お料理説明・背景
トスカーナ州シエナ、中世ではフィレンツェと勢力を競い合った有力都市。今も中世の美しい街並みと、伝統文化を色濃く残す街だ。フィレンツェのようにイタリア統一後首都になったりと近代化の波に飲まれなかった分、シエナの美しさは、まるで宝石のようにその時を留め、今も輝いている。
そんなシエナの中心であるカンポ広場のすぐ裏で生まれ育ったマティルデさん、生粋のシエナっ子、セネーゼだ。家のベランダからは、カンポ広場にあるシエナのシンボルで市庁舎でもある塔「トッレ・デル・マンジャ」を間近に臨む。
取材の日も、シエナの中世から続く伝統的な祭り「パリオ」のパレードが、鼓笛を高らかに鳴らしながら家の下を通り過ぎて行き、「これがシエナ!」と感動したものだ。
この「パリオ」は市内17地区対抗で行われる競馬をメインイベントとしたお祭りなのだが、この地区対抗戦というものが、地域のつながりを強固なものにし、そして伝統を継承していくのに大きな役割を果たしている。マティルデさんはカンポ広場の地区、彼女も子供の頃からお祭りに地域の一員として参加している。年に2回ある競技の日以外にも様々な準備やイベントがあり、地区一丸となって競技を勝ち取ることを目指す。
「私たちはね、パリオの中で育つの。そこで学ぶ伝統や集団での役割分担、行儀作法にいたる多くのこと、それからパリオを通して得る絆は特別だわ。」と話してくれた。シエナの伝統文化はこの「パリオ」が繋いでいると言っても過言ではないだろう。
さて、今回教えてもらったレシピ「Tonno del Chianti」も地域の伝統料理。”キャンティのツナ”という名前の通りマグロの身をオイル漬けしたツナに食感も味も似ているのだが、海から遠いキャンティ地方なので材料はマグロではなく豚肉。冷蔵庫がまだない時代、オイル漬けにして保存食としていたのがこの料理の起源だ。食べるときはオイルから出し、そのまま食べたり、またサラダと和えたり、パンにのせたりと、ツナと同じような感じで食す。サンティニ家では飴色にいためたタマネギと一緒に食べるのがお気に入りだそう。
オイル漬けという調理法を基本として、香りづけの香草類はそれぞれの家庭で違っているそうで、マティルデさんの家ではピンクペッパーを使う。黒胡椒より刺激がまろやかで好みなのだそうだ。またトスカーナで肉の香り付によく使われるジュニパーは、私たちトスカーナ人にとっては欠かせないわねと。しかし、家庭によって香りづけはローリエと黒胡椒だけというところもあるそうで、スパイスやハーブの種類、量も好みによって調節して自分ならではの味付けで作るのだとか。「このレシピを参考にして、好みのアレンジで作ってもらえるといいと思うわ」と話してくれた。伝統をつなぐということは、代々築き上げた「いいもの」を共有するとともに、その中に自由に発展できる余白があるものなんだなと、このレシピを通して垣間見ることができた。
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。
作り方
- 肉が入る大きさの容器を用意し、まず粗塩を底に入れ、肉を載せる。その上から、さらに粗塩を入れ、肉が全て塩で覆われるようにする。(写真a,b 参照)
- 1を冷蔵庫に入れ、24時間寝かせる。
- 肉を塩から取り出し、水ですすぎながらよく塩を落とす。(写真c,d 参照)
- 水気をキッチンペーパーでよく拭き取る。(写真e 参照)
- 鍋に肉を入れ、白ワイン、香草類の半量を加える。(写真f,g 参照)
- 弱火で蓋をして約5時間、電子調理器の場合は弱で8時間ゆっくり火を通す。
- 肉を取り出し、水分をよく拭き取ったら、食べやすい大きさにほぐす。(すでに肉は柔らかくなっているので、ほぐれる。)。(写真h 参照)
- 煮沸消毒したガラス容器にオリーヴオイルを少し入れ、香草類を少し先に入れ、その上に肉を入れていく。(写真i,j 参照)
- 一面が埋まったらオリーヴオイルを肉がおおわれるように注ぎ、残りの香草類を加えながら、さらに肉を入れ、また肉が全て浸かるようにオリーヴオイルを注ぐ。(写真k,l,m 参照)
- 密閉して、冷暗所で保存。一晩浸け置いて出来上がり。(写真n 参照)