お料理説明・背景
「リグーリ(リグーリア人)は海の民なんて思い込みよ!」
ジェノヴァの陽ざしを浴びて小麦色に輝く肌がまぶしいヴェロニカ。小さな工房のようなキッチンでくるくる旋回している時も、女優として舞台袖から現れる時も、リグーリア海の潮風が彼女の残り香にはあるというのに、魚を使った料理ではなく、今回は「う・さ・ぎ」を料理するという。
東西250キロにしなやかに延びるリグーリア州。ところが南北の距離は30キロほどと驚くほど短く、北に位置する標高2000メートルにも及ぼうかという山脈からは、雨が降ろうものなら河川に集まる流水が韋駄天のごとく一気にリグーリア海めがけて駆け下る。それが、陸に刻まれる深い皺のような谷と険しい山々が果てしなく繰り返すという地形を生んだ。だが、昔のリーグリたちは、海から現れる海賊を怖れ、その険しい山で暮らした。だから山の料理が豊富、だから「う・さ・ぎ」というわけだ。
「おばさん曰く、煮汁は煮詰めない!! 何があっても煮詰めない、これが鉄則!」、、、-どこのおばさん?-「ここの近所」‐彼女にもリグーリア料理には師匠がいるのか!-
口八丁、手八丁、手際よく動き回る彼女だが、時々この「おばさん」のコメントが口にのぼる。
「この料理にはね、白ワインがたぁっぷり入るのよ。けど、「おばさん」が水も足せっていうのよ。、、、ほら、リーグリは倹約家で有名でしょ。だから水でワインの量を減らそうってことよね。材料には水は書かなくていいわよ!」
と、いうわけでオリーヴオイルを温め、ニンニクを入れ、ウサギ肉が入り、あれこれ入っていく幸福の鍋、、、「あっ!」思わず二人で顔を見合わせた。
締めのワインを注ぎ込んでみると、予め用意したワインの量だけでは鍋の中でウサギ肉全体がかくれるほどにはならない。ボトルに残ったワインを新たに加えるか、「おばさん」の言ったとおり水を加えるか、ワインの味が強すぎても困る。ヴェロニカは、頭を垂れ、水を足した。「おばさん」凄し!
ウサギ肉が煮上がり、食欲をそそる香りがダイニングにまで広がる頃、フォスカ(娘)とドゥーチョ(息子)の二人が帰ってきた。動物好きのフォスカは子供のための乗馬会のお手伝いから、ドゥーチョはヴェロニカと一緒の芝居に役立てようと通う手品教室から、お腹はぺこぺこ。夫、パオロさんの帰りを待ってようやく始まった夕食。
まずは、Vol.3で紹介したお料理「ブランダクユン」から召し上がれ♪
オリーヴ、松の実、タイム、リグーリアの陸の香りがさっぱりしたウサギ肉のアクセントになり、なんとも食欲をそそる一品。シンプルさがリグーリア料理の真骨頂、口に含むとやっぱりリグーリアの松林を吹きぬける潮風と緑の向こうに海が見えた。
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
作り方
- 深鍋の底全体がかくれる位、エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイルを注いで温め、ニンニクを丸ごと入れる。 (写真a 参照)
- 香ばしいニンニクの香りがし、鍋が程よく温まったところでウサギ肉を入れる。
- ウサギ肉の表面を2分ほど炒める。 (写真b 参照)
- 塩、こしょうをふり、さらにまんべんなく焦げ目がつくまで炒める。
- 乾燥タイムを惜しげもなく振りかける。 (写真c 参照)
- オリーヴの塩水漬けを塩水を切って加え、続いて松の実、唐辛子も好みの量を加える。 (写真d 参照)
- 最後にドライな白ワインをウサギ肉が全体がかくれるまで加える。 (写真e 参照)
- 蓋をして約1時間から1時間半ほど煮込み、火がとおったら出来上がり。(鶏肉を使う場合は、煮すぎないよう、火のとおり加減に要注意) (写真f 参照)