お料理説明・背景
「『プーラ(peulà)』って名の由来?そういえば私も調べてみたことがなかったわ。」 エリカがこのミネストラについて一緒に探してくれたが、辞書にもアオスタ方言集にも『プーラ』の由来が見つからない。ネットで検索するとレシピならかなりの数がヒットするが、語源となるとまるで示し合わせたようにどのページも触れられていない。もしやと思いフランス語の辞典を引いてもやはり似た言葉すら見つからなかった。アオスタ州でもコーニュでは『ぺーラ(péilà)』がイタリア語の『pappa (赤ちゃん言葉でごはん)』の意味だからサン・ヴァンサンあたりではこれが『プーラ』になるのだろうというのがエリカの家族や友人らの意見だった。これほど具沢山の魅力的なミネストラなのだから何か深い歴史が潜んでいそうなものだが、霧の中に隠れたままとなった。
さらにレシピでも香味野菜を炒める無塩バターは澄ましバター(burro chiarificato)なのか、そのまま使うのか、意見が分かれるところ。 「私はノンナ(おばあちゃん)から固く言われているからプーラには澄まし無塩バターを使うけど、そのまま使うって人も結構いるわ。
あっ、作り方は簡単よ。バターを鍋で溶かして焦がさないように弱火にかけておくと、泡が浮いてくるからこれをあくとりで除くの。そのうち泡がなくなってバターが澄んでくるから、その上澄みだけを容器にとって保存します。沸点がより高くなる上に、保存もきくから重宝するわよ。」 澄ましバターという素材ひとつをとってもしっかり相手の目を見て話をするエリカ。 (アオスタの人ってこんなだったっけ? 太陽のごとき朗らかさというのとは違うけど、古くからの友人みたいな親しみがある。)
「アオスタ人が閉鎖的な印象を与えるのは確かね。昔から厳しい自然環境の中で暮らしてきたでしょう?だから互いに助け合って暮らすのは私たちにとって当たり前。 こっちの農家で草刈りを始めれば周囲の農家から草刈り鎌を手に人が集まって来るし、あっちの家の老人が病気になったと知れば近所の女性たちが食事を持って行いく、そうやって日常の困難を解決してきたの。地域住人の絆が家族のそれと同じくらい深い分、よそから来た人にはその輪に入り難いかもね。」
キッチンで半日エリカに寄り添った最後に出来たてのミネストラの一皿を差し出された。栗をすくって口に入れたら、じんわりする甘みから無塩バターの深いコクが嘘みたいに主張してきた。『旨い!』と目を見張る。『ごつごつして見えてまろやか。アオスタ人気質も実はこういうものかも』と眼前の薄紙を剥がされる思いがした。
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。2019年にイタリア語によるエッセイ集『Un Cuore Da Nutrire』を出版。日本食文化のPR活動も行っている。
作り方
下ごしらえ
- 勝ち栗は前の晩に栗の3倍程度のたっぷりの水に浸しておく。(写真a 参照)
作り方
- 一晩水に漬けておいた勝ち栗を沸騰したお湯に入れて10分間ゆでる。(写真b 参照)
- 同じく豚皮を水に入れて火にかけ、沸騰したら中火で10分間ゆでる。(写真c 参照)
- タマネギは2cmほどのざく切りに、ニンジン、セロリも同じく1cm幅ほどに切り、澄まし無塩バターを入れた深鍋で炒める。(写真d,e,f,g 参照)
- 3の野菜にある程度火がとおったら、ジャガイモを5~7mm程度の厚さに切り、ポロネギも7mmほどに切ったら鍋に加えて炒める。(写真h,i,j 参照)
- ゆでておいた栗のお湯をきって4の鍋に加えたら、2lの水も加える。(写真k 参照)
- 2の豚皮あるいは豚足を丸ごと鍋にいれ、ローレルの葉を加えたら、一旦塩コショウで薄めに味を調え、鍋に蓋をして2時間ほど弱火から中弱火で煮込む。必要なら水を足す。(写真l 参照)
- 精白された大麦を入れ鍋の底が焦げないように時々混ぜながらさらに弱火で1時間ほど煮込む。(写真m 参照)
- 豚皮または豚足を取り出し、食べやすい大きさに切って鍋に戻す。豚足の場合は骨を除き、皮だけを鍋にもどす。(写n,o 参照)
- 塩コショウで最終的に味を調え、さらに2、3分加熱して出来上がり!