お料理説明・背景
この料理の正式名称は「聖霊の肉の煮込み」。「聖霊」はイタリア語ではスピリト・サントで、この料理に「聖霊」の名が付いたのは、「Erba dello Santo Spirito(エルバ デッロ サント スピリト)=聖霊のハーブ」と呼ばれるアンジェリカの葉を使う料理だから。 アンジェリカは日本語では「セイヨウトウキ」と呼ばれ、風邪や気管支炎、胃腸の不調に効果をもつハーブで修道院では古くから栽培されていました。修道僧の夢の中にミカエル天使が現れ、アンジェリカが疫病を防ぐことを教えてくれた、という伝説から別名「大天使のハーブ」とも呼ばれます。
「天使」ではなく「大天使」であることからその効果が大きいことが伺えます。中世の頃に繰り返し大流行した感染症「ペスト菌」に対して効力があることで知られ、魔法のハーブとして派手首飾りを作って、子供にかけて病気や魔力から守るためにも使われていました。
この料理はトラーパニ近郊に住むパオリーナさんの得意料理なのですが、元々は、かつて修道女だったというお手伝いさんのシルヴィアさんに教わった料理。北イタリアの修道院で幼少期を過ごしたシルヴィアさんは成人した後に修道院を出て、その後は、イタリア全土でボランティアや介護の仕事をしながら過ごしていましたが、数年前に体調を崩し北イタリアに戻りました。
「様々な修道院で作られていた料理を教わったけれど、ハーブ使いがとても上手だったわ。」
と、パオリーナさん。
修道院はかつて病院や薬局の役割も果たしていましたが、その時の薬はハーブを調合したもの。修道院では薬草学の研究が盛んにおこなわれていて、現在のフィトテラピーの基礎を築いたのも修道院でした。シルヴィアさんも、パオリーナさんの体調がすぐれない時、修道院で教わったというハーブティーを作ってくれたそうです。(写真:シルヴィアさんが作っていたという消化促進のハーブティー)
この料理に3種の肉が使われるのは、「三位一体」という教義にも由来します。キリスト教では「父(父なる神)と子(神の子イエス)と聖霊(精神)」の3つが一体である、という教えがあり。(三位一体と呼ばれています)オリジナルのレシピは、牛肉、豚肉、羊肉で作られていたそうですが、パオリーナさんは家族全員がおいしく食べられるように羊肉を鶏肉に変えて作っています。修道院でも肉は食べるの?と聞いてみたところ、修道院では食べることを禁止されているものはないそうですが、食べてはいけない時期があります。例えば、復活祭の前の40日間はクワレジマと呼ばれる節食期間で、肉や菓子は食べません。それは修道院のみならず、かつては一般市民も同様だったそうで。修道院では現在も、もちろんその習慣は守られています。
アンジェリカはセリ科のハーブ。手に入らない場合は、同じくセリ科のディル、フェンネル、イタリアンパセリで代用すると良いでしょう。今回は今の時期にお花~種が取れるフェンネルを使いました。(写真:シチリアの田舎に自生する野生のフェンネル)
「オーブンでじっくりと火を入れる料理だから、オーブンに入れてしまえば手間いらず。シンプルで地味だけど、とってもおいしいのよ。」
色々な意味で修道院らしい一皿、是非チャレンジしてみてくださいね!
2005年よりイタリアの南の島、シチリア島在住。力強い大地の恵みと美しい大自 然にすっかり魅せられ、シチリアに残ることを心に決める。現在、シチリア食文化を研究しつつ、トラーパニでシチリア料理教室を開催。また、シチリア美食の旅をコーディネートする「ラ ターボラ シチリアーナ」の代表&コーディネーターとしてトラーパニで活動中。 シチリア美食の旅をコーディネート「ラ ターボラ シチリアーナ」
作り方
下ごしらえ
- 3種の肉は全て同じくらいの大きさの一口大に切る。(写真a 参照)
- イタリアンパセリはみじん切りに、ニンニクは皮をむき粗みじん切りにする。(写真b 参照)
- ジャガイモは皮をむき、肉と同じくらいの大きさに切る。(写真c 参照)
- タマネギ、ニンジンは皮をむき5mmの厚さにスライスする、セロリは1cm幅に切る。(写真d 参照)