ローマ、いや、そのもっともっと前、少なくとも2500年前にはすでに造られていたと言われる歴史的なワインだ。今日においては赤のデザートワインは大変珍しく、あまり知られた存在ではないが、当時のワインと言えば甘口が一般的であった。甘みが足りないときには高価だったハチミツを加えて調整することもあり、高貴な人しか飲めなかったのだとか。

Recioto della Valpolicella


数々の賞を受賞しているフランキーニのレチョート造りでは伝統製法を守り、熟成に樽を使用しない(ワイン造りに樽が使われるようになったのは2世紀。それよりもはるか昔からレチョートは存在していたわけだ。)

食後に楽しむようなデザートワインながら「生魚とも合う」というのがフランキーニからの提案だが、日本の料理人さんからは「テリヤキなどと合わせてみたい」との意見も。ともあれ、度数も12%と低く樽のにおいもないので、赤ワインが強くて渋くて苦手、という人にもぜひ試してもらいたい逸品だ。誕生日や結婚記念日など特別な食事会やクリスマス、贈答用にも向いている。

極上の赤ワインだけに少々値が張るのは悩ましいが、もう少し気軽にこれらのワイン風味を楽しむ方法がヴァルポリチェッラにはある。それが、これまたこの地域特有の「リパッソ」。アマローネとレチョート用に陰干ししたブドウを圧搾した後、そのブドウの搾りかすを他の土着品種ワインと混ぜ合わせて熟成させる製法で、アマローネの風味を感じられる上、比較的お手頃価格なのが嬉しく人気がある。

Valpolicella Ripasso


逆にアマローネでも物足りない!なんて方にはこちら。最高品質のブドウが収穫できた年のみ造られるという、貴重な隠れワインがフランキーニには存在する。このワイン、今年は古代ローマのモザイク床発掘にあやかって、インぺリウム(帝国)と名付けられた。


リパッソにアマローネにレチョートに…
おうちパーティ&クリスマスプレゼント用のワインはこれで仕入れ完了。

来年こそは、コロナウイルスを気にすることなく過ごせる日々が戻ることを願いたい。


 

Un ringraziamento a
Franchini Agricola
Via Rita Rosani, 18 Località Forlago 1
37024 Negrar di Valpolicella (Verona)
https://www.franchinivini.com/ita/

 

あったか家族のアグリトゥリズモ × サラミ作り見学

「農業」と「観光」をかけ合わせたイタリア語、アグリトゥリズモ。「農家に泊まる」「農業を体験する」イメージを持つ方も多いかもしれませんが宿泊は必須ではなく、農家直営のレストラン、という感覚で食を楽しめる場所です。提供する食材のだいたい半分以上が自家生産、というのがアグリトゥリズモを名乗れる基準のよう(州によって割合が異なるほか、山間部などでは地域差もあります。)

つまり、気軽に新鮮で旬の美味しいものを堪能できる生産者の家、であり、田舎のほうに行けば点在していて、私の住むヴェローナも例外ではありません。

そんな中で今回紹介するのはここ、アル ボスコ。

いつも笑顔で迎えてくれるマウロ


市内から30分ほど大自然を見渡す丘をドライブして辿り着く、隠れ家のような存在で私のお気に入りです。


今から20年前、マウロたち4人兄弟姉妹は両親と共に、もともと何世代にも渡って住んでいた土地8ヘクタールを一から整備し直して、アグリトゥリズモに転換したのだそう。


土地の半分はアマローネで有名なヴァルポリチェッラDOCGとソアヴェDOCのブドウ畑が占めるほか、オリーブの木が300本。さらにはエンドウマメ、トマト、ラディッキオ、リンゴ、チェリー・・・と挙げればキリがないほどの農作物を栽培し、鶏や鴨、豚の飼育まで行っているのですが、あくまでも目的はレストランで提供するためであって、売るのはごくわずか。マーケットなどへの出店もせず、個人的に頼まれたときのみです。

フルーツジャムやモスタルダ、野菜のオイル漬け&酢漬けなども全て自家製


夏は毎日休まずフル回転でレストランを営業、9月~10月はブドウの収穫で大忙し。秋冬はレストラン営業を週末やクリスマス休暇などに限定して、、、少し休憩しているのかと思ったら大間違い。

11月に入り「サラミ作るよ~」との連絡を受け、特別に見学させてもらうことになりました。冷蔵設備のなかった時代から伝統的に、お肉を扱う作業は冬と決まっていますが、クリスマスなどでレストランが再び忙しくなる12月を避け、マウロたちは少し前倒し。5月末に購入したオスの豚9頭を3頭ずつ3週間に分けて、火曜と水曜に家族総出で400本ものサラミを手作りしています。

マウロと兄弟姉妹&パパ


83歳のマウロのパパも朝4時起きで参加


お肉は主にモモ、ロース、ネックなどの良質な部分を選び抜いて使用。まずお肉を手でもみほぐしていき、そこに塩とコショウ、ニンニクを混ぜ合わせてタネを準備します。


ここで一旦味見。生肉のままでは無理なので、焼いたものを食べて塩加減を確かめます。


次に用意するのが、お肉を詰める薄い袋のようなもの。


腸詰と言われるように、これは牛の腸からできているものです。


それをお肉のタネを詰めた装置の左側に設置し、右側のハンドルを回していくと、


慣れた手つきでみるみるうちに立派なサラミが形作られていきます。


お湯に通して腸とタネをなじませ紐でお馴染みの形に縛り、空気を抜くために針で小さな穴をたくさん開けたら、ひとまず完了。一晩、倉庫でつるして水分を落とし、熟成部屋へと移します。


通常、小さなサラミだと1か月程度で食べ頃となりますが、こちらはヴェネト名物の大きくて熟成期間が長いソプレッサという種。半年以上の熟成を経て、食べられるのは来年5月以降です。この間、水分が抜けて重さは約30%落ちるんだとか。

半年の熟成期間で、重さは3kgから2kgに減る


熟成が始まったばかりのサラミは最初の1か月が繊細なため、細心のケアが必要。特に熟成部屋の湿度管理が重要で、湿度を75-80%に保たなければなりません。しかしながら、マウロたちは湿度管理機器などを置かず、雨が少ないと水をまいて調節します。床は砂利とテラコッタが良く、セメントの壁は呼吸ができないからダメ、などと建築材にも注意が払われているそうです。

出来上がったサラミの周りが白っぽいのは、貴腐と呼ばれる白カビが発生するから。貴腐はサラミ内外の湿度を適度に保ち、正しく熟成するのを助けてくれると言います。

すでに熟成したサラミ(昨年)


マウロたちの目的は大量生産ではないので、電動機械は使わず、全て手作業。アナログな伝統製法にこだわりアットホームな雰囲気の中、丁寧に仕上げられるこのサラミは、それだけで特別感が漂いますよね。それを、他の美味しい自家製食材と一緒に味わえるのがアグリトゥリズモの醍醐味であり嬉しいポイント。

レストランではウェイターを務めるマウロも「お皿をお客様に出すとき、つまり自分たちが一から作り上げたものが美味しい料理となって消費者に届く-その瞬間に感慨深いものがある」と語っていました。


生産者と消費者が直接つながり、お互いの顔が見えるアグリトゥリズモ。ここに限らず、イタリアでオススメしたい体験の一つです。

秋と山とビバッコと。

日本は紅葉が美しくなってくる頃でしょうか。こちら、イタリアの山々の秋はキイロ。

赤いモミジが恋しくもなりますが、雲一つない秋晴れの下で無数のカラマツが輝きを放つ光景は、何気ない秋の物悲しさを払拭してくれるものです。


我が家ではこの時季、山登りに出かけて「ビバッコ」で一晩過ごすのが定番となりつつあり、今年はトレンティーノ地方のペーイオ渓谷へ行くことに。

アウトドア好きにはたまらないある種の「贅沢」を味わいに-

いざ出発です!

 

まずは登山に不可欠な飲み水の確保から。鉄分が豊富というペーイオの水は、なんと小屋まで設置されて汲めるようになっています。


初めて飲んでみてビックリ!正に鉄を飲んでいるかのような味。こんな水が自然に湧き出ているなんて不思議ですが、ピリッと炭酸も効いていて、慣れてくると抵抗なく飲めるようになりました。


ステルヴィオ国立公園の端っこに位置するこの場所は決して有名ではありません。あえてマイナーな方面を選ぶのが我々のスタイルでもあります。

しばらく森林の中を登って行くとダム湖を望む絶景が待っていましたが、人っ子一人おらず、独り占め。


この翌日に下山するまで誰とも会うことはありませんでした。

 

さて、寝袋や着替え、防寒具に食材などがたっぷり詰まった12kgのリュックを担ぎ、登ること2時間弱。標高2100m地点、今夜の宿となるビバッコに到着です。


「避難小屋」と訳されるビバッコは、その性質上、鍵はかかっておらず、通常は誰でも自由に無料で使えるようになっています。もちろん、他の方がいれば共有。情報量が少なくて下調べの段階では詳細がわからないことが多く、ドキドキワクワク。早速、中をチェックします!


入ってすぐに二段ベッドが2つ、奥に素敵な木のテーブルとイス、そして薪ストーブに暖炉という設備です。


もともと、ここは羊飼いたちの小屋だったそうですが、近年改装され、綺麗に整っていて感激。


ビバッコは雨風を凌ぐ程度の小さな小屋のこともあれば、地元の愛好家たちによってしっかり調えられているところもあり、今回の場合は調理道具や枕、毛布なども備わっていました。

そばに水場がなかったため、近くの小川で水をたっぷり汲んでおきます。


さらに明るいうちに薪を集め、この滞在に最も重要なストーブの火を焚いてみると、煙が一気に内部に充満するというトラブル発生!!どうやら、排気筒が機能していない模様です。

 

着火が簡単で調理もでき、小屋全体が温まりやすいのが本来のストーブ。

以前、別のビバッコで使用したストーブの例


それが使えないとは致命的だったのですが、外は氷点下。暖を取るために、暖炉を使用することにしました。子どもの頃からアウトドアに親しんできた夫はこういうときに機転が利いて本当に心強い存在!

暖炉の火が順調に燃え始め、


これはこれで雰囲気が最高でした。

熾火調理は時間がかかりますが、特に急ぐ必要もない山の時間。火の暖かさに癒されながら、ぼーっと過ごす心地よさに眠くなるのを我慢して、夕食タイムにします。


ビバッコ定番メニューはタマネギと一緒に炒めたルガネガ(生ソーセージ)&白インゲン豆のトマトソース和え。山での食事はシンプルでも格別なんですよね。


外はすでに真っ暗、電気もないため、頼りになるのはろうそくの火。ゆらゆら、ゆらゆらと雰囲気も増すばかりです。


携帯もつながらず、大自然の中でゆったりとアナログに過ごす贅沢。一歩外に出れば空一面に無数の星が輝いていて、言葉では言い表せないほどの美しい夜でした。

 

寝袋にくるまって眠り、翌朝。


コーヒーとビスケットで朝食を済ませ、ビバッコを掃除して後にします。


周辺散策を終えたら、再びキイロに染まった森林を通り抜けて帰路へ。


水道も電気もない不便なビバッコ泊は、普段の暮らしとは程遠い唯一無二の体験ができ、何より楽しいからやめられません。


不安に感じる方もいるかもしれませんが、皆様はいかがでしょうか。ご質問やご感想など、気軽にインスタグラム(@yukino.it)にコメントいただけたら嬉しい限りです。

 

「トルボリンはじめました」- 初秋の風物詩 –

ブドウ収穫、真っ只中のイタリア。


産地に行くとブドウでいっぱいになったトラクターが轟音を立てて行き来しており、季節を感じるものです。


これからどんどんワインへと育ってゆくブドウたち、、、


とその前に、忘れちゃいけないのが「トルボリン!」

白ワインの名産地ソアヴェから「今年のトルボリンが始まった」という一報を受け、

ソアヴェの丘


早速ワイナリー「ティラペッレ」(Tirapelle) にお邪魔しました。


トルボリンとはヴェネト方言であり、イタリア語では「トルボリーノ」

イタリア国内でもあまり知られていない存在で、主にイタリア北東部で親しまれてきたのだそう。トルビド(濁っている)という言葉から派生したトルボリンは、正に濁った液体。

実はこれ、発酵が始まったばかりのブドウ汁なんです。

ティラペッレのオーナー、二コラさん


容量600リットルのステンレスタンクから、いずれは立派な白ワインとなる発酵中のシュワシュワ液体を取り出してもらいます。

先週金曜日に収穫したブドウを使用し、月曜日に発酵が始まって2日経ったものを試飲させていただきました。つまり、収穫5日後のブドウ汁。アルコール度数はまだ3%程度。

ソアヴェDOC主要品種ガルガーネガ(Garganega)のトルボリンを試飲


ジュースとも呼べず、ワインとも呼べず。そんな段階のブドウ汁はピリッと炭酸っぽく発酵を感じられる不思議な飲み心地ですが、甘みが美味しく、アルコールを感じないのでどんどん飲めちゃいそうです。

地元のワイナリーに行く際には、タンク持参が基本


強く発酵し続けているトルボリンを持ち帰るには、いくつか気をつけるべきポイントも。

・暑さに注意:発酵が勢いよく進み過ぎて、容器爆発の恐れがあるため

⇒ 保管は冷所:発酵の速度を緩めるため

⇒ 容器のフタはしない:ガスを外に逃がすため

ワイナリーではタンク内が16度に保たれてしっかり管理され、トルボリンはソアヴェDOCのワインへと変化する


おうちに帰ってすぐ、ボトルに移し替えました。


発酵が進むにつれ酸味が増していくため、数日以内に消費する必要があります。アルコール度数は徐々に強くなっていきますが、残念ながらワインとしては美味しくなりません。

おうちでは冷蔵庫保管


 

さて、秋の風物詩、栗やサツマイモに合わせて飲むのが定番の甘いトルボリンは10月、栗の収穫祭にも欠かせない存在。


「栗を食べると口の中がパサパサするだろ。だから、いっぱい飲まなきゃいけない。アルコール度数の低いトルボリンはたくさん飲むのにピッタリなんだ」

と二コラさん。

ただし、飲み過ぎには要注意ですよ!!お腹が緩くなりますからね~

 

Un ringraziamento a
Azienda agricola Tirapelle Nicola
Via Olmo 51
37030 Roncà (Verona)

 

ドロミティ歩き② セッラ山群ピッツボエの登頂は簡単ってホント!?

登山家やクライマーではなくても、「ドロミティに行ってみたい!」と思っている方は多いのではないでしょうか。


ドロミティに行く、と一言で言っても広大すぎるので、目的に応じてしっかりと下調べが必要です。

・ロープウェイ⇒展望台(お散歩レベル)
・ハイキング/トレッキング
・ロッククライミング

と場所によって難易度がかなり異なり、間違えると危険な場合も。ヨーロッパでは山道に柵もないし(私有地外の大自然は皆のものであり、アクセスを制限されることもないため)、レスキューを呼ぶのも自腹。自己責任での行動が基本なのです。

世界遺産にも登録され、大人気観光地となっているドロミティにはロープウェイが数多く整備されアクセスしやすい山々が多くあります。足腰に自信のない方は麓の渓谷を散策したり、ロープウェイで上って展望台から景色を眺めたりするだけでも壮大でゴツゴツした岩山群を楽しめ、満足できるはず。


ハイキングをするなら、以前紹介した大人気トレ・チーメのようにアップダウンが少なめのところを選ぶのがオススメです。


さて、登山は好きでもクライミング経験のない私は、ドロミティの鋭い岩山の頂には到達できない…

と思っていたのですが、見つけました。

「ピッツボエ:ドロミティで最も簡単に行ける3,000m級の山頂」

というウェブサイトの謳い文句。

子どもも高齢者も、と書かれています。なんだかこの怪しい?文言に惹かれ、行ってみることに。果たして本当に誰にでも易しい山なのか、検証です。

とその前に、大事な天気をチェックすると「晴れ/曇り/雨/雷」という山らしい予報。晴れの可能性にかけて出発~!


セッラ山群の頂、ピッツボエ(標高3,152m)を目指すには、ポルドイ峠(同2,240m)から登山道もありますが、実はロープウェイでサスポルドイ(同2,950m)まで楽々上がれます。


所要時間ごくわずか。2~3分であっけなく到着です。


よくこんな断崖にロープウェイを造ったなぁとつくづく。


ここの展望台からでも壮大な景色がぐるりと見渡せるので、このロープウェイの往復を楽しむだけの人も大勢います。

が、我々の目的はピッツボエなので歩き始め。ここからの目安時間は1時間半~2時間。しばらくは下りが続きます。(ということは帰りは上りです。)


ドロミティのような岩山歩きの特徴は砂利道。簡単な山とはいっても、トレッキングシューズの着用が必須です。


さらに、ドロミティ歩きはところどころ、岩がえぐれている上を行きます。怖い方は近づかない&下を見ない方が賢明かな。



と、ここまで序盤は難しくありませんでした。が、終盤に待っているのがこの岩山。


急な個所には鉄のロープ(イタリア語でフェッラータ)が張り巡らされ、それにつかまりながら登って行くという少しハードな部分が数か所ありました。

 


また、ヨーロッパ登山道の紅白サインがこんなに密集して書かれているということは、霧で前が全く見えないこともある証拠でしょう。


とはいえ、登山としては比較的簡単な方でした。小さな子どもも見かけたぐらいです。

 


そして、霧に包まれた山頂。


絶景が見られず残念に思っていたところ、追い打ちをかけて雹が降り、山小屋に一時避難する羽目に。


その後の岩山下山は濡れて滑りやすいので要注意。ゆっくりと一歩一歩を確実に下りるのですが、正直、緊張の連続でした。

山の難易度は天候に大きく左右されるため、いつどきでも侮ってはいけませんね。開けた場所では冷たい風がびゅんびゅんと吹き、太陽のない山の上の温度は6度ほどとかなり寒かったです。


一気に3,000m級まで登ったため、やはり空気の薄さも感じ始めました。

結論として当たり前のことですが、「簡単」と謳われた山道でも天気の変化に十分気をつけること&登山装備は万全に。靴(scarponi)の他に、雨風に強いジャケット(giacca a vento)や強風から首を守るネックゲイター(copricollo)などの小物も必需品です。


今回は眺望に恵まれなかったセッラ山群のピッツボエ。本来ならドロミティ最高峰のマルモラーダを同じくらいの高さに望めたはずなんです。晴天を狙って必ず再訪します。

若い世代が活躍中 未来へとつなぐサスティナブルなワイン造り

最近ヴェローナ界隈でワイナリーを訪れる機会が何度かあり、ワイン業界にも今話題のSDGsの波が広がっているのを感じています。特に若い世代が手間隙を惜しまず、品質へのこだわりを持っているのが見て取れるものです。
歴史ある大手ワイナリーが素晴らしいのも確かですが、個人的には家族経営規模のワイナリーを訪問するのが好き。ブドウ畑に囲まれて生産者と直接話し、ワイン造りにかける情熱を知ると、いただくワインもより美味しい気がしてきます。


さて、ヴェローナには赤のヴァルポリチェッラ、白のソアヴェ、のように有名なDOC(統制原産地呼称)エリアがいくつかあるのですが、この度お届けするのは白ワインの産地ルガーナ(LUGANA)から。


イタリア最大の湖、ガルダ湖の南にDOC地域、ルガーナがあります。ロンバルディア州ブレーシャ県とヴェネト州ヴェローナ県の州境に位置し高低差があまりなく、ワイン生産地としては狭域です。

湖の向こう側にLUGANA産地が広がっている


ガルダ湖は北の一部がトレンティーノ地方で、北側に連なっている山々のおかげで冷たい北風が遮断され、オリーヴやレモンも栽培されるほど比較的温暖な気候。そんな中、Trebbiano di Lugana (Turbiana)という品種のブドウほぼ100%で造られるルガーナは、香り豊かでフルーティーな味わいが世界中で人気となっています。


今回訪問したオリヴィーニ家(Famiglia Olivini)は、1970年に祖父が始めたワイン畑を受け継いだ孫たちが活躍中。と言うと、簡単そうに聞こえますが、実際、私の知り合い農家のおじいちゃんのように「古い手法に固執して、専門的な大学で勉強した孫の改良案を一切聞いてくれない!」なんていう一筋縄にいかないケースもあるわけで。環境に配慮した画期的な技術や装置を次々と取り入れていくオリヴィーニ家は継承の良い成功例と言えそうです。


ビオワインという言葉では認定されていなくても、化学製品を極小にまで抑えビオワインの基準以上の品質を満たしているオリヴィーニ家のワイン。基本的に無農薬栽培で、ブドウの生長を脅かすハダニ駆除の方法はフェロモントラップ。フェロモン剤を染み込ませた紐を垂らしてオスを惑わせ、本物のメスがどこにいるのかをわかりにくくすることで繁殖を防ぎます。


また、ブドウの温度管理も徹底し、収穫後のブドウはすぐに冷蔵室に保管して発酵を防ぐほか、ブドウを破砕する前に特殊なチューブの中を通して10度まで冷やすのだとか。冷たいほうが香り高い仕上がりになるようです。


発酵や熟成を行う際に貯蔵するのはステンレスタンクが6割。ステンレスタンクは温度を一定に保てるほか、密閉性が高く外気を遮断するメリットもあるため今や白ワイン造りの主流ですが、オリヴィーニ家ではタンクの上に残る隙間に窒素の注入も行い、酸化防止に余念がありません。


さらに残り4割には木樽を使って最終的に混ぜ合わせることで木樽のフレーバーも取り入れています。瓶詰めの直前にろ過して不純物を極力減らし、酸化防止剤の添加もごく微量に抑えるのだそうです。


そんな風に生産環境を有機農法に整えながら、新たに生み出されたというワインを試飲させてもらいました。伝統的なワインを作り続ける裏では、あれやこれやと混ぜ合わせを試みて、何年もかけて新たなワインを作ろうとする生産者たち。結果が出るのは何年か経って熟成された後なので気が遠くなりそうですが、なんだか楽しそうでもあります。そしてこの春ついに、2018年のブドウで満足のワインができたみたい!


Trebbiano di Luganaに交配種マンゾーニ(Incrocio Manzoni)6.0.​13.をブレンドした新作の白ワインは、ルガーナのフルーティーさよりも草花のような香りが特徴的なドライ好みの美味しさ。生の魚介類ともよく合いそうなので、次回の日本帰国時には寿司や刺身と合わせて味わうのが楽しみです。

イタリア旅行の際は、味の好みや産地などによって訪問するワイナリーを決める方がほとんどだと思いますが、取り組みやコンセプトに注目するのもおもしろいかもしれません。