お料理説明・背景
今回、マンマが紹介するのが、プーリアのキノコの代名詞であるカルドンチェッリを使ったオーブン料理だ。山らしい山がなく平らな大地が多いプーリア州では、一般的にイタリアのキノコとして知られるポルチーニはほぼ存在しない。代わりに、このカルドンチェッリが幅を利かせている。
三人兄弟の長女として育ったマルゲリータさんは、面倒見のよさでは天下一品。その天賦の才能を活かし、大人になってからは中学校教師の道へ進んだ。上品で華やかな顔立ち、ファッションセンスのよさから、現役時代は教え子たちから「お姉さんのような先生」と慕われたそう。
得意料理はリソ・パタテ・コッツェやパルミジャーナなど定番の郷土料理だが、修道女に菓子づくりを教わったマンマの影響で昔ながらの素朴な菓子づくりも得意だ。毎年クリスマスの前には、彼女のキッチンは客人にふるまう郷土菓子でいっぱいになる。
はじめてこのキノコの存在を知る人も多いだろう。だが、プーリア人の食卓に並ぶキノコの中では王様として君臨する。デリケートな味わいと食べ応えのある肉厚の身をもつことから、価格は他のキノコに比べると割高だが、秋から冬に季節の味覚を楽しみたいときにマンマが奮発して自宅に持ち帰る、ちょっと高嶺の花的食材だ。
このキノコは中世の時代にすでに存在した。当時、大衆酒場で題材として歌われたり、媚薬の効果があると信じられ、教会がその存在をよく思わなかったという話が残っている。現在の生産地はプーリア州をはじめ、バジリカータ州、カラブリア州、サルデーニャ州、シチリア州などイタリア南部が牛耳る。尚、近年は自生するキノコを採るより人口栽培が主流だ。
カルドンチェッリは、日本ではエリンギと訳される。だが、食べてみると肉厚なのは同じだが、日本のエリンギよりも上品な味わいがする。人によってはこのキノコを「おとなしいキノコ」と呼ぶ。理由は松茸のような注目をまとうほどの芳醇な香りがないからだ。だが、自分だけが主役にならず、他の食材のよさを相乗的に高める適度な香りなので「民主主義キノコ」と呼ぶ者もいる。
家庭料理としては、今回の仔羊とじゃがいもをあわせたオーブン焼きや、サルシッチャと一緒にパスタ料理になるのが定番だろう。レストランではオリーヴオイルで炒め、塩コショウで味付けしてパセリを散らしたシンプルな一品も前菜としてよく見かける。いずれも調理法はいつもながらの素材ありきの塩&オリーヴオイルの組合せがプーリアらしい。
イタリア政府公認添乗員。世界遺産の町アルベロベッロで会社員として勤務する傍ら、自宅にてチーズと郷土料理の教室「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーブオイルソムリエとチーズテイスターの知識をベースにプーリアの食を探求する日々を送る。
作り方
下ごしらえ
- 風味付けと肉がやわらかくなるように、深皿に仔羊肉とニンニク、ローリエの葉を入れ、肉が浸る程度に白ワインを注ぎ、そのまま30~40分おく。(写真a 参照)
- オーブンを200℃に温める。
- カルドンチェッリキノコは、軽く水洗いして土などの付着物を落とす。(写真b 参照)
- ジャガイモは皮をむき、変色を防ぐため水を入れた深皿に浸しておく。(写真c 参照)
作り方
- 耐熱容器にオリーヴオイルの半量をまんべんなく注ぎ入れる。(写真d 参照))
- 白ワインに浸しておいた仔羊肉をザルに空け、水分を切る。この時、ニンニクとローリエの葉は捨てずに別の皿におく。(写真e 参照)
- (1)の耐熱容器に(2)の仔羊肉を順番に並べる。(写真f 参照)
- 別皿によけておいたニンニクとローリエの葉、縦長に4~6等分したジャガイモを加える。(写真g 参照)
- 次に、軸にナイフで十字の切り込みを入れたカルドンチェッリキノコを加えたら、最後に残りのオリーヴオイルをまわしかけ、塩とコショウをふる。(写真h 参照)
- 200℃に温めたオーブンに、最初の30分はフタをして、残りの30分はフタをせず、合計1時間焼き、できたてアツアツをお皿に盛り付ければ、完成!(写真i 参照)