[マルガの暮らし] [魅せられてトレンティーノ] の冬
今年の8月号、11月号と続いたトレンティーノ特集はお楽しみいただけただろうか。
「マルガ」という1つのキーワードから始まって、気が付けば1週間ほどの取材で13か所もお世話になった。先日、私の手元に本誌が届いたので、それぞれに手渡しするためトレンティーノ巡りを決行することに。郵便で送れば一瞬で簡単なものの、また皆に会いたかったのが一つ。そして、その反応を見るのも楽しみだった。
さて、トレンティーノ取材に同行したのは去る6月のこと。初夏の陽気と山岳地帯の肌寒さが混じる季節であったが、半年も経つと雰囲気がまるで異なる。晴れの予報に喜んだのも束の間、家から1時間半ほどかけて車でトレンティーノ西側の山岳地帯に入っていくと、あるトンネルを抜けた瞬間、突如として濃霧に見舞われる。前日に降った新雪もふわふわに残っていて、見渡す限り真っ白。さすがアルプスのお膝元だと実感した。
ところが、標高600mを越えた辺りから視界が開け、青空が広がってくる。眼下に雲海を望み、日差しが妙に温かい。これもまた、山と谷から成るトレンティーノなのである。
今回はお店やレストランが通常営業中なのを踏まえて、あえてアポなしで出発。行き当たりばったりだったが、唯一ランチだけはオステリア・フィオーレでとると決めていた。
忙しい時間帯にもかかわらず、笑顔で歓迎してくれたリタと厨房から顔を出してくれたシルヴィオの姉弟。『イタリア好き』本誌を渡すとイタリア人の誰しもが開口一番、「左から右にページをめくるのか!」と綴じ方の向きが欧米と逆なことに驚くのだが、シルヴィオの場合はちょっと違った。「僕は毎朝、新聞を後ろから読むんだ。だから、僕にピッタリだね」と嬉しそう。
さらに、自分たちの載っているページを眺めた2人は、何よりも「常連さんたちがいっぱい写っている!!」と大喜びし、「皆、毎日ここに食べにくるのよ。今晩、皆に見せるのが楽しみで仕方ないわ!」とワクワクしている。周りの人への思いやりが第一の、いかにも彼ららしいコメントにほっこりさせられた。
50号「マルガ」特集の主役、ラウラとエンリコは、そこから車で15分ほどの距離に冬は住んでいる。本誌にも登場した、あのPEZ村だ。ランチ後「今から訪ねたい」と電話で伝えると「家にいるからいつでもどうぞ」と、マルガ取材のときと同じように快く迎えてくれた。
近年、悩ましいことにトレンティーノにはオオカミが急増し、家畜が危険な目に合っているのだが、その対策として新たに2頭の番犬がエンリコたちの仲間に加わっていた。
夏の間、マルガで放牧されていた彼らの山羊はちょうど妊娠中。搾乳は行えない期間であり、チーズ造りもしばらくお休みだという。山羊チーズをいっぱい買うつもりだったのに残念だ。
季節ごとにマルガリの生活は動く。環境に応じて変化していくのだと当たり前のことを改めて思い知らされる。
おうちのリビングにお邪魔し、エンリコに『イタリア好き』50号を渡したところ、彼は熱心に1ページ1ページを読み始めた。日本語がわかるわけでもないのに、ところどころに散りばめられたアルファベットと算用数字を拾い、写真と照らし合わせて読んでいる。いかにもエンリコらしい光景だった。
途中「この“25”は何だ?」と聞かれたので、「雌25頭につき…」と私が説明し始めたらすぐに合点がいった様子で「なんて細かい情報まで書いてあるんだ!」と感激している。息子2人も興味津々で覗き込みながら、「これ僕だよ!」と自分の姿を見つけるのが楽しいみたい。ラウラもエンリコも、十数ページに渡る自分たちの特集に少し驚きつつ、大いに満足してくれた。
1日で全員のもとへは回り切れず、それでも8か所に無事、『イタリア好き』を届けてきた。残りは「来週会うから渡しておくよ」という、ここに出てくる友人たちに託した。
この2冊に共通して言えるのは各々が自然を相手に生き、友達として、もしくは生産者と消費者という関係で、何かしら繋がっていること。手作業にこだわり、旬を大切にする職人たちの魅力が詰まったこのトレンティーノ特集には、立場は違えどお互いを尊敬しながら共存している感がある。大量生産はおろか、季節が過ぎれば売る商品もなくなるくらいなのだが、それが当然のごとく、自然の流れをゆがめようとしない人ばかりだ。
トレンティーノの美しさは、きっとそこにある。
Un ringraziamento a
Garda Trentino
「マルガ」という1つのキーワードから始まって、気が付けば1週間ほどの取材で13か所もお世話になった。先日、私の手元に本誌が届いたので、それぞれに手渡しするためトレンティーノ巡りを決行することに。郵便で送れば一瞬で簡単なものの、また皆に会いたかったのが一つ。そして、その反応を見るのも楽しみだった。
さて、トレンティーノ取材に同行したのは去る6月のこと。初夏の陽気と山岳地帯の肌寒さが混じる季節であったが、半年も経つと雰囲気がまるで異なる。晴れの予報に喜んだのも束の間、家から1時間半ほどかけて車でトレンティーノ西側の山岳地帯に入っていくと、あるトンネルを抜けた瞬間、突如として濃霧に見舞われる。前日に降った新雪もふわふわに残っていて、見渡す限り真っ白。さすがアルプスのお膝元だと実感した。
ところが、標高600mを越えた辺りから視界が開け、青空が広がってくる。眼下に雲海を望み、日差しが妙に温かい。これもまた、山と谷から成るトレンティーノなのである。
今回はお店やレストランが通常営業中なのを踏まえて、あえてアポなしで出発。行き当たりばったりだったが、唯一ランチだけはオステリア・フィオーレでとると決めていた。
忙しい時間帯にもかかわらず、笑顔で歓迎してくれたリタと厨房から顔を出してくれたシルヴィオの姉弟。『イタリア好き』本誌を渡すとイタリア人の誰しもが開口一番、「左から右にページをめくるのか!」と綴じ方の向きが欧米と逆なことに驚くのだが、シルヴィオの場合はちょっと違った。「僕は毎朝、新聞を後ろから読むんだ。だから、僕にピッタリだね」と嬉しそう。
さらに、自分たちの載っているページを眺めた2人は、何よりも「常連さんたちがいっぱい写っている!!」と大喜びし、「皆、毎日ここに食べにくるのよ。今晩、皆に見せるのが楽しみで仕方ないわ!」とワクワクしている。周りの人への思いやりが第一の、いかにも彼ららしいコメントにほっこりさせられた。
50号「マルガ」特集の主役、ラウラとエンリコは、そこから車で15分ほどの距離に冬は住んでいる。本誌にも登場した、あのPEZ村だ。ランチ後「今から訪ねたい」と電話で伝えると「家にいるからいつでもどうぞ」と、マルガ取材のときと同じように快く迎えてくれた。
近年、悩ましいことにトレンティーノにはオオカミが急増し、家畜が危険な目に合っているのだが、その対策として新たに2頭の番犬がエンリコたちの仲間に加わっていた。
夏の間、マルガで放牧されていた彼らの山羊はちょうど妊娠中。搾乳は行えない期間であり、チーズ造りもしばらくお休みだという。山羊チーズをいっぱい買うつもりだったのに残念だ。
季節ごとにマルガリの生活は動く。環境に応じて変化していくのだと当たり前のことを改めて思い知らされる。
おうちのリビングにお邪魔し、エンリコに『イタリア好き』50号を渡したところ、彼は熱心に1ページ1ページを読み始めた。日本語がわかるわけでもないのに、ところどころに散りばめられたアルファベットと算用数字を拾い、写真と照らし合わせて読んでいる。いかにもエンリコらしい光景だった。
途中「この“25”は何だ?」と聞かれたので、「雌25頭につき…」と私が説明し始めたらすぐに合点がいった様子で「なんて細かい情報まで書いてあるんだ!」と感激している。息子2人も興味津々で覗き込みながら、「これ僕だよ!」と自分の姿を見つけるのが楽しいみたい。ラウラもエンリコも、十数ページに渡る自分たちの特集に少し驚きつつ、大いに満足してくれた。
1日で全員のもとへは回り切れず、それでも8か所に無事、『イタリア好き』を届けてきた。残りは「来週会うから渡しておくよ」という、ここに出てくる友人たちに託した。
この2冊に共通して言えるのは各々が自然を相手に生き、友達として、もしくは生産者と消費者という関係で、何かしら繋がっていること。手作業にこだわり、旬を大切にする職人たちの魅力が詰まったこのトレンティーノ特集には、立場は違えどお互いを尊敬しながら共存している感がある。大量生産はおろか、季節が過ぎれば売る商品もなくなるくらいなのだが、それが当然のごとく、自然の流れをゆがめようとしない人ばかりだ。
トレンティーノの美しさは、きっとそこにある。
Un ringraziamento a
Garda Trentino