お料理説明・背景
ジェノヴァを代表する料理といえば、ペスト・ジェノヴェーゼ。 バジリコ、チーズ、ニンニク、松の実、オリーヴオイルを大理石のすり鉢に入れて、ブナの木から作ったスリコギですり潰したソースです。これが登場したのは1800年代。今回のマロはそれより遥か昔からジェノヴァ人たちの間で食されていました。
マロはアラブ語でソースのこと。ジェノヴァにアラブの文化が入ってきていたことの名残りです。 ジェノヴァは「へ」の字型のように薄いテリトリーが東西に広がっています。海と急な斜面に挟まれた土地のため、あまり農産物がとれません。牛を放牧させる平らな土地がないため、ヤギを飼っていました。しかし、このような土地だからこそ、栽培できる農産物があります。その代表は勿論バジリコ。 ジェノヴァ産と言っても内陸地で育ったものは、香りも味も違うものになってしまいます。カルチョーフィもリグーリア産のものは柔らかく、生で食べることが出来ます。そして、ジェノヴェーゼの春の楽しみが、このソラマメです。
生で食べられるソラマメはリグーリアの復活祭の食べ物です。ジェノヴァの内陸地、サントルチェーゼという村で作っているサラミに、ペコリーノサルド・フレスコと一緒にはさんで食べます。
凝ったご馳走もいいですが、お喋りしながら、ソラマメの鞘を手で開いて、サラミにチーズと一緒にのせて口に運ぶというのは、まさに家族が揃うお祭りの食事にピッタリです。
この季節、移動の仕事があるとソラマメをお土産に持って行くことにしています。
そして、ジェノヴァを始め、リグーリアに住む人にとって大切な栄養源だったのが栗。栗の木はソラマメを作っている丘より、もっと内陸地の高台に茂っています。栗粉はグルテンがなく、それだけではボソボソしているため、デュラムセモリナ粉を混ぜてパスタを作ります。 今回は栗の粉で作ったトロフィエにこのソースを混ぜた一品です。
トロフィエは、ジェノヴァで生まれた手打ちのショートパスタです。手のひらで4~5cm長さの細いひも状に伸ばし、左右の端がねじれた形につくります。栗粉入りトロフィエを家庭で作るときは、栗粉とセモリナ粉に、水、塩、オリーヴオイルを加えて練った生地で作り、卵は入れません。それだけでもほのかな甘みがあっておいしく、くせになる味です。今回のレシピは完璧にジェノヴァで採れるものだけを使った一品なのです。
最後にルイーザさんと市場について。お料理を作ってくれたマンマ、ルイーザさんは食の観光学を大学で教えながら、食事をテーマとした観光事業促進の仕事をしています。2019年秋には今回食材を買いに行った市場の中央部にフードマーケットがオープン予定。彼女がプロジェクトの一員となって、ジェノヴァを中心としたリグーリアの食材や食べ物が、観光する人々にも気軽に味わってもらえる画期的な環境を提供すべく張り切っています。
リグーリア州在住。音楽家、翻訳家、日本語教師、2018年3月ジェノヴァ市長より「世界のジェノヴァ大使」任命、アソシエーション「DEAI」代表。地域を越えて、様々な仕事を通して知り合った人との付き合いを大切にしている。