マンマのレシピ

マンマの紹介

  • ベネデッタ・スキファーノ(Benedetta Schifano)さん
  • チリア州ダッティロ村在住
  • 得意料理:トラーパニ風魚のクスクス

お料理説明・背景

今年ももうすぐ春の到来を告げるパスクワがやってきます。英語では「イースター」、日本語では「復活祭」ですが、その名の通りキリストの復活を告げるお祭りです。イタリア人にとってはキリストの誕生を祝うナターレ(クリスマス)と同じくらい重要なキリスト教のお祝いで、信仰心が厚いといわれるシチリアでは、色々な街でさまざまな行事が開催されます。トラーパニでも盛大な祭りが行われますが、大勢のトラーパニ市民たちと外国からきた観光客で街は大賑わい! 歩けないほどの人で街は埋め尽くされます。

そして復活祭のお楽しみと言えば、復活祭のドルチェたち。イタリア全土で「コロンバ」をはじめ色々なドルチェが作られますが、シチリアには独自のドルチェがたくさんあります。シチリアを旅したことがある人なら、一度は見たことがあるであろう、緑の帯で側面が覆われ、上には派手なフルーツの砂糖煮がのっているカッサータ・シチリアーナも、元々はパスクワのお祝いのお菓子。色々ある復活祭のお菓子の中から、数年前にパスクワの食卓を一緒に囲んだベネデッタから教わった型を使わないリコッタのタルトを紹介します。

パスクワの定番料理といえば羊料理で、イタリア全土で羊のオーブン焼きや煮込みが作られています。ちなみにプリモは、ラザーニャやカンネッローニなどのオーブン焼のパスタが多いです。
シチリアも例にもれず、羊料理を作るマンマが多いのですが、シチリアで羊と言えば、もう一つ、そのおいしさで有名なのが羊乳のリコッタ。

シチリアは冬から春にかけてが羊たちが緑の新鮮な草を食べられる季節。5月を過ぎると暑さと雨の少なさですっかり枯れてしまい、雨が降り始める11月過ぎまで緑の草を食べることができません。夏の間は、枯れ草を食べる事になるのですが、乳は当然、新鮮な草を食べている時期の方が濃くておいしい。そのため、かつてシチリアではリコッタは冬の期間だけ作っていました。また、夏のシチリアは暑いため、すぐにダメになってしまうからという理由もあるでしょう。私がシチリアに来た16年前は、夏にリコッタを入手したい場合は、食材店かカゼイフィーチョ(チーズ工房)に予約して、作ってもらっていました。

現在は夏でも手軽にリコッタを入手することが可能になりましたが、やっぱりおいしいのは緑の草の季節。ちょうどパスクワの時期はリコッタがおいしい時期でもあり、シチリアではリコッタを使ったドルチェをパスクワに作ります。

さて、今回教えてもらった型を使わないリコッタのタルトは「カッサテッレ・ディ・パスクワ」と呼ばれ、まさにパスクワの時期に作られるドルチェ。数年前、ベネデッタとパスクワの食卓を共にしたときのこと。食事のメニューはすぐに決まったのですが、ドルチェは何にしようか? と2人で悩み。カッサータ・シチリアーナは、前日から準備が必要となるため却下。色々考えた末、決めたのが今回教えてもらった「カッサテッレ・ディ・パスクワ」だったのです。生地もクリームも手軽に作れるうえ、型も要らない。とても気軽に作れるドルチェです。

トラーパニでは「カッサテッレ」と言えば、半月の形をした巨大ラビオリを指すのですが、シチリアの南東部では閉じない、タルトのようなカッサテッレを作ります。ベネデッタはトラーパニの出身ですが、この作り方を親戚から習ったそうで、

「太陽みたいな形がとっても可愛いのよ!」

と、太陽みたいな笑顔で語るベネデッタ。

このレシピ、シチリア南東部ではオーブンで焼くのですが、親戚から習ったレシピはなんと揚げるというもの。パスクワの日も半分はオーブンで焼いて、半分はオリーヴオイルで揚げたのですが、オリーヴオイルで水分の多いリコッタを上げるのは結構危険で……2人でワーワー、キャーキャー言いながら揚げたことを思い出します。 今回は日本でも作りやすいように、オーブンで焼く方法をご紹介。タルトと言っても型を使わないので、型を持っていなくても大丈夫。今年のパスクワは4月4日。皆さんも是非作ってみてくださいね!

レポート:佐藤 礼子(Sato Reiko)
2005年よりイタリアの南の島、シチリア島在住。力強い大地の恵みと美しい大自 然にすっかり魅せられ、シチリアに残ることを心に決める。現在、シチリア食文化を研究しつつ、トラーパニでシチリア料理教室を開催。また、シチリア美食の旅をコーディネートする「ラ ターボラ シチリアーナ」の代表&コーディネーターとしてトラーパニで活動中。 シチリア美食の旅をコーディネート「ラ ターボラ シチリアーナ」

材料

カッサテッレ・ディ・パスクワ(直径7cmのタルト10個分)

・リコッタ300g
・セモリナ粉200g
・グラニュー糖110g生地用:20g・フィリング用:90g
・バニラパウダー又はオイル少々
・オリーヴオイル35g
・塩ひとつまみ
・マルサラワイン65g白ワインでも可
・レモンの皮すりおろし1/2個分

作り方

下ごしらえ

  1. リコッタは前日から一晩、ザルでしっかりと水を切っておく。

作り方

  1. セモリナ粉、グラニュー糖、バニラパウダー、塩をボウルに入れ、オリーヴオイルを中央に注ぎ、手でこすり合わせるようにしてオリーヴオイルを粉類になじませる。(写真a,b,c 参照)
  2. マルサラワインを加え、握りながらひとかたまりにまとめながらこね、ラップをして冷蔵庫で30分休ませる。(写真d,e 参照)
  3. リコッタにグラニュー糖とレモンの皮のすりおろしを加え、クリーミーになるまでホイッパーでよく混ぜる。(写真f,g 参照)
  4. 2の生地を打ち粉をした台で約2㎜の厚さにのばし、約12cmのセルクルで抜いたら、真ん中に3のリコッタをのせる。(写真h 参照)
  5. 4の生地のふちをつまむようにして閉じたら、表面をヘラで軽くならす。(写真i,j 参照)
  6. オーブンシートを敷いた天板の上に並べ、170℃のオーブンで30分、表面に軽く焼き目が付くまで焼く。(写真k,l 参照)
  • a. 粉類の中央にオイルを注ぐ
  • b. 手をこすり合わせる
  • c. オイルを粉類全体になじませる
  • d. マルサラワインを加え握る
  • e. ひとつにまとめたら休ませる
  • f. リコッタに砂糖とレモンの皮を加える
  • g. なめらかになるまでよく混ぜる
  • h. 直径12cmにくり抜いた生地にリコッタをのせる
  • i. ふちをつまむようにして閉じる
  • j. 表面をヘラで軽くならす
  • k. 鉄板に並べる
  • l. 170℃のオーブンで30分焼く

お料理ポイント

生地のこねあがりはすべすべの滑らかな生地にはなりません。休ませた後に、もう一度軽くこねると扱いやすくなりますよ。また、焼く温度と時間は目安なので、ご自宅のオーブンで何度か作って調整してください。生地が先に焦げるようだったら、最後の5分は上段で焼くと早く表面に焦げ目が付きます。