お料理説明・背景
この料理に使う主素材は「バッカラ」。だが、使用するのは正確には「バッカラ」ではなく、「ストッカフィッソ」という。どちらも、ノルウェーのロフォーテン諸島で漁獲されるメルルーサを原料とする。両者の違いとしては、前者は魚を3枚におろして塩漬けにしたもの、後者は漁獲後すぐに頭を落とし、内臓を取り出して、一本のまま寒風にさらして数か月干したもの。「Stock di fish(棒状の魚)」がその呼び名の由来となる。これらは地元ヴェネト人でも混同する人が多い。
ガッチガッチに乾燥したバッカラ(正しくはストッカフィッソだが、ここではあえてバッカラと呼ぶ)は、ノコギリを用いないと切れないほど硬い。それを3日間水に漬け、軟らかく戻したものを料理には使用する。
同州には、この料理の他、バッカラ・マンテカート(オイルと攪拌したペースト状のもの)、バッカラ・イン・ウーミド(トマトで煮込んだもの)、インサラータ(ゆでて野菜等と合わせたもの)、フリッテッレ(フリットの衣に混ぜて揚げたもの)等々、バッカラを使った数々の土地料理が健在する。
この素材がヴェネツィア(ヴェネト)の定番食材となったのは、18世紀のヴェネツィア共和国の時代に遡る。それも、商業航海の商人が、ノルウェー沖のロフォーテン諸島に漂着した際に発見したもので、かさばらない保存性の高い食材としてヴェネツィアに持ち帰ったことにより、その後、ヴェネト料理の食材として定着した。
現在でも、多彩な調理法があるこの素材は、その独特の食感と味わいが人気で、市場の店頭には時間のかかる水戻しをしてあるものが並ぶほど。
今回は、ヴェネツィア生まれ、ヴェネツィア育ち、現在はパドヴァの郊外に住むロッサーナさんにその料理法を伝授してもらう。彼女自身も、またご家族にとっても非常に親しみのある素材であることは言うまでもない。
さて、このバッカラ、水に戻すときから調理中に至るまで、とにかく特有の匂いを放つ。まるでその昔、家で秋刀魚を焼くと近所じゅうに今晩のおかずが知られてしまう、と言われていたが、まさしくバッカラがそれに匹敵するかもしれない。 牛乳とおろしたチーズをたっぷり加えて長時間煮込むヴェネトの内陸、ヴィツェンツァ近郊に起源を持つこの料理。できあがりにはポレンタが不可欠。超ヴェネトな一皿だ。
ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。 ブログ『パドヴァのとっておき』にて料理や季節のおいしい情報を中心に、日々のできごとを発信中。
作り方
- バッカラを水で戻す。調理の3日前より、たっぷりの水に浸す。流水がベストだが、そうでない場合には1日に2回は水を取り替えるようにする。(写真a,b 参照)
下ごしらえ
作り方
- タマネギをみじん切りにする。(写真c 参照)
- 鍋にオイルを入れ、タマネギ、みじん切りしたニンニクを入れていためる。タマネギは焦がさないように気をつけながら、透明になるまで火を入れる。(写真d 参照)
- アンチョビを入れ、全体に溶かし込むようになじませる。(写真e 参照)
- 戻したバッカラを手で開き、身から骨をはずす。まずは太い骨を、細かいものはピンセットなどを使ってはずすとよい。身が締まっているためはずしにくい部分もあるので注意する。(写真f 参照)
- 皮を手でおさえ、身を引っぱるようにしながらはずす。途中、ヒレの部分や硬い部分はハサミなどで切り落とす。(写真g,h 参照)
- 大きな身の塊は、ハサミで一口大に切り、全体に塩、コショウ、そして小麦粉をふる。(写真i 参照)
- オーブンに直接入れられる耐熱皿などに、3のオイルを入れてバッカラを加え、全体を混ぜる。(写真j 参照)
- 刻んだパセリを加え、続いておろしたパルミジャーノ・レッジャーノを加え、全体に混ぜる。(写真k,l 参照)
- 牛乳を加える。バッカラ全体が隠れるくらいの量が適量。(写真m 参照)
- アルミ箔で蓋をし、200℃のオーブンに約10分入れる。約10分で一度液体が沸騰したら温度を120℃に下げ、そこから約2時間、低温でゆっくりと火を入れる。常に煮汁がフツフツとしている状態の温度を保つとよい。(写真n 参照)
- 煮汁が牛乳からくる乳濁でなくなり、写真のようなヒタヒタの状態になるまで煮込んでできあがり。(写真o 参照)