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Vol.5春号

『イタリア好き』第6号は
エミリア・ロマーニャ州特集。

小高い丘の上を上がると、ベルティノーロのチェントロだ。
今日はここで、ロマーニャワインと地方料理の祭典がある。
最初の案内人のイタリア人ジャーナリストのロイは、少しせっかちにこれから始まるこの祭典の説明をしてくれた。
広場には、テーブルがセットされ、ワインやチーズの生産者が店を広げていた。
白はアルバーナ、赤はサンジョヴェーゼ、このあたりのワインを代表する品種だ。
皆、試飲グラスを片手に、お気に入りのワインを見つけ、会話も弾む。ワイン祭典は深夜まで続いた。
そこでロイから紹介された、ジャンルーカはオリーヴオイルの生産者だ。
翌日は、彼の農園を訪ねた。研究熱心な彼が、希少品種のブリジゲッラを使って、高品質のオイルを作っている。喉を通る時に、ヒリヒリとする辛さが特長だ。元はフォルリに住む貴族のお嬢様のカンティナだった古城で、現在も高品質のサンジョヴェーゼワインを造るアレッサンドロは、上品で知的な紳士。静かな口調で丁寧に話す彼は、日々、伝統を守りながら、ワイン造りを続けていく難しさも語っていた。
取材した6月は、少し不安定な天候の日が多かった。
その日は、明け方まで降っていた雨が止んでいて、丘を登るにつれ、霧が晴れた向こうに見えたのは、中世の佇まいを残した、ブリジゲッラの美しい村と、それを見守る城塞だった。その美しい村にある、ホテル・リストランテ・ラ・ロッカのダニエレは、まじめで、とても親切な男だった。
彼が作る料理は、この土地で獲れたものを大切にし、伝統を守りながらも、新しいエッセンスを取り入れた、彼の情熱が伝わる味だった。そして、そのダニエレに野菜や果物を提供しているのが、この村で、長く有機栽培で野菜や果物を作るレナートさん。
戦時中は激しい戦いの場となったここで、料理人との信頼関係を築き、「もう引退だよ」と言いながらも、熱い思いを語り、今もまだ現役を続ける彼は、この州の人たちを象徴しているようだった。
レッジョエミリアのパオロは言っていた。「イタリア人の中には、今も中世の気質が流れている」と、ここを旅していると、その言葉の意味がなんとなくわかったような気がした。
伝統と革新が交差した、豊かな地、エミリア・ロマーニャの旅をお楽しみください。



Vol.5春号

『イタリア好き』第5号は
カラブリア州特集。

空港から1時間と少し、チェトラーロに着いたのはもう午前0時近かった。

イタリア本土の最南端、もう3月だというのに、寒さが身にしみる。

そんな夜中の到着で、迎えてくれたアニータが出してくれたのは、カリフラワーとジャガイモの暖かいスープ。ひとくち含んだだけで、その素朴なおいしさに感動し、心遣いに熱くなった。そして出てきたペペロンチーノは、唐辛子の本場で食べるマンマの味。うまい!
完全にイタリアモードにスイッチが入った。
カラブリアのチェドロは、ユダヤ人が子供たちの宗教儀式のために、完璧な形の物をいちばん最初に収穫する。長い間続いている伝統的なことだ。その伝統を守るために、アントニオは日々細かな手入れを怠らない。
シーラ山の麓で、酪農を営む兄弟マリオとサヴェリオ。
最初の印象は気難しい感じのマリオ。いざ話を始めると、牛や羊の飼育方法や、チーズの製造方法などを熱く語り始める。できるだけ自然に近く、ストレス無く育てる。
一日の限られた量の搾乳からできるチーズは、地元の人にも支持される信頼の品だ。ルイージとドメニコは、幼なじみでもあり、どちらもカラブリア名産品の生産者だ。ドメニコはトロペアの玉ねぎを作る。後ろ髪を伸ばした、見た目はやんちゃなちょい悪オヤジ風。「ここの気候風土でしか、この味にはならない」と、この土地の良さと作物の価値を誇りに父親からの仕事を引き継ぐ。そして、この取材中ずっと横で聞いていたのは、ンドゥイヤを作るルイージだ。ルイージの作るンドゥイヤのおいしさは唐辛子の配合に秘密があった。彼はずっとにこやかな笑顔で丁寧に説明してくれ、スピリンガの町案内もしてくれた。たぶん、あの笑顔がおいしさのいちばんの秘密だろう。アルトモンテのヴィンチェンツォは、今回の取材した中で最高にイカシタおやじだった。一度は州を出て、やがて自分の生まれ故郷アルトモンテに戻り、ホテル、レストラン、お土産やなどを経営し、自分の村のすばらしさを伝えている。見た目は強面のこの人、心やさしく、男らしいという表現がピッタリとはまる。まさに人に頼られるそんな人だ。
またゆっくりと訪れ、じっくり彼の話を聞きなが村で過ごしたい。
初日からあたたかく迎えられたカラブリア取材。始めて地で知った魅力的な多くのこと。そしてなによりも、熱く、人情味あふれる人々とのふれあい。
カラブリアの旅をどうぞお楽しみ下さい。



Vol.4冬号

『イタリア好き』第4号は
サルデーニャ州特集。

地中海一の大きな島サルデーニャ島。

そこは、イタリアであってイタリアではなかった。真夏のサルデーニャを、東から西北から南へと約1600kmを走った。

山間の町ビッティでチェレスティーナおばさんは、40年間パーネ・カラザウを作り続ける。最初は家族のために作り始めたものが、評判になり今では各地に輸出されるほどに。
サルデーニャには美味しいトッローネがあると聞いていた。ジョゼッピーナおばさんは、毎日自慢のハチミツを丁寧に練り上げる。口の中に入れると、堅いトッローネがゆっくり溶け出し、自然の甘味と香りが広がる。ナッツ類の苦味と食感と相まって本当においしい。
山間の町を抜け、アリゲーロへ。スペイン統治時代の名残を残す旧市街は、観光客も多く賑わうとても雰囲気のいい町。そこでもう5代続くオリーブ農家の兄弟、アレッサンドロとアントネッロ。弟のアントネッロは広報担当。少し業界に憧れる今風の若い青年だ。輝かしい賞の数々を自信満々に説明する。
タロッスにつくと、星の輝きで読書ができそうなくらい空は星でいっぱいだった。コンティーニのパオロは、その暗闇の中で我々をご機嫌に迎えてくれた。海は暗く静かだったが、翌日、目前の海を見て、その透明な青、きっと世の中できれいな青だけをここに集めてきた、そんな海の素晴らしさに、思わず飛び込んだ。
フォルッチョおじいさんは、毎朝4時に出社して、チーズの味見をする。やさしい笑顔の向こうに、厳しいビジネスマンの顔をのぞかせる。
夜も更けてくると、カリアリのトラットリアに歌声が響く。カメリエーレのジャンパオロは、ギターを弾き、歌い、大いに盛り上げる。料理もワインもいちだんとおいしくなる。サルデーニャ島最後の夜は、最高のエンタテインメントで締めくくられた。そのめまぐるしく変化する景色に感動し、行く先々で出会う人がそれぞれの独自性を持つ、全てこの島の歴史に育まれた豊かなところだった。
そんなサルデーニャ島の旅をお楽しみください。



Vol.3秋号

『イタリア好き』第3号は
ウンブリア州特集。

イタリア中部のウンブリア州。
周りをトスカーナ州、ラツィオ州、マルケ州に囲まれ、海岸線を持たない。緑豊かで、中世の面影を残す小さな町も多く存在する、とても情緒ある味わいのある州。
季節は、夏も終わり秋の初め。まだひまわり畑はほんのりと黄色が残り。頭を下げたヒマワリのその隣では、収穫を今かと待つブドウがたわわに実っている。あと1週間もすると収穫だ。
マッキエの森に着くと、待っていたファウストは、ジープからトリュフ犬を下し、ドンドンと森の中へ入って行った。すぐさま名犬はトリュフを見つけた。でもファウストは少し不満そうだ。そう、だってもうサマートリュフも終わりの季節。本当ならもっと大きな香り高いトリュフを見せたかったから。それでも楽しそうに狩りを続ける。
フィリップさんは、自然で育った豚を使って、その独自の配合でとびきりのサルシッチャを作る。薪ストーブで焼いて食べる。したたる肉汁と、そのうま味は他では味わえない手作りの味。
ピエールマリーニは、忙しい人気店のシェフなのに、時間をかけて丁寧に料理の説明をしてくれる。勤め人から40歳にして料理の世界に入った遅咲きのシェフ。彼の信条は母の教え、人を尊ぶ気持ちを忘れないこと。それが彼の料理やお店には随所にあらわれていた。
標高1500mの高原で、全て手作りでペコリーノを作り続けるサンドラ夫婦、一年中ほとんど休むことなく毎日チーズを作り続ける。毎朝摂れる羊乳で作られるペコリーノは、息の合った夫婦が作りだす、機会作りでは決して味わうことのできないまろやかでやさしい味。
80歳の長男を筆頭に4人兄弟の夫婦がひとつ屋根の下で暮らしながら、キアニーナ牛をエサから全て自分たちで手掛け飼育している。「我々が死んだらもうこの牧場もだれも後は継ぐ人はいない」と。でも、イキイキとして牛の世話をする。
ウンバルトは本当に心温まる人だ。その笑顔、気遣い、ちょつとした振舞い、彼が案内してくれたから、グッビオがとても好きになった。
ウンブリアに特別なことは何もない。自然の持つ力と、それを信じる人、歴史や伝統を重んじ、それで、好奇心と探究心を忘れない。純粋でいて、真剣。そんなウンブリを一番表現していたのは、ジュリオだった。時々お茶目な彼の熱い思いが、今回のウンブリアの旅を一層有意義なものにしてくれた。
ウンブリの真髄に触れた今回の旅、どうぞお楽しみ下さい。



Vol.2夏号

『イタリア好き』第2号は
プーリア特集。

イタリアのかかとに位置するプーリア州。州都はバーリ。東西を海に囲まれ、イタリアでいちばん大きな州。イタリアの食糧庫と言われるほど、野菜や果物も豊富で、ワインやオリーブの生産量も非常に多い。
庭先のフィオローネを、ぶっきらぼうにもぎ取って食べさせてくれたオラッツィオは、言葉少なに歓迎してくれた。実はこれがこの季節のプーリア風の歓迎だったのだろう。取材に行く先々で、庭先の果物をもぎたてで食べさせてくれる。太陽の光をたくさん浴びて、熟した自然の味は、忘れていた果物本来の味を思い出させてくれたし、プーリアの食の豊かさを実感させられた瞬間でもあった。
そして料理人たちは、自分の腕を信じつつ、郷土色を失わない、誇りを持って提供される料理は、どれも素朴でありながら、味わい深いものだった。
いまは料理をするよりも、畑を見守るほうが楽しみだと、丁寧に野菜を育てていたアンティキサポリのピエトロや、お父さんの意思、プーリアの伝統を受け継ぎつつ、好奇心と、探究心を持って、新しいオリジナル料理を提供する、アル・フォルネロ・ダ・リッチのアントラネッラも、持ち込んだ長インゲンを見事に調理してプーリアらしいパスタに仕上げてくれた、トゥルッロ・ドーロのダヴィディも皆、素晴らしい料理人だった。中でも、寡黙で、冒頓とした中に、自分の信念を持って料理を提供する、チェント・ローネピッコロのシルヴェストは、今回一番印象に残ったシェフだ。
そして、なによりも皆がこの土地を愛し、土地で育ったものを大切にする思い、この思いをとても強く感じた今回の旅だった。そんな まじめで働き者のプリエーゼ(プーリア人)の心温まるホスピタリティに触れた今回の旅をどうぞお楽しみください。



Vol.1春号

『イタリア好き』第1号は
リグーリア特集。

イタリア北西部に位置するリグーリア州。州都ジェノバを中心に、東西リヴィエラ海岸が広がる細長い地域。今回はこの細長い州を、東から西へと旅をして、少しシャイな地元リグレのこだわる”おいしい食”にフォーカス。
東リヴィエラのセストリレヴァンテでは、タコに魅せられた男ルーディが、タコを熱く語り、世界遺産のマナローナにある『リストランテ・マリーナピッコロ』のシェフ・グエルモは、はにかみながらも自分の作る料理に自信を覗かせる。西リヴィエラのチェルボには、村きっての存在感をしめすシェフ、カテリーナが情熱的に料理に腕を振るう。おおきな体のルカは、その体とは裏腹に繊細な味を作り出す。そしてなにより、日本人の好きな”粉もの”が充実しているのも嬉しい。ひよこ豆の粉を使ったファリナータやパニッサなど、庶民が愛してやまないこの土地ならではの味。中でも”フォカッチャ・デ・レッコ”は、今回のいち押し。ストラキーノチーズという日本ではなかなか手に入りづらいチーズを、薄い生地にふんだんに挟み込んで焼き上げたピッツァとも違う、いつものフォカッチャとも違う、レッコオリジナル。新鮮な魚介類に野菜、タジャスカ種のオリーブオイル、白ワイン、リグーリアのおいしい食の旅をお楽しみください。