お料理説明・背景
パレルモからプロペラ機に乗り込み約1時間、アフリカもすぐそこに見える地中海に浮かぶ小さな島パンテレッリーア島。
この島で暮らす結婚42年目(2015年取材当時)のローザさんとバッティスタさん夫婦。なれ初めはご主人の一目惚れから。長年連れ添った二人のお互いを信頼し合う何気ない仕草は、そばにいる人たちをホッと和ませてくれる。
実は取材当日、僕らはご主人のバッティスタさんに人生で初めての料理をさせてしまったのだ。「彼女が料理上手だったから結婚したんだよ」と言うバッティスタさん。結婚前も、結婚してからも一度も料理をしたことがないし、するつもりも無かったらしい。「料理や家事はすべて妻がやって、俺は外で稼いでくるから」と、ひと昔前の日本男子風だが、実はこれ島の伝統らしい。
「最近の男は軽くキッチンに入っているんだよ」なんて言いながらも、ラビオリ作りを勧めたら、なんと、バッティスタさんの手がパスタカッターに伸びて、おもむろに切り出したのだ。島の頑固親父がついに料理を! ローザさんは苦笑いしながらも手ほどきを。なんとも微笑ましい瞬間だ。
パンテレッリーアの方言で麺打ち台のことを「タブレーレ」という。この家のタブレーレは、ローザさんの前々代から受け継がれた物で、もう数えきれないほどのパスタを打ってきた。所々にほころびができれば補修して使われてきた。もちろんその補修は、時のお父さんがやってきたに違いない。その使い込まれたタブレーレの上には96個のラビオリがずらりと並んだ。バッティスタさんが作ったラビオリもそこにはある。
二人にはすでに独立した子供が4人いるが、お昼を一緒に食べることが多い。「それぞれの立場を理解し共有し、共存できるのが家族で、島では家族の絆がとても大切だ」と、バッティスタさん。そんなお父さんの話を、ラビオリを作りながら横で黙って聞いているローザさんの姿が印象的だった。
今回紹介する「ペスト・パンテスコ」は、島特産のカッペリ(ケイパー)とオレガノを使ったもの。カッペリはIGP(地理的表示保護)で、ちゃんとしたパンテレッリーア産というお墨付きの特産品。島のあちこちに生息しているし、栽培もされている。丸っこい形のあれは花の蕾で、日本では酢漬けのほうがよく見かけるが、島では塩漬けが基本。食べる前に軽く塩抜きして(抜き過ぎは禁物)調理に使う。あの独特な香りがたまらない。特にパンテレッリーア産は最高なのだ。そしてオレガノも島の名産。風が吹くとオレガノの爽やかな香りがどこからともなく漂ってくる。
この二つを使ったペストは、ブルスケッタにパスタ、焼き魚にチーズにと、あらゆるものに合わせて使えるパンテッレリーアでは欠かせない調味料だ。取材した時は、ロングパスタにソースを和え、仕上げにチーズを振りかけていただいた。
文:イタリア好き編集長 マッシモ 写真:萬田康文
★『イタリア好き』本誌vol.23パンテッレリーア特集はこちら→https://italiazuki.com/?p=10552
材料
パンテッレリーア風ペスト(4~6人分)
・トマト | 600g | チリエジーノ種がなければプチトマトでも可 |
---|---|---|
・ニンニク | 1かけ | 好みで加減 |
・イタリアンパセリ | 1束 | 9本くらい |
・オレガノ(ドライ) | 大1 | 好みで加減 |
・バジリコ | 5枚 | |
・塩漬けカッペリ | 一握り | |
・エクストラ・ヴァージン・オリーヴオイル | 50~80cc | |
・塩 | 適量 | カッペリの塩味と合わせて調整 |
・コショウ | 少々 |