イタリア好きVol.8:マルケ特集

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vol.8 マルケ州

海と山、男と女
それぞれが魅力を引き立てるマルケ

「この海のことは、自分のポケットの中のように知っているよ」ポルトノーヴォで出会った72歳の漁師は得意げにこういった。強い陽射しと潮風に鍛えられた彼の笑顔を見ていると、ポケットからホラッと魚をつまみ出してくれそうな気さえしてくる。海の男はやはりロマンチックだ。

アドリア海の
ブルーは豊かさの証し

僕らがマルケでの取材を始めたのは、2011年9月8日。アンコーナ空港に到着したのは午前10時すぎ。空はもうギラギラと日差しが強く、ピエモンテからやってきた僕らは、真夏のイタリアに逆戻りした。空港から車に乗り、しばらくするとアドリア海の海岸線が見えてくる。どこまでも続くアドリアティクブルーの海は、サルデーニャで感じた、突き放されたように驚くきれいさでもなく、カプリやプローチダのそれとも違う。青にほんの少し黄色を混ぜたようなブルーは、どことなく馴染みやすく、豊潤さと懐かしさを感じた。9月の2週目ということもあり、おなじみの光景でもある、きれいに並べられたカラフルなパラソルこそ少なかったが、まだまだ砂浜では、自由に甲羅干しを楽しむ人が多くいた。

少し海の幸に飢えていた僕を最初に喜ばせてくれたのは、ポルトノーヴォで獲れる、天然のムール貝モショリだった。例の漁師のポケットの中身のひとつがまさにこれだ。実は小さめだが、プリッとして甘く、アドリア海の潮の香りが口中に広がる。天然モノだけにこの季節にしか味わえない、まさに旬の味。青空と海とよく冷えたヴェルデッキオ、これで移動の疲れはいっぺんに癒えた。彼に、世界でいちばんの場所と言わせる理由は、海がきれいというだけではなかった。
マルケの魅力は海だけではない。これも今回の旅の実感だ。山あいのマルケの町も忘れがたい風景を見せてくれた。中世の面影が色濃いウルビーノや、野外オペラ劇場や小劇場が残るマチェラータ。そしてアスコリ・ピッチェーノは、小さいけれどその佇まいが魅力的な町だ。
中部イタリアらしく、豚肉を食べる文化も根強くある。チャウスコロは、その脂肪の独特の風味と食感が好きな人は、病みつきになる。当然体型には危険だけれど、悪女のように魅力的な食べ物だ。固いパンにはさんでパニーノにすると、じんわり脂肪分がパンにしみ込み、塩分も中和されてマイルドになる。こういうのは日本にいてはなかなか食べられない。

包容力のある男と、しなやかな強さの女

マルキジャーニは温和で親切だ。海に近い町を多く訪ねたせいもあるかもしれないが、初対面こそとっつきにくいところもあるが、時が経つにつれ、親しみやすく、僕らを温かく迎えてくれた。その包容力と同時に、女性にはしなやかな強さも感じた。それはマンマの風格とは少し違う、自立している、という表現が似合っているかもしれない。職を持っている女性にも多く会ったし、妻として家庭に入っていても、夫婦お互いに尊敬し、認めあう男女関係も垣間見た。

男がいて女がいて、お互いを支えあう。海があって山があってお互いの魅力を引き立て合う。それがマルケなのかもしれない。ポルトノーヴォのあの漁師の奥さんも、きっと陽気だけれど凛としたマルキジーナであることは間違いない。

マルケの旅をお楽しみに。

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