
ヴァッレ・ダオスタのDOC(原産地統制呼称)は、品種別のDOC(“ヴァッレ・ダオスタDOC ピノ・ノワール”や“ヴァッレ・ダオスタDOC シャルドネ”など)以外に7つのサブゾーン(Donnas, Arnad-Montjovet, Blanc de Morgex et de La Salle, Chambave, Enfer d’Avrier, Nus, Torrette)に分かれている。各サブゾーンのDOC規定が定める品種、収量、アルコール度数などの条件を満たし、一定の品質が認められれば、例えばドナスエリアであればValle d’Aosta DOC Donnas(ヴァッレ・ダオスタDOCドナス)と表記することが許される。

そう説明してくれたのは、ドナス社の社長マリオ・ダルバルドさんだ。非常に柔らかな物腰で、常に笑顔で優しく説明をしてくれる。
「ドナスは人口がたった2000人の小さな町だが、このあたりでは昔からワイン造りが伝統的に行われていて、いいワインができることで知られていたんだ。ドナス社は1971年にDOCドナスが誕生した時に設立された協同組合で、組合員は現在73人なんだが、彼らの家族も含めて考えるとドナスの町でワイン造りに関わる人の数がいかに多いかがわかるだろう?」
もちろんマリオさんも自分の畑を持っており、社長でありながらもブドウ栽培を愛する農民の一人だ。

山がちな州なのでスキーに訪れる人も多く寒いイメージだが、渓谷にあるドナスの冬の平均気温は意外と低くはない。「このエリアではバローロに使われるネッビオーロを伝統的に栽培しているが、ドナスではピコテンドロと呼ばれ、ピエモンテのネッビオーロとは少しタイプが違うんだ。味の保証はワイン好きでも有名なナポレオンがしてくれるよ!」そういうとマリオさんは冗談めかして笑った。

「ナポレオンはどこにでもフランスワインを持って遠征に行くほどフランスワイン好きだったのだが、この町に立ち寄った際に、ここドナスのワインはとても美味しく気に入った、と言ったんだ。その後もドナスの人々は伝統を守ってワインを造り続けたんだ。」

飲んでみるとまろやかな口当たりで、ベリー系の果実味が口に広がる。酸が柔らかく果実味もしっかり感じられるのは、やはりドナスが温暖な気候だからなのだろう。
バランスがよくスムーズに飲み進められるが、旨味があり決して軽いわけではない。熟成を待たなくても若いうちから十分に楽しめるだろう。
ナポレオンがどんなワインが好みだったのかを知ってみるのも一興ではないだろうか?