お料理説明・背景
チーズ入りフォカッチェッテはパラディーゾ湾沿いの小さな街(ソーリ、レッコ、ピアーヴェ) で生まれ、その後ジェノヴァ各地に広まった大衆向けの食べ物。 誕生の由来はレッコという街の有名な食べ物「フォカッチャ・ディ・レッコ」(薄い生地にチーズを挟んで焼いた釜料理)で、家庭でも似たものを作って食べられるように、サイズは小さく、釜焼きではなくフライにするようになったと言われている。
フォカッチェッテを食べる時はこれがメインディッシュとなり通常プリモやセコンドは用意しない。揚げ上がるのを待っている間にオリーヴの実やサラミなどの前菜を軽くつまむ程度だ。見た目に反して意外とお腹が膨れるので前菜の食べ過ぎに注意が必要。
また、写真のフォカッチャ・ディ・レッコと異なり、フォカッチェッテは家族や友だち、近隣の人たちと皆で集まりワイワイ、ガヤガヤ楽しく食べる料理という印象で、家ではもちろん、Sagra (サーグラ)と呼ばれる地域の夏祭りでよく見かける食べ物でもある。Megli (メーリ)というレッコの近くの小さな村ではフォカッチェッテの有名なサーグラが行われる。直径2メートルの大きな鍋に150リットルの油を入れて大量のフォカッチェッテを地域の人たちが作る。ジェノヴァの近くでは丘の上の小さな村プレマニコの夏祭りでおいしいフォカッチェッテが提供される。屋台や出店が並び、くじ引きやビンゴ大会、また音楽バンドの演奏に合わせて村の人たちが踊り出し、大賑わいだ。日本の夏祭りの風景にもどこか似ている。ビンゴ大会の一等賞はイタリアらしく、巨大な生ハムの原木! 景品は地元のお店から提供されたもので、地域が一体となったお祭りだ。
フォカッチェッテが特に春から夏にかけて食べられるのは、屋外に大勢で集まって食べられる季節だからだとか。イネスさんの家でも、毎年春から夏にかけて、自宅のテラスで家族が集まって食べるのだそうだ。今は大きくなった息子2人が子供の頃は、フォカッチェッテを作る時は必ずお手伝いをしてくれたそうだ。ストラッキーノを入れた生地を指で閉じる作業は子供たちの仕事だったという。「手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、毎回子供たちがストラッキーノを隠れてつまみ食いするから、いつも足りなくなるの! 前もって多めに用意していてもなのよ」とイネスさんは語る。
ストラッキーノは北イタリアで生まれたフレッシュチーズ。今ではイタリア全土で手に入れることができるポピュラーなチーズで、白くて柔らかく、クセが少ない。食べやすいため子供たちが大好きなチーズだ。そのままでもおいしく、火を通す場合にも程よい固さでとろけて扱いやすい。
イネスさんも子供の頃に母親が作るのを手伝いながら作り方を覚えた。母から子へ受け継がれる料理なので、それぞれの家庭で少々作り方に違いがあるという。イネスさんの友だちは生地の伸びをよくするために少量の油を入れるそう。フォカッチェッテの大きさもそれぞれで、イネスさんのフォカッチェッテは特大サイズ。バリバリと食べ応えがあるのが家族の好みのよう。形は長方形が一般的だが、家庭により半月型や丸型を見かけることもある。ちなみに彼女の愛用する重くて大きな麺棒と作業台はお婆さんから受け継がれたもの。結婚する時に譲ってもらったもので、今もずっと大事に使い続けている。皆が食べ終わると一目散に麺棒と作業台を洗い、風に当てて乾かす彼女の背中から、調理道具への愛情が伝わった。
2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。Instagramはこちらから
作り方
- 小麦粉に塩と砂糖をそれぞれひとつまみ加え、炭酸水を少しずつ加えながら手でよく混ぜる。徐々に手がベトベトしてくるので、時々小麦粉を両手にまぶしながら生地をこねる。こねていると次第にまとまり、手に生地がつかなくなる。(写真a 参照)
- 丸くなった生地を指で押し、ほっぺたほどの柔らかさになれば生地の完成。生地をふたつに分け、布巾をかけて30分弱休ませる。(写真b 参照)
- 台と麺棒に小麦粉をまぶし、生地を手で平らに広げる。(写真c 参照)
- 薄くなるまで何度か上下をひっくり返しながら麺棒で伸ばす。(こまめに小麦粉を台と生地にふりかけると作業がしやすい)(写真d.e 参照)
- 生地を適当な大きさの長方形に切り分ける。(写真f 参照)
- ストラッキーノ適量を生地にのせる。(写真g 参照)
- 生地を半分に折り、縁を指で押してしっかり閉じたら小麦粉を振った皿に並べる。(生地の縁に水を薄く塗ると閉じやすい)(写真h 参照)
- フライパンにフォカッチェッテが浸る程度の油を入れ、裏返す時に生地が破れないよう気をつけながら強めの中火で揚げる。表面に小さな気泡が出てきたらカリッと揚がったサイン。揚げすぎに注意!(写真i 参照)
- 揚げたてのフォカッチェッテに軽く塩を振り掛けて召しあがれ。(写真j 参照)