お料理説明・背景
スイスとイタリアを結ぶグラン・サンベルナルドのトンネルを間近に控えたドゥエ(Doues)は人口500人余りの山村。標高1176メートルと高地にあるが、ヴァッレダオスタ州で最も日当たりの良い村の一つで、道行く人の顔つきもどことなくリラックスした感がある。
アオスタの町を離れ、夫ジョバンニと生まれ育ったこの村に戻って20年、フラヴィアはこの村にしっかりと根を下ろし、地域と活発に関わりながら暮らしている。それは彼女が生まれつき快活な人だったから。 いや、なんといっても料理上手だから。
今回このデザートを『マンマのレシピ』で披露すると知り、村の人たちからストップがかかった。あんたのレシピは村の宝だからと。村で催すイベントでは彼女が中心となってこのデザートを来訪者に振舞うのが大評判となり、観光資源として門外不出にするべきだと説得された。
「あら、これはあたしのレシピだもの、見せると決めたら隠さず見せるわよ。それに日本語だもの。」
毎年2月3日はドゥエ村の守護聖人 聖ビアージョの日で、この時期に伝統のチョコクリームを楽しむのだが、目にも鮮やかなこのデザートは食卓の最後を見事に飾てくれる。
卵白の入ったボールにクルクル回転する泡だて器を押しつけながら彼女はほとんど夢見心地で話す。
「祖母の時代はこんな便利な泡だて器なんてなかったでしょ。でも白樺の小枝を水に浸して柔らかくしてから湾曲させて泡だて器として使ったの。冷え込みの厳しい時期は雪の上にボールを置いて冷やしながら生クリームを見事に泡立てたものよ。そうやって祖母が時間をかけて作ったクレーマの豊かな味わいは今でも忘れられないわぁ」
そして再び視線をボールに落として泡立ちを確かめながら、このレシピはそのリディアおばあちゃんから譲られたとつけ加えた。
彼女はここ数年、村の学校給食の改善にも努めている。取り組み前は全ての素材を大手企業から調達していたのを地域の生産者のものに切り替え、児童にも出された料理を全部食べたら『おかわり』できるルールを作るなど食育にも余念がない。最初は父兄からも子供からも抵抗があったが、今では健康的で美味しい給食を誰もが喜んでいるという。
村全体のマンマのごとく住民の福祉に深く関わっているフラヴィア。取材に訪れた日は、たまたま年一回村の共同釜でパンが焼かれる日だった。現場に赴き年季の入ったパン焼き職人たちを仕切る親方役もやっぱり彼女。
今回のレシピは、そんなアオスタの山村でささやかな暮らしを精一杯楽しむ人たちから秘密のおすそ分けです。お隣にイタリアの友人がいても是非「ないしょ」でお願いします。
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。2019年にイタリア語によるエッセイ集『Un Cuore Da Nutrire』を出版。日本食文化のPR活動も行っている。
作り方
- 卵を卵黄と卵白に分けて、別々のボールに入れ、それぞれに砂糖を25gずつ入れる。(写真a 参照)
- 卵白を固く泡立て、冷蔵庫で冷やす。(写真b 参照)
- 卵黄を泡立てて、同じく冷蔵庫で冷やしておく。(写真c 参照)
- チョコレートを適当に割って湯煎にかけ、時々かき混ぜながら完全に溶かす。完全に溶けたら引き上げて少し常温で休ませ、余熱をとる。(写真d 参照)
- 生クリームに25gのグラニュー糖を入れてホイップする。(写真e 参照)
- 3の泡立てた卵黄に4のチョコレートをまんべんなく混ぜ込む。(写真f,g 参照)
- 6に2の泡立てた卵白が均一に混じるまでさっくりと混ぜ続ける。(写真h,i 参照)
- 5の生クリームに7を混ぜ込む。(写真j 参照)
- 8を個々の器にこんもりと盛り、冷蔵庫で休ませる。最低1時間は冷やしておく。(写真k 参照)
- ブルーベリー、ラズベリー、カラント&カシス、イチゴに25gのグラニュー糖とレモン1個分のレモン汁を和える。(写真l 参照)
- 1時間後、冷蔵庫から取り出し頂点にテゴラ(または固めに焼いたクッキー)を差し、周囲に10を盛り付けたら出来上がり。(写真m 参照)