お料理説明・背景
今回トスカーナ州シエナのレシピを教えていただくのに声をかけたのはエレナさん、ジャーナリストとして精力的に活動するキャリアウーマンだ。伝統料理のレシピを日本に紹介するの?おもしろいわね、もちろん喜んで!とのことだったが、私より娘の方が料理上手だから、彼女に説明してもらうわね、ということで、娘のマティルデさんに登場いただいた。
シエナで生まれ育ったマティルデさん、アメリカの学生のイタリア留学をサポートする仕事に就いている。料理に興味を持ったきっかけは、カトリック教の儀式の一つ「コムニオーネ」の時、集まった子供達に配るため叔母さんが焼いたマフィン。それから少しずつ人に習いながら、高校生になった頃には一人でキッチンに立つようになっていたそう。
「その時からね、私はキッチンを彼女に受け渡したの」と母親のエレナさんが楽しそうに話してくれる。とは言いつつも、娘の自発的な行動を自分は裏に回ってしっかりサポートしているのがよくわかる。取材中も、エレナさんは材料や道具をさっと用意したり、こうした方がいいんじゃないかしらなどと意見を出してマティルデさんの良い相談相手になってあげている。
「マンマと私はとっても気があうの、二人で話してるといいことをどんどん思いつくのよ。」とマティルデさん。これもね、昨日マンマと思いついて、急いで材料を買いに行ったの、と見せてくれた氷の中に小さなお花が凍づけされている。ザヴァイオーネ クリームを冷やす時に使う氷、色鮮やかな花の色が氷に透けて、なんともきれいだ。このレシピを見てくれる人にもっと楽しんでもらえてると思ってとエレナさんも言葉を添える。
さてさて、この「ブッディノ・ディ・サヴォイアルディ」はマティルデさんのおばあさん、ジータさんから教わったもの。シエナの南方アミアータ山のある地方でよく作られるお菓子なのだとか。とてもシンプルな焼きプディングなのだが、イタリアのビスケット、サヴォイアルディを使うこと、そしてトスカーナで作られるデザートワインのヴィンサントを使う点に郷土菓子らしさが味わえる。特に、トスカーナで食後酒として飲まれるヴィンサントは、ぶどうをヴィンサント小屋で干しゆっくり乾燥させることで、凝縮された自然のやわらかでやさしい甘さが、お菓子になんともまろやかな香りを添える。卵と牛乳をたっぷりと使った栄養満点のこのお菓子は、特に子供達のおやつとして、昔のマンマたちはよく作ったのだそう。
マティルデさんのおばあさんもよく作っていたのだけど、息子であるマティルデさんのお父さんは卵嫌いでこのお菓子が好きじゃないのだとか。でもマティルデさんはこのお菓子を気に入って、おばあさんから直接教わったのだ。「ひと世代飛び越えて、私が受け継いだのよ」とマティルデさん。人を招くときはよくこのお菓子を作るそうで、シエナの人にとっては懐かしいこのお菓子をみんな喜んでくれるのに、うちのパパだけ嫌いなのよ、と苦笑い。慌てて横からお父さんが「確かに嫌いだけど、マティルデが作るのは別格、本当においしいから!保証するよ!」と弁明すると、家族みんな声をあげて笑う。
きっとずっとこんな風に、楽しい家族の団欒に添えられてきたであろう郷土菓子は、栄養とやさしいおいしさに溢れている。
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。
作り方
下ごしらえ
- 型にバターを塗って、小麦粉をはたいておく。(写真a 参照)
- バニラビーンズを使う場合は、牛乳にバニラビーンズをつけておく。
- オーブンを180度に温めておく。
プディングを作る
- 仔サヴォイアルディをヴィンサントにさっと浸し、型に沿って隙間がないように並べていく。(写真b,c 参照)
- 1にミックスドライフルーツとレーズンを分量の半分ほど散らしながら入れる。(写真d 参照)
- 1の要領で、サヴォイアルディが二層になるようにさらに並べていく。(写真e 参照)
- 砂糖、牛乳、卵をよく混ぜ合わせる。(写真f 参照)
- 3に4を8分目まで注ぎ入れ、残りのミックスドライフルーツとレーズンを散らし入れる。(写真g 参照)
- 卵液の上に出ているサボイアルディエで蓋をするように織り込む。(写真h 参照
- 180度のオーブンに湯せんで40~50分焼く。(写真i 参照)