マンマの紹介
- アレッサンドラ・カッチャグラーノ(Alessandra Cacciagrano) さん
- アブルッツォ州サンブチェート在住
- 得意料理:看護師として働きながら家事に子育てに奮闘するスーパーマンマ。料理全般が得意でどんなに忙しくても手際よく手料理を振る舞う。中でもスイーツづくりが大好き。クリスマスや復活祭、誕生日など大切な行事の時には必ず彼女の手づくりスイーツが登場する。今回ご紹介するPesche dolciは彼女の得意なスイーツのひとつ。
お料理説明・背景
愛くるしい桃の形をした一口サイズのお菓子。バールやスイーツ店では年中見かけるお菓子だが、個人的にはちょうど店頭に桃が並ぶ、夏のお菓子の印象が強い。というのも私がはじめてこのお菓子と出合ったのが、毎年8月のこの時期に開催していた、今回のマンマ、アレッサンドラの父であるマリオの誕生日パーティだったからだ。毎日、判を押した様に同じものを同じ時間に食べることに幸せを感じていた人だが、この日ばかりは親戚、友人、近所の人など総勢70人ほどを招待して、盛大に祝ってもらうのを楽しみにしていた。
パーティには豚の丸焼き、ニョッキ、トリッパの煮込みなど彼の好物が並び、その締めとなるデザートの一切を引き受けていたのがアレッサンドラで、シングルマザーで看護師という忙しい日常をこなしながらも、この日のために何種類もの一口サイズのスイーツとメインの誕生日ケーキを用意していた。そのスイーツの中にいつも必ずあったのが、この桃のお菓子だ。今回レシピを紐解くにあたり、その全行程を見守ったが、ここまで手の掛かるお菓子だったのか、と正直驚き、彼女のスーパーウーマン振りに改めて感服した。
このお菓子だが、郷土料理本などにもあまり登場はしない。ただ、アレッサンドラの母でマリオの妻であるアンナマリアが嫁入りした際、姑から教えてもらったものにアレッサンドラが改良を重ねながら作り続けているので、60年以上はこの地域で作られてきたお菓子ということになる。なぜ桃なのかというのは定かではないが、おそらく今回も使用したリキュール「アルケルメス」の色から着想したのでは、と想像する。ちなみにアルケルメスは「ズッパイングレーゼ」にも使われるリキュールで、トスカーナの修道院で作られていた薬草酒が起源とされる。そのため、桃を模してはいるが桃の味はしない。
さて、祝い事や年中行事の際に彩りを添える桃のお菓子。まだ今のようにお店で簡単に手に入らず、お菓子や料理は皆で一緒に作ったり持ち寄ったりするのが普通だった時代、特に結婚式では主に新婦側の女性たちが、この桃のお菓子や以前紹介したボッコノッティ(vol.91)など、郷土のお菓子を各自で分担して作って持ち寄り、それを小さな箱に詰め合わせて招待客に配ったのだと言う。
今回は定番のカスタードクリームを挟んだが、チョコクリームやジャム、最近ではヌッテラを入れることも多い。また、同様のレシピでアルケルメスの代わりにバナナリキュールを使ってバナナのお菓子も作ることができる。
2002年のアブルッツォ留学をきっかけに、現在は大阪とアブルッツォの2拠点生活を行う。関西を中心に都市計画コンサルタントとして地域ブランディングに携わる傍ら、SNSや寄稿などを通して州の魅力やくらしを発信している。
作り方
クッキー生地
- クッキー生地の材料を全てボウルに入れ、手で混ぜる。(写真a 参照)
- まとまってきたら平らな場所に移し、耳たぶほどの柔らかさになるまでさらにこねる。(写真b 参照)
- 4等分にして細長く伸ばし、くるみ大の大きさに切り分ける。(写真c 参照)
- 切り分けた生地を丸め、最後に少し押さえて半円にする。(写真d 参照)
- 160度のオーブンで約15分加熱する。(写真e 参照)
- 平らな面の中央をナイフや小さじでくり抜く。(写真f 参照)
- 全て同様にくり抜く。2つのクッキーで1つの桃を作る。(写真g 参照)
カスタードクリーム
- 卵黄と砂糖を混ぜ合わせ、馴染んだら小麦粉を足し、さらに混ぜる。(写真h 参照)
- 予め温めておいた牛乳を少しずつ加えて混ぜる。(写真i 参照)
- 弱めの中火にかけて木べらで混ぜながらモッタリするまで加熱する。(写真j 参照)
- 表面が固まらないよう砂糖をまぶしておく。(写真k 参照)