vol.8 マルケ州
海と山、男と女
それぞれが魅力を引き立てるマルケ
アドリア海の
ブルーは豊かさの証し
少し海の幸に飢えていた僕を最初に喜ばせてくれたのは、ポルトノーヴォで獲れる、天然のムール貝モショリだった。例の漁師のポケットの中身のひとつがまさにこれだ。実は小さめだが、プリッとして甘く、アドリア海の潮の香りが口中に広がる。天然モノだけにこの季節にしか味わえない、まさに旬の味。青空と海とよく冷えたヴェルデッキオ、これで移動の疲れはいっぺんに癒えた。彼に、世界でいちばんの場所と言わせる理由は、海がきれいというだけではなかった。
マルケの魅力は海だけではない。これも今回の旅の実感だ。山あいのマルケの町も忘れがたい風景を見せてくれた。中世の面影が色濃いウルビーノや、野外オペラ劇場や小劇場が残るマチェラータ。そしてアスコリ・ピッチェーノは、小さいけれどその佇まいが魅力的な町だ。
中部イタリアらしく、豚肉を食べる文化も根強くある。チャウスコロは、その脂肪の独特の風味と食感が好きな人は、病みつきになる。当然体型には危険だけれど、悪女のように魅力的な食べ物だ。固いパンにはさんでパニーノにすると、じんわり脂肪分がパンにしみ込み、塩分も中和されてマイルドになる。こういうのは日本にいてはなかなか食べられない。
包容力のある男と、しなやかな強さの女
マルキジャーニは温和で親切だ。海に近い町を多く訪ねたせいもあるかもしれないが、初対面こそとっつきにくいところもあるが、時が経つにつれ、親しみやすく、僕らを温かく迎えてくれた。その包容力と同時に、女性にはしなやかな強さも感じた。それはマンマの風格とは少し違う、自立している、という表現が似合っているかもしれない。職を持っている女性にも多く会ったし、妻として家庭に入っていても、夫婦お互いに尊敬し、認めあう男女関係も垣間見た。男がいて女がいて、お互いを支えあう。海があって山があってお互いの魅力を引き立て合う。それがマルケなのかもしれない。ポルトノーヴォのあの漁師の奥さんも、きっと陽気だけれど凛としたマルキジーナであることは間違いない。
マルケの旅をお楽しみに。
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