新しいワインの貯蔵タンク、コッチョ・ペーストとは。その1
皆さんこんにちは!
ご無沙汰しております。今回はイタリア・世界のワインメイキングの新たな試みとしてトスカーナ州に登場したコッチョ・ペーストというワイン用貯蔵タンクをご紹介したいと思います。
皆さんなんのことやら、サッパリ。。ですよね。
ということで、今回はコッチョ・ペーストという貯蔵タンクの話題を取り扱う前に、ひとまずは現代のワイン造りにおける基本的な醸造設備・タンク類についてクローズアップし、お勉強していきましょう。
ワインは、ボトリングされるまでは大容量の液体です。
つまりは、ブドウを絞ってできたモスト果汁(伊語、果汁・果皮など)がアルコール醗酵したのち、“ワイン”となってボトリングされるまでは、当然ながら醸造所には、それを収める大きな容器が必要なわけですね。
容器なんて何でもいいのでは?と考えるほどワインの世界は単純ではありません。
こちらはグロッセート県、チェレスティーナ・フェ社の醸造タンク
ところ狭しとステンレス製のタンクが並んでいます。
サンジミニャーノのヴァニョーニ社はステンレスタンクが右側にあり、奥にはセメント製のタンクも確認できます。
モンタルチーノのレ・ラニャイエ社の伝統セメントタンク。
タンクに記載の“HL54”というのは、54ヘクトリットルと読みます。すなわち5400リットル分。ワインとして換算すると7200本(1本750ml)くらいの量です。
トスカーナは海沿い、新鋭フォルトゥッラ社でもステンレスの他、近代的セメントタンクで醸造を行います。
こちらはサンジミニャーノのコロンバイオ・ディ・サンタキアラ社のセメントタンク。使い込んだような古き良き時代のセメントタンクですね。
ワインに関して、一般的には“樽で寝かせる”というイメージが常にありますが、ワイン造りに必要なものは樽だけではありません。
むしろ、木の樽というのはワインを造ったあとに熟成をさせて仕上げていく工程で使用するというようなもの。
つまり、ワイン造りにおいてブドウ収穫後の最初のプロセスである醸造には、得てしてセメントタンクやステンレスタンクが使われることが慣例なのです。
醸造のあと、木の樽に移され熟成させるタイプのワインもあれば、そのままセメントやステンレスで貯蔵され、木の樽での熟成プロセスを踏まないままボトリングされるワインも多くあります。
これらセメントやステンレスといった2つの種類は、単純に素材の違いもありますが、ワイナリーのしっかりとしたワイン造りのヴィジョンのもと、それぞれ理由があってその素材を使っているということを理解しましょう。
2つの共通した特徴は、まずその素材が無機質の要素を持っているところ、つまりニュートラルな素材で素材自体はワインにはどんなエフェクトも与えないということです。
そして、温度を醸造上の適温に抑えることができるところも重要なところです。
アルコール醗酵の際、モストの温度は上がっていきますが、熱はワインにとっては良くない要素ですので冷やしながら醸造を行っていくことが良いワイン造りの基本となります。
温度が高くなってしまうと、酵母がうまく働かず醗酵に障害がでたり、綺麗なブドウ由来のアロマが失われたりと問題を生じてしまいます。(赤ワインは25~28℃前後、白、ロゼは15~18℃前後に調整することが多いようです。)
近代化に伴い導入された醸造用ステンレスタンクというのは、通常温度調整が可能なオプション機能が付いているものが多く、今ではワイン醸造の基礎的設備となっています。外面が2重構造になっていて冷水を巡らせて冷やす方法や、タンクの中に鉄板のような冷却装置を入れて冷やす方法など様々ですが醸造施設に設置された管理機器ですべてのタンクの温度が把握できるようになっています。
余談となりますが、古代ローマ人もワイン造りにおける熱を抑えることの重要さを理解していて、ワイン造りの際はモストの入った土器に水を流しあてながら醸造していたという話もあるようです。
セメントタンクに関しては、元々トスカーナの醸造において広く使われていたタンクの種類で、ニュートラルな素材であり、外部からの影響がない。低温を留まらせる強さのある素材。セメントのしっかりした厚みがある分、外気による温度変化の影響もないという特色があります。かつては温度を下げるために、温度が高くなるごとにワインを別のタンクに移し替えて戻す(デレスタージュする)ことにより温度をある程度下げていたようです。現在は、伝統的なセメントタンクでも温度調整のできる機能を後付けしたところも多くあります。
セメントタンクとステンレスタンクとの違いを一つ挙げるすると、セメントに関してはミクロの単位で酸素が届くことになり、ワインがいわば小さな“呼吸”をすることできるという点です。
※ゆっくりした微量の酸化は、とがったタンニンを柔らかくする効果もあり心地よさにつながります。
つまり、ステンレスと比べ、まったくもって影響のない0ゼロというほど密閉されていない素材ということになります。
そこには、本当に小さな、ワインの成長を促す“変化”を見出すことができるのです。
ステンレスはワインのフレッシュ(新鮮)さやアロマなどを閉じ込める長所的効果がある分、酸化によるワインの進化、成長を期待する容器とは言えません。
それに比べるとセメントタンクはゆったりとした極小さなワインの呼吸による熟成効果も期待できる、ということになります。
これは、どのようなワインを造りたいか、生産者の哲学や好みもあるので、ワイン造りにおいてはこのような手段があるのだという理解に留めるので十分でしょう。
少し長くなってしまいますが、今回はあと一つだけ
モンタルチーノのラ・マジャ社のセラー
同じくモンタルチーノ南部のポッジョ・ディ・ソット社の醸造施設。
これは木の素材の醗酵槽です。前者のラ・マジャ社では、トップラベルであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノに関してのみ木の醗酵槽で醸造。
ポッジョ・ディ・ソット社ではロッソ・ディ・モンタルチーノ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノともに木の醗酵槽にて醸造していきます。(先にワインを造ってから数年後試飲を経てロッソとブルネッロに分けるというやり方)
これは、もともとのワインとなるサンジョヴェーゼ種とそのモストの力強さから、醸造の段階で“より深い呼吸”を促しながらワイン造りを行っていくという一つのテクニックとなります。当然コストや、温度変化による対応もよりマニュアルとなる部分もあるので(ルモンタージュを行いつつ温度を下げるなど)より贅沢で手間のかかる手法ですが、しっかりと熟成を見据えた種類のワインを造っていく上では、近年しばしば見られる種類の醸造設備と言えます。
おまけ
トスカーナはルッカのヴィッラ・サントステファノ社のステンレスタンク。“マイクロ・オキシジェネーション・システム”というミクロの酸素供給(オキシジェネーション)システムにより、タンク内のワインの呼吸強度を設定できるようです。
色々な生産者、色々な醸造設備。ワイン造りも一筋縄ではいきませんね!
次回はいよいよタイトルにありました“コッチョ・ペースト”のタンクの登場です。
それでは、また次回もお楽しみに!
鈴木暢彦
Instagram @toccaasiena
HP 『トッカ・ア・シエナ』https://www.toccaasiena.com
ご無沙汰しております。今回はイタリア・世界のワインメイキングの新たな試みとしてトスカーナ州に登場したコッチョ・ペーストというワイン用貯蔵タンクをご紹介したいと思います。
皆さんなんのことやら、サッパリ。。ですよね。
ということで、今回はコッチョ・ペーストという貯蔵タンクの話題を取り扱う前に、ひとまずは現代のワイン造りにおける基本的な醸造設備・タンク類についてクローズアップし、お勉強していきましょう。
ワインは、ボトリングされるまでは大容量の液体です。
つまりは、ブドウを絞ってできたモスト果汁(伊語、果汁・果皮など)がアルコール醗酵したのち、“ワイン”となってボトリングされるまでは、当然ながら醸造所には、それを収める大きな容器が必要なわけですね。
容器なんて何でもいいのでは?と考えるほどワインの世界は単純ではありません。
こちらはグロッセート県、チェレスティーナ・フェ社の醸造タンク
ところ狭しとステンレス製のタンクが並んでいます。
サンジミニャーノのヴァニョーニ社はステンレスタンクが右側にあり、奥にはセメント製のタンクも確認できます。
モンタルチーノのレ・ラニャイエ社の伝統セメントタンク。
タンクに記載の“HL54”というのは、54ヘクトリットルと読みます。すなわち5400リットル分。ワインとして換算すると7200本(1本750ml)くらいの量です。
トスカーナは海沿い、新鋭フォルトゥッラ社でもステンレスの他、近代的セメントタンクで醸造を行います。
こちらはサンジミニャーノのコロンバイオ・ディ・サンタキアラ社のセメントタンク。使い込んだような古き良き時代のセメントタンクですね。
ワインに関して、一般的には“樽で寝かせる”というイメージが常にありますが、ワイン造りに必要なものは樽だけではありません。
むしろ、木の樽というのはワインを造ったあとに熟成をさせて仕上げていく工程で使用するというようなもの。
つまり、ワイン造りにおいてブドウ収穫後の最初のプロセスである醸造には、得てしてセメントタンクやステンレスタンクが使われることが慣例なのです。
醸造のあと、木の樽に移され熟成させるタイプのワインもあれば、そのままセメントやステンレスで貯蔵され、木の樽での熟成プロセスを踏まないままボトリングされるワインも多くあります。
これらセメントやステンレスといった2つの種類は、単純に素材の違いもありますが、ワイナリーのしっかりとしたワイン造りのヴィジョンのもと、それぞれ理由があってその素材を使っているということを理解しましょう。
2つの共通した特徴は、まずその素材が無機質の要素を持っているところ、つまりニュートラルな素材で素材自体はワインにはどんなエフェクトも与えないということです。
そして、温度を醸造上の適温に抑えることができるところも重要なところです。
アルコール醗酵の際、モストの温度は上がっていきますが、熱はワインにとっては良くない要素ですので冷やしながら醸造を行っていくことが良いワイン造りの基本となります。
温度が高くなってしまうと、酵母がうまく働かず醗酵に障害がでたり、綺麗なブドウ由来のアロマが失われたりと問題を生じてしまいます。(赤ワインは25~28℃前後、白、ロゼは15~18℃前後に調整することが多いようです。)
近代化に伴い導入された醸造用ステンレスタンクというのは、通常温度調整が可能なオプション機能が付いているものが多く、今ではワイン醸造の基礎的設備となっています。外面が2重構造になっていて冷水を巡らせて冷やす方法や、タンクの中に鉄板のような冷却装置を入れて冷やす方法など様々ですが醸造施設に設置された管理機器ですべてのタンクの温度が把握できるようになっています。
余談となりますが、古代ローマ人もワイン造りにおける熱を抑えることの重要さを理解していて、ワイン造りの際はモストの入った土器に水を流しあてながら醸造していたという話もあるようです。
セメントタンクに関しては、元々トスカーナの醸造において広く使われていたタンクの種類で、ニュートラルな素材であり、外部からの影響がない。低温を留まらせる強さのある素材。セメントのしっかりした厚みがある分、外気による温度変化の影響もないという特色があります。かつては温度を下げるために、温度が高くなるごとにワインを別のタンクに移し替えて戻す(デレスタージュする)ことにより温度をある程度下げていたようです。現在は、伝統的なセメントタンクでも温度調整のできる機能を後付けしたところも多くあります。
セメントタンクとステンレスタンクとの違いを一つ挙げるすると、セメントに関してはミクロの単位で酸素が届くことになり、ワインがいわば小さな“呼吸”をすることできるという点です。
※ゆっくりした微量の酸化は、とがったタンニンを柔らかくする効果もあり心地よさにつながります。
つまり、ステンレスと比べ、まったくもって影響のない0ゼロというほど密閉されていない素材ということになります。
そこには、本当に小さな、ワインの成長を促す“変化”を見出すことができるのです。
ステンレスはワインのフレッシュ(新鮮)さやアロマなどを閉じ込める長所的効果がある分、酸化によるワインの進化、成長を期待する容器とは言えません。
それに比べるとセメントタンクはゆったりとした極小さなワインの呼吸による熟成効果も期待できる、ということになります。
これは、どのようなワインを造りたいか、生産者の哲学や好みもあるので、ワイン造りにおいてはこのような手段があるのだという理解に留めるので十分でしょう。
少し長くなってしまいますが、今回はあと一つだけ
モンタルチーノのラ・マジャ社のセラー
同じくモンタルチーノ南部のポッジョ・ディ・ソット社の醸造施設。
これは木の素材の醗酵槽です。前者のラ・マジャ社では、トップラベルであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノに関してのみ木の醗酵槽で醸造。
ポッジョ・ディ・ソット社ではロッソ・ディ・モンタルチーノ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノともに木の醗酵槽にて醸造していきます。(先にワインを造ってから数年後試飲を経てロッソとブルネッロに分けるというやり方)
これは、もともとのワインとなるサンジョヴェーゼ種とそのモストの力強さから、醸造の段階で“より深い呼吸”を促しながらワイン造りを行っていくという一つのテクニックとなります。当然コストや、温度変化による対応もよりマニュアルとなる部分もあるので(ルモンタージュを行いつつ温度を下げるなど)より贅沢で手間のかかる手法ですが、しっかりと熟成を見据えた種類のワインを造っていく上では、近年しばしば見られる種類の醸造設備と言えます。
おまけ
トスカーナはルッカのヴィッラ・サントステファノ社のステンレスタンク。“マイクロ・オキシジェネーション・システム”というミクロの酸素供給(オキシジェネーション)システムにより、タンク内のワインの呼吸強度を設定できるようです。
色々な生産者、色々な醸造設備。ワイン造りも一筋縄ではいきませんね!
次回はいよいよタイトルにありました“コッチョ・ペースト”のタンクの登場です。
それでは、また次回もお楽しみに!
鈴木暢彦
Instagram @toccaasiena
HP 『トッカ・ア・シエナ』https://www.toccaasiena.com