見晴らし抜群!アルプスの谷の古城たち
外出制限が解除されたイタリア。車で1時間も走ると、がらっと景色が変わっていき、かなり遠出をした気分になるものです。
ヴェネト州からトレンティーノ・アルト‐アディジェ州へ、アディジェ川沿いを上るように渓谷の道を北上していくと、山々が迫るようにそびえ、南アルプスへと繋がってゆきます。
車窓から大自然を眺めていると、目に入るのは高台に建てられたお城の数々。トレンティーノ・アルト-アディジェ州には、かつて貴族たちが建てた大きなお城が多く残されているのです。
未だ個人所有で住居を兼ねている場合もあれば、屋根が崩れたような状態でミュージアムとして一般に開放されていることも。
お城というと姫が住んでいそうな響きですが、中世の時代にはその地域を統治する場所だったわけで、警察、裁判、牢獄など悪人の取り締まりにも使われていたほか、何よりも大切な軍事拠点でした。侵入を防ぐ観点から見晴らしが良い場所にあり、今では素晴らしい眺めを楽しめる人気観光スポットにもなっています。
先日、久々にドライブ気分に浸りながら、トレンティーノ地方のとある中世のお城まで行ってきました。この道を通る度にずっと気になっていたお城。アヴィオ(Avio)という町の近くにあることから、「アヴィオ城」(Castello di Avio)と呼ばれています。
1人だったら「わーすごい」で終わってしまう訪問も、西洋美術史で博士号をもつ夫の解説付き。西洋美術や歴史に詳しく、美術館や教会などをいつもじっくり熱心に説明してくれるプライベートガイドさんなのは本当にラッキーです。
中でもおもしろいと感じたポイントをかいつまんでお伝えすると・・・
★立地
アヴィオ城が位置するのはアディジェ渓谷から続くヴァッラガリーナと呼ばれる谷の山肌。
1053年にはすでにこの地に要塞があったという記録が残っています。この渓谷は周りにアルプスの山々がそびえていて通行が難しく、当時は現ドイツ⇔イタリアを直接結ぶ唯一の道として重要な役割を果たしていました。(現代に至ってもモデナからブレンネル峠までの高速道路やボローニャからミュンヘンまでを結ぶ特急列車がこの谷を通っています。)
中世の時代は、現在のドイツを中心として神聖ローマ帝国が領土を広げ、最盛期には北イタリアまで支配。広大な神聖ローマ帝国の皇帝はわざわざ南下してイタリアまでは来ず、支配地域ごとに権力者(貴族)たちに治めさせ、守りを固めていました。ずーっと南まで下った先、ローマには、皇帝のライバルであるローマ法王がいたため、皇帝としてもこの道の周辺をしっかりと押さえておきたかったよう。
このお城は背後を山に守られ、タワーからは渓谷の奥、南のほうまでしっかりと望める最高の立地に建てられています。
★所有者
いわゆる封建的な国家の中で12世紀以降、この城を所有していたのはカステルバルコ家。
赤地にライオンの紋章を持つカステルバルコ家は、この谷の40㎞ほど南に位置するヴェローナの最重要ファミリーであったスカラ家とも良好な関係を築き、自分のテリトリーを強固なものにしていました。
実はヴェローナにあるサン・フェルモ教会に、その関係性を表す証があります。
祭壇の頭上右側に教会を捧げているような人のフレスコ画が見られるのですが、これは教会建設に際してお金を出した人をモチーフに描かれる姿であり、この赤地にライオンの紋章はまさにカステルバルコ家のもの。実際にカステルバルコ家が14世紀初めに教会装飾のための資金を調えた記録も残っていて、つまりはヴェローナにも存在感を示していたことが窺えるのです。
★装飾
さて話をお城に戻すと、門からジグザグに上ってぐるっと回ったところにメインの建物があるという構造。
その途中にある警備隊の家(Casa delle Guardie)には14世紀のフレスコ画が状態良く残っていて、興味深い描写がいっぱいです。
教会のフレスコ画と違って聖人の画などは見当たらず宗教色が薄いのが特徴的。
戦闘シーンが目立つのも軍事施設を兼ねているお城ならではです。
特に気になったのが、ここ。
このフレスコ画には、左上にドイツを思わせる鷲の紋章、対する右にはトルコのような赤い地に白い月のシンボルが見られます。すなわち、当時の神聖ローマ帝国(キリスト教)が中東イスラム圏を相手に戦っているシーンだと見て取れるのです。
また、メインの塔(Mastio)の中にも、アモーレをモチーフにしたストーリー性のあるフレスコ画が見事に残っていますよ。
このように位置関係や所有者、フレスコ画などの意味がわかると理解度も高まり、より興味深く感じられるものです。今回は、アヴィオ城について簡単にお届けしましたが、トレンティーノ・アルト-アディジェ州にお越しの際は、ぜひお城にも足を運んで、何百年も前の時代に思いを馳せてみてくださいね。
なお、このアヴィオ城は1977年、カステルバルコ家の子孫(世界的指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの孫)によってFAIというNPOに寄附されました。FAIとはFondo Ambiente Italiano「イタリア環境基金」の略称。イタリアの歴史的・文化的遺産の数々は素晴らしく価値のある一方で、修復や維持に莫大な費用がかかるため、老朽化が進んでいるところが多いのも現状です。そんな状況を打開すべく、FAIは歴史的建造物や庭園などを所有者から受け継ぎ、修復から維持、管理、一般公開に至るまでを担う、いわば過去を未来へとつなぐ活動を行っています。
ヴェネト州からトレンティーノ・アルト‐アディジェ州へ、アディジェ川沿いを上るように渓谷の道を北上していくと、山々が迫るようにそびえ、南アルプスへと繋がってゆきます。
車窓から大自然を眺めていると、目に入るのは高台に建てられたお城の数々。トレンティーノ・アルト-アディジェ州には、かつて貴族たちが建てた大きなお城が多く残されているのです。
未だ個人所有で住居を兼ねている場合もあれば、屋根が崩れたような状態でミュージアムとして一般に開放されていることも。
お城というと姫が住んでいそうな響きですが、中世の時代にはその地域を統治する場所だったわけで、警察、裁判、牢獄など悪人の取り締まりにも使われていたほか、何よりも大切な軍事拠点でした。侵入を防ぐ観点から見晴らしが良い場所にあり、今では素晴らしい眺めを楽しめる人気観光スポットにもなっています。
先日、久々にドライブ気分に浸りながら、トレンティーノ地方のとある中世のお城まで行ってきました。この道を通る度にずっと気になっていたお城。アヴィオ(Avio)という町の近くにあることから、「アヴィオ城」(Castello di Avio)と呼ばれています。
1人だったら「わーすごい」で終わってしまう訪問も、西洋美術史で博士号をもつ夫の解説付き。西洋美術や歴史に詳しく、美術館や教会などをいつもじっくり熱心に説明してくれるプライベートガイドさんなのは本当にラッキーです。
中でもおもしろいと感じたポイントをかいつまんでお伝えすると・・・
★立地
アヴィオ城が位置するのはアディジェ渓谷から続くヴァッラガリーナと呼ばれる谷の山肌。
1053年にはすでにこの地に要塞があったという記録が残っています。この渓谷は周りにアルプスの山々がそびえていて通行が難しく、当時は現ドイツ⇔イタリアを直接結ぶ唯一の道として重要な役割を果たしていました。(現代に至ってもモデナからブレンネル峠までの高速道路やボローニャからミュンヘンまでを結ぶ特急列車がこの谷を通っています。)
中世の時代は、現在のドイツを中心として神聖ローマ帝国が領土を広げ、最盛期には北イタリアまで支配。広大な神聖ローマ帝国の皇帝はわざわざ南下してイタリアまでは来ず、支配地域ごとに権力者(貴族)たちに治めさせ、守りを固めていました。ずーっと南まで下った先、ローマには、皇帝のライバルであるローマ法王がいたため、皇帝としてもこの道の周辺をしっかりと押さえておきたかったよう。
このお城は背後を山に守られ、タワーからは渓谷の奥、南のほうまでしっかりと望める最高の立地に建てられています。
★所有者
いわゆる封建的な国家の中で12世紀以降、この城を所有していたのはカステルバルコ家。
赤地にライオンの紋章を持つカステルバルコ家は、この谷の40㎞ほど南に位置するヴェローナの最重要ファミリーであったスカラ家とも良好な関係を築き、自分のテリトリーを強固なものにしていました。
実はヴェローナにあるサン・フェルモ教会に、その関係性を表す証があります。
祭壇の頭上右側に教会を捧げているような人のフレスコ画が見られるのですが、これは教会建設に際してお金を出した人をモチーフに描かれる姿であり、この赤地にライオンの紋章はまさにカステルバルコ家のもの。実際にカステルバルコ家が14世紀初めに教会装飾のための資金を調えた記録も残っていて、つまりはヴェローナにも存在感を示していたことが窺えるのです。
★装飾
さて話をお城に戻すと、門からジグザグに上ってぐるっと回ったところにメインの建物があるという構造。
その途中にある警備隊の家(Casa delle Guardie)には14世紀のフレスコ画が状態良く残っていて、興味深い描写がいっぱいです。
教会のフレスコ画と違って聖人の画などは見当たらず宗教色が薄いのが特徴的。
戦闘シーンが目立つのも軍事施設を兼ねているお城ならではです。
特に気になったのが、ここ。
このフレスコ画には、左上にドイツを思わせる鷲の紋章、対する右にはトルコのような赤い地に白い月のシンボルが見られます。すなわち、当時の神聖ローマ帝国(キリスト教)が中東イスラム圏を相手に戦っているシーンだと見て取れるのです。
また、メインの塔(Mastio)の中にも、アモーレをモチーフにしたストーリー性のあるフレスコ画が見事に残っていますよ。
このように位置関係や所有者、フレスコ画などの意味がわかると理解度も高まり、より興味深く感じられるものです。今回は、アヴィオ城について簡単にお届けしましたが、トレンティーノ・アルト-アディジェ州にお越しの際は、ぜひお城にも足を運んで、何百年も前の時代に思いを馳せてみてくださいね。
なお、このアヴィオ城は1977年、カステルバルコ家の子孫(世界的指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの孫)によってFAIというNPOに寄附されました。FAIとはFondo Ambiente Italiano「イタリア環境基金」の略称。イタリアの歴史的・文化的遺産の数々は素晴らしく価値のある一方で、修復や維持に莫大な費用がかかるため、老朽化が進んでいるところが多いのも現状です。そんな状況を打開すべく、FAIは歴史的建造物や庭園などを所有者から受け継ぎ、修復から維持、管理、一般公開に至るまでを担う、いわば過去を未来へとつなぐ活動を行っています。