お料理説明・背景
実はヴェローナには馬肉を食べる文化があるのをご存知だろうか。私は住むまで知らなかったのだが、その昔、5世紀の「テオドリックとオドアケルの戦い」の際に、死んでしまった何百頭もの馬を食べて食糧難を凌いだのが始まり、という話が伝説のように語り継がれている。 そんな歴史から、ヴェローナには馬肉系専門の精肉店が点在。EQUINAと看板にあれば、それが「ウマ属」を意味し、馬やロバの肉も簡単に手に入る。馬よりもロバのほうが安価ということで、煮込み料理などにはロバ肉もよく使われるようになったのだそうだ。
馬肉に関しては、日本の馬刺しみたいに生で食べる場合もあり、細長く糸状に切られた馬肉の燻製にルッコラとグラナ・パダーノチーズをかけたり、ユッケ風のタルタルにしたり、前菜として扱われることも多い。 しかしながら、この度紹介するのはセコンドとしての馬肉料理、パスティッサーダ。ヴェローナのトラットリアでは郷土料理として必ず出てくるし、地域の祭りやイベントにもよく登場する人気メニューである。
Pastissada de caval(パスティッサーダ・ドゥ・カヴァル)の“de caval”がスペルミスと思った方もいるかもしれないが、最後の母音が落ちるのはヴェネト方言の特徴。cavallo(馬)はcavalとなる。さらに、pastissadaも方言で、イタリア語で言い換えるとstufatoやspezzatinoのこと。全く響きの違う食べ物になっているのがおもしろい。
さて、レシピ本などを見てみると、この馬肉料理にはヴェローナならではの悩ましい点があるのに気づいた。ヴェローナの高級赤ワイン「アマローネ」を使うことが推奨されているのだ。(1本30ユーロは下らない……‼)この点に関してリナは「おいしい濃いめの赤ワインを使うのに越したことはないだろうけれど」と苦笑い。あまりこだわらなくてもよいようで安心した。 また、馬肉でも、ロバ肉で代用する場合も、特に調理法が難しいというわけでもないのだが、とにかく調理時間が長いというのは難点だろう。まずは一晩、肉を赤ワインにつけておき、その後、鍋で6時間ほど煮込まなければならないのだ。その間、鍋底に肉がくっつかないよう、10分おきに軽く混ぜる必要があるので、なかなか目を離せない。
「これがあると役立つわよ」と言ってリナが取り出したのは年季の入ったバーナーキャップ。大きな鍋をグツグツと弱火で何時間も煮込む際に、一番小さなコンロの火の直径を広げられて重宝するアイテムだという。
盛り付けには黄色いポレンタを添えるのが定番で、リナ曰く「固形でもピューレ状でも、好みで選べばいい」とのこと。ほろほろに柔らかく優しい味わいの馬肉をアツアツのポレンタと一緒にどうぞ。
週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。
作り方
下ごしらえ
- 馬肉をぶつ切りにし、ざっくりと切った全ての野菜(ニンジン、タマネギ、セロリ、ニンニク)、スパイス&ハーブ類(クローブ、ローズマリー、セージ、ローリエ)と一緒に鍋に入れる。塩コショウも加えた後、赤ワインをひたひたにかぶせて一晩冷蔵庫に寝かせる。(写真a 参照)
作り方
- 鍋から野菜とスパイス&ハーブ類を取り出し、セロリの葉やスパイス&ハーブ類は捨てる。(写真b 参照)
- お肉をザルに上げて水分を落とす。赤ワインは別の容器に取っておく。(写真c 参照)
- (1)の野菜を細かく刻む。(写真d 参照)
- お肉に小麦粉をまぶし、多めのオリーヴオイルを入れた鍋で炒める。(写真e,f 参照)
- (4)を時折混ぜ、お肉が色づいてきたら(2)の赤ワインを加える。(写真g 参照)
- (1)の刻んだ野菜を加え、蓋をして弱火で6時間煮込む。この間、10分おきにさっと混ぜること。(写真h 参照)
- 煮詰まってきたら味見をして、必要あれば塩・コショウで調整して出来上がり(もし物足りなければ、少量のバターを足してもよい)。(写真i 参照)
- 食べる直前にポレンタも準備する。(写真j 参照)