ジンにオオカミ、白トリュフ
5月下旬、土曜日、午前6時半には車に乗っていた、、、と、言うより、乗せられてたというべきか。
目指したのはランゲ。旨い『ジン』をつくる生産者がいるからと。しかもオオカミからインスピレーションを得て、さらには白トリュフで風味づけをした『ジン』。
こんな書き出しだと既に皆さんにも、不思議に思うことがあれこれあるでしょう?
ピエモンテ州ランゲ地方と言えばバローロとかバルバレスコなどなど、とにかくワインのはずが、なぜゆえ『ジン』⁉
しかもなぜオオカミがそこに登場する?
白トリュフを使うなんてやり過ぎでは?
イタリアを20年ぐるぐる巡っていれば、しかも好奇心の人一倍旺盛な相棒をもてば、枠に当てはまらない生産者を訪ねることになるのは日常茶飯事。その日の『イタリア好き』な日帰りの旅ランゲ編もさっさと始まっていたのです。
ランゲ産旨いジンの不思議解明!
では、先に述べられた不思議に一つずつ迫ってみましょう。
ここは、バローロ村から東に15キロ、モンテルーポ・アルベーゼ(Montelupo Albese)。ここに住む若い夫婦ヴァレンティ―ナ・バローネ(Valentina Barone)とジョヴァンニ・アレッサンドリア(Giovanni Alessandria)は、はじけるような笑顔で私たちを待っていてくれました。
彼らの自宅は丘の上、やや切り立った斜面の上にあって、オリーブやオレンジの盆栽が並べられたテラスに立てば、リグーリア海から吹き上げてくる風と強い日差しが体の真正面から絡んできて、周囲の豊かな緑とあちこちに植えられたハーブが目に入り、彼らの声に耳を傾けたくなります。
「私達は仕事でロンドンに1年ほど暮らしたことがあるの。その時に二人とも『ジン』の虜になってね。」と、ヴァレンティ―ナ。
「でもほら、若者向けの小洒落たラウンジなんかだと量ばかりどんどん飲まされて、翌朝は頭痛で目が覚める。あれはちょっと頂けないなぁって。それで私たちなりのジンをつくれたら、って思ったわけ。」
なぜオオカミ?
「ああ、オオカミ?だって、この村はモンテルーポ(Lupoは狼の意)って名前だろう。」と、ジョバンニ。
ここで皆さん、イタリアに限らず西洋諸国を旅してお気づきになったことはありませんか、いかにオオカミ好きの人が多いかに。イタリアでは絶滅の危機に瀕していたイタリア・オオカミの保護活動『Operazione San Francesco』は既に1970年に立ち上がっているし、フランス人ピアニストのエレーヌ・グリモーがアメリカ・ニューヨーク州で『ニューヨーク・ウルフ・センター』を設立し、やはり保護活動にあたっています。
オオカミの話になると目を輝かせ、その生態や林野で遭遇した時の体験を幸せそうに語るイタリア人は私の相棒に限らず、大勢います。
日本ではこんな『オオカミ好き』や野生動物好きにあったことはあまりなかった。
私も子供の頃は椋鳩十やシートン動物記を読み漁っていたけど、なんだか情熱の種類が違う気がするのです。
さて、話をヴァレンティ―ナとジョバンニに戻すと、モンテルーポ村(オオカミ山の意)に暮らす二人は、50年前にアブルッツォで始まった保護活動からイメージを膨らませていきました。長年の取り組みが功を奏し、オオカミたちの生息数は年々増加し、イタリア半島全体に生息範囲を広め、次第に北上しながらリグーリアに到達、ここ数年でピエモンテにもその生息範囲を広げている事実に着目します。
『ジン』は、ジュニパーベリー(セイヨウネズの球果)の他『ボタニカル』と呼ばれる様々な草根皮木が加えられてゆっくり蒸溜にかけて作られます。イタリア人らしい個性を発揮できるのもこのボタニカルのセレクションのあたり。ヴァレンティ―ナとジョバンニは、アブルッツォを離れ、果てしない旅路の末にモンテルーポ村に辿り着いたオオカミを思い描いてボタニカルを選びました。太陽の位置、月の満ち欠け、様々な条件から自分の位置を知り、他の動物たちの匂いと一緒にあっちこっちの草木の香りを嗅いだに違いない。その香りを追う『ジン』を作ろうと。
そうして生まれたのが一本目のジン。その名もシンプルに『Dry Gin』。ボタニカルとして用いたのは7種類、アペニン産ジュニパー、タイム、ローリエ、野生のローズマリー、サンブーコ、リグーリア産ペルナンブッコ種のオレンジそしてピエモンテ産ヘーゼルナッツ。完成した『ジン』は自然な優しさが備わった、ほっとする味わい。
「ほっとした?長旅の末にオオカミはここを終着点に選んだから。Montelupoこそがオオカミの落ち着ける場所。僕たちのジンのブランド名も『Wolfrest』。」
このジンをストレートで口に含みながら、ジョヴァンニの言葉に頷く。そして、今度はジントニックで。とても洗練されたフレッシュな味わいでした。
ボタニカルには白トリュフ
「白トリュフを使って何かをしたいというのは、ジンを作ることを思いつくもっと前から考えてた。」ジョバンニが切り出した言葉が印象的。
ジョバンニの一家はおじいちゃんも、お父さんも白トリュフ採り。
「僕もトリフラウ(Trifulau:トリュフ採り)だよ。このモンテルーポのあたりでも良質のトリュフが採れる。この地域に結びついた良いものを使ってヴァレンティーナと二人で何か作りたいと考えた時、やっぱり真っ先に白トリュフだと思ったんだ。」
ヴァレンティ―ナとジョヴァンニがおつき合いを始めたのは、高校時代。それから20年、二人はずっと一緒。だから二人が一緒に出来る仕事を生み出したかった。『白トリュフの旨いジンを作る』、そんな奇想天外な思いも、夫婦の阿吽の呼吸があって実現できたのかもしれません。
私たちの間で続いていたお喋りは、3種類のボタニカル、アペニン産ジュニパー、ヘイゼルナッツと白トリュフだけから生まれた『ジン』、その名も『Alba』を口に含んだときの驚きにピタリと止みます。
まず、鼻腔をくすぐるのが白トリュフが生んだ野生の香り。
次にパンチの利いたジンならではの風味に襲われたかな、と思ったその瞬間、あの白トリュフ独特のほとんどエロチックなほどの風味が訴えかけてくるのです。
このジンの野性味を嗅ぎ分けられた人は、西洋人が野生に同化したいと願うほどの憧れと、日本人の野生を神と崇めるほどの憧憬の念、そのアプローチの違いをこのジン一滴の中に理解できるはず。
(こんな凄いものをこんな若い二人が作ってしまったのか。)改めて二人を見つめてしまいました。私の相棒も断言します。
「これは白トリュフはジンになるために生まれたと信じさせちまうほどの代物だ!陣に白トリュフなんてやり過ぎと思ってここに来たが、そんな偏見を一掃する逸品だよ。」
驚いたことに、500ml入りボトル1000本を生産するためには、なんと7キロもの白トリュフが必要だそう。因みに白トリュフは100グラムあれば6人で2,3種類の料理を堪能できる量です。だから7キロあったら一体何人を幸せにできる⁉ お値段にしたら一体いくらになるか、恐ろしくて考えなくない。
それでも二人は決してエッセンスオイルを使用したくなかった。
人工的な白トリュフの香りをつけるのは、自分たちの土地への愛情表現とは違うからといいます。
「だからこのジンは、ボトルごとキンキンに冷やしてからグラスに注ぎ、これだけで楽しんでね。」と。
妙な日帰り旅行と思っていたのに、全てがすっかり胸に収まってウキウキして帰途につけたのは、『若い二人が自分たちの考えをしっかり整理し、時間と労力とかけて試行錯誤を繰り返したから、この驚きの逸品を生んだのだ』と、このジンの味わいに納得させられたからじゃないかと思います。
WOLFREST GIN
Via Ballerina 19
12050 Montelupo Albese (CN)
tel. 320 4161520
info@wolfrestgin.com
www.wolfrestgin.com
目指したのはランゲ。旨い『ジン』をつくる生産者がいるからと。しかもオオカミからインスピレーションを得て、さらには白トリュフで風味づけをした『ジン』。
こんな書き出しだと既に皆さんにも、不思議に思うことがあれこれあるでしょう?
ピエモンテ州ランゲ地方と言えばバローロとかバルバレスコなどなど、とにかくワインのはずが、なぜゆえ『ジン』⁉
しかもなぜオオカミがそこに登場する?
白トリュフを使うなんてやり過ぎでは?
イタリアを20年ぐるぐる巡っていれば、しかも好奇心の人一倍旺盛な相棒をもてば、枠に当てはまらない生産者を訪ねることになるのは日常茶飯事。その日の『イタリア好き』な日帰りの旅ランゲ編もさっさと始まっていたのです。
ランゲ産旨いジンの不思議解明!
では、先に述べられた不思議に一つずつ迫ってみましょう。
ここは、バローロ村から東に15キロ、モンテルーポ・アルベーゼ(Montelupo Albese)。ここに住む若い夫婦ヴァレンティ―ナ・バローネ(Valentina Barone)とジョヴァンニ・アレッサンドリア(Giovanni Alessandria)は、はじけるような笑顔で私たちを待っていてくれました。
彼らの自宅は丘の上、やや切り立った斜面の上にあって、オリーブやオレンジの盆栽が並べられたテラスに立てば、リグーリア海から吹き上げてくる風と強い日差しが体の真正面から絡んできて、周囲の豊かな緑とあちこちに植えられたハーブが目に入り、彼らの声に耳を傾けたくなります。
「私達は仕事でロンドンに1年ほど暮らしたことがあるの。その時に二人とも『ジン』の虜になってね。」と、ヴァレンティ―ナ。
「でもほら、若者向けの小洒落たラウンジなんかだと量ばかりどんどん飲まされて、翌朝は頭痛で目が覚める。あれはちょっと頂けないなぁって。それで私たちなりのジンをつくれたら、って思ったわけ。」
なぜオオカミ?
「ああ、オオカミ?だって、この村はモンテルーポ(Lupoは狼の意)って名前だろう。」と、ジョバンニ。
ここで皆さん、イタリアに限らず西洋諸国を旅してお気づきになったことはありませんか、いかにオオカミ好きの人が多いかに。イタリアでは絶滅の危機に瀕していたイタリア・オオカミの保護活動『Operazione San Francesco』は既に1970年に立ち上がっているし、フランス人ピアニストのエレーヌ・グリモーがアメリカ・ニューヨーク州で『ニューヨーク・ウルフ・センター』を設立し、やはり保護活動にあたっています。
オオカミの話になると目を輝かせ、その生態や林野で遭遇した時の体験を幸せそうに語るイタリア人は私の相棒に限らず、大勢います。
日本ではこんな『オオカミ好き』や野生動物好きにあったことはあまりなかった。
私も子供の頃は椋鳩十やシートン動物記を読み漁っていたけど、なんだか情熱の種類が違う気がするのです。
さて、話をヴァレンティ―ナとジョバンニに戻すと、モンテルーポ村(オオカミ山の意)に暮らす二人は、50年前にアブルッツォで始まった保護活動からイメージを膨らませていきました。長年の取り組みが功を奏し、オオカミたちの生息数は年々増加し、イタリア半島全体に生息範囲を広め、次第に北上しながらリグーリアに到達、ここ数年でピエモンテにもその生息範囲を広げている事実に着目します。
『ジン』は、ジュニパーベリー(セイヨウネズの球果)の他『ボタニカル』と呼ばれる様々な草根皮木が加えられてゆっくり蒸溜にかけて作られます。イタリア人らしい個性を発揮できるのもこのボタニカルのセレクションのあたり。ヴァレンティ―ナとジョバンニは、アブルッツォを離れ、果てしない旅路の末にモンテルーポ村に辿り着いたオオカミを思い描いてボタニカルを選びました。太陽の位置、月の満ち欠け、様々な条件から自分の位置を知り、他の動物たちの匂いと一緒にあっちこっちの草木の香りを嗅いだに違いない。その香りを追う『ジン』を作ろうと。
そうして生まれたのが一本目のジン。その名もシンプルに『Dry Gin』。ボタニカルとして用いたのは7種類、アペニン産ジュニパー、タイム、ローリエ、野生のローズマリー、サンブーコ、リグーリア産ペルナンブッコ種のオレンジそしてピエモンテ産ヘーゼルナッツ。完成した『ジン』は自然な優しさが備わった、ほっとする味わい。
「ほっとした?長旅の末にオオカミはここを終着点に選んだから。Montelupoこそがオオカミの落ち着ける場所。僕たちのジンのブランド名も『Wolfrest』。」
このジンをストレートで口に含みながら、ジョヴァンニの言葉に頷く。そして、今度はジントニックで。とても洗練されたフレッシュな味わいでした。
ボタニカルには白トリュフ
「白トリュフを使って何かをしたいというのは、ジンを作ることを思いつくもっと前から考えてた。」ジョバンニが切り出した言葉が印象的。
ジョバンニの一家はおじいちゃんも、お父さんも白トリュフ採り。
「僕もトリフラウ(Trifulau:トリュフ採り)だよ。このモンテルーポのあたりでも良質のトリュフが採れる。この地域に結びついた良いものを使ってヴァレンティーナと二人で何か作りたいと考えた時、やっぱり真っ先に白トリュフだと思ったんだ。」
ヴァレンティ―ナとジョヴァンニがおつき合いを始めたのは、高校時代。それから20年、二人はずっと一緒。だから二人が一緒に出来る仕事を生み出したかった。『白トリュフの旨いジンを作る』、そんな奇想天外な思いも、夫婦の阿吽の呼吸があって実現できたのかもしれません。
私たちの間で続いていたお喋りは、3種類のボタニカル、アペニン産ジュニパー、ヘイゼルナッツと白トリュフだけから生まれた『ジン』、その名も『Alba』を口に含んだときの驚きにピタリと止みます。
まず、鼻腔をくすぐるのが白トリュフが生んだ野生の香り。
次にパンチの利いたジンならではの風味に襲われたかな、と思ったその瞬間、あの白トリュフ独特のほとんどエロチックなほどの風味が訴えかけてくるのです。
このジンの野性味を嗅ぎ分けられた人は、西洋人が野生に同化したいと願うほどの憧れと、日本人の野生を神と崇めるほどの憧憬の念、そのアプローチの違いをこのジン一滴の中に理解できるはず。
(こんな凄いものをこんな若い二人が作ってしまったのか。)改めて二人を見つめてしまいました。私の相棒も断言します。
「これは白トリュフはジンになるために生まれたと信じさせちまうほどの代物だ!陣に白トリュフなんてやり過ぎと思ってここに来たが、そんな偏見を一掃する逸品だよ。」
驚いたことに、500ml入りボトル1000本を生産するためには、なんと7キロもの白トリュフが必要だそう。因みに白トリュフは100グラムあれば6人で2,3種類の料理を堪能できる量です。だから7キロあったら一体何人を幸せにできる⁉ お値段にしたら一体いくらになるか、恐ろしくて考えなくない。
それでも二人は決してエッセンスオイルを使用したくなかった。
人工的な白トリュフの香りをつけるのは、自分たちの土地への愛情表現とは違うからといいます。
「だからこのジンは、ボトルごとキンキンに冷やしてからグラスに注ぎ、これだけで楽しんでね。」と。
妙な日帰り旅行と思っていたのに、全てがすっかり胸に収まってウキウキして帰途につけたのは、『若い二人が自分たちの考えをしっかり整理し、時間と労力とかけて試行錯誤を繰り返したから、この驚きの逸品を生んだのだ』と、このジンの味わいに納得させられたからじゃないかと思います。
WOLFREST GIN
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