お料理説明・背景
雄鶏のキャセロール煮込みは、イネスさんの夫の家系に代々伝わるお祝い料理。有名ではありませんがジェノヴァの田舎の家庭料理の一つです。
イタリアのスーパーで売られている鶏肉(伊語:ポッロ)は脂身が多く柔らかい若い鳥の肉ですが、雄鶏(伊語:ガッロ)は成鳥の肉です。噛みごたえのあるしっかりした食感で、噛むほどに口の中に肉の味が広がります。ポッロより値段が高く、スーパーではほぼ売っていませんが、鶏肉屋さんに行く、又は肉屋で前もって注文をすれば手に入れることができます。
キャセロールというと、オーブン料理などにも使える重たい厚手の鍋を想像しますが、イタリアでは素材は問わず、一般的に煮物用の深鍋をさします。皆さんのお家にあるステンレス製のお鍋を使用していただいて大丈夫です。
イネスさんは夫の叔母からこの料理を教わり、クリスマスシーズンになると毎年必ず作るそうです。料理上手な叔母さんから受け継いだこのレシピは、家族にとって思い出のある特別な料理だと言います。
彼女の夫の話によると、母親は彼が4歳、姉が7歳の時に2人の子供を残し若くして急死したため、父親は八百屋を経営し早朝から晩まで働いていたので、実母の妹、ラウラさんが子供たちを預かり、彼らの母親代わりとなって育てたそう。
ラウラさんは以前マンマのレシピ(vol.141と142)でも登場していますが、ジェノヴァの山側にある自然が豊かな村落に住んでいます。自宅の庭に雄鶏、雌鶏、食用のカタツムリ(リグーリア州でよく食べられる)を飼い、産みたての新鮮な卵を食べ、肉料理の日には庭の鳥を絞めて調理します。そんな環境で育ったイネスさんの旦那さんは、「毎日餌をあげて卵を産んでくれる鳥を絞める日は、いつも切ない気持ちだったけれど、命をいただいて生きているということを子供の頃から目の当たりにして育ったよ」と言います。
今回、レシピを教えていただいた日の鶏肉の解体はイネスさんの旦那さんが行ってくれました。ラウラさんが解体するのを長年見ていて、イネスさんより上手なのだそうです。その最中、4歳と9歳のお孫さんたちがまな板の横に釘付けになって雄鶏の解体を見守っていた様子がとても印象的でした。優しいおじいちゃんが雄鶏の頭を切り落とす……! そんなショッキングなシーンを見て4歳の女の子は泣き出すのではと心配でしたが「キャー!」と叫びながらも目を開いてその場を離れません。おじいちゃんに「これが心臓、これが睾丸……」と一つ一つ部位や内臓の説明を受ける孫たち。砂肝の中には雄鶏が最後に食べたであろう草が入っており、9歳の男の子は興味津々。じーっと見つめて、目に焼き付けていました。子供の頃スーパーで切り売りされたお肉しか見たことのなかった私には新鮮な風景で、こうしてイタリアの家庭では食育が行われているのだなと感銘を受けました。
家族みんなで過ごすイネスさん宅のクリスマスは、煌びやかな装飾や豪華な料理やたくさんのプレゼントが並ぶだけでなく、親から子へ、そして孫へと、命の尊さや食べ物への敬意を学ぶ素晴らしい1日のようです。
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから
作り方
- 雄鶏の表面の皮全体をガスコンロで丁寧に炙り、羽毛を焼きとる。(写真a 参照)
- 頭部、足、胆汁(緑色の部分)、肛門、睾丸は使わないので、取り除く。(写真b,c 参照)
- もも肉、首、手羽、心臓、肝、砂肝は使用するのでとり分けておく。(写真d,e 参照)
- 砂肝は開いて中身を処理し、丁寧に洗う。他の部分は食べやすい大きさに切る。包丁で処理すると骨が割れず食べやすく仕上がるが、難しい場合は調理用の丈夫なハサミを使用する。(写真f 参照)
- 臭みをとるため、使用する部位の肉を冷水で洗う。(写真g 参照)