北イタリアでよく食されるポレンタ。イタリア好きの方なら誰もが知っている、とうもろこしの粉をお粥状に煮たものです。パンの代わりに食べられるような主食的役割で、その素朴な味わいから、あまり注目されることはないかもしれません。私も以前はポレンタなんてどこで食べても同じだろう、と思っていました。しかし、実はトレンティーノ地域には、いわばポレンタの里があり、ブランド米ならぬブランドポレンタのような感覚で、トレンティーノの人たちに愛されるポレンタがあるのです。
その名産地の名はストーロ。トレンティーノ地域の南西、ロンバルディア州ブレーシャ県との境目近くに位置します。

“ストーロの黄色い粉”
ストーロのとうもろこしは、マラーノという品種で、赤みがかったツヤツヤの粒が特徴的です。

収穫後、挽く前にしっかりと山の風で乾燥させる
外皮ごと挽いた全粒粉で、綺麗な黄色い粉の中に濃い色の外皮が混ざっているのが明らか。
このストーロ産のポレンタを初めて食べたときには、ナッツ系の何かが混ざっているのかと間違ったくらい香ばしく甘い味わいで、ポレンタの印象が大きく変わりました。
ストーロ周辺のトラットリアでは、「ストーロのポレンタ」のみを注文することもできるし、トレンティーノにはこのポレンタをメインにした名物、ポレンタ・カルボネーラなる料理も存在します。

ランゴ村のクリスマスマーケットの一コマ
ポレンタに3種のチーズとフレッシュサラミを混ぜ赤ワインで煮た、山岳地帯にピッタリの一皿です。

Polenta Carboneraはお祭りなどにもよく登場する
ストーロでは10月に収穫祭も開かれ、さまざまなポレンタ料理を楽しめます。一言でポレンタといっても、奥が深いことがおわかりいただけるでしょう。

『イタリア好き』51号「魅せられてトレンティーノ」にも出てくるストーロのポレンタ@Albergo Osteria Fiore
さて、ストーロと言えば、もう一つ。嬉しい再会がありました。『イタリア好き』51号(2022年11月発行)の取材でお世話になった、カルネ・サラーダ職人のマッシモ・チスさんです。

2022年カルネ・サラーダ取材時のMassimo Cisさん
彼は当時から語っていた夢を叶え、2023年秋、このストーロにソーセージ工房をオープン。この地域の伝統だから、と作り続けているカルネ・サラーダの拠点はそのままに、新たな土地で自分の「野心」であるソーセージ生産を本格的に始めていました。

「ソーセージ作りは僕のambizione(野心)なのさ」
今回は突然訪ねたため、工房は稼働していないときでしたが、あの低くいい声で、信念を語ってくれました。肉の加工品の中でも、安価に見られがちなソーセージ。しかしながら、マッシモさんのソーセージは全て化学添加物を一切使用せず、最高品質にこだわり、保存料を加えない代わりにパッケージングの後、高温加熱処理で殺菌をしています。その分、コストが上がり、“高価なソーセージ”を消費者に理解してもらうのはなかなか難しい、と試行錯誤の日々。それでも、彼の目的は、適当な材料で大量生産してより多く儲けることではないと言い切ります。

基本の4種類(牛豚合びき、豚仔牛合びき、100%豚、100%レンデーナ牛)に加え、小売店などからのカスタマイズ要望にも応えている
さらに、食の安全やサステナブル、というキーワードを意識し、自分の道を進むマッシモさんは食の未来を危惧し、トレント大学の培養肉(動物の細胞を体外で培養し、肉を生産)研究にも協力しているそう。大自然の中、多くの動物がのびのびと暮らすトレンティーノでそのような活動をしていると、周囲から変な目で見られることもあるようですが、気にしません。
僕には後継者がいないんだ、と言いつつも、もっと大きな範囲で先を見据えているマッシモさんの姿勢には、なんだか深く考えさせられるものがありました。
その名産地の名はストーロ。トレンティーノ地域の南西、ロンバルディア州ブレーシャ県との境目近くに位置します。

ストーロのとうもろこしは、マラーノという品種で、赤みがかったツヤツヤの粒が特徴的です。

外皮ごと挽いた全粒粉で、綺麗な黄色い粉の中に濃い色の外皮が混ざっているのが明らか。

このストーロ産のポレンタを初めて食べたときには、ナッツ系の何かが混ざっているのかと間違ったくらい香ばしく甘い味わいで、ポレンタの印象が大きく変わりました。

ストーロ周辺のトラットリアでは、「ストーロのポレンタ」のみを注文することもできるし、トレンティーノにはこのポレンタをメインにした名物、ポレンタ・カルボネーラなる料理も存在します。

ポレンタに3種のチーズとフレッシュサラミを混ぜ赤ワインで煮た、山岳地帯にピッタリの一皿です。

ストーロでは10月に収穫祭も開かれ、さまざまなポレンタ料理を楽しめます。一言でポレンタといっても、奥が深いことがおわかりいただけるでしょう。

さて、ストーロと言えば、もう一つ。嬉しい再会がありました。『イタリア好き』51号(2022年11月発行)の取材でお世話になった、カルネ・サラーダ職人のマッシモ・チスさんです。

彼は当時から語っていた夢を叶え、2023年秋、このストーロにソーセージ工房をオープン。この地域の伝統だから、と作り続けているカルネ・サラーダの拠点はそのままに、新たな土地で自分の「野心」であるソーセージ生産を本格的に始めていました。

今回は突然訪ねたため、工房は稼働していないときでしたが、あの低くいい声で、信念を語ってくれました。肉の加工品の中でも、安価に見られがちなソーセージ。しかしながら、マッシモさんのソーセージは全て化学添加物を一切使用せず、最高品質にこだわり、保存料を加えない代わりにパッケージングの後、高温加熱処理で殺菌をしています。その分、コストが上がり、“高価なソーセージ”を消費者に理解してもらうのはなかなか難しい、と試行錯誤の日々。それでも、彼の目的は、適当な材料で大量生産してより多く儲けることではないと言い切ります。

さらに、食の安全やサステナブル、というキーワードを意識し、自分の道を進むマッシモさんは食の未来を危惧し、トレント大学の培養肉(動物の細胞を体外で培養し、肉を生産)研究にも協力しているそう。大自然の中、多くの動物がのびのびと暮らすトレンティーノでそのような活動をしていると、周囲から変な目で見られることもあるようですが、気にしません。
僕には後継者がいないんだ、と言いつつも、もっと大きな範囲で先を見据えているマッシモさんの姿勢には、なんだか深く考えさせられるものがありました。