お料理説明・背景
イタリアには地方ごとに郷土料理があり、場所によって食べるものが全く違うというのは読者の皆様も周知のことだろう。そしてそれに誇りを持つあまり、自分の故郷の料理以外には興味を示さないイタリア人も多く、食に対してはかなりコンサバな国民だとも言われている。
が、ミラノのような国際的都市に住む人たちや、旅の多い人、そして好奇心旺盛な人のなかには、他の地方の名物料理や外国料理、珍しい食材にも果敢に挑戦する人も多い。そんな一人が、今回登場するミカエラだ。
ファッションデザイナー&テーラーとして自分のアトリエで洋服やアクセサリーをデザインおよび作成する傍ら、舞台や映像の衣装デザイナーとしても活躍する彼女は、出身はリグーリア州サヴォーナながら、ファッションをローマで学び、プロとなってからはミラノへ移住。衣装デザインの仕事のため、各地への出張も多い。
クリエイティブで好奇心に溢れるミカエラは、旅先で覚えた料理を積極的に自分のキッチンに持ち帰り、ちょっとアレンジして自分風のレシピにするのが得意だ。
この「イカスミのスパゲティ」は、その名の通り、イカ墨を使った黒いソースのパスタで、シチリア東部、またはヴェネチアで生まれたと言われている。シチリアではイカ墨を捨ててしまうのが惜しいと思った漁師たちが、パスタに混ぜて食べたのが発祥と言われる一方で、ヴェネチアでは、古くからイカを調理するためのソースとして使われており、後にパスタを入れるようになったのだとか。
ミカエラのレシピはヴェネト州の叔母様譲りのものをベースに、舞台の仕事で長期間ヴェネチアを訪れた際に得た知識もミックス。「スーパーマーケットだとイカの墨袋を取って売っていることが多いから、青空市で買うことが多いわ。逆に墨袋付きで売っているものは洗っていないから、水で丁寧に洗うことが大事。イカの処理に手間がかかるから、今は家で作る人は少ないかもしれないけど、私は、叔母と一緒に料理した懐かしい思い出があって、今でもよく作るの。子供の頃は墨を出す作業が楽しかった(笑)」。
ニンニクは匂いも気になるし重たくなるので、大きめに切って軽く炒める程度に使い、その代わりにイタリアンパセリを多めに添えるのだとか。チェリートマトは入れない派も多いが、「味が単調にならないように」と彼女のレシピではマストだ。「でも、忙しいときはイカ墨が練り込んであるパスタを買ってきて、手抜きしちゃう時もあるけど(苦笑)」とミカエラ。
ちなみに筆者は、“(本人曰く)手抜き”バージョンもご相伴に預かったことがあるが、フレッシュなチェリートマトをオリーヴオイルで軽く炒めたソースで仕上げた絶品だった。味付けは軽め、時には時間短縮の逃げ道も使いながら、アイデア勝負でおいしいものを作るというのが、いかにもミラノのワーキングマンマらしい。
大学卒業後、雑誌編集者として活動後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、食、旅、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。料理学校を経営していた母のもとで学んだ経験を活かし、ミラノの料理学校で講師としても活動中。 Instagram(@mikitanaka0909)
作り方
- イカは骨や皮をとってきれいにし、墨袋は保存する(ソースの準備の最後に使用)。(写真a 参照)
- イカを流水で数回洗い、細切りにする。(写真b 参照)
- フライパンにオリーヴオイルをひき、スライスしたエシャロットと大きめに切ったニンニクを弱火で炒め、しんなりしたらイカを加えてさらに炒める。(写真c,d 参照)
- 白ワインを注ぎ、アルコールが飛ぶまで火にかけ、火を弱めて約10分間炒める(写真e 参照)
- ニンニクを取り除き、半分に切ったチェリートマトを入れ、塩と(お好みで)ペペロンチーノを入れて味を調え、さらに15分ほど弱火で調理する。(写真f 参照)
- 別の鍋に湯を沸かし、沸騰したら塩、パスタを入れて、アルデンテにゆでる。
- 5に直接、墨袋からイカの墨を加え、2~3分間かき混ぜて墨をなじませる。 (写真g,h 参照)
- ゆであがったパスタを入れ、軽く炒めながらソースと絡める。(写真i 参照)
- お皿に盛り、上からイタリアンパセリを添えたら出来上がり。