【本誌特集続編〈本誌未掲載分〉】故・内藤和雄さんの連載「イタリアワインズキ」を読み解く

vol.47「最強! イタリアワイン」本誌企画の一つとして、イタリアワインのレジェンド、故・内藤和雄さん連載を読み解く企画。内藤さんが、あの連載で書きたかったこと、伝えたかったことはなんだったのか。内藤さんの愛弟子である坂田真一郎さん(「リストランテ・ラ・バリック・トウキョウ」オーナー・ソムリエ)に紐解いてもらった。

p35からの続き、本誌未掲載分は、Vol.22「パレルモを食べる」とVol.24「野菜食べようか、プーリアで」にて紹介された連載から読み解きます。

 
魚介料理と赤ワインが絶妙にマッチするわけとは?
松本 魚介と赤ワイン、このテーマは実に楽しいですね。これはvol.22「パレルモを食べる」特集に掲載されたものです。最後の一文「この国のワイン文化は伝統的に赤なのだ」って言い切っているあたりはすごい!

坂田 このコラムでは、パレルモのストリートフードを楽しそうに物色しながら歩く内藤さんの姿が思い浮かばれますね。

松本 「ビールに合う」と書かれていますが、きっとビール飲みたかったのでしょうね。(笑)

坂田 コラム後半には魚介と赤ワインの組み合わせについて書かれています。シチリアの魚介料理は、ナッツやレーズン、ハーブ、スパイス、パン粉、柑橘などが加わることで、各地でよく見受けられるシンプルな仕上げの魚介とは、味の複雑さやスケールも違う。これらの食材は赤の接着点になりやすいものなので、当然ワインも赤に寄って来る。コラムの最後に「この国のワイン文化は伝統的に赤なのだ」とありますが、シチリアの空気感、異国の文化がミックスされたエキゾチックな料理、皿の配色も含め、その存在感を、受け止めてくれるのって赤なんだなと。赤を合わせると料理に立体感が増すように思います。

松本 魚介は白、みたいな固定観念があるけど、僕も現地を回っているとそればかりではないなと感じていました。これを読んだ時もさすがだなと思いました。

坂田 現地を体験し、魚介に赤を勧める店は昔より格段に増えていますが、個人で楽しむにはまだハードルが高い。そんな時、火を通した魚料理であればあまり深く考えずにシチリアの赤を合わせてみてください。
もう一歩踏み込むなら、内藤さんは、シチリアの魚介料理に合わせたい代表的なものとしてDOCGチェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアと品種ネロ・ダーヴォラを挙げています。
チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアは、フラッパートとネロ・ダーヴォラをブレンドして造ります。配合によって濃厚なスタイルもあれば、瑞々しいものもあります。内藤さんはフラッパートがより引き立つものがお好きでした。イチゴのような優雅で穏やかな果実味や余韻に続く酸がフラッパートの個性。プルーンや紫のベリーの果実の豊かさと優しい甘みがネロ・ダーヴォラの個性。二つの品種のいいとこ取りをしたのがこのワインです。是非色々な生産者を試していただきたいです。内藤さんがお好きだった生産者のひとつはパオロ・カーリ(現在日本未輸入)、流通しているものではオッキピンティも一緒に飲みました。これは個人でも所有していました。
ここにオレンジスライスを入れたらサングリアのように飲めるくらい、柑橘を風味付けに使うシチリア料理に合うんです。生の柑橘を受け入れてくれる赤ワインというのは、シチリアならではだと思います。


松本 オレンジとイワシのサラダとか、ベッカフィーコがまさにそうですね!

坂田 魚介と合わせる入門編としては、シチリア南端、例えばパキーノ近辺などのネロ・ダーヴォラもいいと思います。中部やトラーパニのものとはまた違った瑞々しさと、海側のワインらしい塩味が感じられます。
グルフィのネロ・ダーヴォラは、香りはネロ・ダーヴォラらしくてアルコールも高いけど、程よい酸と海由来のミネラルを感じられてとても飲みやすいです。パキーノ周辺はトマトの産地でもあるからか、単純にトマトとも相性がいい。カポナータにもよく合います。


左からフラッパート(オッキピンティ)ヴィノ・デッラ・パーチェ所蔵、チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリア(オッキピンティ)内藤氏私物、ネロブファレッフィ(グルフィ)


松本 ほんとうですね、口当たりは強いのに、飲み応えはあまり重くない印象ですね。魚介だけでなく、その土地の野菜にも合う。ワインも農作物なんだなと感じますね。

坂田 南イタリア全般に言えることですが、かつてスタイリッシュなワインがもてはやされたイタリアワイン・ルネッサンスの時代以後には、必要以上に濃厚に仕上げたり、新樽のニュアンスを過度に効かせて装飾したりということもありました。ネロ・ダーヴォラもそう。でも本来楽しむべきは、果実味の豊かさや瑞々しさ、ほろ苦さの感じられるネロ・ダーヴォラです。
いい生産者はとても優美で、さまざまな料理と合わせられるワインを造っています。生産者がどういう信念を持ち、どんなワインに仕上げたいのかを知ることは、大切なことだと思います。


松本 ようするに飲んだ時のバランスがどうか、ということですね。

 
大地の恵みとうまみを存分に
松本 さあ、プーリアですね。vol.24「野菜食べようか、プーリアで」に収録しています。実はプリミティーヴォやネグロアマーロは少し苦手なんですけど。この内容を改めて読めば「マッシモそんなこと言っているとまだまだだな」と言われそうです。内藤さんは、土地に根付く料理とワインについてプーリアで強く感じたのではないか、そう思われる内容が書かれていますね。「手なずけられて飲みやすいだけのワインだけではなく、プーリアを理解するには、その核心に迫って欲しい」とありました。

坂田 プーリアは三方を海に囲まれた土地でイタリアでは珍しく平野部が多い。海産物はもちろん、酪農、農業も盛ん。特に野菜料理のおいしさは有名。するとなんとなく白の産地だと思われがちです。でも蓋を開けてみれば、プーリアの大地のエネルギーを受け止めてくれるのは赤! 内藤さんもそう感じるところがあったんじゃないかと思います。

松本 実は僕、プーリアにも何度か行きましたが印象的なワインは今まで出合ったことがありませんでした。

左から ヨー(ジャンフランコ・フィノ)、エス(ジャンフランコ・フィノ)、パトリリオーネ(コジモ・タウリーノ)、ジョイア・デル・コッレ プリミティーヴォ(パスクアーレ・ぺトレーラ)、サリーチェ・サレンティーノ(リ・ヴェ―リ)、サリーチェ・サレンティーノ(コジモ・タウリーノ)本文中で内藤さんがすすめていた生産者から。


坂田 カステル・デル・モンテ周辺にはエレガントなワインがあるのですが、コラムでは触れていませんね。きっとこのコラムは内藤さんがプーリアに行き始めた初期にサレント半島で受けた感動と、本文に出てくるプーリアの「核心」に触れた瞬間をもとに話しているのでは、と考えられます。
オリーブの古木が並ぶ乾いた広い大地に、独特の香りが漂う店の中で飲んだぬるいプリミティーヴォの衝撃って温度管理を徹底していた内藤さんにとってはものすごかったんじゃないかと。でも大地の恵みとパワーをそのままいただくような絶対的にうまい野菜料理と、同じくそこで育ったブドウの赤ワインと、そのバランスに感動したのだと思います。


松本 なんかわかります。オヤジが造ったワインがマンマの料理と見事にマッチしておいしかったりする。

坂田 プリミティーヴォは元々糖度が高く、アルコール度も高いのですが、温度が上がるとそれがさらに増す。これがプーリア料理の持つ香り、うまみや苦みが、凝縮された味わいと同格のストラクチャーとなります。
内藤さんがコラムですすめていたこのパスクアーレ・ぺトレーラのジョイア・デル・コッレは、とてもエレガントな プリミティーヴォですが、品種の個性を素晴らしく表現しています。濃い目のベリーの香りにしっかりとしたアタック、新鮮なブドウの皮の渋みを思わせる程度のタンニンが感じられますが、余韻はべったりせずにきれい。ハッカのような清涼感もありますね。
オリーヴオイルやトマトの旨み・酸味ともよく合うので、肉でももちろんいいのですが、野菜類のほうが飽きずにワインを飲み続けられます。


松本 パルミジャーナ・メランザーネですね!

坂田 ばっちりですね! それから内藤さんが特別な思いを持っていたのがコジモ・タウリーノという生産者です。かつてプーリアやシチリアのワインは、大量生産品や北部のワインを補強するために輸出され、高値で取引できるよう色の濃くアルコール度の高いものを造るという時代がありあした。フィロキセラ被害のあと、そうした状況からの脱却を図る流れが生まれます。そのなかで地域や品種の個性を明確化していくという今のプーリアワインの礎を築いた生産者のひとりがコジモ・タウリーノでした。彼が造ったパトリリオーネはプーリアワインの代表作のひとつです。
ネグロアマーロ主体で造るサリーチェ・サレンティーノは、かつて生産者自身もそのアイデンティティをどこに置くべきか迷った時期があったようですが、コジモ・タウリーノやリ・ヴェーリは等身大のネグロアマーロを表現しています。ネグロアマーロの特徴は、カカオのような苦みに、太陽をいっぱい浴びて育ったブドウの皮ならではの香り高さや、甘みを伴った質感といったものです。トマトの甘みや酸味、ズッキーニ、パプリカのなどの甘苦さと相乗効果をなします。


松本 甘いアタックと苦みの余韻が、ローストしたパプリカと合うのか。たしかに。懐が深いですね。

坂田 同郷のよしみとはこういうことでしょうね。料理もワインも、質感や凝縮感が同等で、飲んでいて何よりの心地よさがある。そしてプーリアのジューシーで香り高い粘性のあるオリーヴオイルもワインの質感と合う。赤ワインのタンニンや構成要素の複雑さは、野菜料理のストラクチャーを明確にしてくれます。だからこそ水分含有量の多い野菜を加熱して凝縮した旨みと香りを引き出した料理と楽しめるというわけです。

松本 プーリアは前菜の野菜料理だけでごちそうですよね。結局、野菜しか採れないから、ワインに合わせるのか、野菜に合わせるのかわからないけど、おいしくなるように工夫して食べるんですね。

坂田 当時は農民が食べざるを得なかったもの。本文中に出てくる「焼いた粉でつくるパスタ」もそう。これだけ好きな食べ物を選べる現代にその土地に根付いていたものをわざわざ再現している。存在理由は違いますが、その土地の個性と歴史を受け継ぐという意味においては、非常に意義のあること。そういうロマンがとても大切だと思います。

松本  「ワインにはロマン」いいですね。坂田さん、このたびは取材にご協力いただきありがとうございました。とてもいい話が聞けました。

内藤さんがコラム内で実名を出している生産者、もしくは銘柄、地域に限っており、生前に店で使用したもの、個人で所有していたもの、気に入っていたもの、から厳選して限定セットとして「ロッソ・ルビーノ」で販売することになりました。それぞれ内藤さんがこだわり、熱く書き残してくれたワインをぜひお楽しみください。



《『イタリア好き』限定 内藤和雄さんの「イタリアワインズキ」6本セット のご紹介》

ワイン解説:坂田真一郎(「リストランテ・ラ・バリック・トウキョウ」オーナー・ソムリエ)

「魚介と赤ワイン」から Nerojbleo/Gulfi(ネロイブレオ グルフィ)(赤)

シチリア南部で栽培されるネッロ・ダーヴォラ。海の側の畑からの葡萄もブレンドされている。滑らかな口当たりと心地よい塩味と鉄分、上品でふくよかな果実味のバランスが素晴らしい。加熱した魚介料理とシチーリアのネッロ・ダーヴォラとの組み合わせの入門編に最適。

「ヴェローナ東のワイン産地」から Soave Classico/TESSARI(ソアーヴェ・クラッシコ テッサーリ)(白)

ソアーヴェ・クラッシコの模範と呼べる1本。鉱物的なミネラルとキレのある酸が味わいを引き締める。内藤さんのワイン授業でも登場していたワイン。

「ヴェローナ東のワイン産地」から Spumante Gran Cuv’ee/Fongaro(スプマンテ・グラン・キュヴェ  フォンガロ)(発泡)

この品種、気候風土ならではの心地よい硬さと上質な泡を楽しめる辛口スパークリングワイン。20年程前に日本に輸入された際に内藤さんが喜んでいた1本。

「アリアーニコの無いイタリアなんて…!!」から Camerlengo/Camerlengo(カメルレンゴ カメルレンゴ)(赤)

内藤さんが亡くなる直前まで普及に尽力していたアリアーニコ種。特にこのワインは内藤さんのすすめで日本に輸入が始まった思い入れのある1本。肉料理とはもちろん好相性ですが、内藤さんのおすすめ通り、加熱した野菜料理とも合わせてみてほしい。

「プーリアワイン概論」から Gioia del colle/Fatalone(ジョイア・デル・コッレ
ファタローネ(パスクアーレ・ペトレーラ))(赤)

本文中ですすめていた生産社の一つ。プリミティーヴォはジャムのように濃厚というイメージを持っている方に試していただきたいワイン。瑞々しい果実味と伸びやかな酸、上品な甘みを楽しめる。様々なプーリア料理と合わせやすい。

「プーリアワイン概論」から Salice salentino/Cosimo Taurino (サリーチェ・サレンティーノ コジモ・タウリーノ)(赤)

内藤さんが最も敬愛していたプーリアの生産者の一人。本文にも出てくるフラッグシップ「パトリリオーネ」は格別。今回はウニと合わせたというサリーチェ・サレンティーノを。
プリミティーヴォ同様、サリーチェ・サレンティーノも明確な個性があるため、敬遠する人もいますが、これを機にぜひ積極的に大地の恵みを受けたプーリアの赤ワインを。

《ワイン特集限定 内藤和雄さんの「イタリアワインズキ」6本セット》●Spumante Gran Cuv’ee/Fongaro(泡)2016
●Soave Classico/TESSARI(白)2018
●Camerlengo/Camerlengo(赤)2016
●Gioia del colle/Fatalone(赤)2019
●Salice salentino Riserva/Cosimo Taurino(赤)2011
●Nerojbleo/Gulfi(赤)2018
▼内藤和雄さんの「イタリアワインズキ」6本セットはこちらから 
https://rossorubino.jp/italia_winesuki