マンマの紹介
- アンナ・ラバリオーネ(Anna Rabaglione)さん
- ピエモンテ州トリノ在住
- 【得意料理】ピエモンテ料理、特に出身地のノヴァーラ地方の料理「パニッシャ」「ゴルゴンゾーラのニョッキ」など。
お料理説明・背景
トリノの人気オステリア「アンティケ・セーレ」。家族経営のその厨房を20年守り続けた、アンナ・ラバリオーネさんが今回教えてくれたのは、寒い冬にぴったりの「トリッパのスープ」だ。イタリア料理のトリッパというと煮込みのイメージが強いけれど、ミネストローネのように野菜たっぷりのスープの中に、炒めたトリッパを加え、さらに煮込んで食べる一皿だ。野菜の滋味と、ナツメグやクローブの風味が効いてとてもおいしい上に、身体がポカポカ暖まる。昔は農村の人々が大切な機会に食べるご馳走だったそうだ。
「私たち家族が出身の、ピエモンテ州ノヴァーラや、お隣の州のミラノあたりでは、この料理はブゼッカって呼ばれているのよ。昔、農家の人たちは、12月24日の夜の12時、つまり、クリスマスを迎える瞬間に教会へミサに行った後、家族親戚一同で家畜小屋に集まってブゼッカを食べたそうよ」とアンナさん。
イタリア料理の源泉は「クチーナ・ポーヴェラ」(貧しい料理)にあり」と言われるが、大切な家畜を屠殺して、肉は売り、残った内臓を大事に家族で食べた昔ながらの習慣が、見事に、おいしく、現代にも伝えられているというわけだ。
「内臓だけじゃない。農家の人たちは野菜だって、いいものは売って、その残りを食料庫に保存して家族で食べていたのよ。だからこのスープには、何を入れたっていいの。いろいろな余り野菜、普通なら捨ててしまうような部位もグツグツ煮込むから、とてもいい味になるの。毎回入れるものが違ったっていい。それもまた楽しいじゃない。」と笑う。食料廃棄問題が大きく語られる今日この頃、昔のレシピを再現して楽しむだけでなく、日々の料理のヒントに取り入れたい言葉だ。
ところで料理名の「ブゼッカ」とは、もともとロンバルディア州西部の方言で「トリッパ」を指す言葉だったという。昔ミラノの人をからかう時に「ブゼッコーニ」(トリッパ野郎?)ということがあったというほど、人気の家庭料理だったそうだ。そしてロンバルディア州に隣接したアンナさんの出身地ノヴァーラでも、ポピュラーな郷土料理として定着していたというわけだ。
イタリア全国の名オステリアだけを集めたガイドブック「オステリア・ディタリア」(Slow Food出版)でも、つねに高評価を得る名店「アンティケ・セーレ」。その厨房は引退したものの、家族の、郷土のレシピを伝えることを今も心掛けているアンナさん。彼女の作る「ブゼッカ」がとても優しくて深い味わいなのは、家族と郷土への愛がいっぱい詰まっているから。そう考えると、同じ味を再現するのは、なかなか簡単ではなさそうだけれど。
1996年よりイタリア・トリノ在住。ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。『東洋経済オンライン』『料理通信』Asahi.com『Globe+』、News Week 日本版ブログ『World Voice』,QJWebなどに執筆。本物の日本食文化を伝えるwebサイト「SASAYAKA」を3ヶ国語にて展開。同名の和風チョコレートを、トリノの老舗チョコレート職人とのコラボにて発売を開始したばかり。イタリアの暮らしやコロナ情報を綴った個人ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」も好評。ノート版こちら→https://note.com/miyamoto_madamin
作り方
- ニンジン、キャベツ、セロリを1㎝角程度に切る。(写真a 参照)
- 鍋に湯を沸かし、1の野菜を入れる。(写真b 参照)
- ポロネギ、ジャガイモ、その他の野菜も同様に切り、鍋に加える。あら、これも入れちゃおう、とキッチンにあったズッキーニ(材料写真にはない)も投入。(写真c,d 参照)
- 別の鍋にオリーヴオイル、バター、刻んだラードを溶かす。(写真e 参照)
- スライスしたタマネギとローリエの葉を加える。タマネギを焦がさないように気をつけながら、黄金色に色づくまで炒める。(写真f 参照)
- タマネギの色が変わったらトリッパを加え、塩・コショウ、ナツメグ、クローブ、刻んだパセリを加え、少量のスープでのばしたトマトピューレを加えて弱火で30分ほど焦げ付かないように炒めながら煮込んでいく。(写真g,h 参照)
- トリッパが煮えたら、3のスープの中に移す。(写真i 参照)
- トリッパにスープのおいしさを吸わせるために、さらに30分~1時間煮込む。(写真j 参照)
- 食べるときには、好みでパルミジャーノチーズを削ったり、オリーヴオイルをかけて。