お料理説明・背景
プーリア州にパワフルで気配り屋のマンマがいる。それがフィロメーナさんだ。州中部の小さな町で特別支援学級の先生をする彼女は、町の料理大会で優勝した腕前をもつ料理名人。現在は家事と仕事と4人の孫のおばあちゃん業に忙しい日々を送っている。筆者が初めて彼女に会ったとき、大きな声でまくし立てるように話す姿が、南イタリアのマンマのイメージそのものだった。
だが、ダイナミックな彼女には意外な一面も。自宅に人がやってくると一瞬でお手製のドルチェをふるまい、こちらが話に夢中になっているうちにコーヒーまでもが置かれている。さりげないおもてなしができる女性だ。さらに、どんなに忙しいときでも家族や親戚、友人の誕生日とオノマスティコ(自分と同じ名前の聖人の日)にはおめでとうの言葉を欠かさない。メッセージではなく、電話や顔を見て必ず言葉を交わすことを重視している。
さらには、家族の幸せを願い、毎年カーニバルが終わるとキリスト教の習慣に従って、大好きなドルチェ絶ちを40日間やり遂げる。この人柄だからこそ、彼女の日常はいつも大勢の人に囲まれている。町のマンマのなかでも中心的存在だ。そんなフィロメーナさんが今回紹介する料理が「バーリ風フォカッチャ」。
今やフォカッチャはイタリア全土でポピュラーな食べ物だが、バーリ風はじゃがいもを生地に入れてモッチリ感を、たっぷりのオリーヴオイルで外側のカリッとした食感を出すのが特徴だ。さらに、具は真っ赤なトマトと緑色のオリーブの組合せが定番。ヨーロッパで有数のトマトの産地として知られ、古代からオリーヴの里であるプーリア州ならではのゴールデンコンビ。
尚、イタリアでフォカッチャといえばジェノヴァが有名だが、バーリもフォカッチャの聖地であることはあまり知られていない。伝統の家庭料理であり、今ではパンツェロッティ(揚げピザ)と並び州都を代表するストリートフードに君臨する。バーリの町中を歩くとフォカッチャを売るお店が多いことに驚く人もいるだろう。
バーリ風フォカッチャの実力を伝える実例として、2019年にはバーリのパン屋フィオーレがEataly主催のフォカッチャコンテストでイタリアナンバー1に輝いた。このお店はバーリっ子なら知らない人はいない有名店だ。バーリ観光の際には必ず立ち寄るグルメスポットだが、まずはマンマのレシピでバーリ風フォカッチャを知ってみよう。そして、トマトとオリーヴの産地ならではのご馳走をみんなで顔を寄せ合い頬張ろう。
イタリア政府公認添乗員。世界遺産の町アルベロベッロで会社員として勤務する傍ら、自宅にてチーズと郷土料理の教室「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーブオイルソムリエとチーズテイスターの知識をベースにプーリアの食を探求する日々を送る。
作り方
下ごしらえ
- ジャガイモは皮をむいてゆで、熱いうちにフォークでつぶす。
- トマトは水洗いしてナイフで縦に切り込みを入れる。
作り方
- マグカップにぬるま湯少量とイースト菌、砂糖を入れて混ぜ溶かす。(写真b 参照)
- ボウルに強力粉とセモリナ粉を入れスプーン等で軽く混ぜる。そこに1を加え、手でこねる。(写真c 参照)
- 2のボウルに残りのぬるま湯、ジャガイモ、塩を加えさらにこねる。(写真d 参照)
- 生地がよく混ざったらオリーヴオイル大2を加える。(写真e 参照)
- ねばりが出てくるまで指先でオイルをもみこむようにこねていく。(写真f 参照)
- 焼き型にオリーヴオイル(分量外)をたっぷりと流し入れたら生地に型を移し、濡れ布巾をかぶせて常温で2時間発酵させる。(写真g 参照)
- 発酵後の生地を手の指を使って型全体に均等に押し伸ばす。(写真h 参照)
- 生地の上にオリーヴオイル(2)を注ぎ、切り込みを入れておいたトマトを指で2つに割りながらまんべんなくのせる。(写真i 参照)
- さらに、オリーヴ、オレガノ、塩の順にトッピングする。(写真j 参照)
- 温めておいたオーブンに入れて、220℃~250℃で15分~25分きつね色になるまで焼く。(写真k 参照)