本物のバルサミコ酢とは?
伝統的製法のバルサミコ酢
やっと春らしくなったと思ったら、また週末から気温が下がりそうな、エミリア・ロマーニャ州ですが、皆さんいかがお過ごしですか?
今日は伝統的製法で作られるモデナのバルサミコ酢(ABTM Aceto Balsamico Tradizionale di Modena)のお話をしたいと思います。
伝統的製法で作られた本物のバルサミコ酢を口にした事がありますか?
この写真の棚の中には1つも伝統的製法で作られたバルサミコ酢がありません。日本の方で、伝統的製法で作られた本物のバルサミコ酢を口にした事がある方はいったい何人いらっしゃるでしょうか?イタリア人でもほんの一握りの方しか口にした事がないと思います。
「バルサミコ酢」という名前のついたお酢は世界中に流通していますが、伝統的な製法で作られているバルサミコ酢は、現在流通しているバルサミコ酢の0.01%です。これだけ名前が知られているのに本物を口にした事がないという食品も珍しいと思います。
伝統的製法で作られているバルサミコ酢に見分け方
見分け方は、実はいたって簡単。
原料と価格をみてください。
原料モストコット(ぶどうの絞り汁を直火で煮て濃縮したもの 写真)、樽での熟成期間が12年以上である事。価格はイタリアモデナで100mlの瓶が、12年もので40ユーロ前後、25年もので90ユーロ前後。勿論日本に入ればこの3倍近くの値が付くことは必須です。
フィアットかフェラーリか?
例えていうならば、フィアット社の赤い車、フェラーリ社の赤い車。同じ四つのタイヤの道路を走る赤い車ですが、かたや世界中の工場で大量生産された大衆車、もう一方は全てモデナの工場にて一台づつ手作りされた超高級車。バルサミコ酢も同じ事工場で大量生産されたものか、原料を吟味し、手作業で何年もかけて熟成されたものでは自ずと価格にも跳ね上がってくる。同じことです。
バルサミコ酢の試飲鑑定士(バルサミコ酢のソムリエ)
日本にはあまり知られていないのですが、伝統的なバルサミコ酢にはモデナ県スピランベルト市にある「バルサミコ酢博物館」を併設する愛好者協会公認の試飲鑑定士の資格が存在し、私はそのマエストロ試飲鑑定士資格を取るために試飲鑑定会に参加し、勉強をしているところです。試飲鑑定士の資格はまず、年に一回行われる10回の理論講習会の受講、年間40種の試飲を4年間続けたあと試験を通りAクラスへ、その後年間80種の試飲鑑定をコンスタントに続けた後、試験を通り晴れてマエストロ鑑定士に昇格するというバルサミコ酢醸造年数並みの時間がかかる資格です。9月から3月下旬までモデナ県にある各支部で鑑定会が催されています。4月からは6月下旬の協会が行う品評会に向けて教会に持ち込まれたサンプルの鑑定会が毎日行われ、鑑定士はボランティアで2000種ものサンプルを鑑定し品評会の勝者を選びます。私は年間80から100種のサンプルを鑑定するように心がけています。
バルサミコ酢の鑑定
バルサミコ酢の鑑定はテーブルに5-6名の試飲鑑定士がかけ、理化学分析され基準値を通ったサンプルを先ずは蝋燭の炎にフラスコをかざし、先ず視覚検査の色、濃淡、粘度を、次にフラスコを回しながら香りを4指標に点数化、そしてさらに味の奥行き、広がり、糖度酸味、バランスなど5指標を点数にして400点満点で採点します。その後各テーブルの話し合いと平均値を出し1サンプル20-30分の時間をかけて鑑定します。
鑑定対象は伝統的製法で作られるバルサミコ酢。原料はモストコット(葡萄の絞り汁を直火で煮詰めたもの)のみですので、酢の市場に出回っているほとんどのバルサミコ酢が試飲鑑定の対象にもならないというのが現実です。
バルサミコ酢の醸造伝統と継承
鑑定会に参加している方は生粋のモデナ人が多く、皆さんバルサミコ酢の醸造室をお持ちで、ほとんどの方が自家用なのです。
日本で酒や酢を作るという事は、原料が穀物でがあるために複雑な作業工程を経なければなりませんが、ヨーロッパにおいて葡萄を原料にして作るお酢やワインは家で作るものという歴史があり、その昔からモデナの貴族や土地の有力者など余裕のある階級では、バルサミコ酢は各家で作られるものでした。
それは今でも変わらず、モデナ人の間で、アチェタイア(バルサミコ酢の醸造室)を持つこと、バルサミコ酢の樽を所有することはステータスシンボルでもあり、代々続いたアチェタイアを並々ならぬ情熱を持って継承しているのです。
バルサミコ酢愛好者協会会長と
昨日はカステルフランコ市支部の最後の鑑定会の日でしたので、グランマエストロ(バスサミコ酢愛好者協会 会長)のマウリッツイオ フィーニ氏とお話ができました。
Akane以下A:試飲鑑定会いつもながら盛況ですね。ボランティアで無償で鑑定会を企画してくださる方たちにはいつも頭が下がります。(私が今回参加した試飲会は全5回 80名ほどの参加でした)
Fini氏以下F:そうだね。貴方も含めて、協会の会員みんな熱心に参加してくれるからね。
A:日本を含めて外国にはなかなか伝統的製法で作られる、バルサミコ酢の事、モデナの家庭で守られて来たバルサミコ酢が知られていないことは、すごく残念で歯がゆいのですが…
F:バルサミコ酢という名前で生産されているうち、伝統的な製法のバルサミコ酢は0.01%。DOP商標をつけて出したモデナの全アチェタイア(バスサミコ酢の醸造所)の合計ボトルが去年は20万本。東京の人口は?
A:約1400万人です。なるほど、数字にすると希少さが明白です。しかもこの数全世界に向けての数な訳ですから、本当に一握りの人しか味わった事がないわけですね。私は愛好者協会の一員ですし、婚家に継承されているバルサミコ酢の樽があるのでこういう伝統を日本に紹介しなくちゃならないという使命感に駆られているんです。愛好者協会の会長としては、どう思われます?
F:もうどんどん紹介して下さい。スピランベルト市のバルサミコ酢博物館、ホームページも含めぜひ日本の方にも見に来て頂きたいね。
A:ぜひ紹介させてください。お時間頂きましてありがとうございました。
フィーニ氏は今年で会長就任2年目ですが、もう何十年もバルサミコ愛好協会の評議委員としてボランティアをされており、バルサミコ酢を愛してらっしゃる方。細やかな気遣いで、会員の信頼もとても厚いのです。
スピランベルト市にあるバルサミコ酢博物館はこちら
http://www.museodelbalsamicotradizionale.org/ita/index.htm
バルサミコ酢の試飲テスト(要予約)も可能です。
バルサミコ酢醸造の話を紹介している私のFacebookページはこちら
https://ja-jp.facebook.com/balsamicland/