マンマのレシピ

マンマの紹介

  • ロッサーナ・デ・フィリッピ(Rossana De Fillippi)さん
  • ヴェネト州パドヴァ市在住
  • 得意料理:魚介のパスティッチョ(ラザニア)等ヴェネツィア料理全般
  • ヴェネツィア生まれ・ヴェネツィア育ちの生粋ヴェネツィアーナ、ロッサーナさん。仕事を引退された後、料理好きが高じて自宅にて料理サロンを開く。不定期開催ではあるが、ほぼ毎週末には各地・各分野の専門家やシェフ、パティシェを招き、料理レッスンを企画している。人の集まる機会の多い彼女の自宅は、整然かつ温かみ溢れる素敵な調度品に囲まれている。会うたびにやさしさ溢れる笑顔で気持ちを和やかにしてくれる、素敵なマンマ。

お料理説明・背景

ヴェネト州発祥の代表的なナターレ菓子の筆頭といえば、パンドーロ。今やイタリア全土のナターレ菓子として普及しているが、今回ご紹介する「Pinza(ピンツァ)」は、パンドーロほどの華やかさはないものの、日常から非常に親しまれている、ヴェネト郷土菓子のひとつだ。そして、ナターレ時期となると、特に1月6日のエピファニアには欠かせない伝統菓子として取り上げられるものでもある。

ヴェネト州内の各地では、このエピファニアの日となると、大きな薪を燃やす習慣がある。薪の先端には、老婆の人形が必ず設置されるので、私の住むパドヴァではこの行事を「Brusa la Vecia(ブルーサ・ラ・ヴェーチャ)」と呼ばれて親しまれている。その呼び名には「Brusa(ブルーサ)=Brucia(ブルチャ=燃やす)」、「Vecia(ヴェーチャ)=Vecchia(ヴェッキア= 老婆)」というヴェネト弁が使われるのだが、その意味するところは「老婆を燃やす」という少々恐ろしいもの。とはいえ、もともとこの老婆は、イエス・キリストのもとにお祝いのお菓子を献上し損なったという可愛らいい逸話の持ち主「Vefana(ヴェファーナ)」にあたるものでもある。この老婆を配した薪を燃やすことによって出る煙の方角によりその年の幸運を予測する、というのが本来の目的であるから、年明けの縁起担ぎ的な要素があるもので、決して恐ろしいものではない。

また、ひと昔前は、1月6日の明け方にこの老婆が家の暖炉からその家の子供に贈り物運んでくる、と言われていた。クリスマスにサンタクロースが贈り物を運んでくるのは、最近の謂れであり、クリスマス時期の贈り物の運び人はこの老婆であったのである。 同レシピを紹介してくださったマンマ、ロッサーナさんも、幼少時代にはその話を信じており、自分の食べていた夕飯の皿をこの老婆のために残して暖炉に置いてベットに入っていたのだとか。翌朝はもちろん彼女の母親が、この老婆の代わりにこっそりと贈り物を暖炉に置いてくれていたのだという。素敵な逸話である。

ちなみに、現在よく知られているのは、1月6日の明け方には、この老婆が子供たちに甘いお菓子を運んでくる、というもの。子供たちはこの日の前夜には枕元に大きな靴下を置いて、翌朝には、お菓子でいっぱいになるであろう靴下を楽しみにしながら眠りにつくのだ。ただ、いい子には、甘いお菓子を、悪い子には、炭を置いていく、という但し書きがつく。巷には、ジョークで甘く仕上げた炭の形をしたお菓子も売られている。

さて、エピファニアの行事に話を戻そう。この薪は寒さの厳しいこの時期の屋外行事であるため、そこに集う人々に振舞われるものは、フルーツやスパイスの効いた甘くて温かい赤ワイン、「Vin Brulè(ヴィン・ブリュレ)」。これを飲むと体の芯から温まる。そしてそのお供には、甘くてずっしりとした「Pinza(ピンツァ)」が欠かせない、というわけだ。

ヴェネトで「Pinza(ピンツァ)」といっても、様々なレシピがある。ポレンタを主材料として使われることもあれば、サツマイモのような甘いイモをゆでて潰したものを主とすることもある。 ここでご紹介するのは残りパンを使ったヴェネツィア風のもの。主な材料は残って固くなったパン。なので、ピンツァを売る店は通常、お菓子店ではなく、パン屋となる。売れ残ったパンを一晩牛乳に浸して軟らかくし、リンゴやドライフルーツ、スパイス類等の具材をざっくりと混ぜ、大きなオーブ板の上に広げる。それをじっくり時間をかけて焼き上げたものだ。パン屋の店先では、そのオーブン板のまま並べられ、切り分けて売るスタイルが年間を通して見られる。

ヴェネツィアでは特にこのお菓子を「Torta Nicolotta(トルタ・ニコロッタ)」と認知する人も多い。島のなかでも特に古い歴史をもつSan Nicolò dei Mendicoli(サン・ニコロ・デイ・メンディコリ)教会にて、12月6日のサン・ニコロの日に振舞われたことから由来するからだ。

いかにも田舎的な伝統郷土菓子。その素朴な見た目だからこそ、ハレの日にも今も変わらず地元の人々に愛されるアイテムとして息づいている。

レポート:白浜 亜紀(Aki Shirahama)
ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。 ブログ『パドヴァのとっておき』にて料理や季節のおいしい情報を中心に、日々のできごとを発信中。

材料

ピンツァ(30cm×22cmオーブン皿1台分)

・固くなったパン350g
・牛乳600ml
・小麦粉100g
・無塩バター150g
・干しブドウ150g
・オレンジやシトロン、レモンなどの砂糖漬け50g
・松の実50g
・リンゴ1~2個
・卵2個
・砂糖250g
・フェンネル種小さじ2
・ベーキングパウダー小さじ1
・レモンの皮1個分
・ラム酒小さじ1
・塩ひとつまみ
・パン粉適宜

ヴィン・ブリュレ(750ml程度)

・赤ワイン(メルロー、カベルネなど)1本(750ml)
・砂糖120g
・リンゴ1個
・クローブ5粒
・シナモン1本
・オレンジの皮1個分
・レモンの皮1個分

作り方

ピンツァを作る

  1. パンを一晩牛乳に浸し、軟らかくする。パンは皮の部分は使わずに白い部分のみ使うのがよい。(写真a 参照)
  2. 牛乳に浸して軟らかくなったパンに小麦粉、砂糖を加える。(写真b 参照)
  3. さらに電子レンジなどで溶かしておいたバターを加えてよく混ぜる。(写真c 参照)
  4. 予め水に浸してもどしておいた干しブドウ、フルーツの砂糖漬け、溶きほぐした卵、フィノッキオの種、松の実、ラム酒、等を加える。(写真d 参照)
  5. リンゴは皮をむいて一口大に切り、全体に混ぜあわせる。(写真e 参照)
  6. 耐熱用の型の表面にバター(分量外)を塗り、パン粉ふる。型を手でゆすって全体にまんべんなく行き渡るようにする。(写真f 参照)
  7. 材料を全て合わせた生地を型に入れる。ヘラを使うなどで表面をしっかりと平らになるようになじませる。(写真g 参照)
  8. 180℃のオーブンで約1時間、中までじっくりと火が入るまで焼き上げる。(写真h 参照)

ヴィン・ブリュレを作る

  1. リンゴは一口大に切る。レモン、オレンジは表面をよく洗い、皮のみを使う。(写真i,j 参照)
  2. 鍋に赤ワイン、砂糖、リンゴ、スパイス類、オレンジとレモンの皮を合わせる。(写真k 参照)
  3. 強火にかけて時々木べらでかき混ぜながら、一度沸騰させる。(写真l 参照)
  4. 沸騰したら弱火にし、2~3分ほど火にかけてできあがり。(写真m 参照)
  5. アルコールを感じたくない場合には、強火にして表面に火をつけてアルコール分を飛ばす。(写真n 参照)
  • a. パンを牛乳につけて軟らかくしておく
  • b. 軟らかくしたパンに小麦粉、砂糖を加えよく混ぜる
  • c. 溶かしバターを加え、よく混ぜる
  • d. 他の材料も全て混ぜ合わせる
  • e. リンゴは一口大に切り、ボウルの中へ
  • f. バットにバターを塗り、パン粉を表面にまぶす
  • g. 生地をバットに入れ表面を平らにする
  • h. 180℃のオーブンで焼き上げる
  • i. リンゴは皮をむき、一口大に切る
  • j.オレンジ、レモンは表面をよく洗い皮のみ使用
  • k. 香りがうつりやすいようシナモンは手で崩して入れる
  • l. 材料を全て合わせ火にかける
  • m. 沸騰したら火を弱め数分火にかける
  • n. 沸騰したところへ火をつけるとアルコールが飛ぶ

お料理ポイント

パンはしっかりと時間をかけて軟らかくしておくこと。仕上がりの生地の口当たりがよくなる。同レシピに使う具材は基本中の材料だが、好みでクルミ、干しイチジク等を加えてもおいしい。