マンマのレシピ

マンマの紹介

  • フランカ・ガッザーニ(Franca Gazzani)さん
  • ウンブリア州モンテカステリッリ在住
  • 得意料理:野うさぎの猟師風

お料理説明・背景

サン・クリストフォロのVendemmia (葡萄の収穫)、今年も無事に終えた。例年と比べると雹等、悪天候の影響で収穫量は少なかったものの、品質はまずまず。2016年のワインの仕上がりも楽しみだ。

葡萄の収穫時期の楽しみの一つはモスト(Mosto)を味わうこと。モストとはワインを作る際の搾り立ての葡萄汁。一年間大切に育てられた葡萄が搾り立ての美しい色のジュースになる、なんともいえない幸せを感じる瞬間。毎年このモストを使ってお菓子やジェラート等を作る事も楽しみのひとつ。今、もうすぐ仕上がりそうなのが、毎年欠かさずに作っているモスト・コット(Mosto cotto)だ。

モスト・コットはこの地域の伝統的な食材。クリスマスの季節に作るパンペパート(Panpepato)というお菓子に使う。大きなお鍋に入れた、搾り立ての葡萄ジュースを沸騰させずにゆっくりゆっくりとろ火で毎日少しずつ煮詰め、とろっとしたシロップ状にする。葡萄ジュース以外のものは一切入っていない。
そして、もうひとつ一年に一度、この地域の葡萄の収穫のシーズンに欠かせないお菓子がマリトッツィ・アル・モスト(Maritozzi al Morto)。お菓子といっても、ケーキやクッキーのイメージではなく、モストの香りがほんのりする素朴な葡萄パンのようなもので、9月中旬〜10月末頃には街のパン屋さんにも並ぶ。

このマリトッツィ、昔はボッコンチェッリ(Bocconcelli)と言われていたと主人が懐かしそうに話してくれた。直訳すると、小さな一口サイズの可愛らしいもの。現代のイタリア人の朝食というと、カフェと甘いものが主流。出勤前にバールでカフェと甘いクロワッサンをさっと立ちながら食べる人も多い。

でも今も昔も朝早くから重労働をする田舎の農夫たちはしっかり朝食をとる。彼の祖父の農園でも特別な農作業のシーズン(例えば小麦の収穫、脱穀、干し草の刈入れや葡萄畑の草刈り等)大半の仕事が手作業だった頃は、これらの仕事は長期にわたる重労働だった。早朝から働く農夫たちは9時頃一息をつく。それぞれ家から持参したジャガイモ、インゲン、パンチェッタ、トマト等で朝食をとる。どれも田舎の農家なら家にあるものばかり。そして10時頃になると、農園の女性や子供たちが、籠いっぱいに入ったボッコンチェッリとワインを持って農園をまわり、農夫たちに振る舞う。ボッコンチェッリを片手にワインを飲み、もう一息。当時のこのボッコンチェッリ、マリトッツィは小さな楕円のロールパンのような型だったそう。食間に食べるおやつだった。農園ではこうしてその大変な農作業の合間に彼らへの感謝を込めてもてなしていたそう。
きっとまだお菓子の文化も豊かではない時代、この優しいふかふかした食感と甘み、「う〜ん!」といっておいしそうに食べる彼らの様子が目に浮かぶ。 季節によって具は変わり、松の実や、クルミ、砂糖漬けの果物やドライフルーツなど。そして葡萄の収穫のシーズンにはモストと前の年の自家製レーズンを使ったボッコンチェッリ、マリトッツィが作られていたようだ。

日本にも四季に併せた豊かな食文化があるが、イタリアもそれに似ている。季節の旬と伝統を味わい楽しむ為にマンマたちは時間を惜しまない。こうして葡萄収穫のシーズンにはモストで一年に一度のマリトッツィを作る。もてなすことが大好きなイタリアマンマたちは、自分の為にではなく、家族、親戚、友人といった大切な人たちの為に作る。
マンマフランカもたくさん作って、家族や親戚に配る。だから実際どのマンマに聞いても保存しているレシピの分量が、これいったい何個分?という量だった(笑)こんな感じだから、いつもイタリアの田舎のマンマたちは大忙し!

レポート:田尾麻衣子(Maiko Tao)
ウンブリア州Amelia(アメリア)の近郊でアグリトゥーリズモ“サン・クリストフォロ”を主人と共に経営。1986年にオープンしたアグリトゥーリズモは今年で30周年。当初からBIO農業をしているが、7年前から正式にBIO農園として認定。

材料

モスト入りの葡萄パン(15個分)

・強力粉800〜850g
・グラニュー糖150g
・モスト(葡萄の搾り汁)250〜300cc※一般的には白ワイン用のモストを使うが今回使用する赤でもOK
・オリーヴオイル60g
・牛乳125cc
・全卵1個
・生イースト50g25gのキューブ 2個
・レモンの皮1/2個分すりおろしたのも
・レーズン100g
・塩ひとつまみ

作り方

    下ごしらえ

  1. 人肌程度に温めた大さじ2杯のモストを小さめの器に入れ、そこに 分量の生イーストの半分(キューブ1個/25g)を置き入れラップで覆い1~2時間、イーストの表面がぶくぶくしてくるまで発酵させる。この時、イーストを溶かしたり、混ぜたりする必要はない。(写真a,b 参照)
  2. レーズンはぬるま湯でふやかしておく。

作り方

  1. 少量のぬるま湯(50cc程)で残りの生イースト25gを溶かしておく。(写真c 参照)
  2. 大きめのボールに、ふるった粉、グラニュー糖、塩、レモンの皮のすりおろしを入れて混ぜ、中央にくぼみを作る。
  3. くぼみに卵、牛乳、オリーヴオイル、モストを順に少しずつ入れながらホイッパー等で混ぜる。(写真d 参照)
  4. 用意しておいた2つのイーストも加え、生地をまとめていく。この時生地がぼそぼそして固い場合は、モストを少し加える。逆に緩い場合は粉を足す。
  5. ある程度生地がまとまったらボールから取り出し、打ち粉をした捏ね台の上に移す。
  6. 生地の中央を少し開くようにして、水気を切ったレーズンを混ぜ込む。(写真e 参照)
  7. 手のひらの下の方を使って、しっかり捏ねる。
  8. 細長くのばした生地を半分に折りたたみ、また中央から細長くするのを繰り返し、生地を持ち上げた時、少し台にひっつくぐらいの柔らかになるまで捏ねる。(写真f,g 参照)
  9. なめらかになったら生地をまとめ、打ち粉をしたボールに入れ、布巾をかけて温かいところにおいて約1時間ほど発酵させる。(写真h,i 参照)
  10. 生地が倍程に膨らんできたら、台の上にそっと取り出し、スケッパーなどで好みの大きさにカットし、成形する。(写真j,k 参照)
  11. オーブンシートを敷いた天板に一つ一つ間をあけて並べる。(写真l 参照)
  12. 布巾などで覆い、更に1〜2時間発酵させる。温かい所に置くか、オーブンの発酵モード等を使用するとよい。
  13. 倍位の大きさに膨らんだら、マリトッツィの上面に、全卵(分量外)を水でのばした卵液を刷毛でそっと塗る。(写真m 参照)
  14. 180度のオーブンで約20〜30分焼く。
  • a. 人肌程度のモストとイーストを入れる
  • b. 1~2時間発酵させる
  • c. 残りのイーストを溶かしておく
  • d. 材料を混ぜていく
  • e. 水気を切ったレーズンを混ぜ込む
  • f. 細長くのばした生地を折りたたむ
  • g. 少し台にひっつくぐらいの柔らかさになるまで捏ねる
  • h. 生地をまとめる
  • i. 打ち粉をしたボールに入れ布巾をかけ発酵させる
  • j. 発酵した生地を好みの大きさにカットする
  • k. 生地を成形する
  • l. 鉄板に並べ布巾などで覆いさらに発酵させる
  • l. 倍くらいの大きさに膨らんだら全卵を塗る

お料理ポイント

このレシピの一番のポイントは粉の配合と発酵行程。何度も作りながら試してみて。モストが手に入らない場合は、添加物の少なそうな濃い果汁100%のジュースで代用できるかも。本格的にトライしてみたい方は、日本で”ベリーA”という醸造用のブドウとして作られたブドウで代用してみると、よりマンマの味に近づけるわよ。