マンマのレシピ

マンマの紹介

  • イネス・マッツォーニ(Ines Mazzoni)さん
  • リグーリア州ジェノヴァ市在住
  • 【得意料理】リグーリア風ストカフィッソの煮込み、ジェノヴァ風トリッパの煮込み、タコとじゃがいものリグーリア風サラダなど。

お料理説明・背景

「ミネストローネ」と言えば、トマトベースの赤色の野菜スープを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、ジェノヴァでは「ミネストローネ」といえば「緑色」。色の秘密はバジルの葉を使ったジェノヴェーゼ・ソース(イタリアではペストと呼ばれる)を使用するためだ。栄養価が高く消化にもよい健康的な料理で、ジェノヴァの代表的なおふくろの味のひとつである。温かくても冷たくても、どちらもおいしくいただけるので、季節を問わず一年を通して食卓に登場する。冷たいミネストローネは食欲の少ない夏の栄養補給にうってつけだ。昔の農家の人たちは朝食に大盛りの冷えたミネストローネ(前日の残り)を食べ、スタミナをつけてから畑仕事に出かけていたという。

昔ジェノヴァでは大半の野菜はビザーニョ(Bisagno)川の周辺で栽培されていた。その名残から野菜や果物を売る人のことをベザニン(Bezagnin)と呼ぶ。良質な季節の野菜をたっぷり使ったミネストローネは、地元民だけでなくジェノヴァの港にやってくる船乗りたちにも大変人気だったそうだ。
フォカッチャ・ディ・レッコ中世後期~1960年後半まで、ジェノヴァ港では地元の言葉でカドラーイ(Cadrai)と呼ばれる人たちが働いていた。語源は英語のTo catererつまりケータリングのことで、レストランから港に停泊する船へと料理運ぶ仕事をする人たちのこと。長旅でお腹を空かせた船乗りたちに、温かくて湯気が立つミネストローネ・ジェノヴェーゼを、大鍋ごと縄で釣って桟橋から船へ持ち上げて渡していたそうだ。時には小舟で大型船へ届けることもあった。フォカッチャ、ファリナータ、トルタ・サラータなど色々な料理を提供していたが、一番人気はミネストローネ・ジェノヴェーゼだった。カドラーイたちは色んな国のことばを使って外国の船乗りたちとコミュニケーションをとっていた。新しい船が入港する度に「カドラーイですよ! おいしいミネストローネはいかがですか! 」という彼らの大声が港に響き渡っていた。

現在2人の孫の世話で毎日大忙しのイネスさん。彼女の料理は近所や親戚中でも評判で、外食するよりもずっとおいしいと言われるほど。今は定年退職したが長年食品を扱うお店で働いていて、料理好きの同僚やお客さんたちと各々のレシピ交換をするのが楽しみだったそうだ。何十年も前に交換した大量のレシピを今も大事に保管している。イネスさんはジェノヴァ語が達者で、同年代の人たちと喋るときは突然方言になるので、何を喋っているのかほとんど分からない。今回使うボルロッティ豆は、ジェノヴァ語ではルメと呼ばれるのだと教えてくれた。

フォカッチャ・ディ・レッコそしてミネストローネ・ジェノヴェーゼには豆や野菜のほかに特別なパスタが入れられる。代表的な2種類のうちどちらかを使用するのが一般的。一つ目はブリケッティ(Brichetti)というスパゲッティを2センチほどの小さな長さに切ったような形のパスタ。もう一つはスクックスン(Scuccusun)という小さな球の形のパスタ。この2つのパスタの長所は、時間が経ち冷めてもある程度の固さが残ること。またパスタが野菜と豆を煮込んだスープの水分を吸い取り、全体的にとろみのある仕上がりになる。スープ状のサラサラしたもの、とろみのあるドロッとしたもの……と家庭やお店によって異なるが、正統派は後者である。(前者が間違っているというわけではない)ミネストローネ・ジェノヴェーゼを料理する際の重要なルールのひとつとして、「深皿に盛り、そこにスプーンを直立させても倒れなければ完璧」と言われるそうだ。イネスさんは、それは少し言い過ぎだと言うが、つまりはある程度とろみに固さが求められているということだ。

レポート:大西 奈々(Nana Onishi)
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから

材料

ミネストローネ・ジェノヴェーゼ(8人分)

・ボルロッティ豆さや込みで約300gクランベリービーン
・サヤインゲンさや込みで約150g
・エンドウ豆さや込みで約200g
・ポロネギ1本
・セロリ1本
・タマネギ1個
・サボイキャベツ約100g普通のキャベツでも可
・ジャガイモ3個
・ニンジン1本
・カボチャ約200g
・ズッキーニ4本
・ミニトマト4個または大きなトマト1つ
・ビエトレ(てん菜)約100gホウレンソウでも代用可
・ブリケッティまたはスクックスン約150〜200g ディターリ・リガーティなどのショートパスタで代用
ジェノヴェーゼ・ソーススプーン大盛り1〜2杯一般的なソース(バジリコ100-150g、オイル60-80cc、パルミジャーノ約50g、ペコリーノ約30g、松の実30g、ニンニク1片、塩ひとつまみ)
・塩1つかみ分
・パルミジャーノ・レッジャーノお好みで適量
・エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル適量

作り方

    下ごしらえ

  1. 豆類はさやから取り出す。サヤインゲンは両端を取り除き小さくちぎる。エンドウ豆のさやは外側の薄皮を剥いて捨てずに使用。(写真a 参照)
  2. ズッキーニが花付きの場合は、花の中身を取り除いて細切りにして使用。(写真b 参照)
  3. ポロネギ、タマネギ、キャベツ、セロリ、ニンジン、カボチャ、ズッキーニ、ジャガイモ、ビエトレはそれぞれ小さく切る。(写真c 参照)
  4. 野菜類を入れたボール(ミニトマトは切らずに追加)に水を溜め、しばらくしてからザルに入れて流す。この作業を2〜3回繰り返して野菜をよく洗う。(写真d 参照)
  5. 洗い終わったミニトマトは小さく切る。(写真e 参照)

作り方

  1. 野菜と豆類、粗塩を圧力鍋に入れる。具材を超えない高さ(ヒタヒタよりも下あたり)まで水を加え、圧がかかってから弱火で30〜40分ほど煮込む。普通のお鍋の場合は中火〜弱火で長時間(最低1時間)火にかける。(写真f 参照)
  2. 圧がとれたら水の量を確認して少ない場合は足す。(この後パスタを入れると水分を吸ってスープがドロっとするのでこの段階では水っぽいくらいでよい)味見をして塩加減を調節。(写真g 参照)
  3. 火を止めた状態でハンドミキサーを少しかけ、具材を少しつぶす。完全にクリーム状にはせず、野菜や豆の形が半分残る程度に留める。(写真h 参照)
  4. 再び火にかけ沸騰させたら、パスタを加えて指定のゆで時間煮る。鍋底が焦げやすいので頻繁に混ぜる。(写真i 参照)
  5. パスタがゆで上がったら火を止める。仕上げにジェノヴェーゼ・ソース、オリーヴオイル少々を加えて混ぜれば完成。お好みでパルミジャーノ・レッジャーノを振り掛けて召し上がれ。(写真j,k 参照)
  • a. エンドウ豆の外側の薄皮を剥く
  • b. ズッキーニの花は中身を取り除いて細切り
  • c. 野菜をそれぞれ小さく切る
  • d. 野菜をきれいに洗う
  • e. ミニトマトは小さく切る
  • f. 鍋で野菜と豆類を煮込む
  • g. 水の量と塩加減を調整する
  • h. 具材を半分ぐらいつぶす
  • i. パスタを加える
  • j. 頻繁に混ぜながらパスタをゆでる
  • k. 仕上げにジェノベーゼ・ソースを加える

お料理ポイント

できあがってからしばらく置くととろみがついてよりおいしい。イネスさんやご家族の皆さんは、熱々よりもやや冷めた状態や、冷たくした状態が好みなのだそう。ジェノヴェーゼ・ソースとオリーヴオイルは火を止めてからなるべく食べる直前に加えること。豆類は季節外れの場合、乾燥豆でもOK。乾燥豆を使用する場合は一晩水に浸けて下ゆでしたものを使う。

イネスさんからアドバイス「トマトの量はほんの少しだけ(酸味が出てしまうため)。基本的には台所に余っている野菜を入れてOK。夏にはナス、冬にはカリフラワーを追加するなど、季節の野菜を加えると一層おいしく、身体にもいいですよ! 」