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贈って贈られて、アブルッツォ伝統菓子が揃うパスクア

クリスマスと並んで大切な行事とされているPasqua(復活祭)が終わりました。
連休になることもあり、親戚や友人と会う機会も増え、慌ただしくも賑やかな数日間が終わると、まさに祭りのあと、という心境。

また、こうした行事には地方の伝統や風習も色濃く出るのも興味深いところです。

お菓子も例外ではなく、全国的に知られたイースターエッグのチョコやコロンバもスーパーに積み上がりますが、”アブルッツォといえば”、という伝統菓子も幾つかあり、今回、代表的なものが手作りで我が家にも揃ったのでご紹介します。


左上から時計回りにFiadoni、Pupa、Cuore d’Abruzzo (Cuore di pasta di mandorle)。


老若男女に人気のFiadoniはラビオリと似た要領で作る焼き菓子で、ペコリーノやパルミジャーノなどの粉チーズを複数ブレンドして作る塩味のあるバージョンと、リコッタチーズやチョコなどを入れる甘く仕上げるバージョンがあります。私が親しみのあるのは塩味の方。ワインともよく合うのでアペリテーヴォにもぴったりです。

今回、聖金曜日に友人の家でFiadoni作りに参戦。

生地を作り、種を乗せて、包んで、裁断して、卵を塗って、オーブンへ・・・といった一連の作業を皆で分担しながら何度も繰り返します。一人だと気が遠くなりますが、皆でお喋りしながらだとその時間もまた楽しい。



この日は結果的に7−8家族分、200個近いFiadoniが完成しました。それぞれトレイに分けてリボンを結んで各家に持ち帰ります。


Pupaとはお人形や女の子のこと。歴史的には婚約者の家族間で新郎の家族には女の子の、新婦の家族には馬の形をしたお菓子を贈る風習があったとか。現在は祖父母から孫たちへ贈るお菓子のひとつに。復活祭の象徴である卵を抱えたバージョンなどもあり、見た目にも楽しいお菓子。今回はなんと、友人が私バージョンとして、着物を着た日本女性のPupaをサプライズでプレゼントしてくれました。おいしいうちに、と思いつつ、特別過ぎて惜しくてまだ食べられずにいます。

最後はCuore d’Abruzzo別名Cuore di Pasta di Mandorle。

これは羊飼いが長い移牧に出る際、妻が焼いて渡していたと言われるもの。たっぷりのチョコやアーモンドを用い、日持ちがしてエネルギーとなるハート型のお菓子は、孤独な移牧生活を慰めたに違いありません。


これはお隣のマンマが2週間ほど前から準備を始めていました。そんなに前から、と言うなかれ・・まずはベースとなる硬いパンを一つひとつ夜遅くまで掛けて焼き上げ、日を置いて表面にチョコを塗り、固まるのを待つ。仕上げはチョコクリームでデコレーションする。手間暇がかかるとはまさにこのこと。事前に渡したい人がいたとかもあり、段取り、、大事です。

最初は「絞る手に力が入らないから、昔みたいにト音記号がうまく描けない」と嘆いていたデコレーション作業ですが、調子を取り戻すと、そこら中にト音記号を描きまくってました。

「あんた達の分もちゃんとあるよ」とニヤリ。後日、コンフェッティと一緒にラップングしてプレゼントしてくれました。


忙しい合間を縫ってでも、「伝統行事は好きだから」と手間を惜しまず準備を楽しむマンマ達。自分たちの分だけでなく、親戚や友人、日頃お世話になっている方を想いながら何日も前から準備をして、贈り、贈られる。

心のこもったお菓子が家に並んでいるとそれだけでもほっこりと嬉しくなります。手作り伝統菓子の力を改めて感じたパスクアでした。

【アブルッツォ】羊飼いの歴史が紡ぎ出す、伝統の手織りで冬支度


これから冬にかけ、羊毛を使った機織り仕事が忙しい季節を迎える。長く羊の移牧が経済を支えてきたアブルッツォでは、羊毛を使った織物も伝統工芸のひとつだ。鮮やかな色彩と大胆な幾何学模様が特徴の手織りの掛毛布などは、今でも各家庭で見かける。

ヴァレリア・ベッリさんは故郷の手織物に魅了され、女性たちが家仕事として受け継いできた伝統と技術を学び、今に伝える。彼女の工房には昔ながらの手織り機があり、伝統的なベッドカバーやマットなどの大作を担う他、教室や子ども向けのワークショップなども積極的に開き、文化を継承している。

近くの山に自生の草木で染めた羊毛
伝統的な織り機の道具

彼女が織り上げたシーツは小さな村のホテルでも使われている
伝統的な幾何学模様で織ったホテルの掛布団

今の季節は冬に向けてショールやストールなどを織る。毛糸はアブルッツォ産のものを好んで使い、紡がれたばかりの毛糸が手に入ると、近くの山や丘で自生する草花を摘み、自ら染め上げる。

自然の中を散策することは座り仕事の多い彼女にとって絶好の気分転換でもある。ここから、アブルッツォの自然と伝統技術が織りなす、唯一無二の作品が生まれている。

インスピレーションをもらえる自然豊かなマイエッラの山


【Filiforme di Valeria Belli laboratorio/studio di tessitura a mano】
●住所:Via Aterno, 340 Brecciarola 66100(CH)Stazione di Chietiから車orバスで約10分
●TEL:3488147296
●HP:https://www.facebook.com/Filiforme-di-Valeria-Belli-laboratoriostudio-di-tessitura-a-mano-380372475387774/
※見学等は事前の確認が必要

【アブルッツォ州】なぜ3つあるの?! 「修道女のおっぱい」という名のお菓子


今回紹介するのは、『イタリア好き』アブルッツォ特集号でもとりあげられた、グアルディアグレーレ。

アブルッツォ州の南東に位置するキエティ県の中で9番目に人口が多く、人口は約9千人。標高約600mの丘陵地の斜面に沿って発展した町です。

県庁所在地であるキエティからは路線バス「TUA」で約1時間。町のいたるところからは3,000mに届こうかという雄大な山々を望むことができます。中世から続くその町並みは、「イタリアの最も美しい村」にも登録されています。

国立公園の玄関口に佇む美しい村


アドリア海と地中海を分断するようにイタリア半島を縦貫するアペニン山脈。最高峰は2,910mの高さを誇るコルノグランデ、それに続くのがマイエッラ山系のモンテ・アマーロ(2,793m)です。

これらの山はいずれもアブルッツォ州に属すのですが、グアルディアグレーレはこのモンテアマーロの麓、緑豊かなマイエッラ国立公園内にあります。地名にも「グアルディア(guardia)=見張り役」とあるように、見晴らしの良い丘の上に立つこの町の周囲には、今も中世に建てられた監視塔や町の入場を制限していたであろうゲートが点在しています。

町の中心に建つサンタ・マリア・マッジョーレ教会は13世紀頃のもので、マイエッラの山から削ってきた石で作られています。日曜日になると教会前の広場を中心に市場が立ち、周辺の町や村からも日用品や食材を買い求める人たちでにぎわいます。

アブルッツォを代表する銘菓「修道女のおっぱい」とは?


グアルディアグレーレには、この町を一躍有名にしたお菓子があります。それが「修道女のおっぱい」と呼ばれる「シーセ・デッレ・モナケ(Sise delle monache)」です。

「シーセ」とは、アブルッツォの方言で「おっぱい」のこと。ところがこのお菓子、とんがり山が3つ。「なぜ3つのふくらみがあるのにおっぱい?」という、素朴な疑問がわきます。由来は諸説あるようですが、その日常が少しミステリアスな存在である修道女たちのゆったりとした衣装の下には、もしかして3つのおっぱいがあったりして……という、ちょっとしたファンタジーとユーモアから名付けられたというもの。

たっぷりのカスタードをはさんだ卵の風味が効いたふわふわのカステラ生地の上には粉糖がまぶされ、それが山に降る雪のようにも見えるため、別名「トレモンティ(Tre monti)=3つの山」とも呼ばれています。うれしそうにキエティっ子たちが見守る中、がぶりと思い切りかぶりついて食べましょう。

優美な鉄細工の世界を作り出す職人のまち


グアルディアグレーレは、金属の加工や細工でも有名な町で、14世紀からは鋳造技術を用い硬貨の製造も行われていました。鍋や水瓶などの実用品だけでなく、貴族からの依頼を受けて、優美な装飾を施した燭台やベッドや貴金属品なども、熟練の職人たちが手がけていました。

現在も町の一角にあるサン・ジョヴァンニ門の周辺を中心に工房などが残っており、職人の技を目にすることができます。マッジョーレ教会の鐘楼にも曲線が優雅な鉄細工の鐘が鎮座し、町の伝統工芸を象徴しているようにも見えます。

また、毎年夏には地元の芸術工芸活動を支え手工芸品を普及させていくことを目的とした展覧会が開催されています。金属細工だけでなく、陶芸や彫刻、刺繍など幅広い分野の芸術家や職人達がアブルッツォ中から集まり、作品を紹介する場となっています。

まちなかで「シーセ・デッレ・モナケ」が食べられるのこの2つのお店。
ご近所なので食べ比べも?!
(1)
●名称:パスティッチェリア・エモ・ルッロ(Pasticceria Emo Lullo)
●住所:Via Roma, 105, 66016 Guardiagrele (CH)
●TEL:0871 82242
●営:9:00~12:30、16:00〜19:00
●休:月曜 (祝祭日は休業・時間変更の場合があります)

(2)
●名称:パスティッチェリア・パルメリオ(Pasticceria Palmerio)
●住所:Via Roma, 70, 66016 Guardiagrele (CH)
●TEL:0871 82727
●営:9:00~20:00
●休:月曜 (祝祭日は休業・時間変更の場合があります)

(2019年5月)

8月最後の週末に待つ大仕事

アブルッツォの特産品の中でも代表格といえるものにサフランがあります。

特にラクイラ県のナヴェッリ高原周辺ではサフランの生産者組合を設立し、「Zafferano dell’Aquila」の名でDOPの認定を受けたサフランを生産しすることで、今もその文化と質を守っています。

ナヴェッリの旧市街↓


ナヴェッリの高原地帯↓


DOPの指定を受けたサフラン↓


このサフランの収穫や加工は、毎年10月の末から11月の初旬にかけて行われるのですが、その植え付け作業は8月最後の週末に行います。

その由来は定かではありませんが、サフランがナヴェッリに伝わった1,200年代から伝統的に植え付けは8月の下旬に行われており、現在はDOPの規則としても定められています。

私がいつも訪ねる「Altopiano di Navelli生産者組合」では、植え付けの日を8月最後の週末と決め、組合メンバー皆で一斉に作業を行います。

まずは事前に掘り起こされた球根の汚れを落とし(Mondatura/モンダトゥーラ)選別する作業(Selezione/セレツィオーネ)を行います。



トラックいっぱいに運ばれて来る大量の球根を手分けして土を落とし、選別します。

力仕事ではありませんが、とにかく手間のかかる作業。

花の摘み取りの時と同様、机を囲んで総動員で行います。


翌日はいよいよ植え付けです。


前年の冬から土を起こし、自然の肥料(堆肥)を与えて土を肥やしてきた土地に畝を作っていきます。


ここでは、3本ずつの畝を作り、あぜ道となる部分を挟んで2列ずつに球根を並べていきます。


・・と、文にしてもピンとこなかったので図にしてもらいました↓
現在は畝を作りながら球根を並べ、土をかぶせるまでの作業を一度に機械でできるようになったので、皆の負担はかなり軽減されたようです。



ちなみに、実質3日間かけて友人たちの地域で植えた球根は約3トン分。

この3トン分の球根から取れるサフランはわずか3,000g程。”L’oro rosso”と呼ばれ、希少かつ高価になるのも納得です。

後日、球根が植えられた場所と畦を区別するため整地するとこのようになります。↓


そして10月の終わりには、可憐なサフランの花が咲き収穫の時期を迎えます。↓


※収穫・加工の記事「ナヴェッリ特産、サフラン収穫体験」はこちらから → 

おまけ的に・・

8月にはもうひとつ、ナヴェッリ地方の特産品である「ひよこ豆」が収穫の時期を迎えていました。

一般的なひよこ豆より小粒ですが、その分、味が濃く栄養化の高いナヴェッリのひよこ豆はスローフードにも認定されています。


恥ずかしながら、ひよこ豆がどんな風に育つのか初めて見ました。

そして、ナヴェッリの2大特産物であるサフランとひよこ豆を使ったマンマのレシピも公開していますよ(有料)。

マンマのレシピはこちら → 


 

Grazie mille, Massimiliano D’Innocenzo, Francesca Ardizzola!

 

 

 

 

異例のPasqua、そして変わらないのは・・

コロナウイルスによる厳しい外出禁止令が敷かれた中での
今年のPasqua。

アブルッツォでも伝統的な行事の多くが異例の措置を求められる事になりました。

「Processione di Venerdi’ santo di Chieti」
復活祭直前の金曜日に行われる、
聖金曜日の行進。
キエティで400年近く続く行事で、
聖職者、円錐形で目だけが出たカピロテという帽子を被った人々、
十字架から降ろされたイエス、嘆くマリアに続き、
聖歌隊、合唱隊など300人程から成る行列がキエティの町を練り歩くもの。
毎年各地から40,000人程の見学者が集まる州内でも大きな行事のひとつです。

去年の様子。

今年はこの行進は中止され、
Bruno Forte司教がたった1人でキエティのまちを祈りを捧げながら巡り、
キエティの市民たちはその様子をテレビの中継で見守りました。
長い歴史の中では世界大戦なども経てきましたが、
中止となったのは今回が初めてだったとか。



市民たちは金曜の朝、
バルコニーに出て一斉に本来演奏・歌うはずだった賛美歌ミゼレーレを合奏し、
つながりを感じ合ったといいます。

そしてもうひとつ、
復活祭の行事としてとても良く知られているのが、
復活祭当日にスルモーナで行われる
「Madonna che scappa」です。
これは、復活祭の日、悲しみにくれていたマリアが、
復活し目の前に現れたキリストに駆け寄るシーンを表現した行事。

見どころは、黒い服に身を包みうなだれるマリアが、
合図とともにキリストに駆け寄る瞬間。
衣装が黒から春色のそれに早変わりすると同時に鳩が飛び出し
喜びを表現します。
この瞬間を見届けるために、
まちのメイン広場であるガリバルディ広場は固唾を呑む人々で埋め尽くされます。

私も何年も行って見たいと思いつつ、
人混みの多さに尻込みして行けていない行事です。

こちらに関しても今年はその走り抜ける瞬間を配信された動画で見ることとなりました。


そして、復活祭の翌日もPasquetta(パスクエッタ)と呼ばれる休日。
この日はピクニックやBBQをして春の訪れを楽しむ日。

どうした訳かここ何年か、
この日はお天気が悪くなるジンクスが続いていましたが、
今年はポカポカ陽気に恵まれた様で、
外出こそ出来ませんが各家庭では、
庭先やベランダに出て、
Arrosticiniを食べて過ごしていたようです。

SNSはArrosticiniの写真でいっぱい。
その先にあるだろう笑顔を想像すると、
少し気持ちが軽くなります。
やっぱり、これがなくては・・!

 
こんな小さな子も美味しいそうに食べています。
なんとも愛くるしい生粋のアブルッツェーゼです。

来年は、またいつもの復活祭が過ごせますように。
一緒に乗り越えましょう。

Grazie, Alessio Marini, Cristina Aceto.

アブルッツォ号登場メンバーも大活躍!迫力満点の火祭り

1月15日〜17日、キエティ県のFaraFiliorumPetriで「聖アントニオ祭」が開催されました。

これは1799年、この地域にフランス軍が攻め入ろうとした際、村の人々が守護聖人である聖アントニオに祈りを捧げると、村の周囲の森が火に覆われ、フランス軍を追い払ったという「聖アントニオの奇跡」を祝う祭りとして大切に引き継がれてきたものです。

毎年、聖アントニオの日である1月17日とその前の2日間、計3日間に渡って行われ、中でも1月16日にファルキエと呼ばれる巨大松明を掲げる火祭りは、アブルッツォを代表する祭りのひとつとして知られています。

この祭りには、昨年の8月に発行された「イタリア好きvol.38アブルッツォ号」に登場したメンバーも中心メンバーとして大活躍!是非彼らのまた違った一面、勇姿を(長文ですが)御覧ください。

松明は直径約80センチ、高さが10m近くあり、15(年によって変動あり)からなる村の各地区でリーダーが中心になり1つずつ巨大な松明を完成させていきます。

1月6日のエピファニア(公現祭)が終わる頃になると、暖炉のついた大きなテントが張られ、松明づくりの準備が始まります。

松明は前年の2月頃に刈り、十分に乾燥させておいた葦を使います。巨大松明が土の上で自立するよう、正確に計算しながら円柱にしていく必要があります。

心臓と呼ばれる松明の芯の部分を作っているところ。

心臓部を中心に葦を加えていきながら松明の本体ができました。

これらの葦を固定するのには、西洋コリヤナギを使います。ここでは”しなり”が必要なため、新鮮なものを12月の末に刈りにいきます。

枝は先端が細くなるため、2本の枝をつないで1本の太い枝にします。そのため、まずは火で炙り柔らかくし、


男性5〜6人がかりで引っ張り合いながら2本の柳を結び合わせます。

そうしてつなぎ合わせた柳を松明の周囲に添わせ、結び目を1人が支え、両端を持つ二人がねじりながら固定していきます。

この作業も大きな見どころのひとつ。大の男たちが顔を真っ赤にし、全身の力を振り絞って柳をねじり上げていくのですが、息を合わせなければ失敗することもあるので、緊張が走る瞬間でもあります。

こうして、ねじられ冷え固まった結び目は完全に固定され、解ける事がありません。


この作業を皆、仕事帰りにテントに集まり、祭りの前日に合わせて仕上げていきます。

結び目の数は伝統的に奇数と決まっているらしく、17または19の結び目を作って行くそうです。

結び目の羅列が既に美しい・・!

本番が近づいてくると、テントに集まって来る人がどんどん増えてきます。この祭りのために帰省する人も多く、再会を喜び合える場でもあります。完成に近づいていく松明を囲み、女性たちが中心になり準備した食事やお菓子を一緒に食べ、夜遅くまで歌い、踊り共に時間を過ごす日々が始まります。ある地区では本番前日、大きな火をくべ、ボルテージを一気上げていきます。

「イタリア好きvol.38」にも登場したアッロスティチーニ名人フランコさんと取材班の宿泊先を提供してくれたエンニオさんはともに、ファルキエのリーダー。前日フランコさんをエンニオさんが表敬訪問。二人とも誇らしげないい顔です。


いよいよ本番当日。聖アントニオ像を正面に綺麗に飾り付けられた松明が出番を待ちます。

重さ約250キロある松明は、各地区からトラクターや人が担ぎ、聖アントニオ教会前の広場に集結します。

トラクターで運ばれる松明。これはフランコさんの地区。

別の地区からも松明がトラクターで登場。

束の間一緒に合唱し、ワインで乾杯しお互いを称え合いながら、拍手で見送っていきます。

下りと上り坂がひたすら続く1,1kmの距離を担いで運ぶエンニオさんの地区もいよいよ出発。緊張マックスのとき登場したのがこの方。

リキュールづくりの職人フランチェスコさん。ふらっと登場し、みんなが大好きなジェンツィアーナをニコニコ笑顔で振る舞いはじめ、思わずエンニオさんもこの笑顔。

エンニオさんの掛け声で担ぎ上げらた松明もいよいよ出発。奏者なども乗り、4〜500kgになった松明を随時交代しながらゆっくりと広場まで運びます。
無事広場に到着し、松明をおろした瞬間もその達成感からお互い喜び称え合う瞬間です。

さらなるみどころは松明の立ち上げ。

松明の上部に紐を掛け引っ張りつつ、下からも押し上げていくのです。ここもリーダーの見せ所。集中しているフランコさん。

彼の掛け声と共にはしごで支えながら、少しずつ松明を持ち上げていきます。お隣でも立ち上げが始まった!と思ってよくよく見るとリーダーはヤギの絶品チーズを作るジャンピエトロさんではないですか!男前度増してます。


エンニオさんの地区は1段ずつ上げていくのではなく一気に引っ張り上げていきます。一瞬で立ち上げるので緊張もマックスになる瞬間です。ちなみに今年はわずか12秒という最短記録を樹立。

伝統的には長い葦の先端に火を着け点火しますが仕掛け花火や爆竹を使う地区もあります。仕掛け花火で点火された松明。全ての松明に火が灯され、夜空を照らす松明の美しさと迫力に見とれながら、皆の達成感に包まれた空気はたまらなく暖かいものでした。

そうそう、会場ではマウリツィオのポルケッタも大人気でした。

Fara.F.Pは人口2000人程の小さな村です。そこで、毎年15の地区がそれぞれに準備をすすめ、これだけの祭りを成功させていることに驚きと感動を隠せません。

フランコさんは、「続けていくことは決して簡単なことではない」と前置きし、「でも説明ができない血が自分を突き動かす」と言います。

小さい頃から親しみ憧れ、世代を繋いでいく。

地域をひとつにする伝統行事の底力がそこにあります。

先日の日曜日、来年の松明づくりに向けての葦集めにメンバーが再会していました。準備はすでに始まっています。

家族と友達と。アブルッツォのド定番おもてなしメニューと言えば・・

先日のことですが、

長い夏休みも終わり新学期直前の週末。

友人家族、総勢15名が集まる夕食会に招待してもらいました。

皆でわいわい楽しむ時のお料理のメインと言えば・・

やはりArrosticini(アッロスティチーニ=羊の串焼き)です!

この日はなんと150本、地元の肉屋さんから調達してくれていました。

スーパーなどでも安く手に入りますが、肉からこだわる職人さんが作るものには敵いません。

「イタリア好きvol.38」でも紹介しましたが、多くのアブルッツォの家庭にはアッロスティチーニ専用の焼き台が常備されており、大抵は、その家の男性陣が炭熾しから焼きを任されます。

この日は「焼きの名人」だという友人の弟が焼きを担当することに。アメリカから帰って来たばかりということで、時差ボケにも負けず大役を担います。


これが専用の焼き台。これだけの串数を一気に焼けるのはなかなか慣れた人の技。


5本位を束にしてまとめてひっくり返していきます。

みんな舌が肥えている上に、自分の好きな焼き加減や塩加減がある人ばかり。

また焼き過ぎると固くなってしまうので、程よい焼き加減になるよう集中力が求められます。

大切なのは塩。この家庭では中粗の塩をタイミングを図りながら合わせていきます。

焼けたら熱々のまま直ぐにテーブルへ!

ここは兄弟の連携プレーが求められます。

この家庭では食べやすいようボウルに入れていますが、熱さを逃さない様にアルミホイルに包んだり、タコ壺に似た専用の器に入れることもあります。


テーブルに上がると冷めて脂が固くなる前に皆で熱々を頬張ります。

猫舌のイメージがあるイタリア人ですが、こればっかりは熱々で食べることが大切です。


今回、アッロスティチーニと合わせて食べるのは、お義父さんが畑で収穫してきたばかりの野菜たち。

まずは名残の夏野菜。ナスやトマト、タマネギ、パプリカをじっくり炒め煮した”Ciabotto(チャボット)”。

塩を控え野菜の甘みをしっかり味わえるので、ちょっと塩の効いた羊肉とは相性バツグン。無限ループです。


さらに、よく熟して真っ赤な大きなトマトはオリーブオイルとバジリコだけでシンプルなサラダに。

お義父さんが「トマトは畑のステーキとも言うんだよ」と自慢のトマトを前に誇らしげに教えてくれました。

確かに、肉厚で甘みが豊かで、しっかり主役が務まる存在感です。

これも自家製だというパンは、アブルッツォに昔からある品種ソリーナ小麦を使ったもの。外はカリッと中はもちふわ。ほんのり香る甘い小麦の香りがくせになり、皆ついつい手が伸びます、

そして、ワインはお決まりのモンテプルチャーノ・ダブルッツォ。

ようやくお腹が膨らんで来ると、お決まりなのは、今日何本食べたか、皆でお互いの串を数え合うこと。

たくさん食べれば食べる程、それは武勇伝になります。

ちなみにこの日の私は12本。

パンや野菜が美味しすぎて食べ過ぎた割には羊もよく食べた方です。いや、美味しかった!


食後は消化を助けるリキュールなどを楽しみながら、これまた自家製のデザート。モンテプルチャーノで作ったジャムがたっぷり入ったタルトです。

この日食卓に上がったのはほぼ全てが自家製のものや地元のもの。旬もしっかり感じながら、アブルッツォらしい食事会に大満足の夜でした。

夏の珍味?!雨上がりに思わず探してしまうのは・・

夕方。熱い日差しを遮断するかの様に勢いよく降り出した雨。

1時間程で止んでしまい、畑を耕す人にとっては「もう少し降ってくれないと(雨水が)根まで届かないから意味がないんだよな・・・」と、がっかりさせた雨の後には傾きはじめた太陽が濡れた葉を照らします。


雨上がりの好きな時間。

気分転換も兼ねて外に出てウロウロしていると隣に住むマダムが草むらに入って何かを探しています。

聞くと料理に使うため”lumache”を探していると言いいます。

Lumache(ルマーケ)=カタツムリ

ちょうど、アブルッツォの郷土料理について調べることがあり、古い料理本に出てくる「カタツムリ料理」のページが気になっていたタイミング。

アブルッツォを行き来するようになって17年(!)が経ちますが、これまで食べたことがなかったカタツムリ。

こんなところでチャンス到来!とばかりにちゃっかり自分も食べさせてもらう気満々でカタツムリ探しを手伝うことに。

「こういうところにいるんだよ。」と教えてもらった草の陰を見ると、確かにどこから現れたのかたくさんのカタツムリがいます!



その可愛らしさに一瞬躊躇したものの、好奇心が勝り、「いつもは畑の野菜を食べる困った存在だから」と、言い訳もしながら無心で捕りはじめました。

庭をぐるっと回るだけでも小さな袋がすぐにいっぱいになります。

それでも料理をするには最低100個は必要らしく、夜にはもっと出てくると言うので暗くなるのを待つことに。

夕飯の後、腹ごなしと夕涼みも兼ねて再び庭へ。

すると、確かに・・さっき以上にカタツムリたちが出てきています。いったいどこにいたのか・・


懐中電灯を片手に2人で夢中で探すと30分程で「もう十分」という程のカタツムリが集まりました。

このカタツムリ、実は食べるまでの処理が大変です。

これまで食べてきたものの中に寄生虫などがいると危険なので、ここから5日程かけて安全な葉などの餌をやりながら既にお腹に溜まっていた糞を全て出させます。


日陰に置いてしばらく面倒を見る日が続きます。

すぐにでも食べられると簡単に思っていたのでちょっと残念。

と思っていた矢先。

たまたま外食した先の特別メニューに「カタツムリ」の文字を見つけたので、そこはフライングですが迷わずオーダー。


熱々のテラコッタの器でやってきたカタツムリ。


料理法はいろいろあるようですが、今回はトマト煮込み。


一緒に付いてきた小さなピックで掻き出して食べます。

カタツムリの身に少しニンニクを効かせたパン粉が詰められており、トマトソースがしっかり染みています。

一口で口に放り込み続けざまに殻に口を付け、勢いよく吸って中に残っているトマトソースを味わうのだとか。

食べる前のイメージは「つぶ貝」でしたが、それよりは柔らかく味も優しくクセはあまりありません。

正直、貝好きとしては少し物足りなく、果たしてあの手間に対して見合うものかと考えるところ。。逆に言えば、手間を掛け工夫しながら食べられてきた食材だったということでしょう。

そう思うと、その手間を惜しまずこうして食べさせてもらえることもありがたい。

一粒一粒ちびちび食べながらワインを頂くのも、なかなかに趣でいい時間です。

そしてまた私は、雨上がりになると草むらに入り、あの渦巻きを探してしまうに違いありません。

春の味覚、野生アスパラガス狩りを楽しむ

芽吹きの春。

今年は少し冬が長かったようで、ようやく春らしい陽気がアブルッツォにもやってきました。

ちょうど野生のアスパラが採れる時期だというので、山までアスパラ狩りへ。


野生のアスパラガスは早いもの勝ち。名人について、道なき道を入っていきます。


トゲをむき出しにしてくる草をかき分け、まずは親木を見つけその周辺に食べごろの芽の部分が出てきていないか探します。

スーパーに並んでいるものより細くひょろっとしていて土や周りの草木と同化しているので、見つけるのは決して簡単ではありません。


それだけに、すっとまっすぐに伸びた芽を見つけた時の嬉しさはひとしおです。

採れたての野生のアスパラガスはそのまま食べることもできます。

かじると少し草っぽさが広がりますが、噛むほどに馴染みのあるアスパラガスの風味が鼻腔を伝って主張し始めます。収穫の喜びも手伝って、つい食べすぎて帰るまでになくなってしまう人もいるとか。


そしてこの野生のアスパラガスの楽しみ方はやはりリゾットでしょうか。


にんにくで香りを付ける以外は余計なものは加えずアスパラガスの香りを最大限に引き出して楽しみます。

茎の方い部分は火を通した後ピュレ状にして色と香り付けに。

食べる前におろしたてのチーズをたっぷり掛けるとさらに甘みが広がります。

 

寒い冬に恋しくなるあったかメニュー②

前回はからだの芯まで温めてくれる、熱々のポレンタを紹介しました。

今回の料理は冬以外も登場はしますが、暑い夏より寒い冬に食べたくなる2皿です。

その2つに共通するのは、”スープ仕立て”であること。

日本でもあったかいおうどんやお蕎麦、粕汁に鍋料理など”お汁もの”が恋しくなるのと同様、寒い季節はこのスープ仕立てにして食べるショートパスタがたまりません。

イタリア語ではこういう”汁多め、つゆだく”のことを”brodoso(ブロドーソ=スープ量の多い)”というのですが、今回はいずれも普段のトマトソースにパスタの茹で汁を多めに入れて延ばしてスープ仕立てにして作ります。

※反対にお汁の少ないスパゲッティ用のパスタなどはpastasciutta , pasta asciutta(アシュッタ=水気のない、スープ状でない)と呼びます。

私が”イタリアのマンマ”と慕うアンナマリアは、若い頃手打ちパスタ店を経営していた程のパスタ名人。彼女が作る手打ちパスタ料理の中でも1,2を争う私の好物である今回の2皿。

1つ目は「羊飼い風指輪のパスタ(anellini alla pecorara)」。

羊の移動放牧が長く経済を支えてきたアブルッツォ。長い間家を空けて羊と共に生活をする羊飼いのために、早く食べられ且つ、紐などに通して持ち運びやすいようにと指輪型にしたとされるパスタです。


トマトソースとたっぷりのリコッタチーズを入れた鍋に茹でたてのパスタを加え、味を見ながら茹で汁を足していきます。仕上げには羊のチーズを振りかます。

このパスタに関しては、スープ仕立てである以上に比較的冬に食べる理由があります。それは手間のかかるパスタ作り。暑い夏はできるだけ短縮したい台所仕事。冬なら長い夜の時間、暖炉の前に陣取ってゆっくりおしゃべりを楽しみながら作ることができます。


小麦粉に卵、水、塩を加えた生地を短い棒状に切り分け、


それをひとつひとつくるりと指に巻き付けて指輪状にしていきます。その際、指の腹をつかって少しねじりを加えるのがポイントです。


パスタに独特の弾力が加わり、チーズがたっぷりはいった重めのソースとも相性が抜群です。

そして2皿目。こちらは正直年中食べてしまう大好物「豆のショートパスタ(sagne e fagioli)」。夏場はasciuttaで食べることも多いのですが冬場は断然brodosoでいただきます。


こちらは日本のうどんに似た、小麦粉と水、塩だけでつくるシンプルなsagneと呼ばれるパスタを使います。


トマトソースにホクホクに炊いたうずら豆を加え、こちらも茹で汁で延ばしたスープを和えていただきます。出来たて熱々の上にたっぷりのチーズに加え、唐辛子を刻んで少し味にアクセントを足すことも忘れません。


休日のお昼などは友人や家族が集まり、皆でテーブルを囲んでいただきます。大きなスプーンいっぱいに掬って熱々をハフハフと頬張ると少し汗ばむほど。この、スプーンでパクパクいけるのが、ショートパスタの魅力でもあります。

あったかいスープが五臓六腑に沁み入って寒さも吹き飛びます。

 

 

寒い冬に恋しくなるあったかメニュー①

寒い冬。

暖炉の前の特等席を陣取ってハフハフ頬張りたいひと皿と言えば、ポレンタです。

トウモロコシの粉で作るポレンタは、北イタリア料理のイメージがありますが、アブルッツォでも冬の定番料理に数えられます。

北イタリアに見られる粒の食感が残る粗挽きのものに比べ、アブルッツォでは比較的細かく挽いたものを用い、なめらかな触感に仕上げます。

最近はレトルト製品も多く出回ってはいますが、昔ながらの調理法は冬でも汗をかきながら行う様な、根気と体力を要する重労働。それだけに、たまに登場するとテンションが上ります。

まず、深鍋(アブルッツォでは伝統的に銅製の鍋を使っていました)にお湯を沸かし、ポレンタの粉をダマにならないよう木べらや泡立て器でよく混ぜながら加えていきます。

しばらくすると粉が水を含んで膨らんでくるので、あとは鍋肌に焦げ付かない様約40分かけてピュレ状になるまでひたすら混ぜていくのですがこれがとにかく大変。

水分が飛んで混ぜるのもやっとになるほどどっしりとした粘りが出て来るので混ぜ終わるころには腕はパンパンです。


ようやくなめらかなピュレ状に仕上がったポレンタ。

サルシッチャや豚・牛肉で煮込んだトマトソースで食べるのが定番です。平らなお皿にのばしたポレンタの上にたっぷりトマトソースを掛け、仕上げにチーズをすりおろします。


通好みなのは、唐辛子の入ったピリ辛のレバーソーセージ(Salsiccia di fegato)をほぐし、たっぷりのオリーブオイルで加熱したものを掛けたビアンコ。


それにしてもこのオイルの量・・!

私も初めはこのオイルの量にぎょっとしたものですが、ソーセージに入っているニンニクやハーブも効いて、ピリ辛と相まってすっかりクセになってしまった一品。


冷めると固くなってくるので(これはこれで美味しいのですが)是非アツアツのうちに。

テーブルに出来たてのポレンタが並ぶと、皆よーいドンで自分の器に取り分け、大きなスプーンを使って一気に頬張ります。

粘度のあるアツアツのポレンタが、食道から胃を温めながら、ゆっくりと落ちていくのが分かります。

合わせるワインはもちろん、モンテプルチャーノ・ダブルッツォ。程よい赤ワインの酸味がさらに食欲を誘います。

ただこのポレンタ、なめらかなピュレ状に仕上げてあるので、ほとんど噛む必要がなく、ほぼ「飲む」様にどんどん口に入れてしまい、つい食べ過ぎてしまうので要注意。。

 

しっかりお腹に溜まったポレンタが時間差で胃の中で膨らみ身動きが取れない・・なんてことになりますので(経験者談)。

それでも、寒い日は懲りずに食べたくなるのですが・・・